秘 密 結 社 驚 愕 団
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- GALLARY / EPISODE 3
- 遙かなる故郷 -


Act1
警鐘
「準備ハ進ンデイルカ、同志ゼクス?」
モニターに映ったメフィラス星人の声が冷たく響いた。
「心配ハ御無用。怪獣モ既ニ育成ヲ完了。出撃準備ハ整イマシタ」
「ソレハ結構。今回ハ是非トモ成功サセネバナラン。ソノ為ニ、強力無比ナ怪獣ヲ送ッタノダカラナ」
「承知シテオリマス。必ズヤ、地球防衛軍ヲ壊滅サセテ御覧ニイレマス」
「ウム、吉報ヲ待ッテイルゾ...」
通信が切れた後の暗い画面を、ゼクス星人は複雑な心境で見つめた。与えられた任務は決して容易ではない。
目前に迫る怪獣の巨体を眺め、ゼクス星人は不安を押し殺した。
「心配ハ無イ...御前ノ能力ナラバ、地球全土スラ破壊可能ダ...」
防衛軍極東基地に、いつものように静かな朝が訪れた...。
「Kー3地区で原因不明の地下振動が、ここ数日激しくなっています」
モニタを見ながら首をかしげたのは、科学班から来た佐久間隊員である。
「...震源地は...大熊山か...」
腕を組んだカタギリが短く溜息をついた。
「確かあの近くには火山研究所があったな。連絡しておくから、君が行って話を聞いてきてくれ」
「了解です。ついでに現地調査もやりましょう」
「絵里、すまないが君も調査に同行してくれ」
外の温かさに比べ、研究所のホールはひんやりと涼しかった。
「御協力ありがとうございました!」
見送りに来た研究所員に、二人は敬礼を返した。
「特に新しい情報はありませんでしたね、サクマ隊員...」
「...うん、逆にそれが気になるんだ...」
うかない表情を浮かべるサクマに、絵里は小首をかしげた。
「一応大熊山の火口周辺を調べてみよう。運転を頼む」
「了解」
ハンドルを握った絵里がアクセルを踏み込むと、タイヤが小石を巻き上げた。
「ただいま〜」
亜里沙の左手には、食材がぎっしりと詰まった袋があった。今日は姉の絵里が勤務明けで帰宅する日である。久々の帰宅なので、亜里沙は料理を作って姉を驚かせるつもりだった。
「煮込んでたらいつの間にか、カレーになっちゃった。ま、いいか。姉貴カレー好きだし...」
「やっぱりだ。山の頂上が5メートル程移動してる...」
測量器を除き込みながらサクマが呟いた。その口調に不安が込められているのに、絵里は気付いた。
「...防衛軍メ、モウ此処ヲ嗅ギツケタカ...」
「如何シマスカ? 司令?」
「部下ヲ連レテ、アノ地球人共ヲ捕エロ。決シテ逃ガスナ!」
「よし、次は火口の南側を調べてみよう...」
サクマは測量データをコミュニケーターに入力しながら呟いた。
「わかりました...ん?...」
絵里は何者かが、密かに忍び寄って来る気配を感じた。
「伏せて!!」
絵里はサクマの肩を突き飛ばすと、素早くホルスターの銃を抜いた。よろめいたサクマの頭上を間一髪、レーザー光線がかすめる。
倒れながらサクマが振り向くと、少し離れた岩陰が歪んで見えた。サクマにはそれが何か判らなかったが、絵里の眼には2人の宇宙人の姿がはっきりと映っていた。絵里は冷静に狙いを付けると、トリガーを2回引いた。
「怪我はありませんか?」
「大丈夫だ。それにしても危なかったな...」
サクマはずれた眼鏡を直しながら首を降った。
「失敗シオッテ、馬鹿者共ガ!」
ゼクス星人は片手で握り拳をつくると、指令卓に素早く信号を送った。
「止ムヲ得ン。バードン、出撃ダ!」
死んだ宇宙人の皮膚は赤く、気味の悪い光沢をしていた。
「基地のデータバンクにも記録が無い。恐らく初めて地球に来た宇宙人だろう」
「侵略が目的?」
「恐らくな...でなければ、いきなり攻撃しては来ないさ」
その時、大地が激しく揺れ始めた。その激しさに、2人は思わずよろめいた。
「また地震だわ!」
「この揺れ方は尋常じゃないぞ、まるで火山の噴火だ!」
轟音と共に地面が裂け、地中から巨大な物体が姿を現した。
Act2
巨獣
「サクマ隊員! あれを!!」
絵里が指す彼方には、鳥に似た巨大な怪獣の姿があった。
「嫌な予感が当ったな...」
腰の銃を抜きながら、サクマが舌打ちした。
怪獣が巨体を揺らしながら一歩足を踏み出すたびに、台地が大きく震えた。
「絵里、すぐに車に積んであるロケットランチャーを取って来てくれ!」
「了解!」
小さくうなずくと、絵里はジープに向かって走り出した...。
「本部、応答願います!こちらサクマ。大熊山に怪獣が出現しました。データを送るので、至急チェック願います」
「こちらカタギリ、データは受信した。すぐにそちらに応援を送るから、待機せよ」
そう告げるとカタギリは素早く周波数を切り替えた。
「パトロール中のファルコン及びハウンドに告ぐ!怪獣が出現した。全速で大熊山へ急行せよ」
「こちらファルコン1、了解。目標に向かいます。EТAは約10分」
データリンクの座標を確認したタカハラは、自動操縦を解除して機首を南西に向けた。
ファルコンからの通信が、ミズキのヘッドホンにも届いた。ミズキはサクマの大熊山調査を支援する為、既に大熊山付近に来ていた。
「こちらハウンド02、EТAは約15分後」
ミズキが右足を踏み込むと、ハウンドのエンジンが唸りをあげた...。
サクマ達の存在に気がついた怪獣は、急にその動きを止めた。その巨大な口が開いたかと思うと、猛烈な火炎が吐き出される。
「ぐおっ!」
巨大な炎の柱が地面の溶岩を貫いて爆発し、強烈な爆風がサクマの身体を吹き飛ばした。
「あっ!」
轟音に振り向いた絵里の目に、放り投げられた人形のように空中を舞うサクマが映った。
地面に叩きつけられたサクマの身体は、そのままピクリとも動かない。
「サクマ隊員、しっかりして!」
駆け寄った絵里は激しく肩をゆすったが、意識が飛んでいるのか、サクマの反応はなかった。
「サクマ隊員が危ない...」
絵里は立ち上がると、右手を空に高く掲げて叫んだ。
「エリザチェンジ!」
怪獣の前にまばゆい光の渦が現れた。光は巨大な人の形へと変化し、やがて輝きが薄れると、それはエリザの姿となった。
「現レタナ...」
モニタを見つめるゼクス星人は、指令卓に向かって軽く手を振った。
「殺レ、バードン! 御前ノ持ッてテイル能力ヲ見セテヤレ!」
「...」
自分の倍はあろうかという怪獣の巨体に、エリザは本能的に危険を感じた。頭上から見下すその眼には、兇暴で邪悪な意思が感じ取れる。
「でも...ここで食い止めなければ...」
エリザは意を決して、怪獣に突っ込んだ。
「エイッ!」
勢い良く繰り出されたエリザの左拳が、怪獣の腹部を捉える。拳は半分ほど皮膚にめり込んで止まった。予想していなかったその感触に、エリザは驚いた。
続いて右の拳も怪獣の腹に突き出されたが、それらしい手応えはまったく無い。それはまるで分厚い硬質の発泡材を殴っているような感覚だった。
エリザは瞬時に身体を後方に反らすと、サイドキックを放った。ブーツのヒールが深々と怪獣の皮膚にめり込む。だが、それだけだった。
バードンはエリザの攻撃にも、まったく反応を示さない。怪獣は今の攻撃で、蚊に刺されたほどにも感じていないことは明らかだった。
「馬鹿メ...御前ノ貧弱ナ能力デ、ドコマデ戦エルカ、見セテモラオウ...」
ゼクス星人は愉快そうに、上半身を左右に揺らした。
「...こ、この怪獣...今までのとは全く違う...」
怪獣の底知れぬ力を感じ、エリザは激しく動揺した。
Act3
戦慄
一瞬たじろいだエリザだったが、首を左右に振って自らを奮い立たせた。
「絶対逃げない!」
エリザは思い切って怪獣に突進した。
だが今度は怪獣も待ち構えていた。大きな鉤爪がエリザの側頭部を捉えたかと思うと、エリザの身体は回転して後方に吹き飛んだ。
「うう...」
頭部を襲った強烈な一撃で、エリザは激しい目眩を起こしていた。倒れたまま動けないエリザに、ゆっくりと怪獣が接近して来る。
地面に突いた手に、大地の振動が感じられた。エリザが顔を上げると、怪獣の巨大な足の裏が降って来るのが見えた。
「あっ!」
力一杯踏み出された足を、エリザは身体をひねって間一髪でかわした。
「む...」
ようやく意識の戻ったサクマは、目の焦点を合わせるかのように小さく頭を振った。吹き飛ばされた衝撃で、体を動かすたびに全身の骨がきしんだ。
全身に走る痛みに堪えながら、エリザはなんとか身体を起こした。エリザは心の中で、先程の軽率な攻撃を悔んだ。
「落ち着くのよ...あせってはいけない...」
ようやく両脚で立ち上がったエリザを、再び鋭い鉤爪が襲う。エリザは素早く上半身を反らすと、これをかわした。
なおも怪獣は左右の鉤爪を交互に振いながら、エリザに襲いかかって来る。数回に渡ってこの攻撃を回避したエリザだったが、いつまでも避け続けることは無理だった。たまらずにエリザは、後方宙返りで鉤爪から逃れた。
怪獣との間合いを取ったものの、エリザは心の中で当惑していた。この敵に対しては、自分の拳や蹴りは全く効果がなかった。それに対し、相手の鉤爪による一撃は強力過ぎる。
「...接近戦では勝てない...」
エリザは武器を使うことを決断した。
「あれは...来てくれたのか...」
エリザの姿に安堵したサクマは、まだ自由にならない脚に力を込めて立ち上がった。
「スライサー!」
空に高く掲げたエリザの右手に、まばゆく輝く光輪が現れた。
「エイッ!!」
エリザは掛け声と共に、光輪を怪獣目掛けて投げつけた。
光輪が回転しながら飛翔し、怪獣の胴体に激突した。その瞬間鈍い音と共に、輪は粉々に砕け散った。
「う...」
飛散したスライサーは地面に落ちると、ゆっくりと消滅していった。それを見たエリザは激しく動揺した。
「愚カナ...ソンナ玩具ガ通用スルトデモ思ッテイルノカ...」
怪獣バードンが見せた能力の片鱗に、ゼクス星人がほくそ笑んだ。
「バードン、タップリト遊ンデヤレ!」
突然、怪獣が巨大なクチバシを開いた。エリザは本能的に横に飛び、襲ってきた火炎を避けた。かろうじて直撃は回避したものの、猛烈な高温でエリザの皮膚がチクチクと傷んだ。
「くっ...」
怪獣の意外な攻撃に、エリザは奥歯を噛みしめた。接近戦では勝ち目が無く、かと言って距離をおいても、今のような火炎攻撃が飛んで来る。エリザは次第に自分が追い詰められて行くように感じた。
エリザは最後の武器を使うことを決心した。怪獣の生命を奪うことは望まないが、このままでは自分が倒されてしまう。
「レディ、フラッシュ!」
エリザは胸の前で両腕を組み、全身のエネルギーを集中した。
「セット!」
続いて両手を天空に掲げたエリザの両腕に、大量のエネルギーが集約される。この間にエリザは5秒という長い時間を要するが、幸いにも怪獣は妨害してこなかった。
十分にエネルギーが蓄えられたのを感じたエリザは、両腕でゆっくりと十字を組んだ。エリザの手から放たれた眩い光の帯が、瞬時に怪獣の胴体を直撃する。
光線は数秒の間怪獣を捉え続けたが、いつものような大爆発は起こらなかった。蓄積していたエネルギーが消滅すると、光の帯もかき消すように消滅した。怪獣は光線の命中した腹部を、不思議そうに覗き込んだ。
「ま...まさか、こんな...」
激しく動揺する心の中で、エリザの困惑は恐怖へと変わった。
「スペシウム光線にも耐えるとは...」
サクマは手中にあるアナライザーを見て驚愕した。明らかにとてつもない量のエネルギー発生が記録されているのだが、それを受けた怪獣には何の効果も無い。
「信じられん。奴の皮膚は何でできてるんだ?」
薄暗い空間に、ゼクス星人の押し殺した笑い声が響いた。
「ソレマデカ、エリザ? 最早使用デキル武器モ皆無ダナ...」
ゼクス星人は満足そうに、両方の手を組んだ。
「相当動揺シテイルナ...額ノ水晶モ黄色ニ変ワッタ...」
「...一体...これは...」
今、自分の目の前で起こった事が、エリザには信じられなかった。この怪獣にはスライサーだけでなく、最後の頼みの綱のスペシウム光線すら効かないのだ。
「どうすれば...勝てるの...」
限られた貴重なエネルギーを失ったことで、エリザの胸にあるクリスタルは既に警戒色を放っていた。
Act4
蹂躙
カタギリは操作卓に並ぶ幾つもの数値を、素早く眼で追った。あと数分でホークが現場に到着するのは判っていたが、何か説明のつかない不安が脳裏をよぎる。
「隊長、先程要請サレタ過去ノ防衛記録デス」
通信士のベティが敬礼しながら、情報端末を差し出した。
「有難う」
カタギリは集中操作卓から眼を離さず、右手を出して受け取った。
「何だ、これは...」
端末に表示された記録を見て、カタギリは思わず唸った。
「隊長、サクマ隊員からです...」
当直通信士のサヤカは、緊張したカタギリの顔に言い知れぬ不安を覚えた。
「隊長、この怪獣はとてつもなく強力です。エリザの超兵器が全く効きません。このままではエリザが危険です...」
苦戦するエリザの姿に、思わずサクマの声も大きくなった。
エネルギーを大量に消費したエリザは、まだ満足に身体を動かすことができなかった。短い時間でも身体を休めることができれば、極度の疲労でも少しは回復はできる。だが今のエリザにはそれすら許されなかった。
ようやく片膝をついたエリザを、怪獣の鋭い鉤爪が襲う。自分の額目掛けて突き出された爪を、エリザは間一髪で抑えた。
怪獣が腕を強く振ると、エリザの身体が宙を舞った。地球上で8千トン近くもある筈のエリザの体重も、この怪獣の前ではまるで赤子も同然だった。
「いいかサクマ、よく聞け。その怪獣はバードンだ。かつて地球を守った光の戦士達をも倒した怪物だ。絶対に単独攻撃はするな、味方の支援が来るまで監視を続けろ」
カタギリは一呼吸置いた。
「バードンには光の戦士の超兵器も効かん。そして光の戦士すら倒す猛毒を持っている...」
「つ..強すぎる...」
怪獣との距離を置かなければ、敗北するのは明白だった。だがエリザの両脚はまだ言うことをきかない。エリザは必死に両腕を使って地面を這い始めた。
だが怪獣から離脱することは不可能だった。怪獣はエリザに追つくと、その巨大なクチバシを勢いよくエリザの太腿に突き立てた。その鋭利な先端が、強固なエリザの皮膚を突き破って大腿骨の付近に達した。
「あうっ!」
余りの激痛に、エリザは思わず声をあげる。
「まずい...もし毒がエリザの体内に入ったら...」
サクマは毒蛇が獲物を狩るところを見たことが無かった。しかし今、目前に繰り広げられている光景がそれに違いないと感じた。
「エイッ!」
エリザは思いきり身体を捻って、無傷な左脚で怪獣の顔を蹴った。反撃を予想していなかったのか、怯んだ怪獣は2、3歩後退した。
若干の猶予を得たエリザは、意志の力を振り絞って肩膝を立てた。だが疲労は一向に回復せず、エリザの両肩は細かく上下していた。
「何とか...何とかしなければ...」
まだ震える両脚を酷使することで、エリザはようやく立ち上がった。だが強力なスペシウム光線も、これまで幾つもの危機を救ってくれたスライサーも、この怪獣には全く効かない。一体どうすればこの怪獣を倒せるのか、今まで感じたことの無い焦燥が、エリザの心を激しく掻き乱した。
「う...」
それまでは鈍痛しか感じなかった太腿の傷が、突如として激痛に変わった。右の太腿全体が熱く燃えるように脈動を繰り返す。エリザはその高熱が急速に下腹部まで広がって行くのを感じた。
「ソノ毒ハ分子構造ヲ変換シテイテモ、効果ヲ発揮スル...スグニ指一本動カス事モデキナクナル...」
ゼクス星人は愉快そうに何度も頷いた。
「モガクガイイ..エリザ、御前ハ苦痛ニノタウチ回リナガラ死ヌノダ...」
全く動けなくなったエリザの顔を、怪獣の鉤爪が薙ぎ払った。その強烈な一撃に、エリザの身体は半回転して後方に吹き飛んだ。
毒はもの凄い速さで下腹部から上半身へと駆け上って行く。それはまるで邪悪な意思を持っているかのように、ひたすらエリザの心臓を目指していた。分子構造転換をしている現状なら、心臓が停止しても仮死状態になるだけで死ぬことは無い。だがもし毒が脳にまで到達すれば、エリザは再起不能となる。エリザ自身、そのことは理解していた。だが迫りくる恐怖を払い退ける手段は、今のエリザには無かった。
それでもエリザは、なおも抗うかのように必死に上半身を起こした。
「ここで私が倒れたら..地球の人々は...一体どうなるの...」
だが健気なエリザの想いも、無情に打ち砕かれた。胸のクリスタルが赤く染まり、警告音を発し始めたのだ。
「なぜ?...は..早すぎる...」
侵入した毒を無効化すべく、エリザの体内では無数の細胞が毒に抵抗していた。しかしそうすることで、エリザのエネルギーを大量に消費していたのだ。
ほとんど身動きの取れなくなったエリザの胸に、怪獣の巨大な足が落とされた。咄嗟にエリザは怪獣の足を掴み、なんとか踏み付けられるのを防いだ。
「馬鹿メ...毒ガ廻ッテモ、エネルギーガ尽キテモ、イズレニシロ終ワリダ...」
押し殺したゼクス星人の笑い声が、暗い空間に響いた。
「愚カナ小娘ヨ...苦痛ト恐怖ヲ存分ニ味ウガ良イ...」
3万トンをゆうに超える怪獣の体重を、エリザは必死で堪えた。その細い両腕が猛烈な負担に堪えかねて、ブルブルと小刻みに震える。しかし既に毒が心臓付近まで達したエリザには、もはや抵抗する力は残されていなかった。両腕が力を失ってゆくに伴って、怪獣の足爪がエリザの胸に徐々に迫って来る。必死の抵抗も空しく、遂に冷たい足爪がエリザの乳房に触れた。
それでもエリザは抵抗を止めなかった。怪獣の足爪はエリザの乳房を捉え、既にこれを圧迫していた。
「くっ...」
毒の影響か、それともエネルギー量が低下した為なのか、エリザは意識が次第に薄れて行くのを感じた。自分を見降ろしている怪獣の顔の輪郭が、次第にボヤけて行く。
そしてその時が訪れた。弱まった抵抗を跳ね除け、遂に怪獣の巨大な足がエリザの胸に落ちた。怪獣の重量の約半分が、エリザの胸を襲う。エリザの華奢な身体では、到底この圧力には抵抗できなかった。鈍い音と共に肋骨の半分が折れ、エリザの内蔵に突き刺さった。エリザの口から血飛沫が吹きあがり、踏み付けられた胸の上に散った。
激痛が去ると、エリザの意識は急速に遠のいて行った。それでも胸のクリスタルは警告音を発し続け、エリザに変身の解除を促していた。だがその警告も、今のエリザには無意味だった。
Act5
敗北
「待たせたな、騎兵隊ただいま参上!」
サクマのレシーバーに大きな声が響いた。
「タカハラ、油断するな。相手は強敵だぞ!」
「了解、わかってるって」
そう言うとタカハラはコンピュータを対地攻撃モードに切り替えた。
「奴にはエリザの超兵器も効かなかった。通常の武器じゃ、歯が立たないんだ」
「何だって? 本当か、サクマ?」
「支援の防衛軍が到着するまで、なんとか時間を稼ぐしかない」
「了解! やってみるさ...」
サクマは厳しい表情のまま、低空を接近してくる機体を見つめた。
タカハラが放ったロケット弾は、初弾から全弾が怪獣の巨体に命中した。だが小型のロケット弾程度では、怪獣は微動だにしなかった。
「化け物か、こいつ!」
怪獣の脇をかすめながら、タカハラが毒付いた。その足下に踏み付けられたエリザは、全く動く様子が見えない。
「こちらミズキ、目標地点に到着。すぐに応援に向かいます」
ポインターから降りたミズキの目に、驚きの光景が飛びこんできた。慌ててミズキは、稜線の向こうに見えるサクマの方に走りだした。
「サクマ隊員!」
「おう、ミズキ。エリザが危険だ。すぐに援護しないと!」
そういってサクマは足元のロケットランチャーを拾い上げた。
傍を飛翔して行くエンジンの爆音が、遠くなりかけていたエリザの意識を呼び戻した。
「...来て..くれた...」
「みんなが..私のために...」
毒が心臓に達していたエリザは、既に手足の感覚が無かった。それでもエリザはなんとか立ち上がろうと、全身を使って必死にもがいた。
「あの岩陰から狙おう、急げ!」
ロケットランチャーを抱えたサクマは、大きな花崗岩の影へと走った。その後ろを弾薬箱を持ったミズキが追う。
「地球人ノ蠅メ...バードン、ソイツヲ叩キ落トシテシマエ!」
バードンは旋回して接近してくるファルコンに向かって、巨大なクチバシを開く。そして巨大な火炎の渦が天空めがけて放たれた。炎は瞬時にして接近してくるファルコンを包んだ。
「くそ、やられた! こちらタカハラ、脱出する!!」
インターコムに怒鳴ったタカハラは、緊急脱出装置レバーを思い切り引いた。
「見て!」
ミズキの指す方向を見ると、パラシュートが低空で開き、風に流されて行くのが見えた。
「チクショウ...」
サクマは奥歯を噛みしめた。
サクマはランチャーを怪獣に向けてトリガーを引いた。これだけの巨体になると、命中精度の低い携行ロケットランチャーでも、目標の外れようがない。だが火花は派手に散るものの、怪獣に対しては全く効果が無いことは明らかだった。
ようやく両膝を付いたエリザだったが、無理に身体を動かした為に、折れた肋骨が一斉に悲鳴をあげた。
「うっ...」
予想していなかった激痛が全身に走り、エリザは思わず胸を押さえた。
「フム...シブトイ奴ダ。マダ死ンデイナカッタノカ...」
ゼクス星人は首の辺りを掻き切る仕草をした。
「トドメダ、バードン! ソノ小娘ヲ始末シテシマエ!!」
「..うう....」
震える脚に意識を集中させて、エリザはなんとか立ち上がった。しかしその代償として身体は激痛を生じさせた。エリザの歪んだ口元から、苦痛の喘ぎ声が発せられる。エネルギー低下による疲労と神経を麻痺させる毒、それに折れた肋骨による内出血が、エリザの身体を苛んだ。激しい痛みに震えるエリザは、背後に迫ってくる怪獣に気が付かなかった。
怪獣はその巨大なクチバシを、勢いよくエリザの背中に突き立てた。この強烈な一撃で、鋭いクチバシの先端はエリザの皮膚と背筋を突き破り、背骨を打ち砕いた。エリザの口からは、赤い鮮血がほとばしる。
「エリザ?!」
衝撃的な光景に、ミズキは一瞬凍りついた。だがそれはサクマも同じだった。
怪獣はエリザの腰を抱えると、空中高く持ち上げた。それと同時にエリザの背に突刺したクチバシを、更に奥深くへと差し入れる。エリザの背骨を完全に砕いたクチバシは、反対側の腹部まで達した。エリザの口から天空に向けて、再び鮮血の噴水が舞い上がる。傷口からは毒に侵された血液が、大きな泡となって吹き出した。
「うっ...うう...」
エリザの意識は再び深淵に向かって落ち始めた。意識が遠くなって行くに従い、それまで身体を蝕んでいた激痛も薄れて行くように感じられた。
サクマとミズキの視線の向こうには、串刺しにされて身体を震せているエリザの姿があった。それはまるで残忍な公開処刑のようであった。サクマは拳を握り締め、どうすることもできない悔しさを押し殺した。
「許せない!」
ミズキが怒りに身を震わせながら、腰のレーザー銃に手を伸ばした。だがそれをサクマが手で制した。
「やめろ、ミズキ。今の俺達ではどうすることもできない。無駄死に意味は無いんだ...」
普段は冷静なサクマの顔に、憤怒の表情が浮かんでいた。ミズキはそっと銃から手を離した。
エリザにとって、避けることのできない終末が訪れた。しかしそれはエネルギーの完全喪失ではなく、毒に侵された心臓が停止したことによるものだった。突然胸のクリスタルから赤い光が消え、それまで鳴り響いていた警告音が途絶えると、エリザの頭がガックリと下に傾いた。
周囲が静まり返ったことに気が付いた怪獣は、頭を振ってエリザの身体を離した。エリザは前のめりに地面に崩れ落ちた。前後の傷口から勢い良く血液が流れ出して地面に零れ落ちた。地面の血溜は急速に広がって行った。
「コレデ片付イタナ。後ハ防衛軍ノ基地ヲ叩キ潰シテ行クダケダ...」
薄暗い空間に、ゼクス星人の低い笑い声が響いた。
仮死状態になったエリザの身体に変化が起こっていた。心臓の停止を知ったエリザの脳は、残った僅かなエネルギーを使って分子構造の変換を促した。エリザの身体は次第に薄れて行き、最後には霞んで見えなくなった。
「エリザは敗れて、姿が見えなくなりました。ファルコンもやられてしまい、もう打つ手がありません」
サクマは無念の想いを押し殺しながら、努めて冷静に報告した。
「了解した。全員一旦基地に戻れ、作戦を練り直す必要がある」
カタギリの声は普段通りに落ち着いていた。
「エリ隊員の姿が見当たりません。負傷しているかも知れないので、捜索してから帰還します」
「コレデ邪魔者ハ片付イタ、次ノ作戦ダ。全員直チニ第2基地ヘ移動スル!」
「エリザヲ見失イマシタガ、イカガシマスカ...」
「放ッテ置ケ...モハヤ我々ノ脅威デハ無イ...」
怪獣は頭を起こすと両翼を広げ、空に舞い上がった。南に飛び去って行く怪獣を見つめながら、サクマが呟いた。
「この借りは必ず返してやる...」
「ええ、必ず!」
ミズキは固い表情のまま、深く頷いた。
Act6
使者
「方位30度の方向に生体反応があります。距離は約200メートル」
「絵里か?」
「わかりませんが、反応は強いです」
2人は歩みを早めて、探知機の示す地点へと急いだ。
「伏せろ!」
突然、サクマが身をかがめた。
「まずいな...」
ミズキが岩陰からそっと身を乗り出してみると、少し先に地面に伏している絵里が見えた。だがその傍らには、異形のエイリアンが2人、絵里を取り囲んで見降ろしている。
岩陰のミズキに気が付いたのか、1人の宇宙人が甲高い声で叫んだ。そしてこちらを目掛けて、緑色の怪光を放って来た。
「くそっ! 火力が違いすぎる」
エイリアンの怪光線は2人が隠れている岩に当り、轟音と共に破片が散る。途切れることなく飛来する光線に、サクマもミズキも頭を上げることすらできなかった。
その時サクマは、背後から聞き慣れぬ機械音が迫ってくるのに気付いた。振り返ると、頭上から大きな物体が覆いかぶさってくるところだった。
「敵の宇宙船?」
敵に前後から挟まれた形になったサクマは、自分の命もこれまでかと観念した。
だが意外な事に、宇宙船はサクマ達の頭上を超え、エイリアン達の方に進んで行く。そして宇宙船から赤い色をした光線が発射され、正確にエイリアン達の身体を貫いた。直撃を喰らった宇宙人達の身体は瞬時にして消滅した。
「サクマ隊員! あれを!」
「む?...」
宇宙船は伏せたまま動かない絵里の上で静止した。そしてその胴体から発せられた眩い光の筋が、絵里の身体を包んだ。絵里の身体はゆっくりと上方に持ち上げられ、やがて宇宙船の中へと吸い込まれた。
絵里を乗せた宇宙船は、南の方角を目指して悠然と飛び去って行った。サクマとミズキは何もできずに、ただ呆然とこれを見送ることしかできなかった。
大武山での事件から数時間が経ち、防衛軍極東基地にも夕暮れが訪れた。サクマ達は基地に無事帰還したものの、重苦しい空気が基地全体を包んでいた。
「ええ、私はミズキです。うん、そうそう、あの時市民病院にいた...」
電話に出たミズキの表情が曇ったことに、カタギリは気付いた。
「あなたのお姉さんは今、任務中なの。規則でこれ以上細かな事は言えないのよ、ごめんなさい」
「わかりました、どうも有難うございました。失礼します...」
亜里沙の耳に、電話が切れる音を聞こえた。言いようのない不安が、亜里沙の心に湧き起こっていた。
「広報に対応させてもよかったんじゃないか、ミズキ?」
「ええ。でも亜里沙ちゃんは顔見知りですし、広報から姉が宇宙人に誘拐されて行方不明だなんて伝えられたら...」
「うむ、そうだな...」
「どうして私が料理作った日に限って、いつもこうなんだろ...」
不安と寂しさを紛らわすかのように、亜里沙は独り言を漏らした。
「な、何よこれ?!」
突然亜里沙の目の前に、目も眩むようなまばゆい光が現れた。ビックリした亜里沙が目を細めて光を見つめていると、光は次第に薄れて行き、やがて人間の少女に似た姿に変わった。
「私ノ名ハ..アリッサ。驚カセテ御免ナサイ」
光の少女が発した言葉に、亜里沙はまたも驚いた。
「あなた日本語が話せるの? ひょっとして、あなたがエリザ?」
「イイエ、エリザハ私ノ姉デス。姉ハ怪獣トノ戦イデ、酷イ傷ヲ負ッテシマイマシタ。貴女の御姉様モ...」
「姉貴が!...それで生きているの?」
「死ンデハイマセン。デモ助ケル為ニハ、貴女ノ協力ガ必要デス。御願イシマス」
「そりゃ、姉貴を助ける為なら何でもするよ。それにあなたの姉さんもね」
「有難ウ、亜里沙。デハ御姉様ノ所ヘ行キマショウ...」
そう言うと光の少女は、掌を亜里沙に向けた。そこから淡い光の渦が伸びて、亜里沙の身体を包んだ。亜里沙は一瞬、目眩を感じたかと思うと、いつの間にか自分が見知らぬ場所に居ることに気が付いた。
「姉貴!」
不可思議な装置の中に横たわる姉の絵里を見て、亜里沙は歓喜の声を上げた。だが絵里はピクリとも動かなかった。
「貴女ノ御姉様ハ、私ノ姉ト精神融合シテイタ為ニ、コノ様ナ有様ニ....」
亜里沙の背後に、知らぬ間に光の少女が立っていた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ姉貴がエリザだったってこと?!」
「ソウデス。コノ地球デハ私達ハ長イ時間、実体化シテイル事ガデキマセン。ソノ為ニハ地球人ノ協力者ガ必要ナノデス」
「さっき言ってた協力って、私があなたと融合するってこと?」
「決定権ハ貴女ニ有リマス。強制デハアリマセン...」
「でもさ、私が断ったら姉貴もあなたの姉さんも生き返らないんでしょう?」
「森羅万象、全テハ運命ナノデス。断ッタカラト言ッテ、貴女ヲ恨ミハシマセン」
「...そっか、わかった。いいよ、私の身体を使って頂戴。まあ偶然とは言え、姉妹揃って名前が似てるっていうのも何かの縁だろうし」
「有難ウ、亜里沙。名前ノ事ハ決シテ偶然デハアリマセン。イズレ貴女ニモ解ルデショウ」
光の少女は小さく笑った。
「デハ融合ヲ始メマス、精神ヲ集中シテ下サイ...」
少女の姿は序々に薄くなり、掻き消すように消えた。次の瞬間、宙から大量の光の雨が亜里沙に降り注いだ。
全ては瞬時に終わった。亜里沙が我を取り戻すと、胸のペンダントが青い光を放っていることに気が付いた。
「私ノ能力ガ必要ニナッタ時、胸ノペンダントヲ使イナサイ」
心の内でアリッサの声が響いた。
「貴女ト私ノ精神ガ一致シタ時ダケ、貴女ハ私ノ能力を得ル事ガデキマス。忘レナイデ...」
「そだ、姉貴助けなきゃ。あ、エリザもか...」
亜里沙は不可思議な装置の脇に付いている、制御盤に向かった。初めて見る機械なのに、亜里沙は戸惑うこと無く操作をした。その知識がアリッサのものである事に、今更ながら亜里沙は気付いた。
操作が終わると、装置はしばらくの間鈍い音を立てていた。しばらくすると音が止み、装置のガラスが片方にスライドして行き、装置の中へと消えた。
「...こ..ここはどこ?...」
装置の上で絵里がゆっくりと上半身を起こした。
「私は...確か怪獣に...」
絵里は怪獣に突き刺された胸を見下ろしたが、傷はどこにも見当たらなかった。砕けた背骨や肋骨も、そして苦しめられた毒の影響も、全てが消え失せていた。
「ここは宇宙船の中。姉貴を回収するのに、結構苦労したんだからね...」
「亜里沙! 何であなたがここに...」
亜里沙は驚く姉の顔を見て、ニッコリと笑った。
「あ、あなたは、アリッサ? おお、なんてことを...」
余りの驚きに、絵里の意識はエリザの自我が取って替わった。
「アリッサ! あなたは自分のしたことが分かってるの?」
怒りの表情を浮かべた絵里は、まだよろめく足で亜里沙に近付いた。
「いけないわ、アリッサ。異星人との安易な精神融合は、厳しく禁じられているの」
「言われなくても知ってるよ、そんなこと。強制したんじゃなくて、亜里沙自身が望んだのよ!」
亜里沙の意識も、アリッサのそれに変わっていた。
「もしあなたに何かあったら、亜里沙の生命も危なくなるのよ。ね、お願い。亜里沙から離れて頂戴」
姉の厳しい言葉に、亜里沙は横を向いて泣き出した。
「わかってる...でも、私も亜里沙も、苦しんでいる姉さんをどうしても助けたかったんだ...だから..だから...」
泣きじゃくる亜里沙の肩に、絵里はそっと手を乗せた。
「...わかった...もう泣かないで、お願いだから...」
絵里は亜里沙を抱き締め、やさしくその頭を撫でた。絵里の温かく優しい心が、憤るエリザの心を包んだ。広大な宇宙に血の通う家族がたった一人の妹だけという境遇は、絵里もエリザも同じだった。そしてたった一人の姉を慕う気持ちは、亜里沙もアリッサも同じであった。
「さ、戻りましょう。私達がやるべきことが待ってるわ...」
絵里は亜里沙の手を取ると、ドアの方へと誘った。絵里の目から一筋の涙が零れ落ちたが、亜里沙に悟られまいと、敢えて顔を向けなかった。
Act7
反攻
「我々が目撃した怪獣はバードンで、非常に強力です。防衛軍の記録によれば、かつて光の戦士達をも倒したということです」
「うむ、俺も記録は見た。だが問題なのはこいつが人間並びに家畜を捕食するという点だ。我々にこいつを倒せる手段があるのか?」
「現在我々が保有している武器では無理です。奴の皮膚は我々のレーザー兵器だけでなく、光の戦士達の武器にさえ耐える能力があります。むしろ見込みがありそうなのは高質量投射兵器でしょう。ただしこれはまだ実験段階で、実用化にはあと数年はかかるかと...」
それまで二人のやりとりを、じっと聞いていたミズキが口をはさんだ。
「記録によれば、バードンを火山のマグマ溜りの中に落して倒したとあります。そんな強力な怪獣がマグマの熱程度で死ぬのでしょうか?」
「良い質問だ、ミズキ。実はそこにバードンの弱点が潜んでいる気がするんだ」
「というと?」
カタギリが眉をひそめた。
「証拠を示すデータが無いので断言はできませんが、ひとつの仮説として、バードンの成体は生命維持に非常に大量のエネルギーを消費するのかも知れません。過去にバードンを倒したというのは検証不足のような気がしますね。もしかしたらバードンが自身の生命存続ではなく、子孫を残す選択したのではないでしょうか」
「奴は兇暴なうえに肉食だ。想定される人的被害を堪え忍んで、怪獣の寿命が尽きるのを待てというのか? それじゃ司令はおろか、防衛会議の連中を説得できんぞ...」
「うまく行く保障はありませんが、他に手がなければ以前と同じ方法でやってみたらどうでしょうか? ひょっとしたら過去と同じ結果が得られるかも...」
「何もしないよりはマシか...」
カタギリは目を細め、低く唸った。
「その罠を仕掛ける場所ですが、南九州佐田岬沖の薩摩硫黄島が、昨年末に新しい噴火を起こしています。もっとも、マグマ溜りからの噴出口を広げる為には爆砕が必要ですが。それと誘き寄せる為の家畜ですね...」
「他に手段は無いようだな...よし、司令に話して必要な調整をしてもらう。作戦の準備については、サクマ、君が策定してくれ」
作戦室に戻ったカタギリとミズキは、そこに居た絵里の姿を見て驚いた。
「絵里! 無事だったのか。何故すぐに連絡を寄こさなかったんだ?」
「申し訳ありません、隊長。通信機が故障していて、連絡ができませんでした...」
絵里は少しだけ嘘をついた。
「...そうか、まあ以降は注意するんだな」
カタギリもそれ以上は追及しなかった。
「でも宇宙人に拉致されて、よく無事で脱出できたわね?」
「私、気を失っていて、良くわかりません。もしかしたら死んだものと勘違いしたのかも...」
「まあ、とにかく無事でなによりだ。タカハラが緊急脱出で足を骨折、カトウは月基地で、とても手が足りん...」
無数の大型ヘリコプターが島の上空を飛び交っていた。本土から島に向かうヘリの下には、牛が入った網が吊下されている。ヘリは指示された目標地点で、荷物を切り離すと、全速で飛び去って行く。
「こちらエリアG、絵里。最後の支援ヘリが到着しました。これで90頭目になります...」
双眼鏡をのぞく絵里の目に、火山灰の痩せた草原に放たれた大量の牛達が見えた。食用になる草が殆ど無いこの島では、牛達の生命も長くは持たない。そう思うと絵里の心は痛んだ。
サクマの脇を防衛軍の工兵達が、空になった爆薬箱を持って足早に通り過ぎて行く。これで噴火口周辺におよそ1トンもの高性能爆薬が設置されたことになる。
「こちらエリアB、サクマ。噴火口の爆破準備完了」
点火班を指揮するサクマの声は、少し緊張していた。
「こちらカタギリ。怪獣が付近の長距離レーダー施設を襲ったという連絡が入った。各員レベル2で待機せよ。なお私が解除を命じるまで、以後無線封鎖とする」
カタギリの耳に各監視哨からの確認応答が、次々と届く。傍らのミズキは心配そうな顔で上空を見上げた。
空を見上げていた絵里の傍らに、一頭の牝牛が近づいてきた。物珍しそうに絵里を見つめる牝牛の顔を、絵里はそっと撫でた。
「ごめんね、私達のせいでこんな目に合わせて。でも全力であなた達を守るから、心配しないで...」
モニタに映る破壊されたレーダー基地の残骸に、ゼクス星人は満足そうに頷いた。
「コレデ防衛軍極東基地ノ監視網ニ穴ガ開イタ...次ハイヨイヨ極東基地ヲ強襲ダ!」
その時、部下の一人が小走りに近づいてくる。
「司令! バードンノエネルギー代謝率ガ警戒域マデ低下シマシタ」
「クソッ、コレカラト言ウ時ニ...仕方ガ無イ。付近ニ食糧源ハ存在スルノカ?」
「アリマス。エネルギー量トシテハ十分デスシ、付近ニ防衛軍モ探知シテイマセン」
「ウム、バードンヲソコニ向カワセロ!」
「隊長、あれを!」
双眼鏡で東の空を監視していたミズキが甲高い声を上げた。
「来たな...引っ掛かったぞ」
カタギリはインターコムのスイッチを入れると、冷静に言葉を発した。
「怪獣来襲。怪獣が着地したら全軍一斉に攻撃開始。何としても火口に追い上げろ」
「来た...」
絵里は胸元のペンダントを握り締めると、精神を集中して思念波を送った。
「...亜里沙...お願い、私を助けて...」
亜里沙は胸元が熱くなったのを感じ、思わず首を下げた。見るとペンダントが青い光を放っている。
「姉貴...判った、すぐ行くよ!」
亜里沙は屋上を目指して駈け出した。
既に放課後に入っていたこともあり、廊下の人影はまばらだった。
「ちょっと、ゴメン!!」
亜里沙は声を上げながら、屋上へと続く階段目指して疾走した。
非常階段を全力で駆け上がった亜里沙は、勢いよくドアを跳ね開けた。幸い屋上に人影は見えない。
「...両手ヲ高ク掲ゲルノデス...」
どこからともなくアリッサの声が響き、亜里沙は無意識に両手を空に向けた。突如現れた光の渦が、瞬時に亜里沙の身体を包んだ。
「小隊長、榴弾も徹甲弾も全く効果がありません! 後退させて下さい!!」
「黙れ、いいから打ち続けろ! 何としても奴を火口まで追い上げるんだ!」
つるべ打ちに放つ戦車隊の砲撃は、巨大な怪獣に全て命中しているのだが、怪獣に怯むそぶりは全く見えなかった。
インターコムから流れる戦車隊員達の怒号と苦痛の悲鳴が、絵里の心を苛んだ。だが胸のペンダントはいつものように青い光を放っているものの、光り輝くことはなかった。
「お願い、エリザ。変身させて!」
次々と炎上して行く戦車を見つめながら、絵里は強く拳を握り締めた。
「...今ハ耐エルノデス。私一人デハ、アノ怪獣ヲ倒ス事ハデキナイ...」
絵里の心の中で、エリザの苦汁に満ちた声が響いた。
「フム、罠ヲ仕掛ケタツモリカ地球人メ...」
ゼクス星人ハ低く笑った。
「イイダロウ..バードン、地球人共ヲ御前ノ餌ニスルガ良イ!」
必死の抵抗も空しく、機甲大隊はバードンに蹂躙された。幸運にも何とか生き延びた兵士達が、撃破された車両から脱出しては後方へと走り去って行く。だが足に負傷を負った兵士が一人、後退中に転倒して動けなくなった。
「衛生兵!」
倒れた兵士は必至で助けを求めたが、誰もが背後に迫る巨獣から逃げることに精一杯で、助けに駆け寄る者は皆無だった。
その時、絵里の胸元のペンダントが明るく輝き始めた。
「ありがとう...」
死の危険を犯す決意をしたエリザに、絵里は心から感謝した。
「エリザ・チェンジ!」
掛け声と共に右手を空に掲げた絵里の周囲に光の渦が出現し、絵里の身体は眩い光の中に飲み込まれていった...。
Act8
勝利
突如出現したエリザに、バードンはその歩みを止めた。しかし空腹を満たす機会を妨げられたその眼には、怒りの感情が見て取れる。
「シブトイ奴メ...ダガ今度コソ終ワリダ。バードン、奴ヲ引キ裂イテシマエ!」
自分に倒せる相手ではないことは、エリザにも解っていた。だがここで戦わなければ、多くの地球人が死ぬ。エリザは意を決して巨大な怪獣に突進した。
「隊長、あれは!」
「エリザだ... 生きていたのか...」
カタギリは驚くと同時に安堵の溜息をついた。重苦しい闇に閉ざされていたカタギリの心に、一筋の希望の光が差し込んだ。
あらん限りの力を込めたパンチは、またもバードンの厚い皮膚に跳ね返される。それでもエリザは果敢にキックで攻勢をかけた。
だが力の差だけはどうにもならない。怒ったバードンの一撃で、エリザの身体は宙に舞った。
地面に叩きつけられた衝撃で、エリザの身体は激しく痙攣した。外傷は治癒していても、短時間では骨と内臓の傷は完治していなかった。苦痛に喘ぎながら、エリザは何とか立ち上がろうと必死にもがいた。
「援護しましょう、隊長!このままでは、またやられてしまいます!」
ミズキがインターコムに向かって叫んだ。
「待て! まだ早い...」
カタギリは感情を押し殺して言った。
突然轟音と共に、バードンの身体に爆発の火花が走った。すぐその脇を、ファルコンが唸りを上げて飛び去って行く。
「お待たせしました、隊長!」
カタギリのインターコムに、タカハラの快活な声が響いた。
「タカハラか? 足の怪我はもう良いのか?」
「こいつを飛ばすのに、足は1本あれば十分でさあ」
痛みに震える両膝をなだめながら、エリザは何とか片膝を付いた。
「...みんなが戦っている...何とか..しなきゃ...」
エリザはふらつきながら立ち上がった。
エリザは両脚に力を込めて地面を蹴り、空中に舞い上がった。そしてバードンの頭上でゆるく旋回すると、火山の火口へと向かった。
「馬鹿メ、無事ニ逃ゲラレルト思ウノカ。 バードン、奴ヲ追エ!!」
後方を振りかえったエリザの目に、後を追って来るバードンの姿が映った。
「よかった..うまく行ったわ...」
エリザはゆっくりと噴火口へと降下していった。
「エリザは奴を火口に誘導するつもりだ...」
カタギリは急いで通信周波数をチーム専用の波長に変えた。
「こちらカタギリ、サクマ聞こえるか?」
「こちらサクマ、感度良好です」
「怪獣がそっちに行く。俺の合図と同時に火口を爆破せよ!」
エリザが着地すると同時にバードンも着地し、溶岩の欠片を巻き上げた。すぐ傍にある噴火口からは、どす黒い煙と熱気が噴き出している。
地面が不気味な音を立てて揺れ動く中、バードンは容赦なくエリザに迫って来た。幾度となく牽制のパンチを繰り出すものの、バードンは少しも意に介さない。
バードンの鉤爪一閃、エリザの身体は半回転して宙を舞う。地面に叩きつけられたエリザは、厚い火山岩の上に突っ伏した。
だが空腹に怒り狂ったバードンは、容赦しなかった。倒れたエリザを踏み付け、6万トンもの体重を掛けてエリザを潰そうとする。全身の骨が悲鳴を上げたエリザは、激しく痙攣した。
突然、バードンの巨体がグラリと後方へ傾いた。
「お待たせ!」
「大丈夫、姉さん?」
「...アリサ、きてくれたのね...ありがとう」
エリザはアリサの手を借りてようやく立ち上がることができた。
「バードンには私達の武器は効かないわ...気を付けて...」
「隊長、あれは!」
「うむ...よし、勝負に行くぞ」
カタギリは新たな女戦士の姿に、勇気が湧いて来るのを感じた。
「サクマ! 今だ、点火しろ!!」
「了解!」
サクマは後方の工兵に合図を送った。
「点火!」
もの凄い爆発が、バードンのすぐ後ろで起こった。その衝撃で巨大な岩石が飛び散り、周囲の空気が振動した。
爆発によってバードンの足元の岩が崩れ落ち、マグマ溜りへと落ちていった。いきなりの事態に、バードンはバランスを崩してよろめいた。
「チャンスよ、あいつを蹴り落として!」
エリザとアリサは同時に空に飛び上がり、バードンの胸板にキックを放った。息の合った同時攻撃に、バードンは後方によろめいたかと思うと、深い火口へと落ちて行った。
爆破の衝撃で、マグマ溜りからは高温の溶岩が上昇していた。バードンの身体は回転しながら、その焦熱地獄の内へと落ちていった。
Act9
郷愁
急激に火口全体の崩落が始まったことが、空中にいるカタギリの目にもはっきり判った。
「爆破班は全員退避! 噴火するそ、急げ!」
カタギリは増速してヘリを火口の外に向けた。
噴火の衝撃と轟音が数キロ離れたヘリの座席にも伝わってきた。振り返ると火口からは巨大な黒煙が立ち登っている。
「サクマ隊員、無事に退避できたでしょうか...」
心配そうに呟くミズキの声が、カタギリのレシーバーに届いた。だがカタギリは固く口を結んだまま、敢えて何も言わなかった。
「司令、バードンノ生命反応ガ消エマシタ...」
消え入りそうな部下の声に、ゼクス星人は固く拳を握った。
「止ムヲ得ン...一旦、小惑星帯マデ退避シテ作戦ヲ練リ直ス...」
火山灰の草原に、突如として円盤が出現した。円盤は隠蔽シールドを解除すると、高く上昇した。
円盤は海上に出ると序々に速度と高度を上げていく。だがそれを、一機のファルコンが追跡していた。
「やっぱり隠れていやがったな...」
タカハラは武装パネルを操作して、光学誘導ミサイルを選択した。準備の整ったタカハラは、落ち着き払ってインターコムに告げた。
「こちらタカハラ、島の南東海上にUFOを発見。直ちに攻撃に入る!」
「この前の借り、きっちり返してやるぜ。 フォックス3!」
タカハラは力を込めて発射トリガーを引いた。ファルコンの胴体から放たれたミサイルが、加速しながら円盤に向かって行く。
煙を引いたミサイルは円盤下部に命中し、空に眩い閃光が走った。円盤はグラついたかと思うと、爆発を起こして四散した。
「一丁あがり! UFOを撃墜、破片が海上に落下せり。当地点に回収班の出動を要請する...」
サクマと無線連絡がつかないことが、カタギリの不安を一層掻き立てていた。
「隊長...」
ミズキが指さす方角を見ると、こちらに飛来してくるエリザともう一人の女戦士の姿が見えた。
「手に何か握っているようです...あれは...サクマ隊員だわ!」
エリザの手に立つサクマの姿に、カタギリは胸のつかえが一挙に取れたように感じた。
エリザは身を屈めると、ゆっくりとサクマを地上に降ろした。
「有難う、エリザ。おかげで殉職せずに済んだよ」
するとサクマの意識の中でエリザの声が響いた。
「いいえ、お礼を言うのはこちらです。あなた方の活躍で、あの怪獣を倒すことができました...」
空の彼方に飛び去って行く2人を見つめながら、サクマは感慨にふけっていた。
「エリザの手は暖かかった...これは面白い...」
その時背後から、カタギリの声がした。
「心配したぞ、まったく....」
海上を旋回していたタカハラの背後から、2人の女戦士が追い抜いていった。
「あれ、エリザと...もう一人は誰?」
すると驚いたことに、もう一人の女戦士がタカハラに向かって手を挙げた。
「私はアリサ...よろしくね...」
タカハラは無線が壊れたかと思い、計器を見たが異常は無かった。狐に抓まれたように、タカハラはヘルメットのマイクロフォンを二、三度叩いた。
緊張の3日間が過ぎ、極東基地は平穏な夕暮れを迎えていた。タカハラは無許可退院の罰で、警護付の病室に収容され、絵里も精密検査の為に入院を言い渡された。
翌日、亜里沙が絵里の見舞に訪れた。
「姉貴、容体はどう?」
「まだ胸骨のヒビが治っていないみたい。あと1週間ほどで治るそうよ」
「そっか〜、まあ良かった。一時はどうなることかと焦ったもんね」
「前にあなたにひどい事を言ってしまったけど、今は感謝してる。もし亜里沙がいなかったら...」
「へへぇ、たまには妹の有難さが判った?」
「そだ、姉貴にお見舞い持ってきたんだ。故郷の夢待花だよ、姉貴好きだったでしょ?」
「え?」
「この星の大気じゃ枯れちゃうから、炭素固定してあるんだ。カプセルからは取り出さないでね...」
亜里沙が帰った後、絵里は故郷の花を手に取って見つめた。エリザの故郷では、この花は夢を叶えるという伝承があった。小さな花に浮かんでは消える故郷の人達の顔を、絵里はいつまでも眺めていた...。
制作後記

前作から半年以上が経過してしまい、冷汗の見習です(笑)今回はようやく妹のアリサ(正しくはアリッサかな?)の登場ですが、尺の都合上出番は少ないです(笑)制作期間が長く空いてしまったのは、何と言っても体調悪化でまたもや入院していたせいです(言い訳炸裂)しかしまあ体調が良くないと、ホント何もできないんですよね、これが。体は資本、とは良く言ったものです。皆さんも健康にはくれぐれも注意して下さいな。

さて今回の作品ですが、見習的には2つの新しい試みをやっています。ひとつはオリジナルの宇宙人の採用。ウルトラシリーズに登場していないキャラで、どこまで作品的に演出できるか? とまあ、毎回意気込みだけはありますな、我ながら感心します(笑)もうひとつは妹アリサの登場をどのように描くか、ということで試行錯誤してみました(結果は見ての通り、ヒドイものですが)

で、目玉は何といっても怪獣バードンでしょう。ウルトラ戦士を2人も倒した実績を持つ、トラウマ級の大物です。そのあまりの強さ故に、地球怪獣最強とも言われてますね。おかげで倒し方が思いつかなくて、ずいぶん悩ませられました(笑)いくら作者がスポ根好みと言っても、努力と根性だけでは限界がありますよね、やっぱり(笑)

フィギュアについてですが、宇宙人の方は昔レンダロあたりで拾ったフリー物(か、もしくは大昔に購入していたもの)です。何せPoser4時代の代物なので出来も良い訳でもなく、まともにポーズを取らせることすら困難です(笑)おかげで姉妹との絡みシーンは無し、暗い所でひたすら檄を飛ばすだけのオッチャンと化しております。まあ人型宇宙人って絵的に映えないので、巨大化しての戦闘は難しいものがありますよね(次回以降はやりますが)

次に怪獣バードンですが、これは以前からヒロピン界でお世話になっているFeldenさんの作品です。本人に伺った所では、球や立方体以外のフィギュアで、初めて制作したのがこのバードンだったというのですから、まったくもって驚きです。あらためて才能っていう言葉の意味を考えさせられますなあ。しかし何だ、マジでFeldenさんの十分の一で良いから、フィギュア制作の才能が欲しいデス(滝涙)Feldenさんの作品は出来自体も良いのですが、触っていると細かい所の工夫が見て取れて、制作者自身の想いみたいなものが伝わってきます。怪獣は想像上の生物ではありますが、生物という認識がそうさせる所もあるのかも知れませんね。

「あなたの健康を害する恐れがありますので、ヒロピンの摂取のしすぎに注意しましょう」

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