油断をしていたつもりはなかった
2対1……数の上で劣勢に立たされるのはいつものこと
それでも彼女は、傷つきながらもこの星を守ってきたのだから
びりびりと肌を刺すような殺気
悠然と構えながらも、敵の目は姫の僅かな隙も見逃さぬと輝いている
ただ……その視線に篭められた何かが、姫の心を不安にさせる
……何が違うんだろう
じり……無意識の内に、後ずさっていた
初めてのことに戸惑いを感じる――2体とも小柄で、スピードはともかく破壊力は今まで戦って
きた怪獣より劣るだろう
それなのに
心のどこかで警報が鳴る
……気をつけて……今までで最悪の敵……
と
――すぅ
ほっそりとした黄色い影が、右手を翳す
ヌラリ――鋼をも切り裂きそうな禍々しい爪が、陽光を妖しく弾く
気圧されたままでは、勝てるものも勝てなくなる
……速攻で、まず一体に攻撃を集中する
倒し切れなくてもいい
とにかく同時に攻撃されることだけは避けなくては
そう考えた瞬間――黄色い影が霞んだ
……速いっ!
残像を残すほどの
――ザンッ!!
咄嗟に飛びのいた姫の脇腹を銀光が掠め――さっきまで背にしていたビルが真っ二つに切り
裂かれた
転がって距離を取って、飛び起きる
へぇ 今のを避けるんだ やるじゃん
にやにやと笑いながら
……え?
違和感……怪獣が 笑う?
足が竦む……敵意じゃない……これは 悪意
ぞわり……腰の奥が冷たくなる……胸が痺れて……
……どうして、そんな風に見るの?
足を開いているのが辛くて……両手で胸と腰を庇ってしまう……視線が痛くて
――ギラリ……
爪よりも 視線の方が怖い
敏感なんだね
分かりたくないのに 感じてしまう
身体にダメージを受けたわけじゃない……ただ、心が嬲られていく
――ズン
今まで動こうとしなかったもう一体が、黄色い影の横に並ぶ
位置的には最初の焼き直し……だけど
……や だ
震えを押さえることができない
きゅう と、吊りあがる唇
女豹の瞳は、ねっとりと熱くて……蒼い蜘蛛の瞳は、ぞっとするほど冷たかった
――ちろり
舌なめずりをする女豹に 姫のとった無謀な行動は
特攻だった
狙いも定まらない光線は全てかわされ……肌一枚を掠める爪が、姫の心を切り刻んでいく…
…振り回すような稚拙な蹴りは 優雅な青い影に触れることもできなかった……
――パキッ
姫は心のどこかで……何かが折れる音を聞いた……
――ヴォンッ!
よろめく足元に向かって、女豹の口から見えない衝撃波が奔った
咄嗟に高く跳んだ姫――空中で 蜘蛛と目が合った瞬間に悟った
……罠!
――キュゥンッ!
きゃあああぁぁぁっ!!
――キリリッ……キリ……
手足を 全身を、無数の糸に絡め取られてしまった
ぐぐ……切れない……何より 力がもう……
哀しげに見下ろす姫と、女豹の視線が交差する
なぁんだ 抵抗しないの?
――ボゥッ
女豹の掌が 桃色の光に濡れる
――とろり
蜘蛛の脚針から、あおぐろい蜜が滴る
2体の魔獣が哂う
……天国に連れて行ってあげる……死んだ方がましっていうくらいの……ね……
……囚われた蝶……
Fin
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