秘 密 結 社 驚 愕 団
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- GALLARY / EPISODE 1
- 光の戦乙女 -


Act1
新たなる驚異
度重なる宇宙人からの侵略も絶えて5年、地球は新たな世紀を迎え、人類は人口増加や環境問題等、新たな困難に直面していた。
そんなある日、地球に宇宙の彼方より1個の隕石が飛来した。
宇宙ステーションは宇宙からの侵略者から地球を守る、防衛の最前線基地である。
ラグランジュ・ポイントに配置されたステーションは全部で4つ、それぞれが概ね50名程度の防衛隊員で運営されている。宇宙ステーションV1もそのひとつである。
「隊長、小規模の隕石が地球落下軌道に入ります。大きさは2メートル程度と推定されます。」
「今週に入って2度目だな。大気の摩擦熱で消滅するとは思うが、一応地上の各基地に連絡しておけ」
星原 絵里はTAMAサテライトシティにある聖マリア病院に勤める、22歳になる新米看護婦である。10年前に宇宙人の攻撃で両親を失い、以来妹と2人だけの生活を送っている。
「姉貴!ここだよ!!」
大きな声で絵里を呼び止めたのは、絵里の4つ違いの妹、星原 亜里沙。同じサテライトシティにある高校に通っている。
今日は亜里沙の18歳の誕生日であり、姉妹で誕生祝いをすることになっていた。
「この店さあ、すっごく美味しいらしいって評判なんだ。一度入ってみたかったんだよねー」
「食いしん坊のあなたがまだ来てないなんて、珍しいこともあるのね」
「ランチが3000円もする店に、高校生が入れる訳ないじゃん」
その頃、サテライトシティの北方の山地に、1機の円盤が出現していた。
「準備ハ整ッタノカ、同志クール?」
「勿論デス、同志メフィラス。手始メニ地球人ノ小都市ヲ壊滅サセテ我々ノ力ヲ地球人ニ思イ知ラセテヤリマス」
「注意シロ、コチラノ情報デハM78星雲カラ何者カガ地球ニ向カッタラシイ」
「心配ハ御無用。現レタラ一緒ニ葬ッテヤリマス」
「メフィラスメ、上官風ヲ吹カセオッテ!今ニ見テロ、地球ヲ征服シテ、御前ノ地位ヲ奪ッテヤル……。サア、ネロンガ、地球人共ヲ潰シテシマエ!!」
地面が大きく揺れ動き、サテライトシティのすぐ外側の地面がむくむくと盛り上がった。突如出現した怪獣の姿は、人々に過去に味わった恐怖を思い出させた。
ここは地球防衛軍の新極東基地。軍備拡張によりそれまでの基地が手狭になった為、新たに建設された。
地上及び地下に施設を持ち、常時500名を越す防衛隊員が宇宙からの侵略に備えている。そしてその中でも対宇宙人、対怪獣戦闘を専門とする精鋭チームが、特別警備隊である。
警備隊隊長カタギリは2人の隊員を前に、端的に指示を与えた。
「TAMAシティに怪獣が出現した。カトウはファルコンで出撃。ミズキは俺と一緒にジャイロで支援する」
「了解!」
極東基地には複数のファルコンと呼ばれる戦闘機が配備されている。
対怪獣用に開発された単座の小型戦闘機で、航続距離はそれほど長くないが、低空での速度と機動性に優れた機体である。
その頃TAMAシティでは地区防衛隊が必死の防戦に努めていた。しかし怪獣は防衛隊の砲火などものともせず、シティに接近してくる。
「こちら地区防衛隊指揮官、怪獣が市内に侵入した!警備隊はまだか?我々の火力では食い止められない!」
「こちらカトウ。怪獣は既に市内に侵入。このまま攻撃を続けると退避中の市民に被害が出ます!」
「カタギリよりカトウへ。威嚇だけにして攻撃はするな。市民が退避する時間を稼げ」
「ミズキ、俺達は着陸して市民の退避を援護だ」
「君は市の南側で避難民を誘導しろ。俺は北側で怪獣の足止めをする」
「気をつけてください、隊長」
「うむ。建物の破壊は気にせず、市民の生命だけを守れ」
「了解!」
「どうしてこんな時に怪獣なんか…。亜里沙、あなた何してるの?!」
「いやさ…高いお金払って何も食べなかったなんて後悔するじゃん」
「まだ料金払ってないわよ…ったく、なんて子なの…」
繁華街を抜けて住宅街に入った姉妹の前に、道路に倒れている婦人の姿があった。
「大丈夫ですか、お怪我は?」
看護婦の絵里は無意識に婦人の脈を取った。
「足を挫いてしまって。このマンションの17階に子供が…」
「私が連れて来ます。お部屋の番号は?」
「1721です。どうかお願いします…」
絵里は頷くと立ち上がってマンションの玄関を見やった。
「亜里沙、この人をお願い」
「ちょっと姉貴、危ないよ!もう怪獣近くまで来てるんだよ」
市街で暴れる怪獣の前に、巨大な光が出現した。未知のものに対する警戒感からか、怪獣はその歩を止めた。
「こんな所にいたのね」
エレベータを降りた絵里は、ホールの片隅でうずくまっている女の子を見つけた。
「さ、行きましょう。下でお母さんが待ってるわ」
怪獣は前を遮る見慣れぬ光球に対し、遂にその怒りを露わにした。頭部の角が動いたかと思うと、眩い光線を発射した。光線は光球を通り抜け、背後の建物を轟音と共に破壊した。
マンション全体が大きく振れたかと思うと、天井の一部が絵里達の頭上に落下した。絵里は子供を庇うようにして、埃で見通しが利かなくなったホールを進む。
ようやくエレベータにたどり着いた絵里だったが、何度ボタンを押してもエレベータは一向に来る気配が無い。
「だめだわ、停電したみたい。階段でおりましょう」
絵里は子供の手を取ると、非常口に向かった。
「大丈夫、すぐお母さんに会えるからね」
怯えて歩こうとしない子供を抱きかかえた絵里は、よろめきながら非常階段を降り行った。
小さな子供とはいえその体重は、次第に絵里の腕をしびれさせる。絵里は歯を食い縛って階段を下っていった。
「こんな所で何をしてるんだ!民間人はすぐに退避しろ!」
「あ、警備隊の人!まだこの建物の中に姉と子供がいるんです。助けてあげて!」
「なに?まだ2人も残っているだと?」
驚いたカタギリは、すぐにマンションの玄関に走り寄った。
光線の効果がなかったことで、怪獣は更に猛り狂った。身を屈めた怪獣は、次の瞬間、光球目掛けて飛びかかった。
だが光球に触れるや否や、怪獣の巨体は1回転して後方の建物に激突した。物凄い轟音と共に、建物の一部が崩れ落ちる。
起き上がった怪獣は身動きを止め、次第にその姿が薄れて行く。その時光球から眩い光の束が怪獣目掛けて発射された。
だがその光束は消え行く怪獣の身体を通り抜け、背後の建物を大爆発と共に破壊した。
「ふう、もう大丈夫だわ」
ようやく地上階に辿り着いた絵里は、抱いていた子供を降ろした。その時轟音と共に、天井から巨大なコンクリートの塊が降り注いだ。
「危ない!」
咄嗟に子供に覆いかぶさった絵里だったが、その後頭部を大きな石塊が襲った。
「おねえちゃん、おねえちゃん!」
怯えきった子供の声が、次第に遠くなってゆく絵里の意識のなかで木霊した。
「遅かったか!」
地上の非常口をこじ開けてなんとか建物内に入ったカタギリの前に、建材の下敷きとなった絵里の姿があった。傍らでは幼い子供が泣きじゃくっている。
「こちらはカタギリ。WWWマンションで民間人1名が負傷、崩れた建物の下敷きになっている。すぐに救急隊に連絡してレスキュー隊を寄越すように言うんだ」
Act2
光の使者
カタギリは時計に目をやった。もう何回目になるか判らない。絵里が病院に運ばれてからもう3時間が経過していた。
病院は負傷者で溢れており、軽症患者の中には廊下で治療を受けている者さえいた。傍らでは亜里沙が、じっと顔を伏せたまま床を見つめている。
ようやく手術室のランプが消え、執刀医が扉から姿を現した。カタギリは素早く歩み寄って、立ち去ろうとする医師に声をかけた。
「先生?……」
「お気の毒ですが、手遅れでした。心肺機能が停止してから1時間程蘇生を試みたのですが…」
「そうですか…いや、ありがとうございました」
カタギリの背後で、亜里沙が声を上げて泣き始めた。
「本当に残念だった。厳しいとは思うが、一日も早く気持ちを切り替えて生きて欲しい。姉さんもきっとそう望んでいると思う…」
泣く亜里沙を前にして、カタギリが言えることはそれだけであった。
「ミズキ、君は亜里沙君を家まで送ってくれ。俺は基地に戻る」
「さ、もうお別れは済んだでしょう?いきましょう」
いつまでも姉の髪をなで続ける亜里沙に、ミズキは声を掛けた。ひんやりとした死体安置室には、怪獣の犠牲者達の骸が並べられていた。
「被害者救済センターの方には、私から連絡しておくわ。生活費とか学校関係の手続きとかはそっちでやってくれるから心配しないで」
ミズキ自身も父親を亡くしていたので、天涯孤独となった亜里沙の気持ちは理解できた。
1時間後、暗い表情したミズキが、基地のオペレーションルームに入って来た。コンソールから顔を上げたカタギリは、肩を落としたミズキに声をかける。
「ご苦労。どうだった、あの娘さんの様子は?」
「とっても辛そうで…私もなんて励ましたらいいか判らなくて…」
「無理も無いさ。たった一人の肉親を失ったんだからな」
2人の視線は床に落ちていた。
「だがまあ、家族を亡くしたのはあの娘さんだけじゃない。なんとか乗り越えられるように祈ろう」
「隊長、司令から緊急指令です。警備隊員全員、司令室に出頭せよとのことです」
「司令室に?」
思わず聞き返したカタギリに向かって、通信士のメグが肩をすぼめてみせた。
司令室にはクロキ司令官だけでなく、防衛軍参謀本部のワタヌキ大佐が待っていた。カタギリは嫌な予感を覚えた。
「来たか。実はクール星人と名乗る宇宙人から通信が入っている。直接司令の私と話したいそうだ。ま、脇で聞いててくれ」
「私ハクール星人。地球防衛軍極東基地ノ武装解除ト全面降伏ヲ要求スル」
「無茶な話だな。要求の根拠はなんだ?」
「我々カラ見レバ地球人類ナド、昆虫ミタイナモノダ。降伏ノ機会ヲ与エラレタダケデモ感謝シロ」
「断る!地球防衛軍は決して降伏などせん」
「あんたにだけは言われたくないわ!」
思わず激昂して口を挟んだミズキを、カタギリはそっと手で制した。
「後悔スルナヨ。次ハNEOTOKYOヲ大混乱サセテヤル。覚悟シテオケ」
通信が切れ、スクリーンが暗くなった。
「今聞いた通り、奴等は本気だ。カタギリ君、大至急ワタヌキ君と相談してすぐに対策を立ててくれたまえ」
「了解!」
「参謀本部の見解では、これは陽動作戦の一種だと見ている」
普段から渋い顔のワタヌキ参謀の表情が一層厳しくなった。
「NEOTOKYOは首都防衛隊がいて、防備も固い。そんな所にわざわざ襲撃予告するとは思えん。奴等の狙いは他にある。問題はそれが何処か、という事だ…」
「TAMAシティに出現した怪獣は、ネロンガです。過去のデータによると、ネロンガは身体を透明化する能力を持ち、
電気を主食としてるようです。ひょっとして電力施設を襲う気じゃないでしょうか」
「それは参謀本部でも検討した。だが送電施設を含めると、電力関連施設の数は数百もあるんだ、それらを全部防衛することなどできん」
「いや、待ってください。何だか読めてきました」
それまで沈黙していたカタギリが、軽く頭を揺らした。
「電力施設の数は多いが、そのひとつを潰したとしてもNEOTOKYOを混乱させることなどできません。ですが、たったひとつ、あの施設だけは……」
「そうか、敵の狙いは大浦原子力発電所だ。NEOTOKYOの電力の約半分はあの発電所から送られている!あそこからの送電が止まればNEOTOKYOは都市機能を失う…」
「よし、私はこれから防衛軍地上部隊と調整をする。敵に気付かれないよう、部隊の配置は秘密裏に行わせよう。現地での部隊指揮は貴官にお任せする」
ワタヌキ参謀は表情を明るくした。
「ところでカタギリ君、そろそろ参謀本部に戻る気はないかね?」
「その話はこの件が片付いてからにしましょう。では!」
オペレーションルームの雰囲気は瞬時に変わった。
「ミズキ、パトロール飛行中のタカハラを呼び戻せ。以後パトロールは中止して基地に待機だ。」
「了解」
「それからオーストラリア基地に行ってるカトウにも、任務終了次第すぐに基地に帰還するように伝えろ」
その頃TAMAシティ総合病院の地下安置室では異変が起ころうとしていた。絵里を安置したベッドの傍らに、眩い光の球が出現した。
光は次第に薄らぎ、やがて人間に似た姿形の存在と変化した。光が消え去った後には、銀と赤色の肌を持つ、長髪の女性の姿があった。
女性がゆっくりと右手を振ると、絵里を覆っていた布が音も無く床に落ちた。
「…絵里…勇敢な乙女よ、目を覚ますのです…」
その声は死の淵から絵里の意識を呼び戻した。
「私を呼ぶのは誰?…私は死んだの?」
「私はエリザ、あなた方がM78と呼ぶ星々から来ました。私の不注意であなたをこんな目に会わせてしまって、本当にごめんなさい…」
「謝られるようなことは記憶にないけど…そうだ亜里沙は…」
「大丈夫、妹さんは無事です。しかしこのままではあなたの肉体は死んでしまいます。それを避けるには、私があなたと同化するしかありません」
「…同化って?私の身体の中に入ること?」
「心配はいりません、ただあなたの精神と私の精神を融合させるだけです。私はこの星を守るためにやってきましたが、
私だけでは肉体を実体化できても維持することができません。その為に是非あなたの協力が必要なのです…。とまどう気持ちは判ります。けれど考えてみて下さい。
もし私がこの星を守らなければ、多くの子供達があなた達姉妹と同じ苦しみ、悲しみを味わうことになるのですよ…」
絵里の心の中に、幼い頃亜里沙と二人で両親の遺影の前で泣いた記憶が蘇った。絵里は決心した。
「わかったわ、協力します。もう不幸な子供達を見るのは嫌です……」
「ありがとう、気高い娘よ。あなたに私の魂と能力を預けます。私の力を呼び出したい時には、そのペンダントをお使いなさい…」
「では融合します。これからはあなたの意思は私の意志、私の心はあなたの心となります…」
エリザと名乗った女性体が胸の前で腕を合わせると、その身体は再び光に包まれた。
光はすこしづつ絵里の身体の方に移動し、元の光は次第に細くなっていった。やがて元の光は完全に消滅し、代わりに絵里の全身は光のオーラによって包まれた。
オーラは次第に薄れ、やがて完全に消え去った。と同時に絵里は閉じていた両瞼を開いた。薄暗い安置室の天井の照明が、まだ焦点の合わない絵里の目に写った。
「ここは…確か私は子供を助けようとして…」
絵里は混乱する思考を必死になって整理しようとした。
「さっきのは夢?…」
その時絵里は自分の胸に、見知らぬペンダントが下がっていることに気付いた。ペンダントは不思議な青い光を放っていた。
「…夢じゃない…さっきのは本当のことだったんだ…」
あまりの不可思議な出来事に、絵里の混乱はなかなか収まらなかった。
「あの人、この星を守るために来たって言ってた…。でもなんで私が?私はただの新米看護婦で、戦うなんてことできない…」
その時安置室の扉が開き、一人の看護婦が入ってきた。看護婦は手にしたリストに見入っていて、絵里のことは目に入っていない様子だった。
絵里は忙しそうにリストをめくる看護婦に近づいた。同じ看護婦の絵里には忙しくて手が回らないといった感じの看護婦に親近感を覚えた。
「あの…すいません。何か着る物を頂けませんか?」
驚いて腰をぬかした看護婦の表情が、絵里にはなんだかとても滑稽に思えた。
Act3
未知の力
「本当、ビックリしたよ〜。医者の先生だってご臨終です、なんて言うもんだからさあ、こっちが心臓止まりそうだったんだよ」
「もう、勝手に殺さないでよ。まだ生きてるんだから」
「でも退院なんかして大丈夫?もう少し入院してた方が…」
「患者で病院は溢れているのよ、健常者が入院してたら悪いでしょう」
「でもさ、本当によかった…生きてて…」
亜里沙は絵里の傍らに座り、姉の膝に手を置いた。うつむいたその頬に、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「絶対死んじゃ嫌だよ…私、ひとりぼっちになりたくないもん…」
幼い子供のように頬を寄せる妹を、絵里は優しく抱きかかえた。
「ごめんね、心配かけちゃって…安心して、私は絶対死なないわ…」
絵里の言葉に安心したのか、亜里沙は涙を拭いながら立ち上がった。
「今日は私がお昼つくるよ。姉さんは休んでいて…」
キッチンへ向かう妹の後姿を、絵里は微笑みながら見送った。
その時、絵里の心に、何者かの声が語りかけた。
「絵里、急ぐのです。皆が私達を必要としています…」
「その声は…エリザ?エリザなのね?」
「急げって言われても、一体どこへ…」
「大丈夫、私が案内します…」
絵里は声に導かれるままに、部屋を出た…。
エレベータで地下駐車場に降り立った絵里は、自分の車に歩み寄った。いつ取っていたのか、絵里の手には自動車の鍵が握られており、絵里は車に乗ると、エンジンを掛けた。
「姉貴〜、てんぷら作ろうと思うんだけど、粉は中力粉だっけ、薄力粉だったっけ?……って、姉貴どこよ?」
絵里は無意識に車を走らせていた。何処へ行くのか、目的地は一体どこなのか、絵里自身には全く判らなかった…。
「全部署異常ありません。定時報告、以上!」
「ご苦労様です」
ミズキは定時報告に来た通信兵に敬礼を返した。無線封鎖の為、緊急報告以外はこうして伝令に頼らざるを得ない。
「隊長、あれからもう2日、敵の狙いはやはりNEOTOKYOでは…」
「あせるな、敵の目標はここに間違いない。もしNEOTOKYOを襲うつもりならば、連絡してきた直後にやる筈だ、こっちが防備を固める前にな」
カタギリの視線は、発電所の入り口前面に広がる草地に注がれていた。
「それより、例のものは配置してあるな?」
「ええ、振動センサーを発電所の周囲に設置済みです。何か接近してくれば。センサーが必ず捕らえます…」
絵里の行く手に、検問所が設けられていた。警備員は防衛軍の迷彩服と、手にしている小銃で、すぐに警察の犯罪捜査ではないことが知れた。
絵里はブレーキを踏み、静止する将校の前で車を止めた。
「現在大浦発電所へ通じる道は、全て封鎖されてる。民間人は立ち入り禁止だ。ここでUターンして、迂回してくれ」
「…でも、私行かなければならないんです、どうしても…」
「言っただろう、民間人は入れないんだ!さあ、戻れ!!」
絵里はアクセルを踏みつけ、ハンドルを切った。激しい操作にタイヤが軋む。絵里の車は封鎖用の停止板を撥ね飛ばし、あっけにとられている将校の脇を走り抜けた。
「まて!馬鹿者!」
将校は見る見るうちに遠ざかる車に悪態を付いた。
その頃、防衛用ピケットラインに設置された振動センサーが、謎の振動をキャッチした。
プログラムされている、自然現象によるパターンではないと判断したセンサーは、すぐに緊急シグナルを発した。
「隊長!エリア2−4に異常振動をキャッチしました!」
「来たな。防衛軍砲兵隊、こちら指揮官カタギリ。エリア2−4に着色弾を撃て。1分間の弾幕射撃だ」
自走砲の砲身がせり上がり、発射角度を取った。鈍い発射音と共に、目標に特殊染料を散布する特殊弾が発射される。
砲撃はつるべ打ちに行われ、空に砲弾が飛翔して行く音が木霊した。
エリア2−4の上空に、花火のように砲弾が炸裂した。空中に飛散した特殊な染料は、細かな霧となって空を漂う。一瞬染料の霧に覆われた空に、やがて巨大な物体の輪郭が現れた。
透明化の偽装を破られたネロンガは、後ろ脚で立ち上がり、大きな咆哮をあげた。
「奴等、ココニモ先回リシテイタノカ。マア良イ、ネロンガ!昆虫共ヲ一匹残ラズ皆殺シニシロ!」
突然始まった砲撃の音に、絵里は車を道路脇の休憩所に入れた。急いで車を降りた絵里の目に、巨大な怪獣の姿が映った。
「…あれが、私の敵?…」
「さあ、絵里。変身するのです」
「変身って…一体どうするの?それに私、戦い方なんて知らない…」
「大丈夫、私を信じて…さあ、右手を高く天に掲げなさい…」
声に促されるように、絵里はおずおずと右手をを揚げた。その時無意識の内に、絵里は叫んでいた。
「エリザ・チェンジ!」
Act4
初めての闘い
閃光が消えた後には、実体化したエリザの姿があった。エリザは厳しい表情で、相対する怪獣を睨んだ。
ネロンガも怪獣の本性をむき出しにし、出現した新たな敵を威嚇するように咆哮した。エリザとネロンガは互いに相手の出方を伺うかのように、じりじりと円を描くように動いた。
「現レタナ、M78ノ廻シ者メ。ネロンガ!ソイツヲ叩キノメシテシマエ!」
ネロンガは角を振りたてて、エリザ目掛けて突進した。エリザは間一髪身をよじってこの一撃をかわすと、角を掴んでネロンガの顔にパンチを浴びせた。
だがこの鉄拳攻撃にもネロンガに怯む様子は無く、エリザはより得意とするキック攻撃に切り替えた。
さすがにキックが効いたのか、ネロンガは後ろ脚で立ち上がると、エリザに飛び掛った。4万トンを越す巨体の突進に、これを受け止めたエリザの足がズルズルと後方へ下がる。
しかし体重が自分の3倍以上もある巨体の圧力は、軽量のエリザでは堪え切れなかった。ネロンガにその巨体を預けられたエリザは、浴びせ倒されるように地面に押し倒された。
ネロンガの全体重をもろに受けたエリザの身体は、その重みに身体中の骨が悲鳴をあげた。
「このままでは…この体勢から抜け出さないと…」
エリザは必死にもがいたが、4万トンという重量がそれを許さない。
「あの巨人、どうやら女性のようだな…」
「ええ、確かに。でもあれじゃハンデがあり過ぎます」
ミズキは心配そうな顔で、怪獣と戦うエリザを見つめた。
噛み付こうとするネロンガの口を、エリザは必死になって押さえる。ネロンガが噛み付くために少し上体を浮かせたことで、エリザはようやく片足を引き抜くことができた。
自由になった足でエリザはネロンガの顔を蹴りつけた。身体能力的には男性戦士に劣るエリザだが、脚力だけはそれほど劣ってはいない。
数回キックを浴びせると、これを嫌がったネロンガは後方に身体をずらせた。
キックによってなんとかネロンガの体重から逃れたエリザだったが、その心は激しく動揺していた。
「訓練センターの怪獣とはまるっきり違う…これが実戦……」
エリザが立ち上がったその時、ネロンガの角が動くのが見えた。エリザは瞬時に前回の戦いを思い出した。
「電撃だわ!」
間一髪、エネルギー・シールドが間に合った。ネロンガの放った電撃はシールドに阻まれ、エリザの身体まで達しなかった。
「今度はこっちの番よ!レディ・フラッシュ!」
ネロンガの電撃攻撃に気持ちを煽られたエリザは、自身で最も威力のある、スペシウム光線を使う構えに入った。
しかし初めて実戦を体験するエリザは、興奮のあまり大切なことを忘れていた。
エリザは男性戦士のように、瞬時に光線技を使うだけのエネルギーを保持しておくことができなかった。
光線を放つ為には、全身のエネルギーを両手に集中し、いったん蓄積する必要があった。それには若干の時間を要する。だが訓練とは違い、敵は待ってはくれなかった。
突進するネロンガの角が、無防備なエリザを襲った。鋭い角がエリザの腹部をえぐり、エリザの身体は大きく宙を舞った。
自分の身体に加えられた衝撃に、エリザの意識が遠くなった。地面に落ちたエリザの身体がピクピクと痙攣する様が、被ったダメージの大きさを表していた。
動きの止まったエリザに、ネロンガがゆっくりと接近する。エリザは激痛に堪えながらなんとか上半身を起こしたものの、覆いかぶさってくるネロンガから逃げることはできなかった。
大きな口を開くと、ネロンガは勢いよくエリザの右肩に噛み付いた。鋭い牙が身体に容赦なく喰い込み、エリザは思わず苦痛の悲鳴をあげた。
エリザは何とかこの牙から逃れようと、左手でネロンガの顔を何度も叩く。しかしこの程度ではネロンガに攻撃をやめさせることはできない。
しかもせっかく蓄積したエネルギーが大気中に拡散して行き、エリザにとって生命線とも言える、貴重なエネルギーが虚しく失われた。
これにより、エリザが実体化していられる時間は大幅に減少してしまった。
「隊長!」
「うむ。防衛軍全隊に告ぐ。怪獣を攻撃して巨人を援護しろ!」
防衛隊の砲火はネロンガの背を捕らえるものの、ネロンガはエリザへの執拗な攻撃を止めない。先程の角による打撃と牙によるダメージの蓄積が、次第にエリザの体力を奪って行く。
もはや抵抗できなくなったエリザの胸に、赤い光が灯った。エネルギーが残り少なくなったことを告げる、危険信号である。
もしエネルギーが尽きてしまったら、エリザは身体を動かすことができなくなってしまうのだ。
その時上空にファルコン特有の、ロケットエンジンの轟音が響いた。
「正義の味方参上!って、でかい娘だなあ。よし、今助けてやるぜ!」
タカハラは素早くファルコンをバンクさせると、ネロンガ目掛けてミサイルを連続発射した。
対怪獣用ミサイルがネロンガの背中で爆発し、その威力にネロンガは口を開けて咆哮した。牙から解き放たれたエリザは、ガックリと崩れ落ちた。
鼻先を掠めるファルコンに、ネロンガは猛り狂った。後ろ脚で立つとファルコンを叩き落さんと、何度も前足で掴みかかる。
エリザはズキズキと痛む右肩を押さえ、なんとか立ち上がろうとした。
ようやく怪獣に向き直ったエリザだが、ネロンガもそれに気付いたらしく、その視線をエリザに向けた。
「…これが最後のチャンス、これで仕留めなければ…」
ダメージを受け、エネルギーも残り少ないエリザは、次の一撃で仕留めなければ、自分が敗北することを知っていた。
「スライサー!」
エリザはこの武器に賭けた。これで倒せなければ、自分が倒されるのだ。
エリザの手から放たれた光の輪は、ネロンガの首を襲い、これを切断した。ネロンガの頭はゆっくりとその胴体から離れ、地面に転がった。
続いて鈍い音と共に、ネロンガの巨体が地面に崩れ落ちた。
「…私…勝ったの?……」
だが勝利の歓びは無かった。動かなくなったネロンガの死体を見て、エリザの心に嫌悪感と寂しさがよぎった。
避けられなかったとはいえ、生けるものの生命を奪うことは、エリザにとって苦痛だった。
「隊長、あれを!」
「クール星人の円盤だ。タカハラ、絶対逃がすな!」
「クソ、一時撤退ダ!マタシテモ奴等ニ邪魔サレタカ。ダガ今度来ル時ハ必ズコノ借リヲ返スゾ!」
海上に逃れ、必死に遁走を図るクール星人の円盤に、早くもファルコンが高速で接近する。
「これでも喰らえ!クモ野郎!」
タカハラの指が発射ボタンを押すと、発射されたミサイルが円盤を捕らえた。円盤は大爆発を起こし、その破片が海面へと降り注いだ。
邪悪な意志が消え去るのを感じ取ったエリザは、身体中の力がいっぺんに抜けていくのを覚えた。
初めての戦闘に精魂を使い果たしたエリザは、意識が急速に遠のいていく。エリザの身体はゆっくりと地面に倒れた。
意識を失ったエリザの脳髄は、全細胞に対して実体化解除の信号を出した。光に包まれたエリザの姿は、次第に薄れ、消えていった……。
Act5
新隊員誕生
「隊長、自分はこれからでかい可愛い子ちゃんを捜します!」
「そんなことは誰も命じとらんぞ、さっさと基地に戻って待機しろ。我々も基地へ戻る…」
帰路についたカタギリ達の前方に、道路脇に伏せった女性の姿があった。「止めろ、負傷者かも知れん」カタギリはジープから飛び降りると、足早に女性に近づいた。
「この娘は!確か一昨日死んだ筈では…」
抱き起こした女性の顔を見て、カタギリの表情は一瞬凍りついた。
「絵里さん!隊長、この人、確かに市民病院で亡くなった絵里さんです!」
背後から覗き込んだミズキも驚愕の声をあげた。
カタギリが絵里の手首を押さえると、強くはないがハッキリとした脈動が感じられた。
「生きてる…脈もあるし、微かだが呼吸もしてるようだ。急いで基地のメディカル・センターに運ぼう! ミズキ、君は彼女の車を頼む」
「了解です、隊長」
ジープから転落しないよう、カタギリは片手で絵里の肩を抱き、ハンドルを握った。
理由は判らないが、こうして生き返った絵里を二度と死なせてはならない、カタギリはそう思い、強くアクセルを踏んだ。
事件から4日が経ち、特に変わった事もなく、オペレーションルームにも和やかな雰囲気が漂った。隊員の間で話題になったのは、奇跡的に命を取り留めた絵里に関することだった。
「しかし隊長、一度死んだ人間がそう簡単に生き返るもんですかね?」
「判らん。あの時は多くの負傷者がいて病院も大混乱で、仮死状態を死亡と見誤ったかもな…」
「絵里さんは順調に回復してると聞きましたけど、私、後でお見舞いに行ってきます」
「その必要はないな。星原君なら、ここにおるよ」
意外な声に3人が振り返ると、そこにはクロキ司令官が立っていた。
「紹介しよう、諸君。星原絵里君だ。今日から特別警備隊の準隊員として働いてもらう。私の推薦だ」
クロキ司令の背後には、警備隊の制服を着た絵里が立っていた。
「皆さん、どうかよろしくお願い致します…」
絵里は驚いて半ば口を開けている3人に、ゆっくりとお辞儀をした。
「し…しかし司令…」
「話なら私の部屋で聞こう。行こうか、カタギリ君…」
クロキ司令は謎めいた微笑を浮かべ、あごでカタギリを促した。
上官達が自動ドアの向こうに去った後、残された3人の間にちょっとした沈黙が流れた。
「ま、まあ、よろしく。こっちはミズキ隊員。で、俺はタカハラ、専門はパイロットね。今夜、君の歓迎パーティをやろうよ、2人きりでさ。俺、良い店知ってるんだ」
タカハラは快活に笑うと、困惑している絵里の肩に手を回した。
「ちょっとあんた、1年前にも私に、同じ事言ったわよね?」
眉をひそめたミズキは、思いっきりタカハラの向こう脛を蹴った。
「行きましょう、絵里。宿舎に案内するわ。何か判らない事あったら、遠慮なく聞いてね」
ミズキは微笑みながら絵里を誘った。
「しかし、司令。本当にあれで良いのですか?」
「過去にもこうした前例はある。それにだ、君は今の職を引き継ぐ時、前任者から何か告げられなかったかね?」
「司令!何故そのことを?…」
「ふふ…あるのさ、司令官にもな。記録されない、秘密の引継ぎ事項って奴がね…」
爽やかな初夏の風が、絵里の髪を撫でて行く。何が何だかわからない、とてつもなく不可思議な1週間だった。
死にかけた筈の自分が、今は地球防衛軍の警備隊員としてここに立っている。だがこれから先、どんな運命が自分を待ち受けているのか、絵里にはわからなかった…。
制作後記

ようやく「SupremeSisters」第1話、製作完了しました。初回だけに小道具やらなんやらを新規に作成しなければならない関係で、思ったより時間を食ってしまいました。5年前に同じような「SuperSisters」というのを作ったのですが、今回はそのリメイク版です。プロットや世界観、及び登場人物等は以前と同じなので、以前の作品を見られた方には、目新しさは感じられ無いかも知れません。今回は大胆にも全13話の連続物を企画しています。前回のものが尻切れトンボに終わってしまったので、その反省を踏まえて(←だったら13話なんて無謀だろう。笑)新たな挑戦を試みた、というとこですか。以前の作品と異なるのは、「画像+文章」のスタイルにしたことです。画像だけですと場面転換や人物の心情などを表現することが激ムズです(見習の技術ではまず不可能)かといって文章をメインにする程、見習は筆が立ちません。紙芝居が見習にはちょうどいいのです。

この紙芝居のコンセプトは「愛の表現」です(←大嘘)もとい、コンセプトとしては「怪獣特撮+ヒロピン+70年代レトロ+えろす」になりますでしょうか。「70年代レトロ」は見習が、あの時代が怪獣特撮の黄金期だったと感じていること、そして最近の「頑張ってSFしてまーす」みたいな表現が嫌いなこと(画像的に作れない、ということもある)が理由です。「えろす」については説明は不要でしょう(笑)これには色々な切り口があって、見る人によって「萌え」とか「純愛」だったり、「異性間の肉体交渉」(笑)だったりします。いずれにしろ、この「えろす」はヒロピンには欠かすことのできない要素だと思います(←強く主張。笑)

連続物の第1話として選んだ登場怪獣はネロンガです。ウルフェさんの作品ですが、特徴を良く捉えていて、いいフィギュアだと思います(ウルフェさん、復帰しないかなあ)ただ見習の技術がショボいので、この怪獣の良さを引き出すことができませんでした、ごめんなさい。クール星人は以前から第1話に使うことを決めてました。「セブン」の世界観をパチっている以上、やはりこれは「お約束」でしょう(笑)ただ形状が余りにも独特なので見せ方が平板になってしまったのが残念です。「SupremeSisters」では、こうした「宇宙人+怪獣」のパターンが多くなると思います。怪獣だけでもヒロピンの表現は可能ですが、怪獣は所詮怪獣、自分で悪巧みを考えるアタマがありません。ここはやはり悪役宇宙人に登場してもらい、罠におちたヒロインを残忍冷酷に責めてもらいたいです(萌えるなあ。笑)

この話の主人公は、絵里と亜里沙という2人の姉妹ですが、実はコイツらが結構悩みのタネでした。はじめ絵里は某有名怪獣映画に主演した女優さんをイメージして作ったのですが、初めてレンダリングした時、衝撃が走りました。「...か...可愛くねえぇ..」そうです、某女優とは少しも似ていない、謎の女性になってしまったのです。自分の技術の無さに、ホント涙が出そうになりました。んで、これに懲りて妹の亜里沙は、フリーのモーフだけ使って簡単に仕上げました。結果は姉より良かったように思います。今回は姉だけが変身、戦うといったストーリーですが、いずれ妹も参戦させるつもりです。ただ姉は警備隊員、妹は高校生という設定なので、どう接点を作るかが難しい所ではあります。毎回、学校を襲撃する訳にも行きませんしね。

今回はPOSER7とVue6でレンダリングした訳ですが、見習のPC環境がプアなせいで、とても苦労しました。更にPOSER7のダメダメぶり(どう見てもバグと思われる現象が多い)が追い討ちをかけるように、見習を苦しめます。また背景込み(リアプロ風味ではなくて、実際に地形データがあるもの)のシーンを作ろうとすると、POSERはすこぶる不向きです。元々POSERは景観作成を前提としたソフトではないので、その手の機能が全くありません(あるのは無限空ぐらい)ストーリーの連続画を作る上で、これは非常に不便なことです。POSER用のバックドロップ商品も3つばかり試して見ましたが、どれも不合格、写真スタジオで使うリアプロの域を出ませんでした。まあ、技術のない見習には、ヘタに足掻かずに景観用ソフトに持って行ってレンダリングした方が性に合っているのかも知れません。

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