ウルトラウーマンvsキングギドラ



 「センター街12番通りに怪獣出現! 付近住民は緊急に避難してください!」
 
 けたたましいアナウンスが街中に流れたとき、西野かすみはマーシャルアーツの道場で組手
の最中だった。ふたりに勝ち抜き、いよいよ3人目に挑戦しようという時。今日こそは師範に勝
とうと内心目論んでいたかすみは、声にならない舌打ちをする。
 
 「今日は解散だ。急いで避難するように」
 
 切迫した感情を隠せない師範の合図で、挨拶もそこそこに散らばっていく道場生たち。数年
前には存在すら否定していた宇宙人や宇宙怪獣たちの襲撃にも、人々はすっかり慣れてしま
っていた。緊張しながらも、慌てることなく市の指定した避難場所へと逃げていく。
 
 アメリカカリフォルニア州の一角。
 世界中に現れるようになった侵略宇宙人たちだが、かすみが住むこの街は、他とは比べ物
にならない高い確率で襲撃を受けていた。その理由をかすみだけがおぼろげながら気付いて
いる。
 
 "あの日・・・私が浴びた不思議な光に呼応しているのね"
 
 バイク事故を起こし、瀕死の重傷を負ったかすみを復活させ、強大な力を与えた宇宙からの
光。 
 あの日以来、かすみは望んだわけではない"人類の守護者"とならざるを得なくなった。だ
が、そのことを恨んだり、辛く感じたことはない。誰の賞賛も、報酬も受けるわけではないが、
人々を苦しめる侵略者たちを撃退する使命に、彼女は熱く燃えあがっていた。
 
 「いいわ、怪獣ども! 光の力に導かれて襲来するがいい。この私が、いえ、ウルトラウーマ
ンが退治してあげる!」
 
 誰もいなくなった道場で、眩い光が爆発する。
 光はそのまま尾を引いて、怪獣が出現した街の中心部へと飛んでいった。
 
 
 
 黄金に輝く竜が、高層ビルの樹立するコンクリートジャングルを焼き尽くす。
 巨大な翼と、三つの首。すべてが黄金の三つ首竜は、神々しいまでの姿で、愚かな人類を蹴
散らし、脆い建造物を凪ぎ倒す。
 世界対外敵戦略センターは、出現した怪獣の名が、キングギドラであることを突きとめてい
た。
 エマージェンシーを受けて飛び出した米軍の戦闘機3機は、黄金竜の羽ばたきひとつで殲滅
させられていた。一瞬の出来事だった。巻き起こした風の衝撃波で、最新鋭の飛行部隊は、怪
獣に傷ひとつつけることなく炎に消えていた。いままでの侵略者とは段違いの力を見せつけら
れ、人類は打つ手をなくして青くなるばかりだった。
 
 「ギャハハハハ! 脆い! なんて脆さだ、この星の奴らはよォ!」
 
 赤い眼をした右の首が、笑いながら電撃を放つ。
 1km先までのビルが木っ端微塵に吹っ飛び、一直線に黒い焼け跡の道が完成する。面白
がるように赤い眼の首は、強力な電撃を四方八方に放射している。
 この首は『暴虐』の首と仲間内では呼ばれていた。
 
 「しかし、本当にこの星に、光の力を持つ者がおるのか?」
 
 黄色の眼を持つ左の首、通称『狡猾』と呼ばれる首が訝しげに中央の首に尋ねる。
 この首はメチャクチャに電撃を撃たず、逃げ遅れた人間を見つけては、細い電撃で狙い撃ち
してひとりひとりを灰にして楽しんでいた。
 
 「貴様がエネルギーを感じるというので、こんな辺境の星にわざわざ来たのだぞ。憎き光の者
を、いびり殺すのがワシの楽しみじゃからな」
 
 「慌てるな。必ずこの星に光の者はいる」
 
 中央の首『冷酷』が、青い眼を光らせる。
 この首が放つ電撃は、網のように広がり、周囲一帯を一気に焼き払っていた。
 
 「オレには奴の鼓動が強く感じられる。・・・だんだん近付いてくる、奴の鼓動がな」
 
 白い光が空を染めたのは、その時だった。
 駆けつけたウルトラウーマンの、挨拶代わりの飛び蹴りがキングギドラの胸を直撃する。
 
 「!!」
 
 鎧のような硬い感覚。
 とんぼを切ったウルトラウーマンの美しい肢体が、すくっと大地に着地する。
 
 「現れおったな、光の者!」
 
 『狡猾』が叫ぶ。怒りとともに溢れる歓喜が、口調から隠しきれていない。
 
 「このオレ様を足蹴にするとはいい度胸だぜぇ! バラバラにぶち殺してやらぁ!」
 
 なんのダメージも感じさせず、『暴虐』が怒り狂って吼える。眼の赤さがますます狂気に滾って
いるのが、ウルトラウーマン・かすみにも感じ取れた。
 
 「キングギドラ! このウルトラウーマンがいる限り、お前たちの好きにはさせないわ! 宇宙
に帰りなさい」
 
 両手を突き出し、構えを取る赤と銀の女戦士。胸のカラータイマーが青く輝く。
 
 "こいつ・・・凄い威圧感だわ! 今までの敵とはレベルが違う・・・"
 
 ウルトラウーマンとなって以来、何匹もの怪獣を倒してきたかすみだが、その闘いは常にギリ
ギリだった。マーシャルアーツの腕前は人並み以上とはいえ、所詮かすみは一般の女子大生
に過ぎない。わけのわからぬまま、ウルトラウーマンになっていた彼女は、闘い方も、光の力の
使い方も知らずに、正義感だけでここまで死地を潜り抜けてきたのだ。強敵を前に、彼女の心
に焦りが生まれるのも仕方のないことといえた。
 
 "いや、ひるんじゃダメ。この星を守れるのは私しかいない! 自分を信じて闘うのよ、かす
み!"
 
 「どう見る、『冷酷』?」
 
 『狡猾』の問いに、中央の首はじっくりと目の前の美しい戦士を見据えて答える。
 
 「ふむ。構えはしっかりしているが、闘争心の中にかすかな戸惑いが感じられるな。どうやら
この女、闘い慣れていないようだ」
 
 人外の三つ首竜に鋭い指摘をされ、かすみ=ウルトラウーマンの心に火が灯る。
 
 「うるさい! 私を舐めると、後悔するわよ!」
 
 「あの慌てよう・・・図星のようじゃなぁ」
 
 「愚かな女め。貴様の力がオレには遠く及ばないのは、すでに分析済みだ」
 
 「ギャハハハハ! さっさとぶっ殺そうぜぇ!」
 
 黄金の翼が羽ばたきを始める。
 巻き起こった竜巻が、華奢な女戦士に襲いかかる。ビルがまるごと吹き飛ぶ豪風に、ウルト
ラウーマンの肢体はグラグラと揺れた。
 
 「ううッ! くぅッ・・・!!」
 
 衝撃波が輝く銀の肌に叩きつけられる。真空のかまいたちが女戦士の皮膚をあちこち切り
裂き、血風を舞い上げる。
 
 「ギャハハハ! 弱え、弱え!」
 
 『暴虐』の赤い眼が光る。発射された太い電流の帯が、一直線にウルトラウーマンに伸びて
いく。
 直撃すれば敗北は免れない電撃の大砲を、間一髪、側転することで女戦士は逃れた。暴風
の渦から脱出し、自由を得た光の戦士は、闘いを通じて学んだ、唯一にして最大の光線を放
つ。
 
 「スペシウム光線!」
 
 クロスした腕から伸びた白光が、黄金の胸を撃つ。
 
 「そ、そんな?!」
 
 叫んだのは、ウルトラウーマンの方だった。
 
 「これが貴様の切り札か? オレの黄金の身体には、全く効かんぞ!」
 
 『冷酷』の青い眼が、冷ややかに輝く。
 正義の戦士のとっておきを破った三つ首竜は、動揺するウルトラウーマンを屠る絶好のタイミ
ングを逃さなかった。
 右の首『暴虐』が、再び電撃砲を撃つ。
 
 「ウ、ウルトラバリアー!」
 
 これまでの闘いで覚えた光の防御壁を、なんとか創り出す美しき戦士。
 轟音を伴った電撃の帯が、壁に真正面から激突する。
 
 パリン
 
 澄み切った響きを轟かせ、光の壁は砕け散る。
 
 「なッ?!!」
 
 慌てるウルトラウーマンの卵型に光る眼球を、『狡猾』の細い電撃がピンポイントで照射す
る。
 
 バチッ! バチバチバチ!!
 
 「うああッッッ―――ッッッ!!! 眼、眼がああッッ――ッッ!!」
 
 両手で顔を押さえ、悶絶するウルトラウーマン。
 無防備な女戦士のどてっ腹に、『暴虐』の破壊電撃が撃ち込まれる。
 
 ズババババババッッッ!!!
 
 「きゃあああああッッッ――――ッッッ!!!!」
 
 強烈な電流によって、焼き尽くされる銀色の肌。
 食らってはならない敵の必殺技をもらい、ブスブスと黒煙をあげながら、半失神に追い込まれ
た美しき戦士が、ゆっくりと仰向けに倒れていく。
 キングギドラ最大の電撃を直撃され、とても無事とは思えない女戦士に、『冷酷』の電撃網は
容赦なく追い打ちをかける。
 腹を焦がされる壮絶な苦痛に反りあがり、痙攣するウルトラウーマンの全身を、電撃の網が
包み込む。
 
 バリバリバリバリバリ!!
 
 「あがあああッッッ―――ッッッ!! あくうッッ!! あぎゃあああッッッ―――ッッッ!!!」
 
 「苦しかろう、ウルトラウーマン。圧倒的な電撃で徐々に焼き殺されていくのは・・・そら、三重
苦といくか」
 
 大地に転がり、痛苦のダンスを踊り悶える赤いヒロインに、さらに他の首が電撃を加える。赤
い眼の電撃砲が、弱点のカラータイマーを穿ち、黄色い眼の電撃線が、眼球や乳首の頂点、
股間といった"感じやすい"ポイントを狙い焼く。
 
 「はぎゃああああッッッ―――ッッッ!!! ひゅぎいいッッッ・・・ふびゃああああッッッ―――
ッッッ!!!!」
 
 「すごい悲鳴じゃのう、ウルトラウーマン」
 
 「ギャハハハハ! 当然だぜぇ、オレたちの電撃を全身に食らってるんだからなぁ。バラバラ
にされる方が、まだマシってもんだぁ」
 
 "ううッ・・・あううッッ・・・く、苦しい・・・・・・こんな・・・耐えられ・・・・・・ない・・・・・死ん
で・・・・・・・・・しま・・・う・・・・・・"
 
 電撃の威力で光の皮膚はビリビリと破け始め、焼け焦げた細胞が黒煙をシュウシュウと立ち
昇らせる。
 背を反りあがらせ、地面でビクビクと震えながら苦しみ悶えるウルトラウーマン。反撃の力を
失ったことを確信して、ようやく三つ首竜は電撃を止めた。
 
 瞳の光が消えている。
 完全に失神してしまった正義の戦士からは、白と黒の煙が立ち昇り、点滅し始めたカラータイ
マーが、ピコーン、ピコーンと哀しげに危機を知らせるサイレンを奏でている。
 
 「ウルトラウーマン・・・他愛のない奴だ」
 
 「ギャハハハハ! 楽しみはこれからだぜぇッッ!!」
 
 赤い眼が残酷に輝く。
 仰向けに寝た女戦士の顔に、容赦ない電撃砲が真上から叩きこまれる。
 頭蓋を踏み潰されるような圧迫感と、爆発しそうな電磁の地獄に、暗黒に落ちていたかすみ
の脳裏を死が埋め尽くす。
 華奢な肢体がビクビクと震え、壮絶な仕打ちの前に、ウルトラウーマンは強制的に蘇生させ
られていた。
 
 「あうッ・・・・あああ・・・・・・・うぇぁああぁぁ・・・・」
 
 「女ぁッッ! まだ楽にはさせねえぜッ!」
 
 巨大な黄金竜が、細身の戦士を踏みつける。
 グシャリッッ・・・という音が響き、ウルトラウーマンの腹部は大地にめり込んだ。埋まった銀色
の肉体を中心に、放射線状に亀裂が走る。反動で、苦しげに天に伸びた両手が、虚空をつか
んでブルブルと震えている。
 
 「この感触・・・腹が潰れちまったようだなぁ? どうだ、苦しいか?」
 
 「あッ・・あが・・・・・・く、苦し・・・・・・い・・・・・・」
 
 「ギャハハハハ! いい声だ! おら、こんなもんじゃすまねえぞ!」
 
 助けを求めるように天に差し向けられた女戦士の腕を、残虐な黄金竜の牙が捕らえる。
 ガブリと両の手首に噛みついたふたつの首は、ボロボロな姿に変わり果てたウルトラウーマ
ンを高々と吊り上げる。すでに闘う力を失った光の女神は、ちょうどY字型に脱力した肢体を晒
すこととなった。
 
 「フェアッ・・・・・・・クアアッ・・・・・・・」
 
 苦鳴とともに、救いを乞うようなカラータイマーの点滅音が響き渡る。この広大なアメリカの大
地に、ウルトラウーマンは、その正義の命を枯らしてしまおうというのか。
 
 「ギャハハハハ! 随分哀れな声じゃねえか、ウルトラウーマン! 宇宙の秩序を守るとかっ
て光の戦士が、この程度でいいのかぁ?!」
 
 罵声を浴びせ、精神的に追い詰めたうえで、『暴虐』は美戦士の左乳房に噛みついた。
 鋭い牙が、柔肌に埋まる。
 飛び散る血潮。女性としてのシンボルを無惨に噛み潰され、ショックと激痛で、赤い女神は少
女のように絶叫する。
 
 「ぎいやああああああッッッ――――ッッッ!!!!」
 
 トドメとばかりに、0距離からの電撃砲を、体内に直接乳房から注ぎ込むキングギドラ。
 凄まじい高圧電流に、ウルトラウーマンの身体が白く輝く。もはや悲鳴すら出せず、蹂躙され
るがままに女戦士は踊り悶える。
 
 バチュンッッ!!
 
 なにかが弾ける音が飛ぶ。
 それはウルトラウーマンの、眼の光が消える音だった。
 完全に失神した女戦士は、ただ止むことのない電撃を浴び続け、無惨に震えているばかりだ
った。ピコン、ピコン、ピコン、ピコン・・・早くなったタイマーの音だけが、哀しげに高層ビルの谷
間を流れていく。
 
 「愚かな奴だ。女だてらでオレに歯向かうからこうなる」
 
 冷たく言い放つのは、中央の青い眼をした首だった。その名の通り『冷酷』は、さらなる断罪
を容赦なく哀れな戦士に刻み込む。
 
 「見せしめだ。他の光の戦士どもに見えるよう、無様に死に絶えるがいい。『狡猾』よ、お前も
電撃を、こいつの身体に撃ち込んでやれ」
 
 「面白いことを考えるのう、『冷酷』。さすがは我らの作戦担当じゃ」
 
 両手をまとめて、赤い眼をした首が噛み咥える。YからIの字に変わる虜囚の女神。
 点滅する胸のタイマーを、青い眼の首が抉り噛み、股間に伸びた黄色の眼の首が、照準を
女性の最も大事な秘裂に向ける。
 
 ウルトラ戦士最大の弱点から、頭頂から足の先まで電撃の網を注ぎ込まれる光の女神。
 同時に性感帯の密集したクレヴァスを、細い電磁波が焼いていく。
 
 「ウギャアアアアアアアアアアッッッ――――ッッッ!!!!」
 
 泣き叫ぶ以外、何が彼女に出来ただろう。
 守るべき人類の前で、たっぷり10分間、悲鳴と絶叫と嬌声を搾り取られた女戦士は、もはや
キングギドラの嗜虐を満たすオモチャでしかなかった。
 何度蘇生と失神を繰り返したろう。
 ようやく電撃が止んだ時、ウルトラウーマンは瞳の光を無くして、『冷酷』にカラータイマーを咥
えられた姿で、手も足も首もぐったりと垂らしてぶらさがっていた。
 ピコ・・・ン・・・・・・・・ピコ・・・・・・・ン・・・・・・・
 かすかに鳴るタイマーの音が、かろうじて女戦士が生きていることを教える。
 
 「くだらん。このまま死んでいくがいい」
 
 全身のあちこちが黒ずんだ銀の女神を、ゴミのようにキングギドラは投げ捨てた。
 ドサリ、という落下音。壊れた人形のように仰向けに倒れたウルトラウーマンを尻目に、キン
グギドラは再び街の破壊活動を再開させる。
 
 "・・・こ・・・の・・・まま・・・・・・死ぬ・・・・・・・の・・・・?・・・・・"
 
 暗い闇に溶け込みそうな意識の中で、かすみはぼんやり思う。悔しかった。成す術なく敗れ
たことが。街を破壊されることが。だが、徹底的に刻み込まれた破壊と苦痛が、肉体を押し潰
し、動きを封じ込めていた。
 
 "・・・お・・・おね・・・・がい・・・・・・太陽・・・・・・よ・・・・・私・・・・・に・・・力を・・・・・・・"
 
 照りつける太陽に願いを込めたのは、かすみの生存本能が成せた奇跡だったのか。
 ドクン
 躍動感溢れる鼓動を、死滅せんとする女戦士は聞いた。
 
 "太陽・・・よ・・・・・・私に・・・力を・・・・・・光の・・・エネルギーを・・・!"
 
 ドクン! ドクン!
 死は時間の問題と思われた女神に、力が漲ってくる。
 この時かすみは、太陽の光が、ウルトラウーマンに無限の力を授けてくれることを、身をもっ
て知ったのだった。
 消えていた瞳に、再び光が点灯する。
 
 「タアッッ!!」
 
 掛け声一閃、復活の女神は一気に立ち上がり、三つの首をうねらせて街を襲う黄金竜に構
えを取る。
 瀕死だった敵の、まさかの復活劇に、虚を突かれたキングギドラが慌てて振り返る。
 
 "こいつに勝つには・・・ここしかない!"
 
 必殺のスペシウム光線の態勢に入るウルトラウーマン。だが、黄金の皮膚の前には、全く効
かなかったことを思い出す。
 
 "もっとエネルギーを集中させるのよ! もっと・・・回転力をつけて・・・形を整えて!"
 
 「スペシウム光輪!!」
 
 カッターと化した光の輪が、凄まじい勢いで動揺する黄金竜に迫る。
 ザクンッッ!!!
 誕生したばかりのウルトラウーマン第2の必殺技は、硬い金の鎧を突き破り、キングギドラの
胴体を袈裟切りに裂いていた。
 ブシュウウウ・・・鮮血が迸り、大地に赤い雨を降らせる。
 
 「き、貴様・・・まさかこのオレに傷を負わせるとは・・・」
 
 立て続けに起こった予想外の事態に、厳かですらある三つ首竜がふらふらとよろめく。噴き
出る血を恨めしげに睨みながら、黄金の翼をはためかせ、怪獣は空に浮いた。
 
 「この借りは必ず返すぞ! 覚えておくがいい、ウルトラウーマン! 今度会う時が、貴様の
死ぬ時だ!」
 
 そのまま振り返ることなく、キングギドラは宇宙へと飛び去っていった。
 
 「な、なんとか・・・・・・退散させることができたみたい・・・ね・・・」
 
 ガックリと膝をついた正義の使者が、透明になって消えていく。
 変身を解除し、西野かすみ本来の姿に戻った彼女は、緊張が途切れた途端、激闘による疲
労で前のめりに倒れて意識を失った。
 赤いレザーのブルゾンに、黒髪のポニーテールが優しく広がっていた。
 
 
 
 「おのれぇぇ〜〜ウルトラウーマン! このオレに傷をつけるとは・・・許さん! 許さんぞォ
ォ!!」
 
 宇宙空間を飛来する黄金の竜。その中央の首にある青い眼は、異様な光を帯びて燃え盛っ
ていた。見くびっていた相手に傷をつけられたことで、彼の復讐心は異常な熱さで高まっていた
のだ。
 
 「聞くがいい、我が同士よ! 宇宙に散らばる闇の支配者よ! 憎き光の戦士を滅殺するた
め、ここに集うのだ! 我らが敵ウルトラウーマンを惨殺し、その屍を晒そうぞ!」
 
 黄金竜の咆哮は、遠く、遠く、深淵な宇宙の果てまで響いていった――




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