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「第五話 正義不屈 〜異端の天使〜 」
序
もくもくと積み重なった、ソフトクリームのような形状の雲。
真っ白な水分の塊に背後には、眼に染み渡る青空が、はるか涼やかに広がっている。
大きな太陽が、何物にも邪魔されずに、ダイレクトに光を射してくる。温かいではなく、明らか
に熱い日差し。じっとしていれば、皮膚がじりじりと焼ける音が聞こえてきそうだ。
こんな茹でるような日には、ちょっとイラついたりもするけど、大体気分は陽気になるものだっ
たりする。お日さまの力というのは、理科なんかで習うような、単純なものじゃあない。湿気の 多いこの国で、蒸すような熱さの中を、意外と人はにこやかに過ごすのだった。
そう、普通ならば。
その年の夏は、地上の人々に笑顔は生まれてこなかった。
どんよりとした、重い空気。日光が射す熱量よりも、まとわりつくような湿気の方が気になって
仕方ない。その湿気が、絶望という名の暗雲であることを、人々はきちんと理解していた。
街の壊滅度は取りたてて騒ぐほどのものではなかった。もちろん、多くの建物が倒壊し、道路
は抉れ、住む場所を無くした不運な人たちが、政府の指導で臨時避難地区へと引越していっ たけれども、それは今までに巨大生物が現れたときも同じだ。
人類の首を俯かせる象徴は、北区にある、闇の力に感化された、漆黒のマンションの上に野
ざらしにされていた。
マンションを台に見立て、巨大な少女が仰向けに横臥している。
50mはあると思われる女性の身体を持った巨人に比べ、マンションはやや小さかった。収ま
りきらなかった腕や足、首が、ダラリとビルの端から垂れ下がっている。
元は銀色だった皮膚は、薄黒く汚れて今では見る影もない。オイルの海で行水した後のよう
に、濃緑の液体が乾いてこびりついている。染みのように広がっているのは、どうやら血だ。少 女がこの場所に晒された当初、口から零れていた朱色混じりのあぶくと、股間のクレヴァスか ら垂れ落ちていた透明な雫は、とうの昔に枯れ果てていた。
青い瞳、胸中央のクリスタル、下腹部の水晶体・・・そのどれもが輝きを失い、いまや単なる
装飾品としてついているだけであった。ふたつにまとめた緑の髪が、時々風に吹かれてそよぐ が、幼さの残るボデイはピクリとも動くことなく、そのなだらかな稜線を無力な人類に晒してい る。手足の付け根と腹の中央に巨大な穴が開き、幼稚園児にも、巨大な少女が敗北者である ことを、わかりやすく教えている。二重まぶたのくっきりした瞳が印象的な、いかにも美少女と いった造形のマスクは、口を開きっぱなしにして惨敗の面影を濃くしていた。
ファントムガール・ユリアの息絶えた姿。
青銅の魔人・メフェレスと、タコのキメラ・ミュータント、クトルとに陵辱の限りを尽くされた挙
句、生命エネルギーを吸い取られて絶命した、正義の少女。
公開処刑されたその無惨な骸が、街に戻ってきた人々を暗くする。絶望させる。
侵略者の策略は、予定通りの効果を発揮し、今、人類の胸に死と降伏とを突きつけているの
であった。
「うぁぁ・・・・・くぅ・・・・・ぁぁ・・・・ふあぁ・・・・」
一筋の光もない暗い部屋。五十嵐里美はひとり、全身を蝕む激痛に喘ぎ続けていた。
背中には固く冷たいコンクリートの感覚が伝わってくる。意識が戻った時には、誰もいないこ
の部屋に、ガラクタのように彼女は捨てられていた。
全身に、灼熱の鉄の塊を埋め込まれているかのようだった。
満足に息すらできない。酸素を吸えば、脇腹がキシキシと痛み、二酸化炭素を吐けば、自然
のうちに苦悶が洩れる。肋骨にヒビが多数入っているのはすぐにわかった。激痛の虫が皮膚 の下で這いずり回り、爪の先から頭頂までを食い散らかしていく。暗闇の中で、痛覚のみが里 美に存在していた。
ビリビリに裂かれ、黒の下着を隠せなくなった青のセーラー服の下では、ミミズ腫れになった
火傷跡と、細かい切り傷が耳成芳一状態で埋め尽くされている。
刀で貫かれた跡は、臍の上に痣となって残っていた。
「あくッ・・・・・あはぁ・・・・・・あぁッ・・・・・」
闇の中で、里美は映像を見ていた。
大地に磔にされ、魔法の業火に晒されながら見た、夏の星空。
全身を焼きゴテで押しつけられる地獄と、エネルギーを奪われる脱力感が蘇る。
里美の長い首が、フルフルと横に振られる。
続いての映像は、天高く舞い上げられ、迫ってくる漆黒のビルに成す術なく激突するもの。
肉体があげる悲鳴を聞きながら、なにもできずに、ただ破壊されていった里美。
背中から腹部へ、あるいは腹部から背中へ、突き抜けていく硬い衝撃は、確実に細身の身
体を粉砕していった。
疼く肋骨の痛みが、仰向けになった少女の身を捻らせる。
そして最後に、四方から四人の悪魔に集中砲火を浴びる映像。
胸中央のクリスタルに、清らかな音とともに亀裂が入る。
「はくぅぅッッ・・・・・・ふあ・・・ふうぁぁッ・・・・・・・ああぁぁ・・・」
死を覚悟した凄絶な激痛が、脳内で復活し、里美のスレンダーな肢体を電流でも流したよう
に痙攣させる。
鉄の処女と呼ばれる、棘だらけの鉄の檻に人間を閉じ込めて密閉する、あの残酷な処刑
法。恐らく、あれと同じくらいの激痛を、里美は味わってしまっていた。
ボロ雑巾のように捨てられた少女は、そうやって何度も何度も敗北を思い返しては、暗闇の
中で悶え続けているのだった。
「あはははは♪ ザマあないわねぇ〜、里美ィィ〜〜!」
扉が開き、眩い光の奥から、聞き知った声で嘲られても、少女は仰向けにコンクリートに寝た
まま、虚ろな眼で呻き続けていた。
「来なさい、あなたには、まだやってもらうことがあるんだから・・・」
もうひとりの落ちついた声。
二人の女性が部屋に入ってくるや、茶色がやや入った長い髪を無造作に掴む。
髪を掴んだ二本の腕は、そのままグッタリとした敗北者・五十嵐里美を、仰向けのままズル
ズルと引き摺っていった・・・
1
「いつまで、そうしておられるつもりですか、藤木さま?」
小柄な女子高生がひとりでいるには、あまりに広い食堂に七菜江はいた。本来10人は座れ
る食卓は、現在のこの家の主である一人娘の提案により、四人用のテーブルに代えられてい る。白いテーブルクロスに突っ伏して、顔を埋めたままの七菜江の横には、冷めたスープと、 手のつけられていない、お粥の膳が置いてあった。
「あなたがいくら悲しんだところで、事態は好転するわけではありません」
背中を丸める少女の隣に立った老紳士が、言葉を続ける。五十嵐家に仕える執事・安藤
は、2時間前からずっとそうしている七菜江に、影のように寄り添っていた。
「あれから3日、このままでは藤木様が体調を崩されてしまいます。そろそろきちんと食され
た方がよろしいかと・・・」
「もう・・・ダメだよ」
ガバリと不意に上体を起こした少女は、消え入りそうな声で呟く。ザンバラになったショートカ
ットの奥で、光を無くした瞳がさまよう。涙を搾り出した目蓋は、赤くなって腫れていた。
「ユリちゃんは・・・殺されちゃったんだよ・・・・・・里美さんも捕まっちゃったし・・・・・・あたし、あ
たし・・・・・・もう、どうすればいいか、わかんないよ・・・」
青い戦士ファントムガール・ナナの正体である少女は、襲いかかる悲劇と絶望の重荷に、潰
されかかっていた。
光を失ったユリアが、漆黒のビルに晒されている光景を目撃したときの七菜江の取り乱しよ
うは、凄まじかった。狂ったように泣き叫び、ゲエゲエと吐いた。ユリアの元に駆け寄ろうとする 七菜江を、特殊部隊員が五人がかりで必死に抑えた。
壮絶な悲しみから立ち直る時間もないままに、戦士である少女に冷酷な現実が笑いかける。
仲間のファントムガール・ユリアは処刑された。
最も信頼する五十嵐里美は、トランスフォーム解除後、赤いスーツの女に連れ去られるの
を、政府機関の記録映像が確認している。
自身は、黒魔術師が操る呪い人形の前に、成す術なく苦杯を舐めさせられている。
誰がどう考えても、勝算はなかった。
まして敵は五体いるのに、こちらはたったひとり。
「安藤さん」
弱々しい声で、七菜江は心に巣食う想いを口にした。
「あたしがあいつらの奴隷になるって言えば・・・・・・みんなを助けてくれるかな?」
破裂音が室内を震わす。
座っていた木製の椅子ごと、七菜江の身体は地面と水平に飛んでいた。3m先の壁に激突
し、けたたましい音をたてて肉感のある肢体が椅子とともに落下する。
「あ、安藤さんッ?!!」
愛のムチというには、あまりに激しい平手打ちを受けた七菜江は、右頬を押さえて執事を見
る。衝撃に焦点がぶれるが、透明感ある瞳は哀しげな白髪混じりの紳士を捉えていた。
「藤木様、私はあなたのまっすぐなところを好んでおります。純粋で、素直で、どんな苦境にあ
ろうと、決して諦めない強い心を。いまのあなたを見るのは、正直つろうございます」
ツカツカと歩み寄った黒スーツの執事は、右手をそっと倒れた少女に差し出す。
「失礼しました。さぞや痛かったでしょう。あなたがひとりで背負うには、あまりに過酷な状況
だと理解しているのに・・・感情的になってしまいました」
「ううん、いまのはあたしが悪いよ・・・そうだよね、みんながあたしに希望を賭けてるのに、あ
たしが諦めたらダメだよね」
安藤の右手を引き寄せ、立ちあがった少女は、少しだけ口元を歪ませてみせる。それは一
応、微笑みの形になっていた。
“イチかバチか、荒療治にでてみたが・・・たいしたものだ。この絶望的な状況下で、心を奮い
立たせることができるとは”
老執事の内なる感心を知らず、七菜江は椅子を直して腰掛ける。冷えきったスープを無理矢
理に口に運んでみせる。美味しさが損なわれているはずのクラムチャウダーを、少女は気力で 完食してみせた。
「あたしが・・・あたしがやるしか、ないんだもんね」
工藤吼介に『エデン』を、という意見は、参謀格でもある安藤にも反対されていた。その拒絶
ぶりは寧ろ、里美以上といっていい。五十嵐家と吼介の関係を思えば、その接触を安藤が嫌う のは当然かもしれないが、地球的規模の危機が間近に迫っても、安藤の意見が変わることは なかった。
「『エデン』を寄生させるにも候補者がいないし、里美さんは捕虜になってしまったし、ユリちゃ
んは・・・・・・・・もう、帰ってこないし」
小さな肩が、小刻みに震える。
涙は出尽くしたはずなのに、湧きあがる悲しみの記憶が、チャーミングな少女から明るさを奪
っていく。
「ユリちゃんは・・・・・・死んじゃったんだもんね・・・もう、二度と会えないんだよね・・・」
「いいえ、西条様は死んでおりませんぞ」
なにげなく発せられた安藤の言葉。
思わずその言葉を通過しそうになった七菜江が、執事の台詞を再認識して慌てて言う。
「ちょッッ・・・ちょっと安藤さんッッ、今、なんて言ったのッ?!!」
「西条様は、ファントムガール・ユリアは死んでなどいませんよ。そういうと、語弊があります
が・・・死んでいるといえばそうですが、生き返ることはできます」
「ど、どういう意味ッ?!! もっとあたしでもわかるように説明してよ!」
先程までの弱々しい姿が一変し、興奮した七菜江が長身の紳士に詰め寄る。吊り気味の瞳
には、強い光が射し込んでいた。
「ユリアは全てのエナジーを吸い尽くされたため、身体機能は全て停止しております。いわば
死の状態です。しかし、幸いなことにエナジー・クリスタルは無事ですし、外傷も酷いが、致命傷 というわけではない。身体部分が完全に死滅する前に、クリスタルにエナジーを送りこめば、フ ァントムガール・ユリアは再び蘇ることができます。たとえるなら、今のユリアは電池切れを起こ しているに過ぎないのです。充電をすることができれば、復活は可能なのです・・・・・・」
いつからだろう、この力を隠すようになったのは。
物心ついた時には、手や足を動かすのと同じような感覚で、物体を宙に浮かすことができ
た。強く、そうなるように思い描く。集中力を必要としたが、その労力は「走る」時と感覚的には 似ていた。やろうと思えばすぐできるが、疲れるので普通はやらない、そんな感覚。
だから、幼少の頃に力を使っていたとはいえ、頻繁だったわけではない。ごくたまに両親の前
で見せていたりした。
封印したのは、幼稚園のとき。
木の枝に引っ掛かった風船のピンク色が、あまりにキレイだったので、つい力を使って取って
しまった。友達の前で。
その瞬間、友達は叫び声をあげて、逃げ出した。
翌日からは化け物と呼ばれ、石を投げられる日々が待っていた。新品のセーターが、家に帰
ると靴跡だらけになっていた。
その土地を離れたのは、1週間後だった。
今の街に引っ越して以来、桜宮桃子は普通の人としての生活を続け、2度と人前で力=超能
力を使わないことを誓ったのだった。
「桃子」
やさしい、蕩けるような声が、透き通る肌を持つ少女の耳朶を打つ。
俯き加減でパイプ椅子に座っていた少女は、耳元で話しかける恋人に視線を移した。
美しい、少女だった。
化粧もしていないのに、透明感のある肌は綺麗という単語を思い浮かばせる。茶色の長い髪
は、真中付近で分けられていた。睫毛の長い潤んだ瞳、高く、形のよい鼻梁、弾力性のありそ うな厚めの唇。どのパーツもが完璧で、卵型の輪郭にバランスよく配備されている。美人特有 の冷たい感じもなくはないが、口の右下にある黒子が、高2という年齢以上のエロティシズムを 醸し出している。
特に目・鼻・口の完成度は、かなりの高水準といえた。
大きな漆黒の瞳、モデル顔負けの高い鼻、赤い唇の中に白く大きな歯がキレイに並んでい
る。神崎ちゆりが桃子のことを、「うさぎちゃん」とあだ名しだしたのも、頷けることだった。
その完成された美貌を直視して、彼氏である久慈仁紀は甘い声で話す。
「どうした、暗い顔をして」
「ううん、なんでもないよ」
「昔のことでも思い出したのか?」
頷く代わりに桃子は視線を落とした。
そんな少女の落ち込んだ隙を逃さぬように、しなやかな肉体を持つ男は、両腕で小さな少女
を抱きしめていた。
桃子の透明な肌が、虚を突かれて見る見るうちに赤くなる。
「今はオレがいるじゃないか。お前はお前のままでいいんだよ」
抱きしめる腕に力がこもる。自然、桃子も久慈を抱きしめ返していた。
偶然念動力を使ったところを見られた時、この男は拒絶するどころか、逆に受け入れてくれ
た。素晴らしい力だと言って。
家族以外で生まれて初めて本当の自分を認めてくれた男。その喜びはいつしか違うものに
変わっていった。
だが、視線と視線が絡み、久慈が唇を近付けようとしているのを察した桃子は、やんわりと身
体を離す。
「今日はどうしたの? こんなところに呼び出して」
話題を変える。
執拗に迫ることはやめて、久慈は桃子が提供した話題に乗ってきた。元々の今日の目的は
そちらだった。
久慈の父親が所有しているいくつかの資産、そのうちのひとつである賃貸ビルにふたりはい
た。いや、正確にいうと、ふたり以外にも久慈の仲間たちが来ているはずだったが、今は姿を 見せていない。
地上5階のビルだが、地下にも同程度の深さがあるらしい。エレベーターに導かれてやって
きたのは、地上から遠く離れた灰色の部屋だった。
コンクリート剥き出しの寒々しい部屋には、粗末なパイプ机と椅子があるのみだった。
久慈仁紀が初めて招待するその部屋。彼はそこで、いよいよ今策略の最後の仕上げに入ろ
うとしていた。ファントムガール抹殺の最終段階へと。
「実は・・・桃子に聞いて欲しいことがある」
「なに?」
「オレたちの仲間になって欲しい」
どことなく軽い感じのする久慈らしくない、真剣な眼差し。一体どんな話かと緊張した桃子にと
って、拍子抜けするような久慈の願いだった。
「なんだ、それならとっくに仲間じゃん」
「違う、そういう意味じゃない」
甘いマスクが一旦、言葉をきり、衝撃的な告白を続けた。
「オレは青銅の魔人・メフェレスだ」
桃子の芯の強そうな瞳が丸くなる。
少女はその言葉が、どういう意味か、すぐには理解できなかった。
「メフェレスとは宇宙からの侵略者のように言われているが、そうではない。このオレが変身
したものだ」
今、世間で最も恐れられ、国中いや世界中をパニックに陥れている悪鬼。その正体が、目の
前の恋人だというのか。
人類を楽しむように殺戮し、街を破壊して喜ぶ侵略者。つい先日、光の戦士ファントムガー
ル・ユリアを殺害し、降伏を迫る悪魔は、見た目からは想像できないほど正義感の強い桃子に とって、許しがたい敵だ。その敵が、彼氏の正体だなんて――
ショックで美少女の視界が暗くなる。
「オレの話をよく聞いてくれ、桃子」
桃子の心に疑念が湧く前に、女性経験の豊富な久慈は先手を打つ。複雑といわれる女心を
熟知したつもりで彼はいた。
「オレたちは侵略者だとか、悪の手先のように言われているが、あれはマスコミの情報操作
によるものだ。オレたちの真実の姿じゃない」
高校生ともなれば、マスコミというものが信用ならないものであることは、自然に教育されてい
るのがこの国の実状である。比較的素直に物事を受け入れるタイプの桃子でも、情報操作が あることぐらいは当然知っていた。
恋人の口からでた言葉は、信じてみたくなるのが普通であろう。動揺する乙女の心を、悪鬼
はすかさず突く。
「オレたちには闘わなければいけない理由がある。新しい世界を作るためには、どうしてもし
なければいけないことなんだ」
「新しい世界? 人を殺す理由なんて、あたしにはよく・・・」
「今、地球が人間たちの勝手な行動のせいで、死にかかっているのは桃子もしっているだろ
う」
久慈の口から、自分たちの行動の正当性を主張する言葉がでてくる。信用したい少女は、つ
い恋人の論理を聞いてしまう。
「オゾン層の破壊、砂漠化、二酸化炭素による温暖化・・・全ては人間たちの勝手な都合によ
る自然破壊のせいだ。多くの生物が住む、この美しい星を、人間は自分たちの利益のために 死滅させようとしている。それが本当に正しいことだと、桃子は思うのか?」
藤村女学園という、遊びが仕事のような学校にいることと、ちょっと格好が派手なせいで、桜
宮桃子という少女はよく誤解されるが、その実、心優しい女のコであることを久慈は見抜いて いた。なにしろ、彼女の夢は介護士になっておじいちゃん・おばあちゃんの面倒を見る、という ことだったのだから。桃子が念動力を久慈の前で使ったのも、道路を横断しようとしていた老 婆に、ダンプカーが突っ込んできたためだった。
正義の論理にこの女は弱い。
それが久慈が出した、桃子に対する分析であった。
「そ、それは・・・」
「オレたちだって、誰も傷つけたくはない。だが、人間は自分たちが良ければあとはどうでも
いい、というエゴの塊だ。現に人間はどんどん人口を増やし、他の生物を何種類も絶滅させて 平気な顔をしているじゃないか。なかには趣味で生物を殺し、笑っている奴もいる。そんな人類 を守ることが、本当に正しいことだと言えるのか?」
柳眉が垂れ、苦悩する表情が少女に刻まれる。
人間の勝手な行動と、自然の破壊、このふたつを比べて教育されるのも、高校生までには必
ず習うことである。人類のアンチテーゼとして存在する自然。その正論を駆使することで、久慈 は己の行為を正当化していく。
無論、彼の本心がそんなところにあるわけはなかったが。
世界制覇の挙句には、やりたい放題をして、好きなように生き、自分が死んだら地球などどう
なろうが知ったこっちゃない。
そんな本心のかけらも見せず、久慈はシミュレーション通りに桃子を追い込んでいく。
「ファントムガールも正義の味方といわれているが、正体はとんでもない。あれは政府が開発
した秘密兵器のようなものだ。他の外国に対して、これだけの戦闘力があるんだということを誇 示しているのだ。その証拠に、巨大生物が現れても、他国から援軍が来ないだろう。この国が どれだけ強大な戦力を持っているか、知らしめるためさ」
普段からのファントムガールとミュータントの会話を桃子が聞いていれば、久慈の言うことが
いかに矛盾したものであるかはすぐにわかっただろう。しかし、ここではマスコミ規制をしている ことが、悪に利用されてしまっていた。
明らかに混乱した様子の桃子を見て、久慈の内なる心が笑う。
あとひと押し。ひと押しで、この強力な能力を持った女が、手下に加わる。
「一度この世界を破壊して、また人類はやり直すべきなんだ。オレたちの目的達成のため
に、お前の力を貸して欲しい」
「で、でも・・・」
「ついてきてくれ」
悩める乙女を連れだし、久慈は冷たい部屋を出る。エレベーターに乗り込むと、さらにひとつ
下の階へと無言で降りていく。状況を整理できていない少女は、戸惑いを隠せない表情で、素 性をカミングアウトした彼氏のあとについていく。
エレベーターの扉が開くと、そこにはさきと同じような灰色の世界が広がっていた。
だが、こちらの方が広い。そして真ん中ほどに透明なガラス板で仕切られている。
桃子は、お気に入りのロックバンドがCDアルバムを作成している風景を思い出していた。ち
ょうどそこは、録音スタジオのようだった。壁は防音壁ではなく、剥き出しのコンクリートではあ るが。
こちら側、スタジオでいえばスタッフが陣取っている方に、見覚えある顔が揃っている。
腰までの長い髪を揺らめかせる女は、動くたびに艶やかな薫りを撒き散らす。
水着かと間違うような豹柄のタンクトップとホットパンツをはいた少女は、爪の手入れに忙し
そうだ。
以前、背後から抱き締めてきた頭髪の薄い小太り中年は、えびす顔をよりほころばせてい
る。
片倉響子と、神崎ちゆりと、田所教諭。
久慈が言っていた仲間たちが、この場に集結していた。
そして、ガラスの向こう、冷たいコンクリートの空間の、真ん中にひとつの人影。
やや茶色がかった髪が、まず目についた。
細身にみえるが、出るべきところが張り出した、見事なプロポーション。だが、内股気味に立
った姿は、その少女が明らかにダメージを負っていることを窺わせる。
知らず、数歩ガラスに近付いた桃子は、長い髪の少女の顔を見る。
ゾクリ、とするほど美しい。
いかにも大人の女性といった片倉響子に初めて会った時も、その美しさに圧倒されたものだ
が、ガラスの向こうの少女は年齢が近いだけに、よりその美貌が輝いてみえる。ルックスの良 さでは桃子は相当な線をいっているが、桃子が街のオシャレな少女の代表であるのに対して、 この少女には宝石が滲ませるような深い気品がある。
そして、今の少女の顔は、滴り落ちる汗で濡れ光っていた。
マジックミラーにでもなっているのだろう、こちらの様子には気付いていないようだが、切れ長
の瞳には疲労の色が濃いものの、鋭く視線を八方に飛ばしている。
上品さの中にも、強い意志を感じさせる眼力は、ガラス越しにも桃子に伝わってくる。
「このひと・・・誰・・・?」
「ファントムガールの正体、五十嵐里美よ」
低いトーンにセクシャルな隠し味を混ぜた声で、響子が応える。
ファントムガール・・・テレビで遠距離からの映像は見たことがあったが、こんな自分と同じくら
いの少女が、女神と呼ばれた戦士だなんて!
驚愕に言葉を失う桃子に、更なる追い打ちが、久慈の口から発せられる。
「これからオレは、あいつと闘う」
「?!! えッ、な、なんで?!!」
「オレもこれ以上、無駄な犠牲は出したくない。あいつら、政府の犬であるファントムガールど
もが降伏すれば、無意味な闘いはせずに、理想郷を創れるんだ。いつの世でも、闘いに巻き 込まれて、不幸になるのは罪もない人々。そんな人々を出さないように、1対1で闘って、決着 をつけるのだ」
自分以外の人間を、無価値と断じている久慈が、そんな思想を持っているわけはない。
だが、17歳の桃子は、若かった。
愛する久慈の本性を見抜けるわけはなく、偽善の論理に気付くこともなかった。
やめて、と止める桃子の静止も聞かず、久慈は素手のまま、ひとりガラス窓の向こうの部屋
に入っていく。
久慈の姿を確認した、長い髪の少女が叫ぶ。
「く、久慈・・・・・いや、メフェレス・・・」
この部屋に連れて来られてから数時間、幾分体力を取り戻した里美は、気丈に言い放つ。
その言葉に恋人の正体が、やはり巷を揺るがす悪党であったことを思い知らされ、桃子の心
にさざなみが起こる。しかし、事態はそんな少女の動揺など、弾き飛ばすように加速していく。
「一体・・・・・・・なにを企んでいるのッ・・・・・!」
「五十嵐里美、いや、ファントムガールよ、勝負だ。貴様が勝ったら、この星を自由にするが
いい」
ヒトキ、やめてぇぇッッ!!!
絶叫する桃子の願いも届かず、しなやかな男が飛び蹴りで里美を襲う。
反射的に反撃する里美。だが、前回の闘いでエネルギーを極限まで奪われ、全身を砕か
れ、暗黒の魔線を浴びせられた肉体では、柳生の剣術を極めた久慈に敵うわけがないこと は、誰よりも里美自身が理解している。小学生相手にも、まともに闘えない身体なのだ。
「さあ、来いッ! 誰にも邪魔はさせない、オレと貴様との闘いだ」
無我夢中で振った里美の右手が、久慈の尖った顎に入る。
鈍い音を残して、研ぎ澄まされた肉体が、弾けたように吹っ飛ぶ。
驚いたのは、里美その人。
きゃあああああ!!
厚いマジックミラーの奥で、頭を抱えて叫ぶ桃子の悲鳴は聞こえない。
「そんなものか、貴様の力は?! もっと思いっきりかかってこい!」
両手を広げ、血を唇の両端から吐きながら、久慈が立ち上がる。いつもニヒルを装う気取り
屋らしからぬポーズ。避けられるはずの攻撃が当たったり、効かないはずの打撃が効いた り・・・明らかな違和感が里美を包むが、宿敵に捕らわれた身としては、わずかな光明にもすが ってしまう。
“どういうつもり?! で、でも、ここでメフェレスを倒せることができれば・・・”
膝立ちになって、ノーガードで両手を広げる久慈に、里美は不審を抱きながらも、ボロボロの
身体に鞭打って打撃を重ねていく。
パンチ、キック、肘、膝、掌底・・・くノ一として叩き込まれた体術の全てを、災いの元凶である
仇敵に刻み込んでいく。
「誰かッ!! 誰か、ヒトキを助けてよッ!! あんたたち、仲間なんでしょ、なんで誰も助け
にいかないのッ?!」
二人の女とひとりの男は、みな俯いて応えない。
マイクが取りつけられているのだろう、ガラス窓の向こうの殴打音が、スピーカーから流れてく
る。
勝負だと言った割りに、久慈は無抵抗に、されるがままに里美に殴られ続けている。里美か
らすれば、敵の首謀を倒せる最大のチャンスであるが、武器を全て奪われた今は、弱った身 体で素手で闘うしかない。
頭を抱え、首を横に振り続ける桃子。
やがてその耳に、神崎ちゆりの押し殺した呟きが届く。
「メフェレスはねぇ〜・・・ここで死ぬつもりなんだよ」
「!!!そ、そんなッッ!!!」
「今までの罪を償ってねぇ〜・・・里美と刺し違える覚悟なんだよ・・・」
突き出した久慈の顎に、容赦ない里見の廻し蹴りが吸い込まれる。
血を噴き出して後方に吹っ飛ぶ恋人の姿を、涙を溜めた桃子の瞳が映す。
俯いたまま、豹柄の女は赤い舌を、桃子に気付かれぬよう、ペロリと出す。
「人間は、勝手な生き物よ」
片倉響子が語り始める。
「自分に都合の悪いものは、全て消そうとする。それは、あなたも経験したことじゃあ、なくっ
て?」
フラッシュバックする、桃子の記憶。
石を投げられ、化け物と蔑まされた、あの日々。“人間”に抹殺されかかった、幼き日の記
憶。
ニンゲンヲマモル価値ナンテ、アルノダロウカ?――
「やめてぇぇぇッッッ―――ッッッ!!!」
倒れこんだ久慈に右拳を振り下ろそうとする里美の肉体が、霞む。
ブンッッッ・・・
音だけを残し、床と平行に宙を飛んだ里美の身体が、激しく壁に叩きつけられる。
ボゴオオォォォッッッ!!
大の字の姿勢でコンクリートにめり込む華奢な少女。灰色の破片が毀れる。
桜の花に似た唇から、大量の赤い霧がガハアッッと吐き出される。
完全に白目を剥いた正義の少女は、ゴボゴボと粘着質な血糊を吐きながら、ゆっくりと地面
に沈んでいった。
「あたし・・・あたし・・・」
己の超能力ーサイコキネシスーで、ファントムガール五十嵐里美にトドメを刺した少女は、消
え入りそうな声で、しかし確かに宣言した。
「仲間に・・・なる・・・・・・・・・」
この地方で最も若者たちが集まる繁華街、それが谷宿だった。
駅前から少し歩いたところにある広場。その中央にそびえる時計台の前に、工藤吼介は立っ
ていた。
白のティーシャツにデニムのパンツという相変わらずのラフな格好。膨大な質量の筋肉が、
袖口や襟元から溢れだし、大きめのサイズであるはずのシャツを、随分と窮屈に見せている。
平日であろうが、休日であろうが、常に雑踏で溢れかえる街に、人影はなかった。5mほどの
高さの時計台が、素知らぬ顔で時を刻み続けている。
セミが、鳴いている。
閑散とした世界に、けたたましい虫の鳴き声と、照りつける太陽の光だけが射しこんでいる。
非常事態宣言が発現されたこの地方に、不安と絶望以外の空気を見つけることは難しかっ た。テレビでは緊急避難を促す警報が常時流れ、実際に過半数の人々が、すでにこの街から 脱出しているとのことだった。
足を肩幅に広げ、適度に力を抜いた姿勢で、吼介は時計台と向かい合う。
声から察するに、二匹以上のセミがこのモニュメントに留まっているようだ。視線を上げると、
そのうちの一匹が9の数字の横にいた。
肉の塊の男が、右足を半歩前にだす。つま先を内側に絞り、丁度ハの字の形に。一旦握っ
た両拳を前に突き出すと、右だけを掌を上に向けて、腋の下にまで引く。
やや曲げた膝で腰の捻りを微調整する。半身の態勢。なにごとかをブツクサと呟きながら、
細かく身体を揺さぶり続ける。まるでスナイパーが、照準を合わせるかのように。
やがて、ピタリと、筋肉の鎧はその動きを止めた。
いや、固めた。
「覇ッッ!!!」
怒号の如き、裂帛の気合い一閃。
工藤吼介の右の突きが、総重量500kgを越える大理石の塊に叩き込まれる。
ドゴンッッッ!!!
地震が起こる。
短く、重い衝撃音。ボーリングの玉が、フローリングの床に落ちた時の音を何倍にもしたよう
な。
ポトリ、という音が続き、二匹の固まったセミが、地面に落下する。
「せん・・・ぱい・・・・・・」
小さな声に、逆三角形の男は振り返った。
青を基調としたセーラー服に、ホームベース型の小顔が乗っている。耳を隠すタイプのショー
トカットが、やけに似合う美少女は、本来の明るさを失った俯き加減で、いつのまにかそこにい た。
「七菜江・・・」
「ここにくれば・・・会えると思ってました・・・」
駆け出した七菜江は、弾丸のように工藤吼介の胸に飛び込んでいた。
身長差があるため、鉄板のような胸に顔が埋まる。小さな腕を、引き締まった腰に、少女は
必死で回した。
「オレも、必ずここに来てくれると思っていた」
覆い被さるように、吼介は小さな少女を抱き締め返す。温かい鼓動が、胸の奥から届いてく
る。
この状況下で学校は当然のように休学となり、ケータイなどの通信手段も混乱するなかで、
ふたりが出遭えたのは、偶然を越えるものが必要だった。
「オレは里美ん家には、近付きにくいから」
対外的には里美の遠い親戚であり、居候となっている七菜江は、そんな吼介の心情を悟っ
て、ここに来ていた。目立つように、あえてセーラー服姿で。
「とにかく、無事で良かった。里美も大丈夫なのか?」
抱き締めたまま、七菜江はしばらくの沈黙の後、口を開いた。
「大丈夫、です。少し怪我をしちゃったけど、必ず元気になります。あたしが約束します」
「・・・そうか」
時計台の針だけが進む。
抱き締めあったまま、若いふたりは動かない。
互いの存在を確認するように、その固い肉感を、柔らかな肉感を、それぞれの触感で確かめ
合う。
鳴り止んでいたセミが、再び鳴き始める。
小刻みに震える少女に、吼介は気付いた。
「恐い、のか」
「・・・あたし・・・二度と吼介先輩に会えないかもしれません・・・」
厚い胸板の顔を埋めたまま、七菜江はハッキリとした口調で言った。
「諦めるな。こんな状況だけど、諦めちゃダメだ。きっと、なんとかなる。青いファントムガール
だっているし・・・」
ファントムガール・ナナは・・・あたしなんです。
喉にまで出かかった言葉を、七菜江は飲み込む。言えるわけはなかった。言えば、この男
が、七菜江を戦場に立たせるわけがなかった。
「あたし、恐い・・・恐い・・・すごく恐い・・・でも、絶対に諦めたりなんか、しません」
ギュウウウ・・・細い腕に力が篭り、恐竜じみた男の腰を強く抱き締める。震えながらも、少女
の声は明確に響いた。
「あたし、必ず・・・生き残ってみせます」
スッと力が抜け、少女の身体が鎧武者から離れる。
見上げる澄みきった瞳と、猛々しい眼光とが視線を絡ませる。
少女の桜色の唇が、開いた。
「大好きです」
潤んだ瞳と桃色に染まった頬とを、工藤吼介は見ていた。
心臓の音だけが、誰もいない世界に轟く。
開きかけた男の口を、少女の言葉が遮る。
「今は何も言わないで。返事を聞いたら、多分、あたし、負けてしまう」
男の口が、再びきつく結ばれる。どこか遠い眼で、小柄な少女を見つめる。
筋肉の浮きあがった腕から離れ、藤木七菜江は弾けるような笑顔を見せた。
「ありがとう、先輩。今度またデートしてください」
くるりとプリーツスカートの裾をひるがえし、背中を向けた女子高生は駆け出した。
10mを駆けたところで振りかえり、幼さの残る手を振る。
「じゃあッッ・・・・・・またねッッ!!」
真夏の太陽に負けぬ、眩い笑顔を置き土産に、天真爛漫な美少女は二度と振りかえること
なく、無人の街を駆けぬけていった。
「また・・・・・会おうな、七菜江」
青い背中が完全に見えなくなるまで、膨大な筋量を誇る男はそこに佇んでいた。
また、ひとりに戻った広場の真ん中で、吼介はギラつく太陽に肌を焼かれるままだった。冗談
みたいな熱線が、鋼鉄の皮膚をじりじりと褐色に変化させていく。浮き出した首筋の汗が、背 筋の谷間に流れるころ、ようやく男は動き出す。
振りかえり、時を刻み続けるモニュメントを見据える。
「『なんとかなる』か・・・・・・なんで『なんとかする』って言ってやれなかったんだろうな」
大理石でできた高さ5mの建造物は、答えることなく秒針を動かしている。
広場の象徴に背を向け、最強と呼ばれる男は歩き出した。
「弱えな、オレ」
ビッシイイイッッッッ・・・・!!!
突如として、時計台の台座から、漆黒の網の目が入る。
蜘蛛の巣のように広がった亀裂は、あっという間にその影を濃くし、ハンマーで叩いてもビク
ともしないはずの時計台は、ボコリッッという爆発音とともに、一部分が崩れ落ちていく。芸術 品として完成していた大理石は、鉱物としての姿に戻って罅割れた破片となる。
ガラガラと、砂塵とともに半分以上が崩れていくモニュメントの崩壊音を、広い背中で聞きな
がら、工藤吼介は振り返ることなく、若者の街をあとにした。
失神から覚醒した時、五十嵐里美を出迎えたのは、四肢を拘束する、金属製の枷の痛みだ
った。
宙に吊られた、X字型の金属板。女神のプロポーションを持つ少女は、それに5cm幅の鋼鉄
の枷によって、手首足首を固定されていた。
身を捻ってみる。身体の中心線はいくらか動くが、それ以上は、脱出が不可能であるという
冷たい現実に、打ちのめされるだけであった。己の窮地を確認するかのように、身をくねらせ る囚われのヒロインは、上気した顔とあいまって、やけにエロティックですらある。
体重を四点だけで支えているため、強い圧力がかかる。食い込む鋼鉄の錠により、里美の
白い肌からは赤いものがうっすらと滲んでいる。ギシギシ・・・という圧迫される肉の悲鳴を、里 美は凶獣に手足を噛み砕かれる幻想の中で聞いていた。
「オレの芝居はなかなかのものだったろう?」
虜囚の目覚めを待っていた、ニヒルなやさ男が軽やかに話しかける。
コンクリートを剥き出しにした冷たい部屋で、それだけは不似合いな毛皮付きのソファに久慈
仁紀は座っていた。あまり趣味がいいとはいえない、椅子。だが、憎まれ口を叩く余裕は、今 の里美には残されていなかった。
「本物の戦闘など見たことがない、あの愚かな女は簡単に引っ掛かってくれた。半死人の貴
様の攻撃など、効くわけがなかろうに・・・」
クックックッ・・・悪人らしい笑い声をたて、久慈が身を揺する。
己に反抗する者を屈服させる快感は、最高のエクスタシーだが、計画通りに事が運んだとき
の達成感もまた、格別だ。インチキなどではない、本物の超能力を持った少女を配下に収めた 快感に、久慈は酔いしれていた。
「ファントムガール・・・この闘いはもはや、先が見えたな。貴様らに勝利はない。素直にオレ
に忠誠を誓えば、命だけは助けてやろう。お前たちは抱き心地が良さそうだからな」
言葉の裏に、下卑た発想を隠しもせず、久慈は勝者の余裕を漂わせ、傲慢に磔の少女に迫
る。
「・・・たとえ私を殺しても、まだ正義は負けないわ。ナナやユリアもいるし・・・思いあがるのは
早いわよ」
普段は心優しい生徒会長も、この悪鬼に対しては、辛辣な台詞を吐く。
常ならそこで逆上するはずの権力者の息子は、代わりに薄い唇の両端を、極端に吊り上が
らせた。思わず里美がゾッとする、禍禍しい笑顔。
「ユリア? ククク・・・ユリアがいるだと? どこにいるというのだ?」
「ど・・・・・・どういう意味ッ?!」
心臓が黒い手により握り潰される。
悪意に満ちた久慈の口調が、なにか、とてつもなく恐ろしい予感を里美に抱かせる。不可思
議な台詞の意味、邪気に満ちた満面の笑顔・・・聞いてはならない、恐るべき事実を、久慈はこ れから告白しようとしているのだ。
「メフェレス! ユリアがどうしたと言うのッ?!」
「ワハハハハハ! 見たいか、五十嵐里美! ファントムガール・ユリアの成れの果てを!」
磔に固定された里美の正面の壁に、プロジェクターが映し出した、一枚の映像が現れる。
「ユッッッ・・・ユリアッッッ――――ッッッ!!!!!」
漆黒のビルに横たわる、光を失った黄色の少女戦士の姿が、大画面で里美の瞳に飛び込ん
でくる。
血の朱色と、汚濁液の濃緑にまみれた華奢な身体は黒く汚れ、身体中に開いた穴が、天使
が敗北したことをわかりやすく教えている。完全に光が途絶えた胸のクリスタルを見るまでもな く、まだ幼さの残る肢体には、塵ほどもエネルギーが残されていないことは容易にわかった。
人々が見守るなか、絶望の象徴として、惨殺された可憐な天使は野晒しにされているのだっ
た。
私の・・・私のせいだ。
私がこんな闘いに巻き込まなければ、あのひたむきで真面目で内気な少女は、きっと幸福を
掴んでいたに違いない。
私さえ、しっかりしていれば、他の誰も苦しめることなく、ひとりでこの使命を背負っていけた
のに。あの可愛らしい少女を、死なせることなどなかったのに。
全ては、私のせいなのだ。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・・・」
真っ暗になった里美の視界から、一筋の雫が頬を伝い落ちる。
長い髪を垂らし、ガクリと頭を俯かせる囚われの少女。張り詰めていた糸を切らした宿敵に、
全てを手中にせんとする横暴者はさらなる追撃を突き刺す。
持っていたリモコンのスイッチを押す。
重量感ある轟音が木霊し、ユリアの亡骸を映した壁が、真ん中から左右に広がっていく。単
純な構造に思われた地下室には、忍者屋敷を想像させる秘密の部屋が隠されていたのだ。殺 風景な部屋に施された機械仕掛けが、精神を砕かれた少女戦士にトドメを刺すべく動いてい く。
灰色の壁の奥から、青白い光が洩れてくる。コンクリ―トの扉が完全に開ききり、秘密の部
屋の全貌が明らかになったとき、深い傷を負った五十嵐里美の心は、死神の息吹により凍り ついた。
「そ・・・・・・・・・んな・・・・・・・・・・」
「うわははははは! これが本当の力の差だ! 絶望に平伏せ、ファントムガール!」
コンクリートの壁の向こう。
そこには、直径30cm、長さ50cmほどの巨大な試験管が、壁一面に並べられていた。
ズラリと並んだ無数の試験管。
その中は、青みがかった液体で占め尽くされ、底には白い物体がひとつづつ沈んでいる。
鶏の卵ほどの大きさのそれは、くらげのようにゆるやかに蠕動し、細かい襞を青白い液体の
中で揺らめかせている。
「どうだ、オレが集めたコレクションは?! オレたちにはまだこれだけの『エデン』があるの
だ! 貴様らファントムガールが何人いようと、オレたちに敵うわけがないのだ。ワハハハハハ ハ!」
里美の心で、何かが崩壊する音が響く。
全ての体重を、手足の枷に委ねた少女に、悪鬼の哄笑が浴びせられる。垂れ落ちた長い髪
の向こう、美しき少女は虚ろな視線を、冷たい床に落とし続けるのだった。
そして、絶望の魔獣に食い破られた少女に、本当の地獄が襲いかかる・・・
2
永遠の虚無を思わせる灰色の空間は、先程までいた場所とは、ある一箇所において異なっ
ていた。
再び覚醒した五十嵐里美は、四肢に襲いくる苦痛と、己が取らされた態勢に気づき、失神し
ている間に別の部屋に連れられたことを悟る。
大の字に磔られている点では、虜囚の扱いは変わっていない。
だが、昇天前には金属板により床と垂直に晒されていた肢体は、今は大地と平行になり、1
m50cmほどの高さに、下を向く格好で宙吊りにされていた。
天井から極太の麻縄がぶら下がっている。神式の祭りで結うような、厳かですらある太さ。そ
れが途中から5つに分かれ、白百合の如き手首・足首を拘束している。芸術的な曲線を描く女 神は、その抜群のプロポーションをスカイダイビングでもしているかのような姿勢で展示する。 ただ手首足首を拘束して、天井から吊るしただけならば、里美の肉体は、干し肉でもぶら下げ るようにダラリと吊るされるだけだったろう。しかし、マリーの魔人形により、大の字に硬直させ られた女隷の身体は、ピンと強烈に張った縛綱により、宙空で手を広げ、股間を全開にする無 様な姿で晒していた。さらに加え、首にかかった最後の縄のせいで、咽頭を締め上げられる苦 痛に耐えかねたくノ一は、上半身を反りあがらせ、形・大きさとも申し分ないバストを誇張せざ るを得ないでいる。
宙吊りの隷奴の正面、切れ長の瞳が下目遣いで送る視線の先に、毛皮付きソファに座った
久慈仁紀が、ニヤニヤ笑いを浮かべていた。
わずか十数分前、X字の金属板に固定された少女は、なんとしてでも倒さねばならないはず
の仇敵により、玩具と成り果て、昇天させられていた。
ユリア、西条ユリの死。
圧倒的に迫る『エデン』―ミュータントの卵―の数。
崩れ折れかけた闘少女の心に、容赦なく殺到した魔人は、魔力により研ぎ澄まされた性技
で、無垢な聖少女を存分に汚し尽くした。
「ひゃやああああッッ〜〜〜ッッッ!!! やめぇぇえッッ・・・やめてぇぇえええッッ〜〜〜〜ッ
ッッ!!!!」
清廉であり高貴であるはずの令嬢が、恥も外聞もなく泣き叫んだ。ショックと絶望と逃れられ
ない恐怖――地球を守る最後の希望である守護天使は、ひとりの女子高生に戻って懇願し た。久慈にとって、至福の時間。長い髪を振り乱し、涙の雫を飛び散らす、目の上のたんこぶ であった忌々しい牝を、思う存分に喘ぎ喚かせ、嬌声を絞り取っていく。
「フハハハハ! この日を待ち焦がれたぞ、里美! 身動きできない貴様を破壊するのが、
これほどまでの快感だとはな!」
「ふわぁぁあああああッッッ―――ッッッ!!! ひぐうぅううッッ〜〜ッッ!!! はうわああ
ああああッッッ――――ッッッ!!!!」
コンクリートの壁に、絶叫する自由しかない少女の胸を、二本の腕で握り潰していく淫靡な影
法師が投影される・・・
その後、影法師は、腕が股間に伸びたり、唇が重なったりと形を変えたが、磔少女の影は、
ただ悲痛な叫びをあげ続けるばかりで、いつまでもX字のままだった。
手による淫技だけで、わずか5分の間に2度イカされ、五十嵐里美は果てた。
二度目のエクスタシーで完全に失神した聖女は、X字の上で処刑されたように、弛緩した肢
体をぶら下げ、惨めな姿を宿敵に晒した。
意識を無くした正義の少女は、その後、この新たな拷問部屋へと運び込まれたのであった。
「おはよう、生徒会長さん。ご機嫌いかがかな?」
いつもより1オクターブ高い声が、嘲りを助長する。勝利を確信した我侭な男は、もはや誰の
手にも負えないほどの有頂天ぶりを、顕在化させつつあった。
「あぁ・・・・うくぁ・・・・・こ、殺せ・・・・・・・・はやく・・・殺しな・・・さい・・・・」
締め上げる麻縄の苦痛に耐え、これだけのことをようやく里美は言葉に乗せた。
元々満身創痍の聖少女に、残された体力はわずかだ。
加えて、現在の宙吊りの苦しみは、見た目を遥かに上回るものだった。
両手首足首で体重を支えているため、肩と股関節が抜けてしまいそうだ。きつく絞められた
縄のせいで、先の部分は血が届かずに白く変色している。大きく手足を広げた格好で吊られて いるため、自然中央にかかる重力により、反りあがった背中は常に背骨折りの拷問にかけら れているも同然だ。しかも少しでも力を抜けば、首の縄が窒息を迫って絞め上がる。首絞め、 背骨折りに加え、肩関節・股関節・手首・足首の関節を一度に極められる、複合関節技を常に 掛けられている状態が、身も心もボロボロの少女に襲いかかっているのだ。
「ほう? てっきり屈したものだとばかり思っていたが、どうやらまだまだ歯向かう気のようだ
な。意地を張っても、辛いだけだぞ」
「悪に・・・・・・屈したりなど・・・・・しない・・・・・・たとえ殺されても・・・・」
「フン、全くもって忌々しい牝だ。だが、それでこそ楽しみ甲斐があるというもの」
不意に里美の方向感覚が狂う。
前触れもなく天地が引っ繰り返ったような感覚は、宙吊りの肉体が何者かの手により、天井
からの支えを中心にグルグルと回転させられたためであった。
換気扇のプロペラを思わせる動きで、美神に愛でられたはずの少女は、普通の人間ならば
生涯味わわないであろう屈辱的な姿勢で回る。
ギシギシと、固い麻が摩擦する無機質な音が広がる。
戦士としてのアンテナを、ダメージにより奪われた里美は、ここで初めて己を取り巻く状況を
理解した。戦慄とともに。
4人の男女が囲んでいる。
片倉響子。神崎ちゆり。魔女マリー。教師田所。
ある者は凄惨な笑みを浮かべ、ある者は凍りつくような神妙な面持ちで、成す術なく回転す
る、美しき女神を凝視している。
「ククク・・・さすが、賢いエリートさまは出来がいい。その状況が何を意味しているか、わかっ
たようだな」
回転により緊縛が強まった縄のせいだけではない、青白くなった里美の顔が、360度を回り
つづける。視界に飛び込む、残虐な顔、顔、顔・・・
里美は、その蒼白となった哀愁漂う美貌、剥き出しになった性器、傷と火傷に覆われた痛々
しい全身を、周囲を囲む4人の処刑者に見せつける。
「里美、オレは完璧主義者でな。もはや勝負がついた戦局とはいえ、ひとつだけ気になること
がある。ファントムガールは何人いるのだ? あとはナナだけなのか? それとも・・・まさかま だ他にいるのか? それを吐けば、オレの性欲人形として生かしてやる」
ゆっくりと回転する被虐者の口は、開くことはなかった。
(ナナひとりだけと知られれば、間違いなくあのコは嬲り殺されてしまう・・・せめて、あのコだ
けでも助けなくては・・・)
まるで静かな死を待っているように、里美は薄皮を剥ぐがごとくに体力を奪う磔風車に身を委
ね続けた。ギリギリと、背骨・肩関節・股関節・頚骨が崩壊の序曲を奏で始める。泣き叫びたい ほどの激痛の海に溺れながらも、現代くノ一は無言を貫く。真っ赤に染まり、珠の汗を浮かべ る聖少女の表情は、屈辱と悲哀と気高さとをブレンドした、神々しくさえあるものだった。
だが、そんな悲壮な少女戦士の決意を、絶ち切るように悪鬼が吼える。
「バカな女め! よかろう、ならば力ずくで吐かせるまでだ!」
回っていた身体が、久慈の正面に顔を向けたところでピタリと止められる。囲んでいた4人の
悪魔たちが、ざわりと蠢き、囚われの天使の傍らに立つ。
「いいか、顔は傷付けるなよ。オレはその気高く、憂いを秘めた美しい顔が歪むのを見たい
のだ。くノ一の修行など、まるで無意味であることを教えてやれ」
ソファに深く腰を下ろし、悪魔の申し子は聖少女の拷問刑鑑賞に集中することにする。
久慈が腰を落ちつけたのを合図に、宙吊り天使への無慈悲な蹂躙は開始された。
「では、まずはこのオモチャで遊びましょうか」
目の前に禿げあがった中年男が現れる。眼を細め、唇の端を吊りあがらせたえびす顔に潜
んだ凶悪性を、里美は瞬時に見破った。国語教師・田所。直接教えてもらったことはないが、 要注意人物として記憶していた歪んだ聖職者が、校内随一の美少女に迫る。
その両手には、それぞれ赤と黒のコードについた電極。コードはメーターやダイアルがものも
のしくついた、黒い機械の箱から伸びている。
中年教師が電極を重ねる。
熱い火花が飛び散り、虚ろな視線をさ迷わせる、被虐の戦士に見せつける。
「恐いですか、五十嵐くん? 私はねえ、あなたに憧れていたんですよ。過去20年間の教師
生活で、あなたほどの美しい少女は見たことがない。美しく、心優しく、気高い・・・全てを備えた あなたを、是非私のものにしたいのです。誰にもみせない悲鳴からエクスタシーまで、全てを晒 してもらいますよ」
里美は抵抗しなかった。無駄だとわかっているから。下卑た台詞に、内なる炎を燃やしつつ
も、ただ、迫りくる電極を、怒りと悲しみの視線で見つめる。
「存分に喚きなさい、五十嵐くん」
ふたつの電極は、無造作にこめかみに付けられる。
「ぐあああああッッ―――ッッッ!!!」
視界の中で火花がショートする。バチバチと逆立った黒髪が音をたて、摩擦するたびに火花
を飛ばす。脳を揺さぶる強烈な刺激。頭が爆発しそうな衝動に、白目を剥いたまま、里美は首 を振り続けた。
「あらら、失礼。数値を間違えて、MAXで放電してしまっているようですね。良かった、死なな
くて。それにしても常人なら耐えられるわけがない電圧を浴びても平気なのは、『エデン』のお かげですかね? それとも現代忍者の修行の成果?」
言いながら、禿げの小太り男はこめかみに電極を当て続ける。自分の目線とほぼ同じ高さに
ある里美の口から、絶叫とともに白い泡が毀れてきても、電撃は止むことがなかった。
無軌道に暴れ狂った頭が、ついに気絶しかける寸前、えびす顔の教師は電極を離す。
「くはアッ!・・・はアッッ!・・・はアッッ!・・・アアア・・・」
「どうです、仲間の存在を吐く気になりましたか?」
ポタ・・・ポタ・・・と雫が落ちる音が響く。それは里美の真珠に潤う唇から割って出た、泡が落
ちる音だった。やや眉をしかめながらも、里美は誰にも聞こえる声で言った。
「この程度で・・・参るわけないでしょう・・・・・・」
「じゃあ、こうですね」
「ッッ!! うぎゃあああああッッッ――――ッッッ!!!」
続いて電極が当てられたのは、重力に引っ張られても形が崩れない、ふたつの胸の果実だ
った。
下から潜り込むようにして、電極を乳房の頂点に当てる。ご丁寧にセーラーのその部分を予
め切り取られていた里美は、寸分狂うことなく正確に突起を突かれ、そのまま押し上げるように して、Cカップは確実にある房球を上に向かって押し潰された。電磁の網が柔肉全体を包み、 瑞々しい果実を切り刻まれる痛苦に捕えられる。
「む、胸がアアッッ―――ッッ!!! あッ・・・ああああッッッ・・・はッ、弾けるううぅぅッッッ―
――ッッッ!!!」
続けざまに電極は腋の下、脇腹と位置を変えて付けられる。
その度に、里美は意志に反して悲鳴をあげ続けた。
「がはアアッッ!・・・・はアッッ! はアッッ! はアッッ! ・・・・・がああッッ!!・・・ぐあああ
あッッ!!・・・・・・・」
ボトボトボト・・・・泡に混じった涎が、コンクリートの床に新しい染みを作っていく。
「どうかね、五十嵐くん? 言う気になったかね?」
「はアッ、はアッ、はアッ、だッ・・・誰が・・・・・・絶対に言わないわ・・・・」
電流刑による苦痛が、里美の細胞に深く刻まれていき、拒絶反応を表して意志とは無関係に
痙攣し始める。縄で締め上げられた四肢が、ますます軋んで隷嬢を苛ませる。冴える風の美し さを持った少女は、滝を浴びたように汗で全身を濡らし、筋肉を硬直させるために、白磁の肌 を朱色に染めて、耐えている。
確信の表情で女神の不屈の言葉を待っていた中年教師が、黒い箱の電源を切る。
思わず安堵の色を浮かべてしまう里美。だが次の瞬間、深海の憂いを含んだその瞳は、恐
怖により見開かれる。
赤いコードを持った響子が顔に、黒いコードを持ったちゆりがお尻に近付く。
全てを悟った里美が叫ぶより早く、電極が無理矢理こじ開けられた口腔と、乳房同様服を切
り取られ、露出している股間の蜜園へと突っ込まれる。
粘液によりよく湿ったそこは、電流を流すには最適な場所と思われた。
「んんッッ!!! んんんッッッ――――ッッッ!!!!」
狂ったように首を振る里美。だが、電極を口一杯に頬張ったままでは、言葉は単なる呻きに
しかならなかった。襲いかかる確実な悲劇を知らしめるように、磔少女がよく見えるよう、ゆっく りとした動作で淫乱教師は電源のつまみを掴む。
「さあて、ここもやはりMAXでいきましょうか」
肉棒を思わせる太さの電極を、清らかな口に咥えさせられ、引き締まった尻肉の奥へと突き
入れられた、哀れを通り越した無様な姿勢で、ブラブラと五本の麻縄に吊り下げられた聖少 女。戒めに関節が悲鳴をあげるのも構わず、不自由な宙空で存分に里美がもがくのを鑑賞し てから、田所は情け容赦なくダイアルを最大限にひねる。
バリッ!バリバリバリッッ!! バシュンッ! バチバチバチ!!
床と水平に宙に浮いた天使が、全身を突っ張らせて仰け反る。
涎で濡れた口腔内は爆竹を含んだように弾け、膣深くにまで突き入れられた電極により、下
腹部を千切り取られたような激痛が里美を蹂躙する。許容外の衝撃に、脳がパニックを起こし て震える。
口から秘所まで、脊髄にそって貫く電撃により、引き締まった新体操選手の全身は高圧電流
に踊らされ、細胞のあちこちが焼け死んでいく。
「んんぐぐぐぐううううッッッ―――――ッッッ!!!! んんんんッッッ―――ッッッ!!!!」
叫びにならない呻きを咆哮し、正視に耐えない電撃拷問を10分以上浴び続けた被虐の天使
は、全身からかすかな紫煙を立てて、その意識を暗黒に飲まれていった。
思考もままならない煉獄の中で、最後に里美が見たのは、ソファでふんぞりながら高らかに
笑う、ニヒルなやさ男の破顔だった。
「いつまで寝てんだよォ! 起きなッ!」
肛門と秘所とを鋭利な刃物で貫かれ、暗闇に堕ちていた虜囚の意識が、地獄の現実に引き
戻される。
蘇生と同時に四肢を緊縛する苦しみがすかさず里美に覆い被さる。一生この惨めな姿が続く
のではと、暗い翳りが脳裏を掠める。
戻ってきた現実には、変化があった。
周囲を取り巻いていた、暴虐者たちがいない。
いるのは毒々しいまでにマスカラを濃くつけた豹柄の女、神崎ちゆりのみ。
他の者に代わって、里美を囲んでいるのは、ふたつの巨大なスピーカーだった。
「闇豹」の身長を越える高さの巨大音響機は、配線によりオーディオセットと繋がり、さらにち
ゆりが手にするマイクにと繋がっている。
「ちりのリサイタルにようこそ〜♪ みんなは危険だから、逃げちゃったけどねぇ〜」
ちゆりの能力、用意された設備・・・導き出されるひとつの答えに愕然とした里美が、無駄と知
りつつ身を捩らせる。麻縄のきしむ音が、無情に虜囚に応えるのみ。
「うくッッ・・・くうッッ・・・・・・ううぅぅ・・・・・」
「里美ィィ〜〜、この跡、なんだかわかるぅ? あんたのなんとかシャワーで、火傷しちゃった
んだよねぇ〜〜・・・ホント、あんたほどムカつく女、殺しても殺し足りないよォ・・・」
ゾッと凍りつく視線を向けたまま、長い青の爪に握られたマイクが、「谷宿の歌姫」の異名を
持つ豹の口元に寄せられていく。
「これから歌う唄はぁ〜、その辺の奴なら1分で発狂しちゃいま〜〜す♪ 正義の味方さんが
ぁ、どれだけ我慢できるか、とっても楽しみィィ〜〜!」
反りあがった完璧なプロポーションに、珠の汗が無数に浮びあがる。トランスフォーム時に耳
元で囁かれたあの苦痛が、それとは比べ物にならない倍率で、今瀕死の少女に叩き込まれよ うとしているのだ。
「ぅあ・・・・ああァァ・・・・・・・・・・」
「あはははは! 里美ィィ、苦しむ顔をた〜〜っぷり見せてねぇ!」
次の瞬間、魂を毒液で洗うような破壊音が、機械に増幅されて宙吊りの少女の両サイドから
浴びせられる。
「いやああああああッッッ――――ッッッ!!!! きゃああああああッッッ――――ッッ
ッ!!!!」
神崎ちゆりの歌、それは人間を細胞レベルから崩れさせる超音波となる。
それは「痛い」という感覚ではなく、とにかく「辛い」というしかない苦痛を与える波長であった。
そして、黒板を爪で引っ掻くような不快感を、究極にまで高めたその歌は、聞く者全ての精神を 崩壊させ、発狂に至らしめるのだ。
「やめてええぇぇぇええエエエッッッ――――ッッッ!!!! 狂うぅぅッッッ!!! 狂ってしま
ううううぅぅぅッッッ―――ッッッ!!!!」
耳を塞ぐことすら叶わぬ状況下で、里美は我を忘れて泣き叫ぶ。切れ長の瞳からは涙が溢
れ、滝となった涎がダラダラと床に流れていく。大音響にビリビリと震える身体が、あまりの苦し みに痙攣する。
敵に懇願するならば、自死を選ぶよう教育されたくノ一が、想像をはるかに越えた苦痛の海
に飲まれていく。
「割れるうううぅぅぅッッッ――――ッッッ!!! 頭がああアアアッッッ―――ッッッ!!! い
やアアッッ――ッッ、いやあアアッッ――ッッ、いやああああアアアぁああぁアアアッッッ――― ッッッ!!!!」
黄色の液体が、絶叫する口から溢れ出る。ビチャビチャと音をたてて、それは床を打った。す
でに空となった胃から、胃液が逆流したのだ。傷だらけの素肌に浮いた夥しい汗は、里美が悶 えるたびに地面に落ち、ボロキレとなったセーラーはじっとりと濡れて変色し始めた。体液とい う体液が、悶絶の天使から搾り取られていく。
「やめてええぇぇぇええッッッ〜〜〜ッッ!!! 歌をォォッッ・・・歌をとめてえええぇぇぇッッッ
―――ッッッ!!!! ぎいやあああああッッッ――――ッッッ!!!!」
ブシュウウウウウ・・・・・
切り取られたショーツの穴から、泡混じりの透明な液体が噴射される。
微かに湯気をたてるその液体の、正体を知る神崎ちゆりの顔が、寒気がするほどの笑顔に
変わる。
五十嵐里美は、破壊の音波の前に、失禁した。
ベチャベチャベチャッッ・・・凄まじい勢いで、聖水が床に吹き零れていく。
大の字に宙吊りにされた被虐の女神は、あらゆる体液を撒き散らしながら、豹の仕打ちに絶
叫し続けた。
「あーっはっはっは! 最高ォォ〜〜〜ッッ!! 里美ィィ、最高だよ、あんたの姿ァァッ!!」
宙吊りの戦士は、そのまま許されることなく、音響設備により何倍にも高められた破壊の旋
律を、捕獲された身で受け続けた。
ようやく歌が止んだのは、「闇豹」が慈悲を見せたためではなく、一番が歌い終わったためだ
った。
歌が止んだ後に残されたものは・・・
それは、まさしく濡れ場。
五十嵐里美という極上の女神から、雑巾を絞ったように肉汁が零れ落ちていく、凄惨な地獄
絵図。
汗、涙、涎、泡、小便・・・あらゆる体液が雨となってボタボタと里美の身体から降り続ける。
床に出来た巨大な水溜りからは、饐えた臭いが漂い、美しき少女の残骸としてはあまりに酷い 現実を見せていた。
「・・・あぐ・・・・・ぁぁぁ・・・・・ひぐぅ・・・・・・ぅぅぅ・・・・・」
「まぁだ、狂ってなかったんだぁ〜〜、へぇ〜〜。学園のアイドルさまが、おしっこちびってまだ
平気なんだねぇ〜〜、きったない女ァァ〜〜!」
「ククク・・・いや、今のは相当応えたみたいだな、五十嵐里美め」
モニターで中の様子を窺っていた久慈仁紀は、涙と涎で凄惨に濡れ光った虜囚の顔を見な
がら呟く。
「いくらお庭番といっても、お嬢様として育ったこのコには、失禁は耐えられないショックでしょ
う。ふふふ・・・強がっていても、脆さは隠しきれないわよ、ファントムガール」
後方で腕組みながら、片倉響子が同調する。モニター内の囚われの少女には、もはや屈服
以外の道はないように思われた。強烈に縛られて動けないはずの身体は、ヒクンヒクンと腰が 無意識に折り曲がり、壮絶な苦悶に崩壊寸前であることを知らしめている。
「も・・・・もう・・・・・・・・・やめ・・・・・・・てぇ・・・・・・・・」
「いいわよォ♪ ただしィ、仲間があとどれだけいるか、喋ったらねぇ」
「・・・・・・・・・ううぅ・・・・・」
(わ、私が・・・喋ったら・・・正体を知られているナナちゃんは・・・・・)
「い、言えない・・・・・・・それは・・・・・言えない・・・・・・・」
「ふぅ〜〜ん、じゃあ、もっと喚いてもらおっかなぁ〜〜?」
「・・・・・・あ・・・・・あああッッ!!・・・・・・・・・」
止まない絶叫の中、「谷宿の歌姫」の狂歌は3番まで歌い続けられた。
宙吊りの少女戦士の真下に湧いた水溜りは、1cmもの厚さになろうかとしていた。
一体いつまでこの地獄は続くのだろうか。
三度蘇生した里美を待っていたのは、最初と同じ、4人の拷問官だった。正面のソファに足を
組んでいる悪鬼は、愉快げに美しい玩具を眺めている。
地球を征服せんとする悪虐者5人を前にして、純然たる正義の使者は、ただ哄笑を浴びせら
れるのみだった。
そして、里美は気付き始めていた。自分は笑われて当然であることに。
なぜなら、ファントムガールはこの5人に、完膚無きまでに敗北しているのだから。
「ふふふ、記憶力のいい生徒会長さんなら、この針を覚えているわよね?」
赤いスーツに身を包んだ彫刻のごとき妖艶な美女が、宙に浮いた里美の眼前に金色の針を
突きつける。澄んだ黒真珠の瞳が丸まり、明らかな怯えの影が走る。
「そう、あなたの後輩のナナが、命乞いしちゃった“金剛糸”よ。猛毒による激痛は・・・」
美しいはずの金色が、恐ろしげに光る。
研ぎ澄まされた精神力で、屈服を迫る激痛の魔獣に耐えてきたくノ一戦士であったが、度重
なる限度を越えた暴虐は、少女の忍耐力を相当に奪いとってしまっていた。里美の眉根が寄 り、凛々しい輝きを放つ瞳が、切なげに細まる。花弁を思わせる艶やかな唇は、いまにも許し を乞いそうに歪んでしまっていた。明らかな、泣き顔。高貴な令嬢が見せる、弱々しい態度は、 悪魔たちの嗜虐心を高めるだけだ。
「いッ・・・いやああァァアッッ!!・・・・・・や、やめてぇぇえええッッ・・・・・・お、お願い、そんなこ
とされたら私・・私ィィ・・・」
「あははは♪ 里美ィィ、なにいまごろ泣きついてんだよォ〜! ムダムダ、お前は人類史
上、もっとも惨たらしく殺してやるからな!」
空中に大の字になった里美の肢体を、四肢を捕えた縄が無造作に揺らす。ちゆりと田所が、
恐怖に駆られる少女を嘲笑うべく、面白がって縄を引っ張っているのだ。幾多の侵略者を退け てきた守護天使が、文字通りオモチャとして遊ばれている。ブラブラと揺すられながら、あまり に惨めな己の姿に、里美の頬を涙がつたう。
しかし、囚われの少女戦士が本当に地獄を見るのは、これからだった。
白い二の腕についた擦り傷に、響子は無造作に金色の針をつけた。
「!! うぎゃああああああッッッ―――――ッッッ!!!!」
琴に似たたおやかさを持つ里美の声が、張り裂けんばかりに絶叫した。突然の痛撃は、初
体験の里美にはあまりに過酷なものだった。
「うふふ、どうかしら? 痛みだけを極限にまで与える“金剛糸”の味は? ナナがあれだけ頑
張ったんだもの、リーダーのあなたがこれぐらいで悲鳴をあげてちゃダメよね」
「あ・・・あく・・・・ああぁ・・・・・・」
「これを神経が集中している箇所に打ち込んであげるわ。例えば、こんなところにね」
縄に縛られた右手首の先、白魚のごとき細長い指を、女教師は愛しげに摘まむ。
形の良い、楕円形の爪の先。そこに針の先端をつける。
「ッッ!!! や、やめ・・・・やめてぇぇ・・・・・・・」
ズブズブズブ・・・・・
「ふぎゃああああああああッッッ――――ッッッ!!!!」
あまりに壮絶な激痛に、失神すら許されない。
想像したこともなかった極限の痛みに、里美の意識は木っ端微塵に爆発した。だが、全身を
頭の先からつま先まで、100回程雑巾のように捻られた感覚がするや、すぐに意識は復活す る。そして瞬時に破裂・・・永劫に繰り返される、蘇生と失神。久慈の嘲笑も、ちゆりの高笑い も、全て聞こえなかった。痛覚のみが里美を包む。先程の電極が全ての痛覚に押し当てられ、 一斉にMAXで電撃を浴びているようなものだ。いっそ指が無くなって欲しい。剥き出しの神経 をヤスリで削られても、これほどの痛みはなかろうと思えるほどの苦しみが、宙吊りの女神に 容赦なく叩き込まれる。
「ここも痛いのよね」
叫び続ける里美に気をかけず、左の二の腕を掴む。上腕二等筋、いわゆる力瘤の窪みに、
新たな金色の針が当てられる。
ズブブッ・・・ズブズブズブ・・・・・・
「ひぎやあああああああああッッッ―――――ッッッ!!!!」
針は腕を貫き、上から下へと突き抜ける。
己が叫んでいることもわからずに、ただ激しく、里美の小さな顔が振られる。深い知性の薫り
する瞳に、光は宿っていない。破れた喉から噴き出た鮮血が、涎の雫とともに噴霧される。
「腋も人間の弱点なのよね。ここを刺されたら、さすがのくノ一さんもたまらないんじゃないか
しら?」
すかさず、左の腋の下、縄に拘束されているがため、曝け出しているその箇所に、遠慮無く
針が埋められていく。
ズブリ。ズブブ・・・ズブズブズブ・・・・・・・
「いぎゃあああああああッッッ―――――ッッッ!!!! やめてえええッッッ――――ッッ
ッ!!! もう許してえええええッッッ―――ッッッ!!!!」
ついに隷奴の口から、命乞いの台詞が洩れ出る。
正義を貫いてきた守護少女の精神が、爪の間・筋肉の裂け目・腋の下という、3箇所同時の
究極激痛により、木っ端微塵に砕かれた瞬間だった。
白目を剥き出し、針だらけの身体で泣き叫ぶ里美を、誰が責められようか。あまりに苛烈な
拷問に晒され、現代くノ一の限界は誰の目にも明らかだった。
「さあ、最後の一本は、お臍がいいかしら? この奥は内臓と皮一枚隔てているだけだから
ね。奥にまで刺しこんだら、悶死しちゃうかもしれないわね」
「!!! やめてえええええッッッ―――ッッッ!!! 許してええええッッッ―――ッッ
ッ!!!! お願いいィィィ〜〜ッッッ、もうこれ以上苛めないでええええぇぇぇッッッ――――ッ ッッ!!!!」
「なら、仲間の数を言いなさい。あと何人いるの?」
「ああああぁぁぁッッ〜〜〜ッッッ!!!! そ、それはああぁアアアッッッ〜〜〜ッッ
ッ!!!」
白目のまま絶叫する口から、涎が溢れる。汗の結晶がスポンジを絞ったように大の字の身
体、全身から降り落ちていく。金色の針から送り込まれる絶苦に、里美の戦士としての心は完 全に塗りつぶされていた。壮絶な激痛に屈服せんとする女戦士が、今、誕生しようとしていた。
口を割れば、楽になる。
この、身を裂かれる以上の地獄の痛苦から、救われる。助けてもらえる。
すでに大勢の決したこの闘いで、どんな屈強な男であろうと泣き叫ばずにはいられない拷問
に耐えることが、なんの価値を持っているのだろう。たとえ里美が痛みに屈しようとも、称賛す る者はいても、侮辱する者などいるわけがなかった。
「い、言えないィィ〜〜ッッッ!!! そ、それだけは言えないィィィ〜〜〜ッッッ!!!!」
だが、里美は秘密を吐かなかった。
戦士としてのファントムガール五十嵐里美は、度重なる極限の苦痛の前に、敗北していた
が、藤木七菜江を守りたいという、ひとりの少女としての彼女が、最後の一線を越えさせなかっ た。
もはや、それは奇跡と呼ぶに相応しい精神力であった。
しかし、その美しいまでの忍耐力も、人間を破壊するのになんの感傷も抱かない、妖艶な女
教師の前では、全くの無力であった。
「では、死になさい。五十嵐里美」
ズブ・・・・・・
金色の針が、うっすらと腹筋が浮んだ中央、縦長のお臍に埋まっていく。
「うぎゃあああああああああああああああッッッッッ!!!!!」
永遠に途絶えることがないと思われる、長い、長い、天使の絶叫。
普通の人間なら、臍に指を突っ込まれるだけで、激しく悶絶するであろう。尖った針などで刺
されでもしたら、発狂は免れない。
それを里美は、肌に触れるだけで麻痺するような、猛毒に濡れた金属針を打ち込まれている
のだ。
「ひひィィィぎぎぎゅゅゅゅえええええええッッッッッ!!!!! ぎいあああああああああッッ
ッッッ!!!!!」
バシュウッ!! ブシュウッ!! 破れた喉から吐かれた血塊が、空中からコンクリの床に
噴霧される。
痛撃の負荷は、明らかに里美の許容量をとっくに越えている。縛縄に拘束された肉体が、あ
まりの仕打ちに限界以上に反りあがり、自ら崩壊の道を辿らんとする。ベキベキ・・・ミシミ シ・・・華奢な少女の背骨が、己の悶絶する力により粉砕されようとしている。
「待て。響子、それまでにしておけ。本当に悶死してしまう」
常に計画の邪魔をしてきた、憎き宿敵の破壊ショーを、さんざん楽しんだ久慈であったが、嗜
虐者の溜飲はいまだ下がってはいなかった。
そのままで放置しておけば、正義の天使として人類に尽くしてきた少女は、間違いなく絶叫の
果てに悶え死んでいたことであろう。宙吊りのまま、あらゆる体液を垂れ流して息絶えた姿は、 少女の本来の気高さを知る者から見れば、吐き気を催すほどの惨めさであったに違いない。
だが久慈にとって、ここで楽にしてしまうほど、五十嵐里美、いやファントムガールへの憎しみ
は、浅いものではなかった。
久慈の合図により、三本の激痛針が、哀れな虜囚から引き抜かれる。
ぶっしゅううううううううッッッ!!! ・・・・ドボドボドボ・・・
途端、凄まじい勢いで美少女の体内から、あらゆる体液が噴射される。
血、涙、汗はもちろんのこと、唾液から愛液まで。ボトボトと生々しい音を響かせながら、吊り
下げられた大の字の肢体から、豪雨のように濁った液体が灰色の床に落ちていく。
縄で絞められ、無理矢理に前方を向けられた里美の顔は、蒼白となって尚美しかった。自ら
垂らした体液に濡れ光る美貌は、彼女本来の憂いとあいまって、エロスの薫りすら漂わせる。
だが、その焦点の定まっていない瞳は、美少女戦士が完全に敗北したことを、如実に悪魔た
ちに知らせていた。
複数の笑い声が、惨めな聖少女を包み込む。
己を嘲る哄笑の渦に、飲み込まれていくように、カクン・・・と美しき少女の白磁のマスクがうな
だれる。
宙空に捕えられた体液まみれの肢体からは、ポトポトと、いつまでも里美の残滓が零れ続け
た。
「楽にさせるには、まだ早い。これだけ痛めつけても、口を割らないと言うのならば・・・ますま
す屈服した証として、是が否でも喋ってもらいたくなった。敵の拷問に負けて、仲間の秘密をバ ラすのは、最高の屈辱だろう。なぁ、正義の天使さん?」
気絶して力の抜けた美貌を、ボサボサになった髪を掴んで引き上げる。意識のない濁った瞳
が、長い睫毛の奥でぼんやりと光っている。
醜い笑顔に歪んだ久慈の顔が、宙に浮んだ白い顔に寄る。涙と涎で濡れた里美の頬を、真
っ赤な舌が、ベロリと舐めた。
「地獄の次は、天国に送ってやろう、五十嵐里美」
聞こえるはずのない台詞を囚われの女神に浴びせると、拷問官たちは手際よく、次なるステ
ージの用意を整えていく。
最初に準備完了したのは、これまでに一言も発せず、里美が壊されていくのを、じっと見てい
るだけだった、黒衣の女魔術師であった。
無表情のマリーが取り出したのは、長い髪が特徴的な、五十嵐里美の人形。
ファントムガールの人形は、ユリアによって破壊されたが、人間体である里美の人形もマリー
は造っていた。
魔女の足元には、バケツほどの大きさがある透明な容器。中には、うっすらとピンク色をし
た、半透明な液体で満たされている。糊を思わせる粘着質なその液体の正体は、やがてすぐ に判明することになる。
「・・・黒魔術の力・・・・・・その身に思い知れ・・・・・・」
意識のない虜囚に処刑宣告するや、人形を握ったマリーの右手は、ドロリとした液体いっぱ
いの容器に突っ込まれていた。
ビクンッッ!! ・・・・・・ビクッッビクンッッ!!!
ぶじゅるるるる・・・艶かしい粘液を混ぜる音に合わせるように、失神した青い肉体が痙攣す
る。まとわりつく液体の中で、マリーの親指は、人形の左胸をグリグリとこね回す。
「ひぎいイィィッッ?!! ひゃああッッ・・・・んぐぐぐ・・・・・」
ビクンッッ!! 再度空中で体を震わせるや、大の字に縛られた少女の瞳に光が戻る。だ
が、意識を取り戻したとはいえ、蘇生と同時に肉体を捕えた感覚に、濡れ光る美貌は先程とは 微妙に異なる歪みを見せる。
「起きたか、正義の令嬢さん。ローションプレイ初体験の感想はいかがかな? もっともマリ
ーの魔術により、普通の人間では味わえないほどの気持ちよさだろうが・・・」
久慈の言葉が終わる前に、ピンクの液体に沈んだ人形の股間が、女の手で優しく擦られる。
「ッッ!!! うひィィゃああああアアアッッッ〜〜〜〜ッッッ!!!!」
里美の形のいい唇から、嬌声が割って出る。
「うははははは! 全身ローションの海に沈むのは、お嬢様には刺激が強すぎるか?! さ
あ、仲間の数を言え。言わねば・・・こうだ!」
すかさずマリーの空いた手が、粘液に突っ込まれ、人形の全身を摩擦する。
「ひぎゅええええッッ〜〜ッッ!! はひいィィッッ・・・はがあッッ!! ふわああああッッッ―
――ッッッ!!!」
絶叫。
縛った縄が食い込むのも構わず、ガクガクと空中で踊り狂う里美。巨大な魔獣に全身を舐め
上げられる快感と嫌悪感に、傷だらけのくノ一は叫ばずにはいられなかった。地獄の責め苦に 失神した直後、覚醒した少女を待っていたのは、究極の悦楽であった。神経と精神を激しく揺 り動かす拷問のコンビネーションに、鍛えられた少女戦士の誇りと闘志は、ボロボロと瓦解して いく。
「うひゃああッッッ・・・やッ、やめへええッッ〜〜ッッ!!! ふぎいィィッッ・・・ひゅぎゅああア
ア・・・はああんんんンンッッ――ッッ!!!」
魔力により強化された粘液で、全身を貪り尽くされる。あらゆる性感帯を一斉に刺激され、穴
という穴から蠕動するゲル状物質に侵入を許した錯覚に、里美の理性が崩れていく。枯れたと 思われた涎は滝となって溢れ、破られたセーラーから覗く乳頭は硬く屹立し、白い肌は内側か ら桃色に染まっていき、広げられた股間からは濃密な蜜が零れていく・・・直接手を下されるま でもなく、里美の感度は全開にさせられてしまっていた。
「ふひゃあッッ!! ふぎゅああッッ!! うへはああアア・ア・ア・・・・・ひゃめぇッ・・・へえぇぇ
ぇッッ・・・・狂っひゃッッ・・・ふううぅぅ〜〜ッッ!!」
ギシギシギシ・・・
暴れ狂う虜囚の動きに、麻縄が悲鳴をあげる。
その度に里美の肢体を、束縛する戒めが締め上げているはずだが、細い四肢を襲う緊縛の
激痛ですら、里美の悶えを止めることはできなかった。
「かッッ・・・からだがァァッッ・・・おかひくなるふううぅぅ〜〜ッッ!! ひゃめッッ・・・やめてええ
ぇぇッッ〜〜〜ッッ!! ひゅッ・・・ゆるひッッ・・・へえぇぇッッ―――ッッ!!!」
「うわはははは! あの高慢ちきな女が、このオレに惨めに許しを乞うている! やはりこの
手の攻撃の方が、お前には効くようだな、里美ッ!! よし、やめろ」
人形はローションの中に入れられたままなのに、里美を襲う半固形の愛撫は止んでいた。マ
リーの呪詛が中断されたためだ。大きく手足を突っ張らせていた天使の肉体から、硬直した筋 力が抜ける。ぶらさがった反動で、縄の繊維質が軋む。
「はあッ! はあッ! はあッ! ふああッッ! ああッ・・・うああああ・・・・・・・・」
「くくくくく・・・随分と息が荒いな? そんなに身悶えては、縄が食い込んで苦しいだろう
に・・・・・・どうだ? 残りのファントムガールのこと、話す気になったか?」
「はあッ、はあッ、はあッ、いッ・・・言わない・・・・・わ・・・・・・・あなたのような悪魔に
は・・・・・・・・屈しは・・・しない・・・・」
「愛液を撒き散らし、色情に狂った眼で見つめられても、説得力はないな。だが、あくまで歯
向かうその小癪さ・・・実に忌々しい牝だ。どうやら、徹底的に嬲り尽くされねば、気が済まない らしい」
宙吊りの肢体を、またもや三体の男女が囲む。
思い返すだけで発狂しそうな激痛の記憶に、少女忍者は戦慄する。あのような仕打ちを再び
受ければ、精神も肉体もコナゴナになってしまう・・・しかし、悪鬼の頭領と、中年教師、そして派 手なメイクの豹少女の顔に、等しく浮んだ淫靡な色を見つけ、五十嵐里美の背筋を、別種の恐 怖が捕らえる。
もし・・・もしも里美の予想が当たっているのならば・・・これから振りかかる悲劇は、あまりに
凄惨なものになるはずだった。
「あ〜〜ら〜、里美ィィ〜〜、ちりたちに共通の得意技に気付いたァ〜? あんたを昇天させ
るくらい、ひとりでいいんだけどさァ〜〜、3人いっぺんに陵辱してやった方がァ〜〜、た〜のし いでしょォ♪ 優等生さんの痴態ィ〜〜、た〜っぷり見せてもらうかんねぇ〜!」
「もちろん、マリーの呪術も同時進行だ。肉体レベルと精神レベル、二重の愛撫に耐えられる
かな?」
いかなる時でも気品を損なわない里美の、憂いを帯びた瞳が恐怖に見開かれる。無意識の
うちに、少女の首はいやいやをするようにかぶりを振っていた。
「や、やめッ・・・やめてッッ・・・・・・・お、お願い・・・もう・・・もう・・・・・・」
「おっと、忘れるところだった。響子、お前からもプレゼントがあったんだったな」
「この“媚毒”を打てば、感覚が数倍に高められる。目の前でファントムガール・ナナに使って
やったから、効果はよくわかっているわね? でも、ホントに打っていいの、メフェレス?」
「ん、なぜだ?」
「今のこのコの体力じゃあ、イキまくった挙句、やがて衰弱死してしまうわよ。そうなると、ファ
ントムガールの秘密は聞けなくなるけど――」
「構わんさ。この女が惨めな姿を晒してくれれば、な」
整った顔立ちを、三日月に歪めて笑う久慈を、片倉響子は冷ややかな視線で見つめる。そ
う、結局あなたにとっては、その瞬間の快楽だけが全て。今でいえば、自分の意のままになら なかった五十嵐里美という存在を、跪かせることだけに熱中している。世界征服などと大きな 野望を口にはしても、それは単に己のプライドを満足させる行為の延長に過ぎないのだ・・・。
秘めた思いを隠し、女教師はくっきりとした二重の瞳を、目の前にある生贄に向ける。苦痛と
悦楽に、ほとんど屈服しかかっているものの、最後の一線で懸命に堪えている少女の姿は、敵 とはいえ感心させられるものがある。
「美しいわね、五十嵐里美」
皮肉ではなく、体液と傷に覆われた少女に言葉をかける。
「はあ・・・はあ・・・か・・・片倉・・・・・・きょう・・・こ・・・・・・・」
虚ろな視界に完璧な造形を誇る美貌が映る。近付くだけで、バラの芳香が漂うようだ。他の
者にはない、正常な光を漆黒の双眸の奥に見た里美は、思わずすがるような口調でその名を 呼んでいた。
「悪いけど、あなたの生死には、興味はないのよ」
首に縄をかけられた少女の鼻先に、妖艶な美女は緑の液体が入った注射器を突きつける。
「はッ・・・・・・そ、そん・・・な・・・・・そんな・・・・・・・・いや・・・いや・・・イヤあああああッッッ〜〜
〜ッッッ!!!」
蒼白になった美少女が、狂ったように身をよじる。
踏みにじる快感に酔う笑い声に混じって、針が首筋に刺さる音が響いたのは、数瞬後のこと
だった。
灰色の地下深く、囚われの少女の絶叫と嬌声が、響き渡った。
3
人と違うということは、必ずしも幸せなこととはいえない。
小学生にして、桜宮桃子はそのような思想の持ち主になっていた。
彼女が他者と違うのは、大きくいってふたつ。
ひとつは類稀な美少女であるということ。パーツの完成度の高さ、という点においては、どん
なコンテストにでても優勝するであろう片倉響子と比べても、なんら遜色はないほどだ。
そしてもうひとつ、それは彼女が超能力者である、ということだった。
「桃ちゃんはホントに凄いねぇ」
ひた隠しにしてきた自らの能力を、ボランティアで慰問した先の施設で知り合った老婆は、恐
れることなく褒めてくれた。はじめて念動力を見られたのは偶然であったのだが、老婆は少し 驚いただけで、心底から感心したようだった。幼きころに友達に逃げられた桃子にとって、それ は予想外の反応だった。以来、少女はこっそりと老婆を訪れては、他では使えない己の能力を 披露するのを、密かな楽しみにしていた。
「おや、どうしたんだい?」
空中に浮ばせていた小石を、掌に戻した桃子は視線を地面に落とす。小学5年の桃子はお
かっぱ頭で、整った顔立ちにも幼さが強い。
「おばあちゃんは、どうして恐がらないの?」
ある日のこと、少女は思いきって、長く疑問に思っていたことを訊く。
「チカラを見せると、みんな桃子のこと、化け物だって――どうしておばあちゃんは逃げない
の?」
クスクスと、皺だらけの顔面をさらにクシャクシャにして老婆は笑った。
「だって恐くないもの。その不思議なチカラのおかげで、こうやって桃ちゃんと仲良くなれたん
だもの、むしろ感謝してるくらいだよ」
「でも、でも桃子は普通に生まれたかったよ! なんでこんなチカラ、桃子にはあるんだろ?」
少女の黒目がちな眼に、みるみる雫が溜まっていく。自らの生い立ちを憎む、思春期の少女
の感情は爆発寸前だった。
「それはね、桃ちゃん。神様がそのチカラを役立たせるよう、与えてくれたんだよ」
「神様が?」
「そう、桃ちゃんにしかできないチカラで、みんなを幸せにするようにね。だから桃ちゃんのよ
うな優しいコに、神様は与えてくださったんだよ」
中学生に入ったころには、桃子の胸には介護士になって、老人たちの世話をするという夢
が、当然のように根付いていた。
(おばあちゃん・・・あたし、まだなんでチカラがあるのか、わからないけど・・・おばあちゃんみ
たいな人達の役に立てるよう、がんばるよ。だから、空の上から見ててね)
シーツを濡らした涙の感触に、制服姿の少女は目を覚ました。
灰色の壁が、まだあの地下にいることを知らせる。木製のベッドがあることからすると、どう
やら今までの部屋とは違うようだ。一体、いくつ部屋があるのか? 御曹司である久慈の財力 に、少し薄ら寒いものが背を走る。
ベッドの上で、ゆっくりと上半身を起こす。寝相の良さには自信があるだけあって、白のシャ
ツとチェックのスカートには、皺がほとんどついていない。赤のネクタイをしたまま、ということ は、余程疲れて眠ってしまったのだろう。
強大な念動力を発した後、精神の疲弊は相当なものがある。普段はそこまでの力を発揮す
ることはないが、五十嵐里美を弾き飛ばしたのは、桃子の小さな体には、大きな負担になった ようだ。立ちあがるのも辛い脱力感に襲われ、桃子は失神するように眠っていた。
「あまりいい夢を見ていないようね」
目覚めた桃子を迎えたのは、やや低いトーンだが、隠しきれないエロスの薫りを含んだ女の
声だった。
ギリシャ神話に出てくる、女神のような美形。彫りが深い目鼻立ちに、奇跡ともいえる絶妙な
配置。ひとの好みが十人十色といえど、彼女を美しいと言わない男はいないだろう。いや、女 でも、だ。完璧な造形に、性欲をくすぐる香料をまぶしたその女は、同性の桃子でも見とれてし まう。
「響子さん・・・ずっとそこにいたんですか?」
高校2年という年齢からすれば、桃子はずっと大人っぽい。それは口元の黒子と、耳朶をくす
ぐるような声のためだ。だが、明るい中にもどこか甘える調子がこもった声は、この時は幾分 沈んで聞こえた。
「もしかして、後悔してる? 私達の仲間になったことに」
「・・・いえ、別に・・・・・・」
彼女の恋人・久慈仁紀は、人類を絶望に堕としている魔人メフェレスの正体だった。
そして、彼女はその仲間となることを了承した。
ファントムガールの正体であるという、長い髪の少女を倒した彼女には、もはやその道しか残
されてはいなかった。
「・・・あなたに、見せたいものがあるわ。ついてきて」
部屋の壁と同じ色の廊下を渡り、茶色の髪の少女は長い黒髪の女についていった。エレベ
ーターに乗る。どこをどう進んでいるか、さっぱりわからない。だが、目的地が近いことを桃子 は自然に悟ることになる。
音が聞こえる。
なにか、弦楽器のような音。演奏ではなく、騒音に近い。いや、獣が鳴いているのか? 引き
攣るような音が、地下中に共鳴している。
音の発現地である部屋に、ふたりの美女は入っていった。
その瞬間、桃子の瞳が、驚愕で見開かれる。
肉体が、絡み合っている。
音は楽器ではなかった。獣の鳴き声でもなかった。
悲鳴。
荒縄で四肢を縛られ、空中に大の字で固定されている少女に、三人の男女が絡まっている。
音の正体は、闇の儀式に捧げられてでもいるような少女の口から、断続的に発せられる叫び 声であった。
見るも無惨に変わり果てた少女は、紛れもなく、ファントムガールの正体である、あの美しい
少女であった。少し茶色がかった長い髪は、べっとりと濡れた頬に貼り付き、青と白で構成され た制服は、乳房と股間を剥ぎ取られて、瑞々しい青い肉体を露見している。汗で濡れ光る全身 と、虚空を見つめる視線とが、少女が激しい拷問を受けていることをわかりやすく教える。
「ひ、ひどい・・・・・・・」
少女ー五十嵐里美を濡らしているのは、汗だけではない。涙や涎といった分泌物も含まれて
いることに、桃子はすぐに気付いた。それだけではない。臍から太股にかけて、ねっとりと広が っているとろみのある体液は・・・女子高生が口にするには、あまりに憚られるモノであった。そ の哀れを通り越して凄惨な姿に、桃子は少女が恋人の仇敵であることを忘れるほどだった。
なによりも凄まじいのは、その体液の量だ。ボトボトとあらゆる液を零し続ける里美の下に
は、バケツをぶちまけたような水溜まりがある。こんなスレンダーな少女から、これほどの体液 が搾り取られたというのか? 桃子には信じられなかった。
「ふひゃああああああッッッ――――ッッッ!!!! はひいいィィッッッ―――ッッ
ッ!!!!」
苦悶が刻み込まれた少女の顔が、さらに激しく歪む。これ以上は無理、というまで里美の柳
眉が寄る。何度目なのかわからないが、新たな絶頂に向けて、官能のトドメを刺されようとして いるのは明らかだった。
「ふははははは! なかなかしぶといな、里美! よがれよがれ。狂い死ぬまで、犯し尽くし
てやるわ」
空に浮く生贄の真下に潜り込み、両手で形のよいバストを揉みしだきながら、久慈仁紀が瀕
死の天使を嘲る。それまでの陵辱の嵐の前に、里美の性のアンテナは最大限に高められてし まっていた。胸の突起を突つかれるだけで、腰が砕けてしまうだろう。呪い人形への辱めを永 遠に続けられ、媚毒で狂わされた挙句に、常人離れた久慈のテクニックを受ける。女に生まれ た以上、それに耐えろというのは不可能であろう。胸への愛撫だけで、里美は敵の思惑通りに 泣き喚いた。
だが、それだけでは終わらない。禿げあがった小太りの中年が、二本の指をズブズブと肛門
に差し入れる。桃子には、その指がまるで軟体動物のように見えた。にゅるにゅるとした柔ら かそうな指が、どこまでも里美を貫く。内臓を掻き回される激痛と、弾けるような刺激、圧迫に よる鈍痛が一斉に襲いかかり、混乱した理性が粉砕される。指が進むたびに、里美は眼を白 黒させた。変態教師の苛烈な肛虐に、清楚な令嬢の心が噛み砕かれていく。
最も大事な部分は、豹柄の女が担当していた。膣の中でどこが一番感じてしまうか、丁寧に
探られ、容赦なく責めたてられる。摩擦により、股間は真っ赤に腫れあがっていた。神崎ちゆり の手により、里美は身を捻じ切るほどの快感を味あわされていた。あまりの快楽に痙攣して も、魔豹は責めを止めることはなかった。戯れにクリトリスを青い爪で突き刺し、絶叫させるこ とも忘れなかった。
三体の悪魔に、文字通りオモチャとなって、弄ばれる正義の使者。自尊心も矜持も全て奪わ
れ、ただ里美は泣き叫んだ。
「ふびやあひいいィィィッッッ〜〜〜〜ッッ!!!! はあぐうッッ!! ふあああッッ!!!
いやあああああッッッ――――ッッッ!!!!」
激しく揺れる細い身体。縄が白い肌に食い込む。眼から、口から、雫が噴き出る。股間から
勢いよく聖水が噴射されたとき、桃子は里美が失禁したのかと思った。潮を吹く、という行為を 目の当たりにするのは、生まれて初めてのことだった。クライマックスを迎えても、三体の悪魔 は責めを止めなかった。完全に失神するまで、虜囚を責め貫く。里美が噴射する官能の飛沫 を浴びて、3人の身体もまたビショビショに濡れそぼる。
「み、見てられない・・・・・・ッッ!!!」
頭を抱え、桃子は悪夢を振り払うように座り込む。17の少女にとって、目の前で繰り広げら
れる宴はあまりに残酷すぎた。
あの、五十嵐里美という少女は久慈仁紀の敵だ。本来なら憎むべき相手である。実際に、抵
抗しない久慈に襲いかかる里美に対し、桃子は憎しみを感じたのは確かだ。
しかし、この仕打ちを見ていると・・・何かが揺らぐのを、桃子は感じずにはいられなかった。
いくら敵とはいえ、明らかにすでに闘えない相手を、必要以上に嬲る久慈の姿――そして、そ の愉快げな笑顔・・・あれほどまでに優しかった笑顔が、今はひどく歪んで見える。世間を震撼 させている侵略者・メフェレス。彼氏のもうひとつの顔が、自然にクローズアップされてくる。
「ふううッッッ・・・ふひゃああああああああ――――ッッッッッ!!!!」
一際高い絶叫。
魔悦を満身に浴び、絶頂に絶頂を重ねた虜囚が、空中で硬直する。極限にまで高められた
エクスタシーに、正義の女神の化身である五十嵐里美は何度目かの昇天をした。ピンと張った 全身が、次の瞬間にはガックリと弛緩する。縄に吊り下がる隷奴から、どっと体液が滲み出 る。噴き出すほどの勢いはすでにない。だが、ボトボトと垂れる愛液や汗や涙は、陵辱者の手 をぬらぬらと汚していく。半開きの口から零れる涎の雫を、久慈仁紀は顔面でベチャベチャと 受けとめた。
「まだ息があるか・・・これだけの快感の渦で死ねるのだ、さぞ嬉しいだろう?」
失神したくノ一に答えられるはずはない。
両の乳房の先端を、親指で魔人が折り曲げる。
不意に襲った激痛に、里美はビクンと身体を震わせるや、残酷な現実へと帰ってきた。
「どうだ? オレたち3人の責めは。イキっぱなしで死ねるのだ、幸せとは思わんか?」
刷り込まれた過酷な責めの数々に、肉体をビクビクと痙攣させ続け、里美はかすかに首を横
に振る。
もう・・・勘弁して・・・・・・。
憔悴しきった表情が、無言のまま懇願の想いを伝える。
「だが、さすがにそろそろ限界のようだな。選べ、里美。いや、ファントムガール。狂い死ぬ
か、仲間のことを話すか?」
ピクピクと全身を震わせながら、里美は緊縛のまま揺れ動く。
時間にして五秒、その静寂が地下室を包む。
沈黙を破ったのは、侮蔑に満ち溢れた調子の、久慈の声であった。
「おいおい、もう、いいじゃあないか。いい人ぶるのはよせ。貴様の目的は、充分達成してい
るはずだぞ」
「ハァッ! ハァッ! ・・・・・・いいひと・・・・ぶる・・・・・・・?・・・」
混濁した意識の里美は、久慈がなにを言っているのか、理解できなかった。
「これだけ我慢しているのは、仲間に裏切り者呼ばわりされたくないためだろう? 後ろ指ささ
れたくないがために口を割らないのだろうが? 安心しろ、我らの責めを受けて、耐えられる者 などいない。これだけ責められれば仕方ないと、誰もが言うだろう。気にせず話せばいいじゃな いか。第一、いずれにせよ、残りのファントムガールは皆殺しの運命だ。死者になんと思われ ようと、構わんだろうが? それよりもオレに忠誠を誓って、楽しく生きる方が、ずっと賢い選択 だと思わないか?」
黒真珠を嵌め込んだような、漆黒の瞳が久慈を射る。体力も精神も、根こそぎ磨耗され、虚
ろに揺れ動く視線は、哀れみを込めて目の前の整った顔立ちを捉えた。
「ハァッ、ハァッ・・・・・・本気で・・・・・・グハァッ、ハァッ・・・言ってる・・・・・・・・
の・・・・・・・・?・・・・・」
「・・・なぜ、そんな眼で見る? それはオレが貴様を見る眼のはずだが?」
久慈の右手が、宙吊りの少女の左乳房を握り潰す。
呪術と媚毒と愛撫の嵐によって、すっかり破壊されていた里美のそこは、官能の棘が直接脳
髄に叩きこまれるスイッチに変わり果てていた。
「ふううああああああああああッッッ〜〜〜―――ッッッ!!!!」
「そうだ。そうやって、貴様はオレに服従すべきなのだ。なぜ、オレを哀れむ?」
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、あ、あなたがッ・・・・・・人の心を・・・ハァ、ハァ・・・知らないから
よ・・・・・・・・・・」
能面のような久慈の眼が細まる。
だが、それ以上の変化は、名家に生まれたエリート高校生には見られなかった。ただ、完全
に踏みにじっているはずの宿敵から哀れまれるのは、屈辱以外のなにものでもない。それが 最後の行動へと足を踏み出させる。
「・・・どうやら、五十嵐里美は想像以上に愚かだったらしい。よかろう、望み通り、死ぬがい
い」
ボサボサになった髪を掴み、醒めるような美貌を無理に引き上げる。暴虐の限りを尽くされ、
汗と涙と涎で薄汚れた顔が、「あぅ・・・」と小さく呻く。
「桃子、こっちに来いよ」
嗜虐に夢中のあまり、自分には気付いていないとばかり思っていた恋人の呼びかけに、少女
は不意をつかれた。
ゆっくりと目蓋をあげる。
おぞましい光景を見ないよう、身を裂かれる悲鳴を聞かぬよう、桃子は頭を抱えるように耳を
塞いで、眼を閉じていた。凍ったように動かなかった体が、久慈の一声で動き始める。だが、 意志の強そうな瞳を開いた少女は、しゃがみこんだまま、立とうとはしなかった。
「さ、いくわよ」
赤いスーツの女が、桃子の小脇を抱え込み、無理に立たせる。均整の取れた片倉響子の肉
体からは、外見からは想像できないような力強さが感じられた。半強制的に立たせられた桃子 は、腕を組んだまま、響子に引っ張られ、宙吊りの少女の元へと進む。
熱気と荒い呼吸が桃子を迎える。
荒縄で吊られたファントムガールの正体である少女は、153cmの桃子の目の高さに浮いて
いた。べっとりと濡れた全身。過酷な責めを受けつづけた肉体は、熱を放射し続けている。床 に溜まった体液の量から、臭気を覚悟していたのだが、不思議なことに美しい少女からは、芳 香に近い香りが、ほのかに漂っている。その甘い香りは、被虐の美戦士には、あまりに似つか わしいかもしれない。
虚ろな視線をさまよわせる美少女を前に、桃子の心にはたぎってくる感情があった。
「ヒトキ、やりすぎだよ」
「やりすぎ?」
「いくら敵だからって、ここまでやること、ない。どう見たってこのひと、もう闘えないじゃん」
長い睫毛が震えている。大きな瞳の中に、怒りの感情を久慈は見て取った。
「敵にやりすぎなど、あるわけないだろう。特にこいつらは酷く殺す必要がある。人間どもへの
見せしめとしてな」
恐ろしい台詞を平気で吐く彼氏に、桃子の細く整えた眉がピクリと動く。
なに不自由なく暮らしてきたような桃子だが、その今時の女子高生らしい日常に隠れた彼女
の真の姿が、残酷な拷問を見ることで露になろうとしていた。普段あまり昂ぶった感情を見せ ない少女は、明らかな憤りを、その強い視線に込めている。
「やっぱりおかしいよ! 見せしめとか・・・なんでそんなことする必要があるの?! 」
「言っただろう? 今の世界を破壊して、新しい理想郷をつくるためだ」
「確かにヒトキが言うように、人間は間違ったこともしてるよ。でも、いいひとだって、いっぱい
いるじゃん!」
「そういういいひとを守るために、こいつらのような少数の悪人を排除せねばならんのだ」
久慈の台詞に、桃子は思わず黙った。
「こいつら政府の犬どもが、現代の腐った人間社会の象徴なのだ。諸悪の根源を抑えれば、
少ない犠牲で世界を救うことができる。だからこそ、オレたちは悪と呼ばれようが、今の活動を しているのだ」
大したものだわ。
隣で聞いていた片倉響子は、心の中で嘆息をついていた。
全く心にもないことを、本心からの台詞のようにすらすら語れる久慈の才能に、響子は素直
に感心していた。政治家になれるわよ。何食わぬ顔のまま、心では最大の賛辞を送る。
「で、でも、なにも殺さなくても・・・」
「こいつを生かしておけば、必ず逆襲されることになる。今、こいつを殺す代わりに、桃子は
誰か仲間が殺されてもいいのか?」
「それは・・・」
「オレたちは仲間じゃないのか?」
「な、仲間よ」
「ならば仲間に被害がでないよう、こいつはここで仕留めねばならん」
冷徹に言い放つ久慈に、言い返せない桃子は圧倒されていく。昂ぶっていた感情は、いつの
まにか鎮圧されかかっていた。
その心の弱まりを、魔人は見逃すことはなかった。
「桃子、お前がこの女を殺すんだ」
「えッッ?!!」
「お前の超能力で、こいつの心臓を止めろ。お前の手で、ファントムガールにトドメを刺すん
だ」
「はあッ、はあッ、はあッ! ・・・やっと・・・完成・・・かな?」
穴だらけになった広大な五十嵐家の敷地で、藤木七菜江は搾り出すように声を出した。
白い空手着に包まれた小さな肩が、激しく上下している。下に着ているティーシャツは、汗で
ぐっしょりと濡れそぼっている。今にも倒れ込みそうな身体を、少女は両手を膝に当ててなんと か支えていた。
拳に巻かれたテーピングが擦り切れ、滲んだ血のせいで黒ずんでいる。以前にも増した地面
の穴を見るまでもなく、激しい修練のあとが窺い知れた。
「いよいよ明日、ですな」
知らぬ間に隣に立っていた執事・安藤から、柔軟剤のよく効いたスポーツタオルが渡される。
顔にフローラルの香り漂うそれを押しつけると、柔らかな生地は汗をよく吸った。しばしゴシゴシ と汗を拭ってから、大きな吐息とともに顔をあげる。息切れは、ようやく収まりかけていた。ブカ ブカといっていい大きめの道着は、七菜江の可憐さを逆によく表している。タオルを首にかけ、 夏の星座を見上げながら、少女は軽く息を吐いた。
「なんとなくだけど・・・感触は掴めてきた、と思う」
真っ直ぐ正面を見据えながら、どこか頼りなげでいて限りなく明るい魅力を持った少女は言
う。その純粋な瞳の奥に宿る決意は、揺るぎ無いものになっていた。
「新必殺技、完成ですか」
「うん。これで、あたし、勝負かけてみる」
「水を差すようで申し訳ありませんが、非常に厳しい闘いになりましょう。覚悟はできています
か?」
コクリとホームベース型の輪郭を縦に振る、七菜江。
すでに安藤とは、幾度となく話し込んできた。やらなければならないことも、他に方法がないこ
とも、勝算の低さも、全てをよく理解したうえで、まだ年端もいかぬ女子高生は、死地への出陣 を己の意志で決意していた。
あたしが負ければ、全ては終わる。
ファントムガールは全滅となり、世界は邪悪に支配される。
これが最後になるかもしれない闘い。しかし、七菜江には怯えはなかった。
今、考え得る最高の作戦を信じ、あとはベストを尽くすしかなかった。それはハンド部の試合
前の気持ちに似ていた。
「多勢に無勢、ただでさえ不利というのに、敵はあなたの呪い人形を持っている。あのマリー
という魔女がいる限り、藤木様の勝利はまず有り得ません」
「わかってるよ。だから、ユリちゃんを生きかえらせることに集中しろ・・・ってんでしょ。もう、何
度も聞かされたよ」
「ファントムガール・ユリアは完全に機能停止しています。蘇生に必要なエネルギーは相当な
量になるでしょう。出来る限り戦闘を避け、西条様を復活させたら、すぐに藤木様もトランスフォ ームを解除なさい。一番いいのは、敵が現れないことですが・・・」
今回、七菜江がすべき使命は明確だった。
ファントムガール・ユリアの復活。彼女を生き返らせることが最大のテーマ。
激しい損傷を負ったユリアの肉体が、完全に死滅する前にエネルギーを充填させることがで
きれば、ユリアは蘇生する。
漆黒のビルに放置され、満天下に晒されたユリアの身体は、限界に近付いてきていた。もう
2、3日、待てれば良かったのだが・・・あらゆる関係者に無理を頼んで、安藤はXデーを明日 に設定したのだった。ユリアを救い、侵略者に反攻するための、ギリギリ、奇跡のようなタイミ ングの日が明日なのだ。
蘇生に必要なエネルギーが膨大である以上、七菜江にはできる限り闘ってほしくはなかっ
た。ユリアが放置されたビルの近くで変身し、目的を果たしてすぐ逃げる。それがベストだが、 恐らくメフェレスたちが待ち受けているであろう、というのが安藤の見解であった。ユリアを晒す のは、ナナをおびき出すエサであることは確実だからだ。復活できることは知らないだろうが、 仲間が惨めな目にあってるのを、ナナが無視できないことはよくわかっているはずだ。十分な 勝算を持って、メフェレスはナナを待ち構えていることだろう。
「もっとも厄介なのは、お嬢様が敵の手に落ちていることです。藤木様のご性分からいって、
万一人質にでもされたら、とても闘えないでしょう? 戦況は限りなく厳しいと言わざるをえませ ん」
「里美さんのことは・・・気にしない」
「できますか? あなたにそれが?」
「できる。やってみせる。里美さんはもう・・・死んだの」
誰よりも敬愛する先輩の無事を信じている少女は、己に言い聞かせることで、来るべき決戦
のときを迎えようとしていた。
ファントムガールの正体を秘密裏にしているため、わずかな特殊部隊の捜索だけでは、里美
の行方は掴めなかった。生死すら定かではない。恐らく久慈家が所有する土地・建物のどこか に連れ去られているのだろうが、肝心の久慈仁紀自身の足取りが不明であった。今でも何人 かの精鋭が、必死の探索を続けているが、里美の保護を期待するのは難しい。
七菜江はユリア救出に専念するために、里美の存在を心から消さねばならなかった。
老紳士は無言で少女を見詰める。バカがつくほど正直で、素直な娘。平気で人質の代わりに
命を差し出すタイプの少女を、死神の待つ戦地に送る辛さが老骨に染みる。だが、彼は信じる しかなかった。
可憐な少女の強い眼差しを。
特訓で血の滲んだ小さな拳を。
そして、作戦の鍵を握る、あの男の実力を――。
「どうした、早く心臓を止めろ。お前の念動力があればできるはずだ」
噴き出した汗が、白い頬を滑り落ちる。久慈仁紀に命令されても、桜宮桃子は動けずにい
た。ただ、ボロボロの姿で吊り下げられた虜囚をじっと見る。
桃子に里美を殺させようと提案したのは神崎ちゆりだった。
「そしたらさ〜、ウサギちゃんも、立派なワルになると思うんだよねぇ〜?」
強大な力を持ちつつも、桃子が正しい心の持ち主であることを知っていた久慈は、果たして
きちんとミュータントになるのか、一抹の不安を抱いていた。オレに惚れきっているはずのバカ 女は、忠実な下僕になるはずではあったが、間違ってファントムガールにでもなられては、たま ったものではない。用心深い男は、魔豹の意見を取り入れることにした。
「桃子、お前がオレたちの仲間というなら、その証明を見せてみろ。心臓を止められないとい
うなら、首でも捻じ切れ。さあ、やるんだ!」
卵型の顔には、汗が幾条も流れ落ちる。
殺す? このひとを? あたしが?! そんなの・・・そんなの、できるわけッ・・・!!
それまでピクピクと痙攣していた里美の身体が、微妙な変化を見せる。同じように震えながら
も、そこには明らかな意志が感じられた。なにかを言おうとしている? 変化に気付いた桃子 は、薄汚れた被虐の戦士を見つめる。焦点はあっていないが、それでも美しい瞳が桃子を見 ている。
「・・・・・・・・・げ・・・・・・て・・・・・・・」
「・・・え?」
「逃げ・・・・・・・・て・・・・・・・・・あな・・・・たは・・・・・・・・・騙されて・・・・・・・・る・・・・・・・・・・・・・」
「フン、まだ意識があったか、負け犬め」
久慈の右手が胸に、左手が秘所へと伸びる。
官能のセンサーが破壊された里美にとって、いまやあらゆる愛撫が拷問となる。触れられる
だけでイキそうになる敏感な二箇所を、久慈の両手はまさしく玩具のように荒々しく弄ぶ。
「ふううわああああああああ―――ッッッッ!!!! ひゃぶうッッッ・・・ぐべえええッッ―――
ッッッ!!!!」
極限の快感に、ぐるりと白目を剥く。手足よ、もぎれよ、とばかりに暴れ狂う里美。枯れたと思
われた涎と泡が、ゴボゴボと湧いて出る。絶頂に絶頂を重ねた末の、真の昇天が里美に迫っ てきているのは誰の目にも明らかだった。
「さあ、やるんだ、桃子。お前が殺さなければ、オレがイキっぱなしにして殺すだけだぞ。フハ
ハハハハ!」
見開かれた桃子の目の前で、凄惨な陵辱シーンが繰り広げられる。自分の彼氏と、人類の
守護天使の。美しき少女が、恋人の淫技に悶絶し、死に絶えようとしている。
騙されてる? そうなの? わからない。もうどうでもいい。
ただ、目の前のシーンを見て、桜宮桃子に沸きあがる感情はひとつのみ。
「もう・・・やめろォォッッ――ッ!!!」
爆発。
ボンッッ!! という音を残して、久慈の身体が後方に吹き飛ぶ。透明な巨大鉄球に弾かれ
たように。細身の肉体は、激しく灰色の壁に激突し、地下全体をかすかに震わせる。
「ゲボォッッ!!」
なにが起きたか、理解できない久慈の口を、吐血が割って出る。
「こんなのッ・・・正しいわけないッッ!!! 人を苦しめて、何が正義よォッッ!!」
激昂。魂から搾り出すように、桃子は叫んでいた。たとえようのない、激しい怒りが少女を包
んでいた。
里美を苦しめて喜ぶ久慈への怒り。それを楽しげに見る者たちへの怒り。そんな彼らを信じ
ようとした自分への怒り。そして・・・確かにあったはずの愛と、決別する怒り。
「普通の少女」という仮面を脱ぎ捨てた桃子の、“熱い”本性が表出しようとしていた。
「やっぱりね〜。どうせこうなると思ってたんだァ〜」
顔を紅潮させる少女の前に、マスカラの濃い化粧を施した顔が現れる。その速度は、桃子の
常識外のものだった。瞬時に能力を発動できる桃子だが、ちゆりの攻撃速度がはるかに凌駕 している。
ズバッッ!!
音と、「闇豹」が腕を振るのは同時。
次の瞬間、桃子の制服は、腹の部分に三本の裂け目が入り、見る見るうちに赤く染まってい
く。
「え?!」
ドシャリッ・・・膝から崩れた少女は、コンクリートの床に座り込んでいた。熱い。お腹が・・・焼
けるようだ。思わず腹部を触った両手が、真っ赤に濡れているのを、桃子は不思議そうに眺め た。
傷自体はさほど深くはない。しかし、超能力者といえど、普通の女子高生である少女が、腹
部を切られてまともでいられるわけはない。戦闘力を飛躍的に高める『エデン』の寄生者相手 に、闘いと呼べるほどのものができるわけがなかった。
「・・・う、うそ・・・・なんで?・・・・・」
「あんたみたいなのはさぁ〜、『調教』し尽くした方がいいって、最初からちりは言ってたんだ
けどねぇ〜」
先程まで”仲間”であり、友達であったはずの『谷宿の歌姫』は、肩でも叩くような気軽さで、桃
子の腹を切りつけた。そこには一切の躊躇はない。隠されていた“仲間”たちの本性が、桃子 の裏切りによって暴き出されようとしていた。
「こうなっちゃったら、心の底から屈服してもらうしかぁ〜、ないよねぇ〜♪」
桃子の大きな瞳が鋭くなる。ショックは大きいが、傷自体は大したものではない。十分残った
体力が、超能力少女に反撃をさせようとする。
「ッッ?!! はああんンンッッ!!」
「あはは♪ 思いっきり感じちゃった声ねぇ〜! ウサギちゃ〜ん、あんたみたいなのが、ちり
たちに歯向かえると思ってんのォ〜?」
背後から変態教師に抱きすくめられ、桃子の口から嬌声が洩れる。小さめのサイズのバスト
は、丸っこい掌にすっぽりと包まれ、つきたてのお餅みたいに変形している。
「や、やめッ・・・はな・・・せッ! この変態ッッ!!」
「実にいい柔らかさですよ、桜宮桃子くん。前にも触らせてもらいましたが、今度は本気で楽し
ませてもらいますよ。ふふふ、聖愛学院と藤村女学園、ふたつの学校のナンバー1美少女をこ の手で堕とせるとは・・・今日は最高の日となりそうです」
揉みしだく手に吊り上げられ、桃子は強制的に立たされる。乳房を包むピンク色の電流は、
少女を脱力させ、反攻の意志を奪い取っていた。胸への刺激が、下半身にまで響いてくる。ガ クガクと膝を揺らしながら、桃子はなすがままに立ち上がる。
その瞬間―――
ゾクリ。
圧倒的な悪寒が桃子の背を斬りつける。
異形の者に魅入られてるような感覚。それは恐怖というより絶望に近い。急激に温度が下が
った気がして、桃子の白い肌が泡立つ。無意識に少女はぶるると身体を震わせた。
「ヒ・・・ヒトキ・・・」
「調子に乗りやがって・・・貴様も里美と同様の目に遭わせてくれる。オレに服従を誓うまでな」
腹部を血で染め、胸への愛撫に喘ぐ少女の前に、久慈仁紀は立っていた。なにもなかったよ
うに、悠然と立つ姿は、色気すら感じさせるしなやかさがあった。常人なら失神は免れない勢い で、壁に叩きつけられた彼であったが、『エデン』と融合した者の耐久力を桃子は知らない。薄 い唇の端から一筋の朱線を垂らし、復讐に燃える青い眼光を、裏切りの少女に見下ろしてい る。
「田所センセ、この女、犯してやってください。二度と歯向かうことがないように、ね」
咽かえる青臭い臭気と、身体中を襲う鈍痛とに、桜宮桃子は目を覚ました。
何度失神と蘇生を繰り返したか、わからない。覚醒するたびに、新たな地獄が少女を待って
いた。
だが、最後に目覚めたとき、桃子を迎えたのは、静寂と人気のない暗い世界だった。
背中を冷たいコンクリートの感覚が走る。ぼんやりと室内を照らしているのは、部屋の真ん中
に吊られた裸電球。弱い光源は、灰色の世界をより寒々しく感じさせる。視界の隅に映る鉄格 子が、己が監禁されていることを教える。
映画などで見る、拘置所の檻。まさしくあれに、桃子は閉じ込められていた。8畳ほどのスペ
ースのほぼ中央に、少女は大の字で仰向けになっていた。
身体中がベトついている。不快な感覚と、鼻腔を刺激する生臭さが、嫌でも先程までの悪夢
を思い起こさせる。広げた股間に吹きつける風が、やけに涼しく感じられる。
下腹部をジンジンと疼く痛みは、鉛を詰められたように重かった。その一方で、確かに感じる
開放感。数時間前にはねっとりとした血を、大量に吐き出していたそこは、いまは処女喪失の 黒い跡を残すだけである。
不意に、ややキツメに見られる瞳から、透明な雫が流れる。
重力に引かれ、眼尻から下に落下していく涙は、とめどなく溢れ続けた。
悔しくて、涙をこらえようとすればするほど、嗚咽が大きくなっていく。
「気がついた?」
琴を奏でるような、落ち着きのある声が響く。桃子は檻にもうひとりの住人がいることに気付
いた。
ゆっくりと身体を起こす。明るい部屋で見れば、痣だらけであろう白い肌が、熱い痛みにキシ
キシと泣く。思わずしかめた顔を、声がする方へと向けると、暗い部屋に美しい曲線を描いた シルエットが浮ぶ。
あの、ファントムガールの少女だった。
桃子同様、床に寝ている彼女だが、大きく異なる点があった。その華奢な手首・足首と、首に
は重々しい鋼鉄の枷が嵌められ、それぞれが巨大な鉄球に頑丈そうな鎖で繋がれている。ま るでアフリカ象でも捕まえたような、厳重な拘束。どんな怪物でも逃げられそうにない、圧倒的 質量の拘束を、哀愁さえ帯びた優雅な少女が受けている様は、悲しみを越えた切なさを覚えさ せる。
「大丈夫?」
瀕死だった少女闘士の声は、表面上平然と聞こえた。まるであの苛烈な拷問がなかったよう
に。だが、闇に慣れてきた桃子のレンズが捉えたその姿は、生気を吸い取られた、やつれ果 てたものであった。
いくら時間が経っているといえ、光の戦士の正体といえ、あれだけの陵辱を受けて、平気な
わけがない。繕ってみせているのは、桃子を心配させないためであるのは、明白であった。
「あたしは・・・平気です。それより・・・大丈夫ですか?」
今時の女子高生を代表するような容姿の桃子だが、その性格は意外なまでに真面目といっ
ていい。礼儀などに詳しくはないが、それでも里美への敬語は、自然な形で出ていた。
「私のことは気にしなくていいのよ」
「でも・・・あたしよりずっとメチャメチャにされてたじゃないですか」
「私は、いつかこうなることを覚悟していたから。私のことは聞いてるんでしょう?」
「・・・本名は知らないです」
「里美よ。五十嵐里美。あなたは?」
「桜宮桃子です。藤村の2年生」
「なら、私のひとつ下ね。桃子って呼んでいいかな?」
「もちろん」
壮絶な拷問を受けた者たちの会話とは思えないやり取りが続く。言葉を交わしながら、その
心も交流していくのを、乾いた空気の中でふたりは実感していた。
「桃子は・・・超能力者なのね?」
おおよそ現実離れした台詞を、里美はあっさりと口にしていた。実際に桃子の力の洗礼を浴
びていることと、里美自身が異能者であることが、常人には信じがたい事実をすんなりと受け 入れさせたのだろう。それは秘密を守る立場の桃子にも言えた。普通の人間には絶対に知ら れてならない秘密だが、相手が里美であるならば話は変わる。秘密を知られるという、あって はならない現実を、桃子はきちんと受け止めていた。
「うん。それで仲間になれってあいつらに誘われたんだけど・・・裏切ったから、こんな目になっ
たんです。でも、後悔はしてないよ」
桃子の目には強い光が浮んでいるのが、里美にはわかった。見た目、ごく今時の女子高生
といった少女の内面には、太い芯が埋まっているのは、言葉の端端から感じられた。
「ごめんなさい。私にもっと力があれば、あなたをこんな辛い目に遭わせずにすんだのに・・・」
「そんな、これはあたし自身のせいですよ。ヒトキを裏切っちゃったから・・・罰が当たったんで
す。でも、どうしてもあの時はヒトキのやることに納得できなかった。あたしが自分で選んだんだ から、こうなってもいいんです」
桃子の言葉には力があった。
だが、それを聞く里美は、暗い気分になることを抑えられなかった。
なぜなら、桃子はまだ、久慈仁紀を愛しているから。
それがわかるから、辛かった。
桃子は純粋に、久慈を裏切ったから罰を受けたと思っている。それを恋人を裏切った、当然
の報いだと捉えている。
しかし、恐らくそれは間違っている。
久慈は桃子のことを、彼女だなどとは思っていまい。「超能力」という、強大な力を持った道具
ぐらいにしか考えていないだろう。彼氏という立場になったのは、どこかで孤独感から逃れられ なかった桃子を欺くためだ。そのまま従順な下僕になると思われていた桃子が、予想外に反抗 したため、今度は力づくで屈服させて服従させようとしているのだ。強力なミュータントを誕生さ せるために。
だが、その考えがまず確実に当たっているとしても、この少女を前にそんなことが言えるだろ
うか? 恋人はあなたを愛してなどいない、と。ただ、利用するため近寄っただけだ、と。
桃子の幸福を思うなら、今、真実を語るべきだとわかってはいても、里美にその勇気はなか
った。
ただ、あれほどの酷い仕置きをした人物が、本当に自分を愛しているのか、どうか。桃子に
冷静に判断してもらうのを期待するしかなかった。
それほど、久慈の桃子への“粛清”は苛烈を極めた。
教師田所と、ちゆり、そして久慈の3人で、徹底的に桃子の瑞々しい肉体を貪り尽くした。
薄れゆく意識で里美が見た光景は、エサに群がる野犬を思わせた。
破壊するようにありとあらゆる桃子の部位を撫で回す。揉みしだく。舐めあげる。
さすがに薬は使わない。普通の人である桃子には耐えられないからだ。
狂ったように暴れる少女を、変態中年の男根が貫く。
久慈は敢えて桃子の処女を、自分では奪わなかった。醜い中年男にさせることで、裏切り者
の精神を粉砕する。
泣き喚く桃子の膣内で、メリメリと乾いた音が響く。
仰向けに寝たハゲ男に跨った少女を、久慈とちゆりは両肩を押さえて無理矢理に身体を沈
ませる。
破瓜の痛みと強姦される悲痛とで、大きく開けられた桃子の口から絶叫が迸った。
片倉響子は壁際にもたれ、つまらなそうに貫通式を眺めていた。
3人がかりのピストン運動を、白目を剥くまで強制的に続けられた桃子は、脂ぎった中年男
のパトスを合計五回膣内に放射された。接合部からは、白い汚液と赤黒い血が混ざって溢れ 出た。
半失神の少女は、床に転がされて、恋人と女豹から蹴られまくった。死なない程度に苦しめ
る蹴り方を、ふたりはよく熟知していた。
制服が真っ黒になるころに再び美少女は騎乗位の態勢をとらされた。中年教師の性欲は果
てることがなかった。泣きながら、桃子は犯された。
その口を、久慈の怒張が塞ぐ。悪魔の本性を剥き出しにした顔で、久慈は口での奉仕を強
制させた。桃子が失敗するたびに殴りつけた。昂ぶりがピークに達すると、そのまま口内発射 するか、類稀な美貌に吹きつけた。
それを何度も何度も繰り返す。桃子が咽ようが、脱力しようが構わず、道具のようにその顔
を前後させる。
暇を弄ぶように、背後から迫ったちゆりは、桃子のなだらかな稜線の頂点についた突起をい
じくりまわす。
津波となって襲いかかる絶頂と苦痛に、初経験の少女の心は木の葉のように砕かれた。
やがて、桃子の全身は久慈の劣情の迸りで、真っ白に汚された。
心も身体も食い潰された少女は、ぐったりと白い池にその身を沈ませていった。
その後も、まるで塗り絵でもしているように、久慈と田所はまだ肌が露出している部分に、己
の精液を降りかけていく。
肉体的疲労と屈辱とに叩きのめされた少女を、久慈はトドメとばかりに正常位で貫く。あまり
に無惨に変わり果てたミス藤村を、「闇豹」の哄笑が包む。
「どうだ? オレに服従すると誓うか?」
白く汚れた少女は、ゆっくりと首を横に振るや、文字通り屈辱にまみれて意識を失っていっ
た。
(あれだけ酷い目に遭わされたというのに、このコはまだどこかで久慈を愛しているのね・・・
間違っているとわかっていても、久慈を憎むことができないでいる。そんな気持ちを利用するな んて・・・許せない、メフェレス!)
普通の少女なら、強姦といった概念すら越えた、久慈たちの暴虐に、気が触れていてもおか
しくはない。桃子の気丈な態度は、彼女の持つ精神的強さをよく物語っていた。時々見せる激 しい感情から、隠し持った気の強さが窺えるが、そんな彼女が自分を辱めた久慈に怒りを見せ ないのは、ただひとつの理由しか思い浮かばなかった。
今の桃子に、その愛を崩壊させる言葉を言うのは憚られた。
といってこのままでは、心底から屈するまで責めつづけられるだけだ。
真実を語るべきだ。だが、言ったところでどうなるというのか? 今の私には、桃子を助ける
力などないのだ。ただ彼女を傷つけるだけで、絶望的な状況は変わりはしない―――
「五十嵐サン・・・」
しばし黙り込み、考え込むように視線を落としていた桃子は、意を決して話しかけた。
「なに?」
「ここ、逃げましょう」
それはできるならば里美が口にしたい台詞だった。
だが、戦力分析と現状把握に長けた忍びの血を引く少女は、それがいかに不可能であるか
理解していた。
「そうね、桃子なら逃げられるかもしれないわね」
「なに言ってんですか、五十嵐サンも一緒にですよ」
「残念だけど、私は無理よ。この頑丈な鎖から逃れられないわ。それに、悔しいけどこの有り
様では、立つことすらできないと思う」
哀しげに里美は視線を揺らした。幼少より秘伝の忍術を修行してきた御庭番の血統者は、
当然縄抜けなども習得している。寧ろ、どちらかといえば得意な方だ。だが、四肢と首に架せら れた拘束は堅固であり、体力は根こそぎ奪われていた。たとえ戒めから脱したとしても、拷問 を受けつづけた身体では、満足に歩くことさえできないだろう。元々、里美を厳重に縛り、檻に 閉じ込めたのは、逃げられないようにするためではない。絶望を味あわせ、惨めな姿を見て、 楽しむためなのだ。
檻の中では自由に動ける桃子は、ふらりと立ちあがると、大の字の里美の傍らに近付く。足
取りはどこかふらついているが、それは疲労による類のもので、しばらくすれば元通りになると 推測できる。
ペタンといわゆる女の子座りをした桃子は、里美の右の手枷を両手で包む。細く整えた眉に
皺が寄る。眺める里美にも、桃子の集中力は伝わってきた。
カチャリ、という音を残して、鋼鉄の輪が手首から離れたのは、わずか数秒あとのことだっ
た。
「あたしの力、見直しました?」
白い前歯を覗かせて、桃子は女子高生らしい、無邪気な笑顔を見せた。
侵略者たちの根城とはいえ、その建物はあくまで普通のビルの範疇を越えてはいなかった。
ハイテクの監視システムがあるわけでもなく、罠が張り巡らされてるわけでもない。灰色の壁
と部屋ばかり続く地下は、寧ろ粗末というか、簡易なつくりといえた。久慈からしてみれば、情 報がもれないような空間さえあればよかったのだろう。機械などに頼らなくても、自分の腕ひと つでどうにでもできる。生け捕った虜囚を監禁しておくには、あまりに無用心といえる建物から は、そんな自信が感じ取れる。
しかし、その自信は、いまや完全に裏目に出てしまっていた。
部屋数と地下の深さこそ多いものの、決して厳重に監視されているわけではない地下を、五
十嵐里美と桜宮桃子は、順調に駆け登ってきていた。
衰弱しきった里美に、桃子が肩を貸す格好。それは脱出には実に不具合な状況であるはず
だが、傷付いた美少女ふたりは、苦しみながらも地上まであと一階というところにまで迫ってい た。
いくつかの好都合があった。最大の要因は、敵が油断しきっていること。
ボロボロに蹂躙し尽くしたふたりの少女が、まさか逃げ出すとは思いもしていない久慈は、監
視役すら置いていなかったのだ。いくら豊富な体力を誇るとはいえ、あれだけの精を放出した 男たちは、いまごろ熟睡していることだろう。
監視カメラもない地下室を逃げるには、わずか数人の敵にさえ見つからなければよい。以前
マフィア組織のアジトに潜入したことがある里美は、5m置きに配備された兵隊たちの、監視の 網を掻い潜るのに苦労した記憶がある。敵ひとりひとりの実力は比べ物にならないが、久慈た ちがある意味少数精鋭であることは、この脱出を有利にしていた。
荒い息が、美少女ふたりから洩れ出る。
161cmの里美は小柄な部類に入るが、それでも153cmの桃子よりは大きい。肩を貸す桃
子の負担は予想以上だった。まして物音をたてられない緊張感と、いつバレルかも知れない緊 迫感。もし、失敗したら、今度はどんな地獄が待っているというのか。あの陵辱地獄より辛い煉 獄なんて――。押し寄せる重圧は、小さな美少女から体力を倍化して奪っていく。
一方の里美も限界は近かった。
随分桃子に助けられてるとはいえ、その肉体はあまりに傷つきすぎていた。足を進めるたび
に、命を削られる感覚。度重なる拷問の過酷さが、身にしみて少女戦士に圧し掛かる。
視界の先に階段がある。
あと15・・・いや、10m。
少し敷地面積のあるエレベーターホールを通り抜ければ、そこに辿りつく。あとはそこを駆け
上がれば、地上に出られる。エレベーターを使う手もあるが、密室に閉じ込められるのはあま りに危険といえた。なにより敵に出会う公算が高くなる。
ふたりは美しい瞳を互いに見合わせた。
ここ。
ここを抜ければ、無事に逃げられる。
地上にさえ出てしまえば、政府の監視衛星と捜索中の特殊部隊に発見してもらえる可能性が
ぐっと高くなる。厳戒態勢中とはいえ、通りすがる人もいないわけではないだろう。
あと、この10mを乗り切り、階段にまで辿りつけば、この逃走は90%以上、成功したような
ものだ。
コクリと頷くふたりの美少女。
自由への第一歩を踏み出す。
衰弱した身体では、ずるずると引き摺るように歩くことしかできない。今まで同様、ゆっくりと、
されど確実に歩を進めていく。
残り8・・・7・・・・
ハア、ハアと息を切らしながら、泥に汚れた制服姿がホールの中央にまで進む。
異変が起こった。
2台あるうちのエレベーターが一機、動き始めたのだ。
地下6階にあるものが、上へ――。この地下一階に近付いてくる。
電流のような緊迫感が、里美と桃子を襲う。
点滅する表示が、エレベーターの箱が何階にあるかを教える。4階。3階。歩みを早めたふ
たりの足が止まる。もし、この階に止まるなら、もう間に合わない。残り5mを渡りきるより早く、 エレベーターが到着するだろう。ふたりの鼓動がホールに響き渡る。
止まった。
エレベーターは地下3階で止まった。
ふぅ〜〜、という長く大きな溜め息は、ふたつの潤った唇から同時に洩れた。
少し微笑みあったふたりが再び歩き始める。が。
エレベーターが、再度上昇する。
今度は、2台同時に。
階数を示す3の明かりが、消える。
代わりに2がつく。黄色の明かり。しばらく2が点灯続ける。
“そのまま2で止まれ――”
祈りも虚しく、2が、消えた。
来る。
確実に敵を乗せたエレベーターが来る。ここに。2台。
もしかすると、そのまま素通りするかもしれない。
だが。
「桃子は右を」
囁いた里美は、その左手を口元に寄せる。
隠し武器は全て奪われていたが、ただひとつ、見つからなかった最後の武器。咽喉の奥に隠
した細長い針を、筋肉の動きで吐き出し左手に持つ。
手裏剣代わりのそれは、あまりに頼りない武器。しかし、今の里美に残されたのは、その細
い針の一撃に賭けることしかない。
桃子の集中力が高まっていく。元仲間であろうと、迎撃するだけの決意をすでに少女はつけ
ていた。エレベーターの扉が開いたら・・・その瞬間に全力で念動力を叩きつける。壮絶に痛ぶ ってくれた元仲間たちへの、決別の思いを胸に力を溜める。
1に黄色が点灯する。
扉が開くか、開かないか―――
開かずに通過すれば良し、開けば・・・攻撃。
高まる一瞬。開くか、開かないか―――
「こんな時間に、どこへお出かけかな?」
声は、階段の方からした。
恐怖といっていい衝撃に不意を突かれた桃子のサイコエネルギーが霧散する。
「メフェレス!」
里美に残された唯一の希望の針が、高速で階段に現れたヤサ男に放たれる。
キン、という澄んだ音を残して、針は久慈仁紀の手にした真剣に弾かれた。
ゴーという扉が開く音。
すでに攻撃方法を失った脱走者の前に、悠々といった足取りで、右のエレベーターから神崎
ちゆり、左から田所教師が降りてくる。
真っ青になった顔を、桃子は背後の、元来た通路へと向けた。
カツン、カツンと高らかにヒールを響かせ、赤いスーツ姿の片倉響子が現れた。その後方に
は黒ずくめのフードに身を包んだ、黒魔術師の姿も見える。
完全なる包囲。
そして、絶望―――
ふたりの美少女の中で、なにかがガラガラと崩れていく。
“おわっ・・・・・・た・・・・・・・”
「万が一に備えて、マリーに結界を張ってもらっておいて良かったぜ。しかし、まさか本当に逃
げ出そうとはな・・・」
久慈の口調は淡々と聞こえた。その顔には、まるで表情がない。
戦慄。
強烈な悪寒が、里美の脊髄を走る。
その口調を初めて聞いた里美は、青銅の魔人メフェレスが、ファントムガール・ユリアを惨殺
した時と同じ種類のものであると、気付くことはなかった。ただ、研ぎ澄まされた忍びのカンが、 危険を察知する。
「どうしてもオレに歯向かうつもりのようだな、桃子。ならば・・・」
もはや立つことすらできないはずの里美が、両手を広げて桃子の前に立ち塞がる。
すでに桃子の盾としての役目さえ果たせない里美にとって、その行為は全くの無駄であった。
この状況下で里美にできるのは、死を待つことのみ。それでも桃子を守りたい、守護者として の本能が里美を立ちあがらせたのだ。
「五十嵐サン!」
「ごめ・・んね・・・守れなくて・・・・・・せめて・・・私が先に・・・・・・・」
5人の悪魔の包囲網が縮まる。決定的な死が、今、ふたりの少女を包もうとしている。
突然、里美は背後から桃子に抱き締められた。
一緒に死のうとでも言うのか? いや、違う!
触れている里美にまで伝わってくる、急激で圧倒的なサイコパワーの上昇。桃子が、その全
能力を全開にして、なにかをしようとしている!
「五十嵐サン・・・・・・逃げてッッッ!!!」
桃子は超能力者といっても、あらゆる超能力が使えるわけではない。基本的には念動力。モ
ノを動かす力と、少々の透視ができる程度だ。予知能力や精神感応、テレパシーなどは一切 できない。
だが、桃子が恐らくできるはずと考えていて、いまだ一度も成功したことがない超能力がひと
つ―――
“せめて・・・この人、ファントムガールだけは助けなきゃ!!”
「テレポーテーション!!」
物質転送能力。
空間の壁を乗り越えて、物質を彼方へと送り込む超能力。密かに練習していたその大技を、
桃子はこの窮地で解放したのだ。
「な・・・なんだとッッ?!」
眩い光が地下のホールを照らす、ように見えた。
空間が爆発する感覚が広がるや、次の瞬間、桃子に抱き締められていた里美は、跡形もな
く消失していた。
「や・・・ッた・・・」
満足げな笑顔が、崩れ倒れていく桃子に浮ぶ。華のように美しい少女の笑顔は、光り輝き眩
しかった。
ブシュウウウッッッ!!!
肉が貫かれる音。
桃子は倒れることを許されなかった。
久慈仁紀の白刃は、つい数時間前まで彼女だった少女の腹部を容赦なく貫通していた。
ゴポリ。少し厚めの艶やかな唇から、真っ赤な血塊がこぼれ出る。
「ヒ・・・ヒト・・・・キ・・・・・・」
「やってくれたな。ここまでオレの邪魔をするとは・・・殺しても殺し足らんメスめ」
赤い唇がパクパクと開閉する。
血で染まった手を、震えながら桃子は久慈の顔へと伸ばしていく。
「う、嘘・・・嘘でしょ・・・ヒトキ・・・・・・・・」
「少々顔が整ってるからと、調子に乗るな、乳臭い小娘が。貴様ごときがこのオレに相応しい
わけなかろうが。超能力などと便利なものを持っているので飼ってやろうと思ったが、ここまで 反抗するならば、もう要らぬ。用無しは処理するまでだ」
ギュルリと久慈が刀をひねる。
鮮血が噴き出し、桃子の女の子らしい曲線が、ビクンと仰け反る。
「少しの間でも、オレの彼女になれて幸せだっただろう? なかなかヤらせてくれないんで、オ
レとしてはつまらなかったがな。嘘でもオレの恋人になれたんだ、満足して死んでいくんだな」
ボロボロと大粒の涙が白い頬を流れ落ちる。
彼氏であった男の本音を聞き、騙された自分への怒りと悲しみがこみ上げる。なんて・・・なん
てバカなんだろ、あたし。悔しさに桃子の涙は止まらなかった。
「ゆ・・・ゆるせ・・・・・・ない・・・・・・・」
震える両手を久慈に翳す。残った命の灯火を、全てサイコパワーに変えて、憎き元恋人へと
放たんとする。
「バカが」
吐き捨てるように言い放った久慈は、凶刃を右へ左へ90度づつ回転させる。
「うあああああああああッッッ――――ッッッ!!!!」
日本刀が柔らかい腹部から引き抜かれる。
噴出音とともに、激しく噴き出す鮮血の霧。
朱に染まった少女はゆっくりと前のめりに倒れ、自らが作った血の池へと沈む。
ドクドクと腹と背から血を流しながら、痙攣続ける瀕死の少女。その白い肌は、血の気を失い
蒼白になっていく。
もはや確実な死が待っているとしか思えぬ状況の中、制服を真っ赤に染めた少女は己の血
の海でもがき、這いずる。ゴミを見る目で冷たく見下ろす、元彼氏に向かって。久慈が唾を吐 く。ビチャリと音をたて、ふっくらとした頬にそれは当たった。
「くや・・・しい・・・・・ヒト・・・キ・・・ゆるさ・・・・ない・・・・・・」
「フン」
うつ伏せ状態で抵抗できない桃子の身体を、久慈は茶髪を踏みにじって固定する。ゴツ、と
硬い音が響いて、桃子はコンクリートにキスをする。夏服のシャツを掴んで捲り上げると、桃子 の染みひとつないもち肌の背中が露になる。
久慈の刀が数度振られる。
ピクピクと痙攣する背中には『ウジ虫』という血文字が刻まれた。
「わははははは! お似合いだな、ウジ虫女め! そのまま這いつくばって死んでいくがい
い」
踵を返した久慈は階段へと向かう。合図をして彼の仲間なる者たちを集結させた。
「いくぞ。テレポートなどといっても、そう遠くには飛ばせまい。まだ五十嵐里美は近くにいるは
ずだ」
「でも、政府の人間が血眼になって探しているはずよ。先に回収される可能性は高いわ」
片倉響子の冷静な判断に、しばし考えた久慈は結論を出した。
「そうなれば、戦争を仕掛ける。ファントムガールが復活する前に、ナナを殺すのだ」
淡々と話した久慈は、仲間たちを次々と階段から地上へと送り出す。と同時に、地下室中の
電気が消されていく。全員を外に出してから、ようやく振り返った久慈は、血溜まりに転がる少 女に、階段上から言い放った。
「貴様にはトドメは刺さん。そのまま死ね。血を垂らしながら、苦しみ悶えて少しづつ死んでい
くがいい。暗闇の中、誰にも知られずひとり寂しくな! 役に立たんウジ虫には、お似合いの死 に様だな、あははははは!」
嘲笑が動けぬ少女へと降りかかる。
もはや興味すらなさそうな久慈が消えたあと、しばらくして重々しい扉が閉じる音が響く。
真っ暗闇となった閉鎖された空間で、死に逝く少女の呻き声と荒い吐息、そして鮮血の噴き
出る音のみが、痛切に流れていった。
孤独の中で、もはや自分が助からないことを悟った桜宮桃子は、ひとりの男の顔を思い返し
ながら、その心と肉体が滅びるのを受け入れていった。
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