秘 密 結 社 驚 愕 団
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- GALLARY / EPISODE 2
- 恐怖の島 -


Act1
楽園への招待状
最初の事件から2週間が経った。警備隊での訓練は厳しく、絵里は心身共に疲れ切っていた。ようやく2日間の休暇を貰い、久々に戻った我が家で、絵里はようやく肩の力を抜くことができた。
「お疲れ〜。新しい職場は緊張するでしょう。肩でも揉む?」
リビングに入ってきた亜里沙が絵里の肩に手を置いた。
「今日はいやに調子が良いわね。なあに?またお小遣いの前借り?」
「あはは、それもあるけどね、今日は特別なんだよ。これ見てよ!」
亜里沙はパンフレットを絵里の目の前に差し出した。
「...豪華客船ブルーフィン号で新しい南海の楽園、南沖島へ...」
「そう、昨日デパ地下で抽選やったら、何と1等賞!久々に幸運が巡ってきたかなあ。ペアで新リゾート4日間の旅に無料ご招待!ねえ、行ってもいいでしょ?友達の真奈といくの。未成年者は保護者の承諾が必要なんだよ〜」
「う〜ん、ま、いいか。今年の夏休みはどこにも連れて行ってあげられないし..」
「やった!さすがは姉貴、話わかるわ〜」
「ただし!これだけは守って頂戴。危険な所には決していかない。もう1つは男の人とは夜遅くまで付き合わない、いいわね?」
「了解!少しは自分の妹を信用しなさいって...」
その翌日、絵里は早朝の防衛軍トレーニングセンターで汗を流していた。特別警備隊員にのみ、義務付けられた毎日のカリキュラムである。だが絵里は指示されている以上に、トレーニングに時間を割いていた。
先の怪獣との戦いで、絵里は知った。パートナーとなったエリザが、戦士として十分な能力を持っていないこと、勝てたのは、全くの幸運に過ぎなかったことを...。
「私自身が強くなって、少しでもエリザを助けなければ...」
エリザの能力は、同化している絵里の能力でもある。絵里は習いたてのぎこちないフォームで、懸命にサンドバッグを叩いた。その額からは光る汗が飛び散る。
「エリ、おはよう!」「おはようございます、サヤカ隊員...」
早朝の通路で通信オペレーターのサヤカと挨拶を交した。朝の当直交代まで少し時間があり、行き交う人影はまばらである。
「お、エリ、早いな。ちょうどいい、サクマと一緒に話を聞いてくれ」
オペレーションルームに入ってきた絵里に気が付くと、カタギリは声を掛けた。その脇に立っているサクマ隊員は、電子工学のエキスパートであり、科学班の副リーダーも兼任している。
「実はエリアG海域にて旅客機と客船が失踪した。原因は不明だ。ここ5日間に同じ海域で遭難事故が連続したというのが、いかにも奇妙だ。海上保安庁と防衛軍が全力で捜索しているが、機体や船体の破片すら発見できておらん。乗客乗員の遺体や遺品も、ひとつも発見されてない...」
「遭難時刻に付近にいた他の航空機や船舶には、何の異変もなかったという報告です。隊長、これは何か変ですね?」
「うむ。気象・海洋の状況から見て、単なる遭難事故とは思えん。それに両方とも、救難信号を発していないことも気になる。まあ、調査自体は防衛軍がやるが、今後我々も支援する。要請があり次第すぐに飛び立てるよう、2人とも基地内で待機してくれ, 以上だ」
新型豪華客船ブルーフィン号は、南沖島を目指して太平洋を南下していた。観光客達は、心地良い南海の潮風に浸っていた....。
「お待たせ〜、真奈。後部デッキのプールに行こうよ!」
真奈は顔を横に向けると、嫌そうに片手を振った。
「浮き輪してプールに入る気? いつもながら、呆れるわ」
「え? だって私カナヅチで泳げないんだもん、真奈だってよく知ってるじゃん」
「あのねえ、そんな格好じゃ、オトコが寄って来ないでしょ。まったく!」
「え! そりゃマズイわ。考えてなかった...」
「...ちょっと、あれ見て!」
「何、イケメンでもいたの?」
亜里沙が振り向くと、不思議な発光体が船に近づいてくるのが見えた。
巨大な発光体は船の針路を塞ぐかのように、船の前方から接近してきた。
「船長、あれを!」
「ぶつかるぞ! 機関後進全速 取り舵一杯!」
だがブルーフィン号が回避する間もなく、発光体は船全体を包んだ。
「頭が.....頭が割れる.....」
周囲が眩く光り、激しい頭痛と吐き気が二人を襲った。真奈と亜里沙はデッキに崩れ落ちた。デッキには人々のうめき声が溢れた...。亜里沙は必死に痛みに耐えていたが、その意識は急速に遠のいて行った....。
「...船長、救援信号を...」
一等航海士は床に倒れた船長の姿に向かって、声を絞り出した。しかし船長からの反応は無く、必死に無線機の所に這い寄った航海士も、その手前で力尽きた....。
ブルーフィン号はゆっくりと空中に昇って行く。排水量2万トンを越す船が空中に浮かびあがる様は異様であったが、それを目撃できた乗員や乗客は一人もいなかった。
Act2
謎の遭難
「隊長!海上保安庁より緊急支援要請が入っています」
「遭難地点は...また同じ海域か。発信者は客船ブルーフィン...」
カタギリの言葉に、機器調整をしていた絵里の肩がピクリと動いた。
「...ブルーフィン号...確か亜里沙の乗っている船?......」
絵里の脳裏に、言い知れぬ不安がよぎった。
ゆっくり振り返ったカタギリが、絵里の前に立った。
「絵里、例の海域でまた遭難だ、今度は3万トンの客船ブルーフィン号。信号は10分前に発信されてる。すぐに現場に飛んでくれ...」
「了解、キャップ!」
絵里は敬礼すると、オペレーションルームを飛び出した。
「回路、燃料、武装、すべてチェック済みです。発信準備完了!」
駆け寄って来る絵里に、クルーが声を掛ける。
「ありがとう、すぐ出るわよ!」
絵里は梯子に飛びつくと、全速力で駆け上がった。
亜里沙は全身に何か冷たいものが触れているのに気がついた。顔を上げて見ると、周囲は薄暗く、何か鉄格子のようなものが目に入った。
「真奈!しっかりして、起きて!」
亜里沙は真奈の肩に手を掛けて乱暴に揺すった。真奈は目の焦点を合わせるかのように軽く頭を振ると、ずれた眼鏡を掛けなおした。
「...ここは? 私達どうなったの?...」
「わからない...ただここが船の上じゃない、ってことだけは確かね...」
その時、すぐそばで低い笑い声がして、2人は驚いて飛び上がった。
「...ここは地獄の1丁目さ。お前達も、もうすぐあの化け物の餌になるんだ...」
ひどく汚れた服を着たその男は、喉に何か詰まったような笑い声を立てた。
「...ねえ、この人、これじゃない?...」
真奈は怯えた表情で、自分の頭をそっと指差した。
その時遠くから硬い靴音が聞こえてきた。亜里沙が振り向くと、2人の男が牢の扉の前で足を止めた。
「そっちの水着の女! 出ろ! 一緒に来るんだ...」
亜里沙は真奈の顔を見たが、真奈は何も言わずに黙ってうなずいた。
「お前は幸運だ。囚人の身分でこうして施設を見学できるんだからな...」
先頭に立って歩く白衣の男は、君の悪い声で低く笑った。
「ここはどこなの? 何で私達を連れてきたのよ?」
亜里沙は時々自分の背中をこづく、大男をにらみ付けた。だが大男は口の端を少し曲げただけで、一言も発しなかった。
下水道のような通路を抜けると、鉄製のドアに行き当たった。白衣の男は身体を押し付けるようにして、きしむドアを開ける。
「ここは育成棟だ。ふ化したばかりの幼体を管理している...」
通路の壁際には透明なガラス筒がいくつも並んでいた。液体が満たされた筒には、見たことも無い生物が入っていた。それらは通り過ぎる影に反応するかのように、時々その身体を激しく動かした...。
「これからとっておきのものをお見せしよう...」
白衣の男は亜里沙が乗ったのを確かめ、作業用エレベータのスイッチを入れた。
「今度はなによ? いいかげん、お化け屋敷にも飽きてきたんだけど...」
亜里沙は精一杯の皮肉をぶつけたが、白衣の男は取り合わなかった。
だが目に飛び込んできた光景は、亜里沙を仰天させた。エレベータが上昇するにつれ、巨大な怪獣の顔が次第に迫ってくる。
「じゃあ、牢屋の男の人が言ってたように、私達はあいつの餌って訳?」
「我々の合成餌よりも、お前達地球人の肉体の方が、数倍も成長が早いのでね...」
白衣の男はその満足そうな顔を、間近に立つ怪獣に向けて言った。
「冗談じゃないわ! 人を怪獣の餌にするなんて、あんた達、人間じゃない!!」
亜里沙は激しい怒りを白衣の男にぶつけた。
「その通り...我々は地球人ではない...」
白衣の男の姿が鈍い光に包まれた。光が弱まっていくと共に、異形の姿が現れた。
「我々はゴドラ星人。以前この地球を支配する為にやって来た際、地球防衛軍の奴らに妨害された。今回はその復讐をしてやるのだ」
「防衛軍だけじゃないわ! 地球には正義の女戦士がいるのよ!」
「御前達ガ『エリザ』と呼ンデイル女巨人ダナ。ソレハ計算ニ入ッテイル。現在育成中ノ全テノ怪獣ガ育ッタラ、防衛軍共々葬リ去ッテヤルサ...」
ゴドラ星人は大声で笑った。
「御前ガ防衛軍隊員ノ家族デアルコトハ、既ニ調ベ上ゲテアル。御前ハシバラクノ間、人質トシテ生カシテオク...」
そう言うとゴドラ星人は片手を上げて、背後の大男に合図した。
大男は亜里沙の首に腕を廻して持ち上げると、そのままエレベータへと歩き出した。
「ちょっと、やめ...」
必死にもがく亜里沙だったが、大男の怪力の前には、まるで歯が立たなかった。
遭難海域に到着して、はや1時間が経過していた。だがレーダーには何の反応も無く、眼下の海にも船や漂流者らしき影はいっこうに見当たらなかった。精神的な焦りからか、絵里の額にはうっすらと汗がにじむ。捜索を続ける絵里の耳に、基地のカタギリからの通信が入った。
「どうだ、絵里? 遭難者は発見できたか?」
「ネガティブ。未だ発見できません」
「あと1時間で日が暮れる、すぐに帰投せよ。捜索は明朝再開する」
「10海里内に多々良島があります。遭難者が漂着していないか確認して帰投します」
「ラジャー。気をつけてくれ、オーバー...」
絵里は操縦桿を倒すと、機種を付近の島に向けた。陽は既に西に傾き、目視で確認できる時間も限られている。絵里はスロットルを押し込み、速度を上げた。
次第に薄くなる陽光の中に、ぼんやりと島影が浮かんで来る。絵里はゆっくりと速度を落とし、海岸線に沿って旋回を始めた...。
Act3
悪の影
「アレハ防衛軍ノ戦闘機ダ。怪獣達ヲ出撃サセテ迎撃シロ!」
リーダーらしきゴドラ星人の指示に、禿頭の男がうなづくと、怪しげな機械のスイッチに触れた。耳障りな低い音が周囲に響き渡る。
「総員非常配置ニ付ケ!繰リ返ス、総員非常配置...」
大男は壁のモニタに写し出されたゴドラ星人の姿に目をやった。亜里沙はその隙に足元の床に転がっていた角材をそっと拾い上げた。だが大男はモニタに気を取られているのか、亜里沙の行動に気付かなかった。
「えいっ!」
亜里沙は渾身の力を込めて、角材を大男の後頭部に振り下ろした。異形の銃が音を立てて床に落ち、大男は声も上げずに崩れ落ちた。
低空を飛んでいた絵里の目に、地上に動く2つの物体が写った。それらは巨大であり、しかも移動している。確かめるために絵里は、機体を地上すれすれの高度まで落とした。
「あれは怪獣!」
絵里は慌てて通信機のスイッチを入れた。
「こちら絵里!多々良島に怪獣を2匹発見!繰り返す!怪獣を発見!」
だが基地からは何の応答もない。
「本部応答願います!...隊長!...」
イヤフォンからは、もの凄いノイズが流れるだけだった。
「...これは? 電波妨害!?...」
絵里が通信機に気を取られている時、一匹の怪獣が絵里のファルコンを狙って光線を発射した。一瞬眩い閃光が機体を包み、爆発のショックが絵里を襲った。
「やられた!...」
ファルコンは急激に推力を失い、機首を下げる。絵里は緊急脱出装置のレバーを引いたが、何も起こらなかった。
絵里は両手で思い切り操縦幹を引くが、機体の落下は止まらない。ファルコンは長い黒煙を引きながら、地上に落ちていく。
「エリザ・チェンジ!」
絵里の掛け声と共に、操縦席は眩い光に包まれた...。
ファルコンは2匹の怪獣の頭上を飛び越え、その先にあった丘の向こう側に墜落した。鈍い爆発音が響き渡り、周囲の峰に木霊した。
巨大な赤い閃光が走り、2匹の怪獣の前には光に包まれたエリザが姿を現した。脅威を感じたのか、怪獣達はその歩みを止め、突然出現した相手を凝視した。
エリザが完全に実体化すると、2匹の怪獣は恐る恐るエリザに接近する。エリザもファイティングポーズを取り、怪獣達を威嚇した。
「...ファハハハ...飛ンデ火ニ入ル夏ノ虫トハ、コノ事ダナ...」
ゴドラ星人は機械のモニタを前に、上半身を揺すりながら笑った。
「絶好ノ機会ダ、エリザヲ殺セ!...」
指示された大男は、幾つかのスイッチを素早く押した。
2匹の怪獣は、じりじりとエリザに迫って来た。それに押されるかのように、エリザも一歩一歩、後ずさりをする。エリザは母星で戦闘術を学んではいたが、それは身を護る為の護身課程であり、戦士課程で教えるような、複数の敵との戦い方は全く知らなかった...。
薄暗い通路を、亜里沙はできる限りの速度で走った。通路の脇の水面からは、鼻を突くような異様な臭気が漂い、もし足を止めれば窒息しそうだった。
通路を曲がると行き止まりになっており、壁面に上へ昇る梯子があった。亜里沙は錆びた梯子に飛びつくと、全力で登り始める。既に息が切れかかっていたが、休む訳にはいかない。もしあの大男に再度捕まれば、どのような目にあわされるかも分からない。歯を喰いしばりながら、亜里沙は梯子を一段一段、昇っていった。
梯子の頂上に近づくと天井から刺す、眩しい光が亜里沙の目に入った。見ればボロボロに錆びた鉄格子がはまっている。強く手で押し上げると、幸いなことに鍵は掛かっておらず、鉄格子は耳障りな音を立てながら上方へ開いた。外は既に夕暮れ時だった。亜里沙は顔だけを出し、周囲の様子を伺った。人の気配は無く、亜里沙は用心深く縦穴から這い出した...。
2匹の怪獣は次第にエリザとの距離を詰めてくる。ここは小さな孤島であり、いつまでも逃げ回る訳にも行かない。決心したエリザは、先頭の怪獣にキックを放った。
腹にキックを喰らった怪獣は、1、2歩後ずさりした。するとやや後方にいたもう1匹が鋭い爪を立てて、襲い掛かって来る。エリザは相手の大降りな攻撃をかわすと、その怪獣の胸板にパンチを見舞った。
だが今のエリザには、自分の攻撃の効果を確かめている暇は無かった。2対1という劣勢にある以上、とにかく攻撃を続け、主導権を握るしか勝ち目はない。エリザは振り向きざまに、最初の怪獣にキックを蹴り込んだ。
周囲に木霊する唸り声に突き動かされるように、亜里沙は火山灰に覆われた地面を走った。草もまばらな地面は柔らかく、何度か足を取られて転びそうになる。だがそれでも亜里沙は足を止めなかった。
地面が揺れ動き、耳に入る唸り声は一段と高くなった。小高い丘の頂上付近まで来た時、思いもしなかった光景が亜里沙の目に飛び込んできた。
「...あれは、エリザ!...」
それまでTVでしか見たことはなかったが、長い黒髪をなびかせて戦うその姿は、まさしく戦う乙女そのものだった。
「エリザハ活動ヲ維持スル為ニ、大量ノエネルギーヲ消費スル。2匹ノ怪獣ハ倒サレルダロウガ、ソレデ奴ノエネルギーハ枯渇スルハズダ。ソコガ我々ノ狙イダ。奴ノエネルギーガ底ヲ付イタラ、レッドキングヲ出撃サセロ...」
攻勢を続けていたエリザだが、2匹の怪獣は怯むことなく襲って来る。
「...何とか2匹を分断しなければ...」
パンチを受けてよろけた怪獣に向かって、エリザはドロップキックを見舞った。男の戦士にも劣らない強力なキックは、相手を後方に吹っ飛ばした。
「今だわ!」
エリザは素早く立ち上がると、飛び上がって後方の敵にエルボーを叩き付ける。顔面を襲われた敵は、そのまま仰向けにひっくり返った。
2匹の怪獣を地面に転がしたエリザは、勢いにまかせて怪獣の一匹に馬乗りになると、その頭部にパンチの雨を浴び始めた。
「...これなら勝てる!...」
興奮したエリザは、次々と振り下ろす拳に力を込めた...。
だがエリザは自分の力を過信しすぎていた。攻撃に気を取られている間に、もう片方の怪獣が立ち上がり、自分に接近してくることに気が付かなかった。
「あ?」
エリザがそれに気付いた時は既に遅く、怪獣の巨大な拳が振り下ろされていた。
怪獣の拳がエリザの側頭部を捕らえ、エリザの身体は空中高くに舞った。
エリザの身体は鈍い音と共に地面に転がった。頭部に受けた衝撃で、エリザの目は焦点が定まらず、なんとか上半身を起こすのが精一杯だった。そうしている間にも、2匹の怪獣は体勢を立て直し、じりじりとエリザに迫った。
Act4
三大怪獣
仰向けに転がったエリザに、2匹の怪獣が迫る。振り下ろされた巨大な足を、エリザは両手で掴み、かろうじて胸が踏みつけられるのを防いだ。もう片方の怪獣が加勢しようと接近するのを、エリザは片足のキックで防ぐ。
「エリザ! ファイト!!」
亜里沙は自分の危険な境遇を忘れ、2匹の怪獣を相手に苦戦するエリザに大声で声援を送った
「...距離を取らなければ...」
エリザは訓練で教わったことを思い出した。小さく後転すると、そのまま思い切り地面を蹴る。エリザの身体は後方に高く舞った。
後方宙返りから着地したエリザは、怪獣達との距離が開いたことを知った。
「何とかして、敵の数を減らさなければ...」
エリザは自分の、最も頼れる武器を使う決心をした。
「レディ、フラッシュ!」
エリザは胸の前で腕を交差させ、体内にあるエネルギーを集中した。エネルギーレベルを常時高く保てないエリザは、フラッシュビームの発射前に、こうした動作で準備を行う必要がある。
更に両手を高く掲げた姿勢を取ることにより、エリザは両腕にエネルギーが急速に集中されて行くのを感じた。
「...いける!」
エネルギーが最高潮に達したのを感じたエリザは、胸の前で十字を組んだ。
眩い光の筋がエリザの手から放たれ、右側の怪獣に吸い込まれる。一瞬の後、怪獣の身体が膨れ上がったかと思うと、轟音と共に爆発した。
爆発した怪獣の破片が四方に飛び散り、地面に転がった。生き残った怪獣は驚いたかのように、仲間の変わり果てた姿を見やった。だがエリザは束の間の喜びさえ、味わうことはできなかった。フラッシュビームを放ったことで、全身から大量のエネルギーが、瞬時にして失われたのだ。
エリザは全身から力が抜けて行くのを感じた。あまりの疲労に、両脚の筋肉は立っている力を失い、エリザはよろけて地面に膝を付いた。
「奴ハ大量ノエネルギーヲ消費シタ。エネルギー残量カラ見テ、モハヤ2発目ハ撃テマイ。 今ダ! レッドキングヲ出セ!」
その声に促された大男は制御盤に戻ると、いくつかのスイッチを操作した。
エリザが戦っている場所とは少し離れた丘の絶壁に、大きな亀裂が走った。地面が激しく揺れ動き、崩れ落ちる岩壁の影から怪獣が現れた。
仲間を失った怒りからか、怪獣は激しくエリザを攻め立てた。エリザは全く反撃できず、怪獣の拳が何度もエリザの身体を捕らえる。エネルギー消費による疲労から回復するまで、エリザは必死に耐えるしかなかった。
怪獣の力任せの体当たりに堪え切れず、エリザは後方に転がった。勢いに乗った怪獣は、更にエリザに迫って来る。だが少しの時間が経過したことで、エリザの極度の疲労状態も回復しつつあった。ようやく動かせるようになった片足で、エリザは怪獣の腹にキックを見舞った。
エリザの突然の反撃に、怪獣はあっけなく後方に倒れた。エリザは手を突いて慎重に立ち上がると、怪獣に向かってファイティングポーズを取った。
「あと一匹...これからだわ...」
次第に戻ってくる全身の感覚を感じて、エリザは自分を奮い立たせる。だがその背後の丘陵から、新たなる怪獣の姿が覗いた。
近づいて来るその足音に、ようやくエリザも気が付いた。
「...そんな...もう一匹だなんて...」
先程まで勝利まであと半歩という余裕さえあったエリザの心を、突然の動揺が襲った。2匹の怪獣を相手に、残りのエネルギーで果たして勝つことができるのか。エリザは再び激しい焦りを覚えた。
動揺していたのは、亜里沙も同じだった。
「...嘘でしょ...いったいこの島には何匹いるのよ...」
先程までの戦いぶりを見ていた亜里沙は、不吉な予感を感じた。
「...エリザ、大丈夫かな...」
また振り出しに戻ってしまったエリザだったが、落ち込んでいる暇はなかった。新たに出現した巨大な怪獣には、エリザも見覚えがあった。訓練センターで見た記録にはレッドキングという名前が付けられていた。エリザは間近に接近して来るレッドキングに、得意のスピンキックを浴びせる。
だがその隙を狙って、先程の怪獣がエリザに襲い掛かって来る。エリザは咄嗟にその拳を払い除けた。
相手の懐に入ったエリザは、左右の連続パンチを敵の胸板に突き入れる。その勢いに押されたか、相手の怪獣はズルズルと後退した。一方、エリザのキックにのけぞらされたレッドキングは、足元の地面に埋まっていた大岩を見つけると、さっそくそれを抱え上げた。
エリザが放つパンチとキックの連携攻撃は、的確に相手を捕らえた。怪獣は為す術なく、一方的に叩かれる。攻勢を掛け続けるエリザだったが、必死になるあまりに、背後からレッドキングが迫っていることに気が付かなかった。
自分の背後に迫る気配を感じた時には、もう手遅れだった。巨大な岩がエリザの後頭部に勢いよく叩きつけられ、エリザの意識は一瞬にして遠くなった。
エリザの身体は、そのままゆっくりと地面に突っ伏した。地面を這うその姿に、2匹の怪獣は歓喜の咆哮をあげた。
先程のお返しとばかりに、エリザが攻めていた怪獣が反撃に転じる。地面に這うエリザの背中や尻を、これでもかとばかりに何度も踏みつける。
「...何とか...しなければ...」
かろうじて意識は保っているものの、激しいめまいがエリザの動きを封じていた。
踏みつけ攻撃にも飽きたのか、怪獣はエリザの身体を掴むと、無理やり引きずり起こした。その傍らでは、レッドキングが腕を振って獲物を要求していた。
怪獣はエリザの片腕を掴み、頭を押さえ付けるようにして、レッドキング目掛けて突き飛ばした。頭部に受けた衝撃からまだ回復していないエリザは、抵抗しようもなかった。
突き飛ばされたエリザの身体は、反転してレッドキングの胸板に勢いよく激突した。だがレッドキングは、その程度の衝撃にはびくともしない。エリザの身体を受け止めたレッドキングは、巨大な拳でその両腕を掴んだ。
レッドキングから逃れようと、エリザは必死になってもがいた。しかし自分の倍もある巨体が生み出す途方も無い力の前には、エリザの試みも虚しかった。そうしてもがき続けているエリザの前に、もう一匹の怪獣が近づく。その眼は怒りに燃えていた。エリザはそれまで体験したことのない恐怖を覚えた。
怪獣の拳がエリザの側頭部を捉えた瞬間、エリザの意識は遠くなった。だがそれで終わりでは無かった。怒りをこめた拳が交互に繰り出されるごとに、エリザの頭が左右に振れた。
Act5
初めての敗北
動きを封じられたエリザの腹に、怪獣の拳が勢いよくめりこむ。エリザは苦痛に思わず顔を歪めた。だが怪獣はそれぐらいでは満足せず、立て続けにパンチを繰り出した。
ボディへのダメージはエリザのスタミナを奪い、その細い肩が小刻みに上下する。胸のクリスタルが赤色に変わり、激しく点滅を始めた。それはエネルギーが残り少なくなったことを示すサインであり、エリザはあと3分間しか変身を維持できない...。
だがクリスタルの赤い点滅は怪獣の攻撃本能を刺激した。興奮した怪獣はエリザの胸を目掛けて更に拳を突き入れる。その巨大な拳は、エリザの柔らかい左乳房に深々とめり込んだ。その衝撃に、エリザは思わず仰け反った。
冷酷なサディストのように、怪獣はエリザの胸に容赦なく攻撃を加える。左右の乳房が押し潰される度に、エリザの身体は大きく震えた。繰り出される拳の衝撃が肋骨にも達していた。
「ひ...ひどい...」
胸を執拗に攻められるエリザの姿に、亜里沙は自分が傷ついたかのように胸を覆った。
嵐のような攻撃が止み、レッドキングはそれまで掴んでいたエリザの腕を放した。支えを失ったエリザは、膝から崩れ落ちる。激痛の走る胸を両手で庇いながら、エリザは自分の受けた戦闘訓練が、いかに甘いものであったかを思い知った。
だが攻撃はそれで終わりではなかった。レッドキングは背後からエリザの腰を掴むと、豪快に後方へ投げ捨てた。
1万トン程もあるエリザの身体が空中を舞い、音を立てて背中から落下した。その衝撃に、柔らかい火山灰の地面が大きく窪んだ。
「...ううっ...」
身体に加えられた度重なるダメージに、エリザは身動きができない。地面に這ったままのエリザに、2匹の怪獣がゆっくりと迫った。
何とか膝まずいた状態にまで身体を起こしたエリザだったが、もはや立ち上がる力が無かった。
「エ...エネルギーを...」
エリザに残されたエネルギーは、もはや絶望的な量にまで減少していた。
混乱する思考のなかで、エリザは訓練センターで教わったことを必死に思い出そうとしていた。それは恒星から発せられる光子エネルギーを吸収する方法であった。エリザは両手を広げ、夕日に向かって胸を開いた。
「ファハッハハハ...馬鹿ノヒトツ覚エトハ、正ニコノ事ダナ...」
ゴドラ星人はモニターに移るエリザの姿に、大きく高笑いをした。
「今ノ太陽ノ位置デ、エネルギーヲ吸収デキルトデモ思ッテイルノカ!」
太陽は既に西に傾き、地平線の彼方に没しようとしていた。かろうじて地表に届く弱々しい陽光では、今のエリザが必要とするだけのエネルギーが得られない。
「...だめだわ...どうして...」
全身に走る激痛で動揺しているエリザには、太陽の状態のことまで気が回らなかった。
狼狽しているエリザに、いつの間にか背後にレッドキングが肉薄していた。
「あ!」
その気配に気が付いたエリザが振り向いた時には、レッドキングの巨大な足がエリザ目掛けて繰り出されていた。
無防備な姿勢で背中に猛烈な一撃を浴び、エリザはもんどりうって地面に突っ伏した
度重なるダメージとエネルギーの消耗に、エリザはもはや満足に身体を動かす事ができなかった。それでもエリザは、地平線に沈む太陽に向かって這うことを止めなかった。太陽に少しでも近づくことが、この危機から逃れる唯一つの方法でもあるかのように...。
だが冷酷な現実は、エリザを捉えて放さなかった。エリザに迫った2匹の怪獣は、地を這うエリザの身体を交互に踏み付け始めた。それはエリザの頭と言わず、背中と言わず、ただ無茶苦茶に加えられる暴力でしかなかった。
「...ちょ...ちょっとヤバイかも...」
無抵抗に踏み付けられるエリザの姿に、亜里沙は生まれて初めて、怪獣に対して恐怖心を抱いた。
やがて嵐のような踏み付け攻撃が止んだ。地面に横たわったエリザの身体は、もはやピクリとも動かない。怪獣が用心深く足の爪先でエリザの尻を突いても、エリザは何の反応も示さなかった。
戦いが物足りなかったのか、レッドキングはエリザの身体を引っ繰り返すと、その両足首を掴んだ。
レッドキングは身体を捩じり、エリザを夕闇迫る空に放り投げた。エリザの身体はボロ布のように、ねじれながら宙を舞った。
エリザの身体は崖を超えて、その先の急斜面を転げ落ちた。誰も止めることなく、エリザは谷底の闇の中へと消えていった。
谷底まで転がり落ちたエリザは、もはや立ち上がることもできなかった。胸のクリスタルは激しく点滅し、警告音は早鐘のように鳴り続けた。あと十数秒もすれば、エリザのエネルギーは完全に尽きる。そうなればエリザは仮死状態に陥ってしまう...。
「...ごめん..絵里...勝てなかった...」
エリザは変身を解き、絵里の命だけでも救おうと決心した。
エリザの身体は淡い発光体と変わり、それも次第に薄闇の中に消えていった...。
「...行かなきゃ!」
崖の向こうに姿を消したエリザの元に、亜里沙は走った。自分に何かできる訳ではないと知りつつも、いてもたってもいられない気持ちだった。次第に夕闇が迫る火山灰の荒地を、亜里沙は全速で駆け抜けて行った...。
Act6
反撃開始
斜面にも厚い火山灰が積もっており、亜里沙は転倒しないように注意しなければらなかった。急な斜面に付けられた自然の階段状の岩を、ひとつひとつ慎重に降りてゆく。
谷底に着いた亜里沙は、谷の奥に向かって歩いていく。と、その時、地に倒れている人影が眼に入った。それは見覚えのある、防衛軍の女性隊員の制服だった。
「うそ!...まさか姉貴?...」
急いで助け起こしてみると、意識を失っているその人間は、紛れも無く姉の絵里であった...。
「確か観光パンフに、この島の南端に灯台があるって書いてあった気がする...」
絵里に肩を貸しながら、亜里沙は絵里にたびたび話し掛けた。だが絵里は苦しそうに小さく相槌を打つだけで、話す気力も無いかのようだった。
「そこならきっと薬もあるし、無線もあるよ...」
2人の姉妹は足を引き摺りながら、夕暮れの中をゆっくりと南に向かった...。
錆びたドラム缶の影から、亜里沙はそっと様子を伺った。灯台の入り口の前に、例の大男が立っており、周囲を警戒している。
「...まじいな...先廻りされたか...」
亜里沙は低く舌打ちした。
「ね、姉貴!...その銃貸してよ...今ならあいつをやっつけられる...」
亜里沙が小声で絵里を呼んだ。苦しそうに身体を起こした絵里は、悲しそうな表情で首を横に振った。
「...ダメよ、危険だわ。それに今あいつを倒した所で、あなたが言ってた仲間達が、すぐにここへ飛んでくるでしょうに...」
「そっか...そこまで考えてなかった...」
亜里沙は思わず額を押さえた。
「...姉貴、やっぱり灯台に戻った方が良くない? 無線で助けを呼ぼうよ...」
「無線?...妨害されていて使えないわ。妨害している装置を壊さない限り、島の外とは通信できない...」
やがて傍らにオーバーハングした岩棚が見えてきた。
「今夜はあそこで野宿しようよ...暗くて足元が見えなくなったし...」
「まだ絵里からの連絡は無いのか、ベス?」
カタギリの表情はずっと曇ったままだった。
「ソウデス、隊長。救難信号モ発信サレテイマセン...」
振り返りながら、通信士のベティが肩を小さくすぼめた。
その時入り口の扉が開き、サクマ隊員が足早に入ってきた。
「どうした、サクマ。何か良いプランでも?」
「良いかどうかは判りませんが、興味深い情報があります、隊長」
「あの遭難海域には島が3つあり、その中で一番大きい島が火山島の多々良島です。そこの無人気象観測所から送信されるデータ送信が、ここ2週間程は、ひどく不規則になっているとのことです」
「多々良島?」
「ええ、過去の記録を調べてみたのですが、あの島は50年程前に環境異変が起こって、怪獣が大発生した事件がありました」
「うむ...明日の朝一番に調べよう。バラクーダ号のカトウにも連絡しておけ」
肌を刺す冷気に、亜里沙は目が覚めた。周囲はもう徐々に明るくなりかけていた。亜里沙はそっと固まっていた身体を伸ばした。
「...行くの...」
「あれ、起きてたんだ。うん、昨日話したけど、真奈を助けないと殺されちゃう。止めても無駄だよ...」
「...わかってる...これを持って行って。安全装置は外しておいたわ。くれぐれも気をつけて...」
絵里は腰のホルスターを外すと、亜里沙の方にそっと押しやった。
「ありがとう...必ず戻るよ、約束する...」
亜里沙は無理に作った笑顔を、やつれた姉に向けた...。
ゆっくりと岩陰から歩み出た亜里沙を、朝の冷たい光が包んだ。
「...やるっきゃない...か...」
朝日に鈍く光る銃を見ながら、亜里沙はポツリとつぶやいた...。
予想していたように、地下への入り口には見張りが立っていた。亜里沙は資材小屋の壁に身を隠しながら、そっと接近した。銃など撃った経験が無い亜里沙は、命中させる為にはできるだけ接近して撃つつもりだった...。
5、6メートルまで近付いても、相手は気付いていないようだった。亜里沙は静かに息を止めると、男に狙いを着けて銃の引き金を絞った。眩い閃光が走り、大男は宙に吹っ飛ばされた。
大地に崩れ落ちたかと思うと、大男の姿は異形の宇宙人のそれに変わった。
「...やっぱりこいつも宇宙人だったんだ...」
亜里沙は動かなくなった死体をそのままに、地下への入り口へと向かった。
カタギリはイヤーフォンに入る高周波ノイズに気がついた。急いで通信機のセレクターを光トランスミッターに切り替える。
「バラクーダ号、聞こえるか? 聞こえたら通信回路を光トランスモードに切り替えろ。以後通信はこの回線で行う」
特別警備隊の潜水艦バラクーダは、小型の多目的潜水艦である。AIP推進機関を搭載し、短時間なら水中速力40ノットの速度も出せる。
「...こちらバラクーダ...回線切り替え完了。現在位置、多々良島北々東10ノーティカルマイルの地点に接近中...」
副隊長のカトウは、制御盤を素早く操作しながら応答した。
「奴等ガ接近中ダ。ドウヤラコノ基地ハ嗅ギ付ケラレタヨウダナ」
「...ドウシマス?...」
「怪獣達ニ迎撃サセロ。基地ヲ撤収スル時間ヲ稼グノダ...」
低空を高速で飛行するカタギリの眼下に、2匹の怪獣の姿が写った。
「バラクーダ、レーザー誘導モードで対怪獣用ミサイルを発射せよ!」
カタギリは機を旋回させながら、片方の怪獣にレーザー照準をロックオンした。
バラクーダ号の垂直発射コンテナから、2発のスタンピード多目的ミサイルが発射された。ミサイルは水圧をハネ退けながら、猛烈な勢いで水面目掛けて急上昇していった。
数分も経たない内に、2匹の怪獣の周囲に激しい爆発が起こった。ミサイルに内臓されている、対怪獣クラスター弾頭が炸裂する。その凄まじい爆風と炸裂音に怪獣達は混乱に陥った。
「...あの音は...来てくれたんだわ...」
遠くから聞こえてくる爆発音は、防衛軍のものに違いなかった。だが2匹もいる怪獣を相手にするのは、明らかに荷が重過ぎる。
「行かなければ...」
絵里は激痛を堪え、両腕だけを使って岩陰から這い出た。
なんとか両膝で立った絵里だったが、折れた肋骨の痛みでその顔が歪む。だが絵里は変身しなければならなかった。怪獣達を倒せるのはエリザだけなのだから。
「チェンジ!」
片手を高く掲げた絵里の身体は、桃色の光の渦に取り囲まれた...。
危機一髪、亜里沙は木箱の背後に飛び込んだ。そのすぐ脇を、例の大男が走り去って行く。どうやら何か起こったらしく、低いブザー音があちこちで鳴っている。亜里沙は握り締めた銃を見つめ、深く深呼吸をした。
Act7
死闘
怪獣達の背後に光の柱が生じ、やがてそれは人間の女性の姿に変わっていった。そして光の輝きが薄れて行くと共に、エリザが姿を現した。
だが思いもしなかった事態がエリザを襲った。本来なら青く輝いている筈のクリスタルが、黄色い光を放っている。
「こ、これは...」
昨日の戦闘で被ったダメージが、まだ回復し切っていないのだ。エリザの心は激しく動揺した。
エリザの姿に気付いた怪獣達は、昨日の決着を付けようとするかのように、エリザ目掛けて突進してきた。エネルギーが通常の半分しかないエリザだったが、再び逃げるようなことはできない...。
得意の回し蹴りが決まり、怪獣は慌てて数歩交替した。
「...間合いを取らなくては...」
昨日の戦闘は、まだ記憶に生々しく残っている。エリザは2匹に挟まれないように、相手との距離を保った。
「う!」
梯子を降りて、排水溝脇の狭い通路に入った瞬間、反対側から走ってきた大男と鉢合わせした。隠れられるような場所など、どこにも無い。あっけに取られている大男に、亜里沙は素早く銃口を向けた。
勝負は一瞬で終わった。スーパーガンから放たれたエネルギー弾は、一瞬にし大男の胸板を貫いた。
撃たれて通路に転がった大男は、亜里沙の足元で宇宙人の姿に戻った。亜里沙はその死体をまたぐと、先を目指して小走りに駆け出した。
エリザの拳が連続してレッドキングの腹を目掛けて繰り出される。だが体力的に弱ったエリザのパンチなど、レッドキングには何の効き目も無かった。それでも必死に拳を突き出し続けるエリザの背後に、もう一匹の怪獣が迫っていた。
「あ!」
気が付いた時には既に遅く、エリザの両腕は背後から来た怪獣に掴まれてしまった。掴まれた腕を振りほどこうともがくエリザだったが、あまりにパワーの差があり過ぎた。
次の瞬間レッドキングの巨大な拳が、エリザの顔面を捉えた。エリザの頭が大きく傾ぎ、その長い髪が揺れた。
次の一撃は腹部を襲い、エリザはガックリと下を向いた。だが背後から両腕を掴まれているエリザは、倒れることを許されなかった。右、左と連続して繰り出される巨大な拳が、エリザの胸に吸い込まれる。それはまさしく昨日の悪夢の再現であった...。
モニターを見つめていたゴドラ星人は、満足そうに頭を前後に揺らせた。
「...ヤハリ...奴ハ胸ガ弱点ダ。胸ノ乳房ヲ攻撃サレルト、抵抗ガ著シク弱クナル。レッドキングニ、胸ヲ集中攻撃サセロ!」
エリザが昨日負ったダメージに、更に追い討ちを掛けるような攻撃だった。一方的に痛めつけられたエリザは、もはや全く抵抗できない。突然、レッドキングはパンチ攻撃を止めると、両腕でエリザの腰を掴み、その身体を持ち上げた。
エリザの乳房がレッドキングの顔の前で小さく揺れた。レッドキングは大きな口を開くと、その左側に思い切り噛み付いた。柔らかい乳房に鋭い前歯が食い込み、エリザは思わず悲鳴を挙げた。
レッドキングがその顎に力を込める毎に、乳房に激痛が走った。エリザの心臓が激しく鼓動を打ち、その唇の端からは一筋の血雫が流れ落ちた。次第に遠くなって行く意識の中で、エリザは自分の死を覚悟した...。
次第に狭まる視野の片隅に、すぐ上空を通過するファルコンが写った。
「...お願い...助けて...」
エリザは震える手を空に伸ばした。
「バラクーダ、こちらカタギリ。エリザがピンチだ。MBミサイルを撃て!」
「...了解...MBミサイル発射!...」
バラクーダ号から対怪獣用MB弾頭を搭載したミサイルが発射された。その威力はクラスター弾頭の数倍も強力である。
レッドキングが柔らかな乳房を噛み直す度、苦痛に喘ぐエリザの頭が力なく左右に揺れる。その意識は既に朦朧としていた。そこへ山を這うように1発のミサイルが飛来した。
ミサイルはレッドキングの背中に命中した。その凄まじい衝撃に、レッドキングは咥えていたエリザの乳房を放した。エリザの身体は、そのまま地面に崩れ落ちる
ようやく拷問から逃れたエリザだったが、被ったダメージは大きかった。地面に這ったまま、全く身動きできなかった。その背後には、またもや怪獣が忍び寄っていた。
拳が振り上げられた瞬間、怪獣の胸板に閃光が走った。驚いた怪獣がたじろいでいる傍を、ファルコンがジェットエンジン音を立てて飛び去って行く。この一撃で、エリザは背後の怪獣に気が付いた。
エリザは身を捩って半回転すると、後方の怪獣の腹にキックを浴びせた。ファルコンに気を取られていた怪獣は不意を討たれ、数歩後方に後ずさった。
ファルコンの支援攻撃と先程のキックで、偶然だがエリザと怪獣達との距離が空いた。
「今だわ!」
エリザは両脚に有らん限りの力を込めて大地を蹴った。怪獣の頭上高く舞い上がったエリザは、怪獣目掛けて急降下する。
大きな掛け声と共にエリザは怪獣の額に思い切り踵を叩き込んだ。鈍い音がして怪獣の頭蓋骨が砕け、その奥にある脳にめり込んだ。
怪獣の額からは、緑色の血飛沫がほとばしった。怪獣は大きく口を開けたままグラリと頭を揺らせ、ゆっくりと仰向けに倒れた。
倒れた怪獣の口から、緑色の泡が大量に湧き出した。かすかに持ち上げた手が数回痙攣したものの、やがて地面に落ちて動かなくなった。
Act8
静かなる凱歌
「信ジラレン! ガバラヲ倒ストハ!!」
ゴドラ星人は振り返ると大男に向かって手を振った。
「コレカラ巨大化シテ、エリザヲ倒ス。御前ハ残ッタ怪獣ノ操作ヲシロ...」
大男は何も言わず、黙って頷いた。
「ムオオオッ!」
両手を開いたゴドラ星人の姿が、奇妙な絡み合った光の塊と変わる。やがてその姿は薄れ、闇の中に消えて行った。
「...スペシウム光線が使えれば...」
どうにもならないことは分かっていても、エリザの心に言い知れぬ焦燥感が漂った。レッドキングは威嚇しながら、じりじりと近づいて来る。その時エリザの背後に、青白い光が出現した。
「え?!」
突如出現したゴドラ星人の姿に、エリザは激しく動揺した。せっかくあと一匹という所まで来たのに、またもや振り出しに戻ってしまったのだ。
飛び掛ってきたゴドラ星人の胸に、エリザはフロントキックで応戦した。どんなに追い詰められようと、エリザは戦わなければならない。
息を付く暇もなく、今度はレッドキングが背後から襲ってきた。勢い良く振り下ろされたその拳を、エリザは間一髪でこれをかわした。
だが前後から激しく攻め立てられれば、いつまでもこれをかわし続けることはできない。先程のように身体を押さえ付けられてしまえば、昨日と同じように敗北することは明らかだった。
「とにかく間合いを取らなければ...」
咄嗟にエリザは、側転でレッドキングから逃れた。
音を立てないように、亜里沙はそっと狭い階段を下りた。薄暗い地下室には、幾つもの機械が並び、低い電子音を発している。例の大男が一人、背をむけて機械を操作していた。
「...これが姉さんの言ってた機械...」
亜里沙は慎重に銃の狙いを、大男の背中に定めた。
「ドスッ」
鈍い音と共に、大男は床に崩れ落ちた。
床に転がった大男は、元の異星人の姿に変化して行った。
「こいつら、同じ姿にしか化けられないのか...」
気味の悪いその姿に、亜里沙は顔をしかめた。
包囲網から脱したとは言え、危機的な状況に変わりはなかった。ゴドラ星人は余裕たっぷりに近づいて来る。その背後では、レッドキングが地面の大岩を持ち上げていた。
その時、胸のクリスタルが赤色に変わり、警告音を発し始めた。
「もうエネルギーが...」
エリザは他の戦士に比べてパワーには劣るが、その分変身持続時間は長い。だが今やエリザに残された時間は、あと少ししかない。エリザの脳裏に、昨日の敗北の記憶がよぎった...。
エリザのクリスタルが赤く染まったのを見たゴドラ星人は、勝ち誇ったように怪獣に向かって叫んだ。
「奴ノエネルギーハ残リ少ナイゾ。行ケ、レッドキング!」
亜里沙はもう一丁の銃を腰のホルスターから引き抜くと、左右に銃を構えた。そして機械めがけて引き金を引いた。轟音と共に、大きな爆発が連続して起こり、機械群は勢い良く燃え始めた。
ゴドラ星人の命令にもかかわらず、レッドキングは岩を抱えたまま、動こうとしなかった。ムッとしたゴドラ星人は声を張り上げた。
「エエイ、何ヲシテイル! 早クソノ岩ヲ奴ニ投ゲロ!」
エリザが驚いたことに、レッドキングは抱えていた大岩を、思い切りゴドラ星人に投げつけた。
「ウガッ?!」
岩はゴドラ星人の胸に当たり、その身体を吹っ飛ばした。
思いも掛けなかったチャンスの到来に、エリザは一か八かの賭けに出た。
「スライサー!」
高く掲げた右手に、眩い光の輪が現れた。もしこれが外れたら、ただでさえ残り少ないエネルギーを更に消費してしまうかも知れない。だがエリザに他の選択肢は無かった。
右手から放たれた光輪は、見事にレッドキングの首を捕らえた。鈍い音と共に、レッドキングの頭が宙に飛んだ。
切断されたレッドキングの頭が地面に落ち、ゴドラ星人の足元に転がった。
「オオッ!」
その光景に衝撃を受けたゴドラ星人は、腰を落としたまま後ずさった。
ゆっくり近づいてくるエリザの姿に、ゴドラ星人は怯えた。
「...生命だけは助けてあげます。今すぐ故郷に帰りなさい...」
痛みに疼く乳房を庇いながら、エリザは天を指差した。
「...今回ハ我々ノ負ケダ。ダガコノ借リハ必ズ返ス。覚エテオケ!」
ゴドラ星人の姿は青白い光に包まれ、やがてかき消すように消滅した。
あれほど苦しんだ戦いも、済んでしまえばあっけなかった。だがエリザには勝利の歓びは感じられなかった。地面に横たわる怪獣の亡骸に、エリザの心は痛んだ
やがてクリスタルが激しく点滅し始め、警告音がより甲高い音に変わった。もう時間だった。エリザは静かに胸の前で腕を交差させた。
瞬時にエリザの皮膚は淡い光へと変わった。光は次第に薄れ、クリスタルの警告音も風に運ばれ、どこかに消えて行った...。
自分の姿に戻った絵里だったが、激しい眩暈で一歩も動くことはできなかった。
「おーい!大丈夫かあ」
絵里が顔を上げると、丘を走り降りてくるカタギリの姿が目に映った。その頭上を防衛軍の戦闘機が、轟音をたてて飛び去って行く。
「済まない、絵里。もう少し早く来れれば良かったんだが...」
「いいえ、隊長。もう大丈夫です...」
足をひきずりながら歩く2人の傍らを、防衛軍の装甲車が溶岩を踏み砕きながら走って行く。
「おーい!姉さ〜あぁん!」
稜線の向こうから、懐かしい、聞き慣れた声がした。走り寄って来る亜里沙の姿に、絵里は思わず安堵の溜息をついた。それまで堪えてきた感情が一挙に噴出し、絵里はそっと瞼の涙を拭った...。
制作後記

ようやく「SupremeSisters」第2話、製作を完了しました。製作途中からPC環境を一新したのですが、それで見習の技量が上がる筈もなく、質的な向上はありません(笑)それにしても制作開始からはや3ヶ月、夏がテーマの筈が、もう寒い時期になってます(爆)

タイトルから想像できるように、この話は初代マンの「怪獣無法地帯」がベースになっています。この「怪獣無法地帯」は、1話完結物なのに怪獣が4匹(怪奇植物を入れて5匹と数える場合もある)も使われてるというリッチなものでして、その後のTV作品ではなかなか見られません(既存着ぐるみの修正利用は予算と時間の関係上、仕方ないでしょう)

今回使用した怪獣フィギュアですが、まずマグラ似の怪獣フィギュアがないので、トゲトゲ感が似ている、CANDYさんのSbeezを使用しました。私はこの怪獣の出自は知らないのですが、ユニークな形状をしていて、面白い怪獣だと思います。突起物が多い関係上、データ量がやや大きめではありますが、フィギュアを複数並べても使えるデータ量にうまく抑えています。この辺はさすがにベテランの味です。怪獣フィギュアは他フィギュアと一緒に並べて使う場合がほとんどなので、このデータ量というのも重要な要素です。市販Poserフィギュアのなかには、この点に配慮されてないものが時々見られますが。Poserはポーズを付ける、動かす、ことが目的のソフトなので、商用フィギュアには、この点は外して欲しくないですね。

次にチャンドラーですが、これに似た怪獣フィギュアがないので早々に諦めました(笑)かわりに、南国風味のガバラに登場してもらいました。ゴジラシリーズのヤラレ役で、別名「いじめっこ怪獣」です(笑)使用しているフィギュアはA.SCOTTさんのものです。古いPoserユーザの方なら、この方のゴジラフィギュアに見覚えがあると思います。で、このSCOTTさんの作品、見習は個人的に好きなんですよね〜。フィギュア自体の出来は、今の技術水準から見れば、お世辞にも上手とは言えません。特にポーズ取らせると変な風になりますしね(笑)でもね、この人の作品って実に「らしさ」っていうか、雰囲気あるんですよ。生物のフィギュアは船や車のような工業製品と違い、正確な図面起こして、そこから3D化しただけでは「らしさ」って出ません。SCOTTさんの作品はどれも、子供時代の記憶を思い出させてくれるんですよ。そう、怪獣のソフビ人形片手に「ガォ〜」とかやっていた、あの感覚ですね。これは想像ですが、ご本人も相当な怪獣ファンだと思いますよ(笑)最近になってSCOTTさんの作品が、他の方のサイト(Poser服関係の)に再掲載されているので、Poser怪獣に関心のある方は早めにDLを。

レッドキングは有名過ぎるので、説明はいらないでしょう。使用しているフィギュアはウルフェさんの作品で、これもいい味出してます。ウルフェさんらしく、細かいところまで作りこんでますね。その反面、データ量が大き目で、見習のPC環境では少々きつかったです。でも出来自体はとっても良いので、少々操作が重いぐらいは我慢ですね(笑)

宇宙人はどうでもいいや、って訳にもいかないので一応書きます。今回登場は「ゴドラ星人」です。むやみに高笑いが多いのと、そのマヌケぶりを買って登場させました(笑)フィギュアはウルフェさんの作品で、特徴的なナマコ壁ボディが見事に表現されてます。ウルフェさんの作品はどれも良い出来なんで、見習としては逆に書くことがなくて困りますね(笑)

で、今回のストーリーなんですが、元ネタまんま再現では余りに芸が無いので、もう一人の主人公、亜里沙に暴れてもらいました(笑)悩んだのが亜里沙の服装をどうするかで、当初は季節にあわせて夏っぽいもの、と考えてました。ですがよく考えてみると、Poserの服装って、ディフォルトがヘソ出し、みたいなものがほとんどで季節感なんて出ません。迷った挙句、「水着まんまでいいや」という結論に(笑)全国約20人(笑)の亜里沙ファンの皆さんには申し訳ないのですが、今回も変身での戦闘シーンはありません。次回からいよいよ変身、責められますので、もうしばらくお待ちください。

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