Act1 宇宙怪獣襲来 |
 本格的な夏が到来し、亜里沙の通う高校も今日から夏休みに入った。にもかかわらず、亜里沙は一人で教室で机に向っている。期末試験の結果がひどく、亜里沙は幾つかの科目で追試を言い渡されていたのだ。今日は最も苦手な古文の試験だった。 「...ふぅ、ヤバいなあ。全然わかんないや...」 亜里沙は思わず頭を掻いた。古文の担当教師であり、亜里沙のクラス担任でもある細田は、ぼんやりと窓の外を眺めている。 「そだ、こういう時こそアリッサに助けてもらおうっと...」 |
 だが脳裏に聞こえるアリッサの声は、いかにも迷惑そうな響きだった。 「勉強ハ自分自身ノ為デス...他人ノ力ヲ借リルノハ良クナイワ...」 「いや、だからさ、今が絶対絶命の大ピンチなんだよお」 「ソモソモ異星カラ来タ私ニ、地球ノ古代言語ナド理解デキル筈ガアリマセン...」 「そこを何とか、お願い! 困った時の何とか頼みって言うじゃん?」 両手を合わせて独り言を言う亜里沙を見て、細田は首をかしげた。 |
 その時遠くでサイレンが鳴り始めた。続いて音声が繰り返し流れたが、窓越しではっきりと聞き取れない。 「...いったい何の警報だ?」 細田は窓辺に近づくと窓の外を覗いた。亜里沙が窓に注意を向けたとたん、胸のペンダントが青く光りだした。 「これは!」 亜里沙は急いで席を立つと、廊下に走り出た。 |
 「オイ、星原! どこへ行くんだ?」 「急用を思い出しました。試験はまた後日に!」 あっけにとられている細田を残して、亜里沙は階段に向かって全速力で走った。 |
 「ヒロインやるのも楽じゃないや。日頃の運動不足が祟ってるよ...」 少し息を切らしながら、亜里沙は非常階段を駆け上がって行く。 |
 外は強い日差しがあったものの、弱い風が暑さを和らげていた。 「...よしっ、と...」 亜里沙は2、3回深呼吸して息を整えると、両手を空に掲げた。 |
 「いくら急いでいてもカバンごと置き忘れるなんて...本当に困った奴だ。精神に問題あるぞ、あれは...」 細田は亜里沙のカバンに付いているストラップを指で弾いた。 「暑さでまいってるのかも知れん...これも地球温暖化のせいだな、困ったことだ...」 細田は窓の外に、眩い光が出現したことには全く気が付かなかった。 |
 「パトロール中の全隊員に告ぐ。エリア11−A2、秋川シティに怪獣が出現。至急目標地点に急行せよ...」 日頃の訓練のせいか、通信員のミキの声には全く感情が入っていなかった。制御卓のスピーカーからは、パトロール中の隊員から次々と確認応答が流れた。 最後にポインターでパトロール中の、絵里からの連絡が入った。 「こちら絵里、指示を了解。目標への予想到着時間は約20分後...」 |
 隊員達からの報告に耳を澄ませていたカタギリは、自分のインターコムのスイッチを入れた。 「こちらカタギリ。絵里、注意して聞いてくれ。君が一番早く現場に着きそうだが、怪獣は既に市の中心部にいる。こちらからの命令があるまで、独自で攻撃はするな。市民の避難誘導を優先するんだ」 |
 「こちら絵里、指示を了解。市民の避難誘導を優先します...」 絵里はスタビライズ機能をアクティブにすると、きつくアクセルを踏み込んだ。 「...秋川シティ..確か亜里抄の高校がある街だわ...」 |
 突如として秋川シティに出現した怪獣は、どこか今までとは違っていた。異質なものを見ると本能的に破壊する筈の怪獣が、何故か街の破壊には興味が無いかのように、周囲を見廻している。その時、怪獣の背後からアリサが飛来した。 |
 「てえぃ!」 アリサは飛行状態からドロップキックを、怪獣の首筋に蹴り込んだ。これにたまらず、怪獣は前のめりに倒れた。 |
 あらためて見ると、怪獣はアリサよりも遥かに身長があるようだった。鈍く光る恐ろしげな両腕に、亜里抄は少し気後れした。初めて一人で迎える実戦への不安が、亜里抄の心をかすめた。 「いいわ、私の力をみんなに見せてやる!」 みずからを奮い立たせるかのように、亜里抄は大きな声を出した。 |
 絵里が市内に入ったとたん、道路は展開する防衛軍の車両と無数の避難民で溢れていた。ポインターでは先に進めないと思った絵里は、道路脇の緊急駐車所に車を入れた。 「慌てないで下さい! 車道は防衛軍が使用します。市民の皆さんは徒歩で歩道を使って非難してください! 」 防衛軍の地区守備隊が、拡声器を使ってパニック状態の市民を必死に誘導していた。 |
 非難する市民の姿がまばらになった頃、脚を引きずりながらこちらへ向かってくる老人がいた。足が不自由なのか、杖を突きながらようやく前に進んでいるといった風だった。 「大丈夫ですか? お手伝いします...」 絵里は老人に駆け寄り、その手を取った。怯えているのか、老人の手は少し震えている。 「すまんのう...わしはよう歩けんから、どうか先に行ってくだされ...」 「もうちょっと行けば緊急避難所です。そこからは車に乗せてもらえますよ。あと少しだけ頑張りましょうね...」 |
 アリサと怪獣は、じりじりと互いの周囲を廻りながら、相手の隙をうかがっていた。母星の訓練センターで聞いた怪獣の動きとは、まるで違っているその動作に、アリサは何か不気味なものを感じた。 |
 意を決してアリサは怪獣に攻撃を仕掛けた。鋭い踏み込みで相手の懐に入ると、素早くパンチを見舞う。だが怪獣の皮膚は固く、鈍い金属音が響いた。 |
 続いてアリサが得意とする廻し蹴りを放ったものの、怪獣の背丈が高いために、狙った首ではなくて肩に当たった。 |
 アリサの攻撃に怒ったのか、怪獣は猛然と反撃を開始した。左右の鋭い爪を交互に振り下ろし、アリサに迫る。間一髪でこれを避けながら、アリサはズルズルと後退した。 |
 「警備隊です、行かせてもらいます!」 絵里は行く手を遮っていた阻止板を撥ね退けると、待機している戦車の脇を通り抜けた。 「あ、ちょっと!」 兵士が声を掛けたが、それにかまわず絵里は街の中心部目指して疾走した。すでに亜里抄が怪獣と戦っていることは知っていた。だが亜里抄には戦闘の経験が殆ど無い。不安から来る焦りか、絵里の額に汗が流れおちた。 「亜里抄、すぐ行くわ...」 |
Act2 アリサ奮戦 |
 「あれは...」 肩で息をしながら、絵里は資材置き場の向こうを見やった。高速道路の先に、怪獣と戦っているアリサの姿が見える。絵里は変身しようと胸をペンダントを見たが、ペンダントは光を放っていなかった。 「何故?...」 「...絵里、貴女ノ気持ハ分カリマス。シカシ、アノ娘モ戦士トシテ、実戦ノ経験ヲ積ム必要ガアルノデス...」 脳裏に響くエリザの声は、気丈な姉のそれだった。 |
 「エイッ!」 アリサは渾身の力を拳に込め、続けざまに怪獣の腹を突いた。だがその皮膚は固い金属で覆われており、さほど効いているようには見えなかった。 |
 その時、怪獣の腕が下からすくい上げるように、アリサの脇腹をえぐった。 「ぐっ!」 それまでの大振りな攻撃しか想定していなかったアリサは、この一撃で後方へ吹き飛んだ。 |
 「...警備隊全員に告ぐ、怪獣の種類が特定した..」 インターコムから流れるカタギリの声に、絵里は神経を向けた。 「怪獣はガイガン、宇宙怪獣だ。パワーもあり、全身が凶器とも言える奴だ、各員注意せよ!」 絵里の不安は、増々大きくなった。 |
 「ちくしょう..パワーじゃ勝てないか...」 初めて被ったダメージに、アリサは猛烈な怒りを感じた。 「...八つ裂きにしてやる!」 |
 勢いよく立ち上がったアリサは、片手を空に掲げた。 「エナジー・カッター!」 赤色に輝くブーメランが、アリサの右手に現れた。 |
 「喰らえ!」 アリサは思い切り腕を振って、カッターを怪獣目掛けて投げつけた。それは怪獣の胸に命中して金属音を発し、跳ね返って怪獣の足元に落ちた。 |
 「う...」 強力な筈の武器が簡単に退けられたことで、アリサはひどく動揺した。 |
 アリサが武器を使ったことで、本来の闘争本能に火がついたのか、怪獣は猛然と攻撃を開始した。 |
 上下左右から次々と繰り出される鋭い腕に、亜里抄は防戦一方に追い込まれる。 「たぁ!」 たまらずアリサは、咄嗟の側転で間合いを空けた。 |
 「...ハァハァ..やるじゃんかさ...」 小さく肩で息をしながら、アリサは自分を鼓舞するように強がりを言った。 「でも...これで決めてやる!」 |
 「フラッシュ・バン!」 アリサは両手を前方に突き出し、両方の掌を開いた。 |
 全身のエネルギーが両手に集中し、右脇に構えた両手に眩い光球が現れる。アリサは精神を集中させ、エネルギーが十分に蓄積されるのを待った。 |
 「ダメ、亜里抄! まだ早いわ!!」 それまでじっと妹の戦いを見つめていた絵里は、思わず叫び声をあげた。 |
 「シュート!」 アリサが勢いよく右手を突き出すと、光球が怪獣目掛けて飛翔した。 |
 だが次の瞬間、怪獣の口から緑色の光線が発射され、光球と交わった。大爆発が起こり、その閃光にアリサの眼が一瞬くらんだ。 |
 「くっ..ダメか...」 アリサは急速に、全身から力が抜けて行くのを感じた。一度に大量のエネルギーを放出した為に、胸のクリスタルが警戒色に変っていた。 |
 急に動きの鈍くなったアリサに、怪獣は襲いかかった。先程まで軽々と回避していた攻撃が、次々とアリサの身体を捉えた。 |
 そして警戒していた大振りのアッパーカットが、遂にアリサの顔を捉えた。 「ぐっ!」 アリサの身体は、大きく後方へと舞った。 |
 固い地面に叩きつけられたアリサの身体は、ピクピクと痙攣を起こしていた。打撲による激しい痛みで、アリサの視界はかすみ、手足は全く言うことをきかなかった。 |
Act3 市街の死闘 |
 「アリサ、立って!」 アリサが地面に落ちて動かなくなったのを見た絵里は、思わず奥歯を食いしばった。その瞬間、胸のペンダントが青く輝き始めた。 「エリザ・チェンジ!」 絵里はためらわずに両手を高く掲げた。 |
 地面に強く叩きつけられたアリサは、視界がぼやけて眼の焦点が定まらなかった。怪獣は倒れているアリサに近づくと、両方の鉤爪を使ってアリサの両脚を持ち上げた。 「え?...」 怪獣の不可解な行動に、アリサは困惑した。 |
 怪獣はアリサの脚を脇に抱えるようにして、アリサの腰を引き上げた。見ればアリサの股間の先には、鈍く光る複数の刃があった。 「や、やめろ! 何するんだよ!」 うかつに手で股間を庇うと、手が切り裂かれてしまう。アリサは必死になって上半身を捻って逃れようとした。怪獣はアリサを逃すまいと、その足でアリサの腕を踏み付けた。 |
 「離しなさい!」 エリザのキックが怪獣の頭部を捉え、ガイガンは大きく後方へ転がった。 |
 「..来てくれると思ってた...」 危機を脱した安堵感で、アリサは地面にぐったりと横たわった。 「急に立ち上がってはだめ..そのままでダメージを回復させるの...」 エリザは弱った妹の傍に駆け寄った。アリサの胸のクリスタルを見ると、既に黄色い警戒色が灯っている。 |
 「エネルギー不足...いいわ、私のエネルギーを...」 エリザは左手をかざすと、自分のエネルギーをアリサのクリスタルへ注ぎ込んだ。 |
 治療を行っているエリザの背後から、いつの間にかガイガンが忍び寄っていた。 「姉さん、危ない!」 アリサの警告も間に合わず、ガイガンの鉤爪は背後からエリザの肩を打った。 |
 よろめいたエリザの腹に、今度はガイガンの強烈な一突きが入った。 「ぐっ!」 エリザの身体はボロ布のように後方へと吹き飛んだ。 |
 「こいつ!」 治療を受けて少し回復したアリサは、ガイガン目掛けて突進する。だがそれは余りに軽率だった。 |
 ガイガンは突進してくるアリサに向かって、巨大な足を突きあげた。猛烈なカウンターを喰らったアリサは後方に吹き飛ばされ、宙を1回転して地面に落ちた。 |
 「アリサ!」 地面に突っ伏しているアリサを、怪獣は何度も踏み付ける。その光景を見たエリザの心を、激しい怒りが襲った。 |
 エリザは怪獣に向かって突進した。しかし視界の外から襲ってきた長い尾が、エリザの側頭部を捉えた。エリザは独楽のように一回転しながら後方へ吹き飛んだ。 |
 怪獣は傍らに倒れているアリサの身体を引き起こした。エリザは立ち上がった姿勢のまま、ガイガンの動きを注視した。 「うかつには飛び込めない...あの尻尾を何とかしないと...」 |
 アリサの方に気を取られたのか、ガイガンの動きが一瞬止まった。好機を待っていたエリザは素早くダッシュして、その長い尾の先を両手に捉えた。 |
 尻尾を掴まれた事に気が付いたガイガンは、今度はもの凄い力で尾を振り始める。エリザは絶対これを離すまいと、両脚で太い尻尾を挟み込んだ。だがこれは致命的なミスだった。 |
 強力な尻尾の筋力は、エリザの握力では到底押さえきることはできない。ガイガンが尾を大きく上下に振ると、尾はエリザの手を離れ、その股間を強打した。エリザの全身に衝撃が走った。 |
 エリザの意識は一瞬遠くなり、全身の神経が麻痺したように無感覚になった。動きが止まり無防備なエリザの股間を、もう一度尻尾が叩く。エリザの身体が一瞬震えたかと思うと、その口端からは赤い鮮血が滴り落ちた。 |
 エリザは棒のように前のめりに崩れ落ちた。 「姉さん?!」 怪獣に羽交絞めにされたアリサは、確かめる為に振り向くこともできなかった。 |
 だが今度はアリサの番だった。怪獣は羽交絞めにしていた腕をほどくと、今度は両脇から鋭い鉤爪をアリサの胸の脇に叩きこんだ。 「うっ!」 そのあまりの痛さに、アリサは思わず叫び声をあげた。 |
 ガイガンは鉤爪を突き刺したまま、アリサの身体を高々と持ち上げた。乳房の基部に、鋭い鉤爪の先端がギリギリとねじ込まれる。 「あっ...う...」 アリサの苦痛の喘ぎは、もはや声にならなかった。 |
 「...アリ..サ...」 アリサの苦痛の叫びは、思念波となってエリザの脳裏に響いた。 「今...行くわ...」 |
 何とか身体を起こそうとした矢先、エリザの胸に赤い光が灯った。同時にエネルギーの低下を知らせる、警告音が鳴り始めた。 「こ、こんな時に...」 エリザは激しく動揺した。 |
 「このままでは勝てない...エネルギーを補充しなければ...」 エリザは怪獣に背を向けると、初夏の太陽に向かって大きく胸を広げた。 「アリサ...もう少しだけ我慢して...」 |
 だがアリサはもう限界だった。胸に深く喰い込んだ鉤爪の先から、激しい痛みが脈動する大波となって全身に広がっていく。 「..ね..姉さん...もう...だめ..」 苦痛に激しく喘ぎながら、アリサはかろうじて助けを求めた...。 |
 アリサの胸のクリスタルが、赤色に変わった。それまで何とか激痛に耐えていたアリサだったが、エネルギーの低下が更に追い打ちをかける。アリサの身体が一瞬震えたかと思うと、ぐったりして動かなくなった。姉妹のクリスタルが発する警告音だけが、周囲のビルに反響していた...。 |
 「アリサ!」 ようやくエネルギーの補充を終えたエリザが振り返ると、そこには妹の断末魔の姿があった。 「何てことを...」 エリザの心に、復讐の炎が燃え上がった。 |
 「レディ・フラッシュ!」 この強力な宇宙怪獣を倒す手段は、他に思い当らなかった。エリザは最後の武器に賭けた。 |
 「セット!」 エリザは全身のエネルギーを両手に集中させる。ガイガンは倒れているアリサをそのままに、今度はエリザに向かってきた。 |
 「ファイア!」 十字に組まれた両手から、眩い光線が放たれた。それは真っ直ぐに伸び、ガイガンの頭部を捉える。爆発の煙が消えた後には、ガイガンの頭部は消え失せていた。 |
 「..姉さん!」 死の恐怖から解放されたアリサは、幼い子供のようにエリザにしがみ付いた。 「よくがんばったわ...」 エリザはかつて故郷の星でそうしたように、優しく妹を抱きしめた。 |
 疲れ果てた姉妹の前に、ガイガンの骸が転がっていた。街には日頃の喧騒も騒音も無く、姉妹のクリスタルの警告音だけが木霊している。 「戦いは悲惨...たとえ勝っても救いはないわ...」 エリザの声は折からの微風に乗って、街の外へと消えていった...。 |
 付近のビルの屋上で、姉妹をじっと見つめる光る眼があった。 「同志達ノ情報ハ、ドウヤラ過大評価ダッタナ...」 次の瞬間には、怪しい影は屋上から消え去っていた...。 |
Act4 暴かれた秘密 |
 「計画ノ準備ハ進ンデイルカ、 同志ガッツ?」 超空間通信のせいか、時々ホログラム映像が乱れた。だがガッツ星人の苛立ちの原因は、画像に映っている人物自体にあった。 「順調ダ。コノ際明確ニ言ッテ置クガ、我々ハ皇帝陛下直属ダ。地方司令官如キノ指揮ハ受ケ無イ...」 メフィラスは大げさに手を左右に振った。 「ソレハ承知シテイル、同志ガッツ...ダガ一方デ、皇帝カラハ御前達ニ協力セヨ、トモ命令サレテイル。ダカラコソ、同志達ガ収集シタ重要情報引キヲ渡シタノダ...」 |
 「情報ニハ感謝スル。我々ガ独自ニ収集シタ情報モ、コノ後スグニ送ル...」 「限ラレタ戦力ノ内カラ、強力ナ怪獣ヲソチラニ廻シタノダ...失敗ハ許サレナイ事ダケハ、肝ニ銘ジテ置クガ良イ..」 「言ワレズトモ、我々ハ理解シテイル。以上、通信ヲ終ワル...」 湧き上がる怒りを押し殺して、ガッツ星人は通信回線を切った。 |
 すぐに他のガッツ星人達が部屋に入って来た。 「分析ハ終了シタカ?」 質問を発した指揮官以外の全員が黙って頷く。 「デハ直グニ報告ヲ聞コウ。改メテ言イマデモ無イガ、今回ノ我々ニ失敗ハ許サレナイ...」 |
 最初に口を開いたガッツ星人は、背後の投影パネルを指差した。 「今回ノ目標ハ左側ノ2体。最近マデ我々同盟ノ支配下ニアッタ、惑星「シャンドラ」ノ奴隷生物。地球デノ呼称ハ『エリザ』及び『アリサ』。コノ2体ハ姉妹ダ。アノ種族ハ反乱ヲ起コシテ我々ノ仇敵ニ寝返リ、ソノ科学技術ヲ習得シタ...」 「彼等ノ能力ハ基本的ニ、我々ノ仇敵ノ能力ニ準ズルモノト思ワレル。注目スベキ点ハ、奴等ガ雌体デアルト言ウコトダ...」 「フム..物理攻撃ノ衝撃平均値ハ雄体の46〜61%カ...雄体ト比較シテ、身体能力ニ劣ル事ハ明白ダナ」 その言葉に、説明したガッツ星人は小さく頷いた。 「特ニ雌体ノ物理的特徴デアル胸ハ、攻撃ニ脆弱ト言ウ結果ガ出テイル...」 |
 「次ニ、奴等ノ活動ノ原動力、エネルギーニ関シテダガ...」 「光子エネルギーヲ使ッテイル事ハ、我々ノ仇敵ト同ジダ。知ッテノ通リ、奴等ノ光子エネルギーハ高イ効率ヲ持ツガ、同時ニ消費率ガ非常ニ高イト言ウ欠点ヲ持ツ」 「ソシテ、ソノ光子エネルギーガ無クナレバ、奴等ハ活動不可能ニナル...」 |
 「『エリザ』及ビ『アリサ』ノ胸ニハ、エネルギー残量ヲ示ス、クリルタル装置ガ付随シテイル...」 説明するガッツ星人は、ゆっくりと後方の投射パネルを指した。 「分析結果ニ依レバ、『エリザ』ノ活動時間ハ地球時間デ約20分。コレハ平均的な仇敵ノ雄体ヲ上回ル」 「コノ『クリスタル』ハ、エネルギー残量ニ因リ3種類ノ状態ガアル。100〜50%ハ青色、50〜30%ガ黄色、30%未満ニナルト赤色ニ変化スル。コレハ『アリサ』モ同ジダ」 |
 「更ニ赤色状態ニアル『クリスタル』ハ、特定ノ音波ヲ発生サセル。エネルギー残量ガ5%以下ニナルト、ヨリ高イ周波ニ変調シテ点滅ヲ始メルヨウダ...」 「恐ラク点滅ト音ノ変化デ、危険状態ニ遷移シタ事ヲ示スノダロウ」 「奴等ノ根本的ナ誤リダナ...敵ニ自分ノ状態ヲ教エル装置トハ...」 全てのガッツ星人が、低い声で笑った。 |
 「デハ次ニ奴等ノ武器ニ関スル報告ダガ...」 それまで聞き役に回っていたガッツ星人が、スクリーンに歩み寄った。 「現時点デハ『エリザ』『アリサ』共ニ、2種類ノ武器ガ確認サレテイル。物理切断系ノ『スライサー』及ビ『ブーメラン』、分子破壊系ノ『エリザ・フラッシュ』ト『フラッシュ・バン』ダ...」 「物理切断系ニ関シテハ、我々ガ懸念スル必要ハ無イ。我々ハ瞬時ニシテ、身体の分子構造ヲ変換デキル」 「厄介ナノハ『分子破壊系』武器ダ。コレヲ喰ラエバ、我々ト言エドモ耐エル事ハデキナイ」 「心配ハ無用ダ、諸君。コレマデノ戦闘記録カラ、非常ニ興味深イ事実ガ判明シテイル...」 そう語ったガッツ星人は、ホログラム装置の前に近寄った。 |
 「『エリザ』及ビ『アリサ』ノ外見ハ、我々ノ仇敵ニ似通ッテイル。ソレ故ニ、能力モ同等ト思イガチダガ、実ハソウデハ無イ... 」 「身体能力以外ニ、ソレヲ証明スル情報ガ有ルノダナ?...」 指揮官に促された武器解析担当のガッツ星人は、背後のスクリーンを切り替えた。 |
 「『エリザ・フラッシュ』及ビ『フラッシュ・バン』ハ、実体ハ『スペシウム・エネルギー』ダ。熱効率ハ、仇敵ノ雄体ト比較シテ約90%強。威力的ニハ同等ト言エル...」 他のガッツ星人が何か言いかけたのを制し、背後のスクリーンを指差した。 「ダガ発射ニハ、『エリザ』ハ地球単位デ5秒、『アリサ』ハ3秒ノ時間ヲ必要トスル。準備カラ発射スルマデノ間ハ、他ノ行動ヲ取ル事ガデキナイ」 「ソレダケノ時間的猶予ガアレバ、何等カノ回避手段ハ採レル...」 |
 「更ニ、コレラノ武器ハ発射遅延ガ不可能ダ。仮ニ発射サレナクテモ、エネルギーヲ蓄積シタ状態デ保持スル事ハデキナイ」 「スルト疑似攻撃ヲ受ケル可能性ハ無イノダナ...」 その時、指揮官がおもむろに口を挟んだ。 「奴等ノエネルギー武器ハ確カニ脅威ダガ、コチラノ思惑通リニ使ワセル事ガデキレバ、我々ハ確実ニ勝利デキル...」 |
 指揮官の言葉に、説明していたガッツ星人が頷いた。 「スペシウム武器ハ、大量ノエネルギーヲ消費スル。シカシ奴等ノ能力デハ、複数回使用可能ナ量ヲ保持デキ無イ...」 「分析ニ因レバ『エリザ』『アリサ』共ニ、最大エネルギー量ノ50%ヲ消費スル」 エネルギー分析担当のガッツ星人が補足した。 「奴等ノ『クリスタル』ガ黄色ニ変化シタ後ハ、コレラノ武器ハ使用不可能ト言ウコトダ...」 |
 「...成程、奴等ノエネルギーニ関スル脆弱点ハ理解シタ。ダガソレハ我々ノ防御面デノ優位点ニ過ギナイ。攻撃面ニ関スル優位点ハアルノカ?」 指揮官は、それまで背後の壁際に控えていた戦術分析担当のガッツ星人を振り返った。 「有ル...ソレモ非常ニ興味深イモノガ...」 話を振られたガッツ星人は壁際の制御卓に行き、これに手をかざした。 「対ガイガン戦デノ『エリザ』ノ行動ニハ、明ラカニ特異ナ点ガアッタ...」 |
 「怪獣ガイガンノ尻尾ニ依ル打撃デ、『エリザ』ハ吐血シテイル。コレハ奴等ガ、大ダメージヲ被ッタ際ニ見セル現象ダ」 「フム..大シタ打撃デモ無イノニ、出血・転倒トハ...?」 「尾ガ命中シタ、『エリザ』ノ下腹部ガ弱点ナノカ?」 制御卓を操作していたガッツ星人は、仲間の発言に深く頷いた。 「ソノ通リ...ダガソノ理由ヲ知ラナケレバ、確実ニ勝利スルコトハデキナイ...」 |
 「コノ映像ヲ見テ欲シイ...コレハ高感度温度測定装置ノ画像ト、ガンマ線走査画像カラ合成シタ....」 「他ノ臓器ヨリモ明ラカニ温度ガ高イノカ...一体何ノ器官ダ?」 「コレハ『子宮』ト呼バレル生殖臓器デ、両性生殖ヲ行ウ種族ノ雌体ニ見ラレルモノダ」 「スルト、コノ『子宮』ガ奴等ノ弱点ト言ウ訳カ?」 「DNA構造ガ奴等ニ極メテ近イ地球人ニハ、コウシタ現象ハ見ラレ無イ。恐ラク奴等ノ種族固有ノ現象ト思ワレル」 説明していたガッツ星人はゆっくりと、隣のスクリーンに移った。 |
 「コノ映像カラモ、尾ノ命中前ニ比ベテ、命中後ハ極度ニ温度ガ上昇シテイルノガ判ル」 「シカシ、コノ急激ナ温度上昇ハ何故ダ? 単ナル生殖器官トハ思エナイガ...」 「ソノ理由ハ、光子エネルギー探知装置ガ明ラカニシタ。奴等ノ『子宮』カラ、大量ノ光子エネルギーノ存在ヲ探知シタノダ」 「スルト奴等ノ『子宮』ハ、エネルギー貯蔵庫ノ様ナモノカ...」 「ソウ言エバ、奴等ハ多産デ繁殖率ガ高イ..ソレガ故ニ、労働奴隷ニ適シタ種族ダッタ...」 |
 「『子宮』ガ奴等ノ弱点デアル可能性ガ高イ事ハ、別ナ情報カラモ補完サレテイル。コノ画像ハガンマ線走査デ得ラレタ、骨格情報ヲ組込ンダ物ダ...」 ガッツ星人達の間から、低い声が漏れた。 「見テノ通リ『子宮』ハ、骨ニヨル防護ガ全ク為サレテイ無イ。薄イ筋肉ノ直下ニ在ルノダ。コレハ胎内デ子孫ヲ育成スル為ニ、一定ノ空間ヲ確保スル必要性ガ有ルカラダロウ」 「通常ノ打撃デモ、大キナ損害ヲ与エル事ガ可能ダナ...『子宮』ガ損害ヲ被ッタ場合ノ回復率ハ、ドノクライナノダ?」 「コレマデノ戦闘記録カラ見ル限リデハ、カナリ低イ水準ダ。コノ程度ノ値ダト、20分シカ無イ活動時間内デハ、完全回復ハ無理ダロウ...」 「フム..一定間隔デ『子宮』ニ損害ヲ与エ続ケレバ、奴等ヲ活動不可状態ニ留メテ置ケルト言ウコトダナ...」 |
 「...戦術ニ関スル情報ニ付イテハ、全員ガ理解シタナ?」 指揮官は部下達を見渡して言った。皆が黙って頷く。 「宜シイ..デハ次ニ、作戦面ノ打チ合ワセニ入ル。マズ指揮官トシテ、皆ニ言ッテ置カネバナラナイ事ガ有ル...」 しばしの沈黙の後、指揮官が告げた。 「今回ノ作戦ハ、シグマ計画ヲ基本トスル」
部下のガッツ星人全員に、一斉に動揺が走った。 |
 「指揮官..ソノ計画ハ、以前我々ノ先遣隊ガ試ミテ失敗シタモノ...何故モウ一度ソレヲ採用スルノカ?」 指揮官は手を振って、部下達をホログラム装置の方に誘った。そこには青い地球がくっきりと映し出されている。 「我々ニ与エラレタ時間ハ限ラレテイル..地球支配ニ手間取レバ、皇帝陛下ハ我々ヲ許シハシナイ。ソレニ、少シデモ我々ガ弱味ヲ見セレバ、アノ『メフィラス司令官殿』ガ、必ズ獲物ノ横取リヲ狙ッテ出シャバッテクル」 しばらく続いた沈黙を破ったのは、指揮官自身だった。 「短時間トイウ点デハ、アノ計画ヲ置イテ他ニ無イ。タトエ我々自身ガ犠牲ニナロウトモ、必ズコノ美シイ惑星ヲ手ニ入レルノダ...」 |
 計画がスタートした。遮蔽シールドに隠れ、地球の衛星軌道を回っていた宇宙船が、大気圏目指して降下を始める。 「目標ハ地球防衛軍極東基地管轄エリア。ポイントデルタ64247...」 指揮官は命令を下すと、眼下に広がる青い世界をじっと見つめた...。 |
Act5 忌わしき記憶 |
 翌日、勤務が明けると絵里は自宅に戻った。玄関のドアを空けると、居間からTVの音が聞こえてくる。絵里はすぐに自分の部屋に入ると、部屋着に着替えた。 |
 「ただいま...」 「お帰り〜、姉貴。今日はお休み?」 「シフト明けで、36時間程空いたの。どうしても、亜里抄に言いたいことがあって...」 「防衛軍って土日無いの? きついなあ。あたしにゃ到底できないや..」 |
 居間に入った絵里は、亜里抄が飲んでいる物に気が付いた。即座に近付くと、亜里抄の手から無理矢理もぎ取る。 「ちょっと、これビールじゃないの! あなたまだ18歳でしょう?」 「ちぇっ、18はもう大人だよ。いいじゃん、昨日の祝勝会を一人でやってるんだからさ...」 亜里抄は口をとがらせた。 |
 「その事で、是非ともあなたに言って置きたいことがあるの...」 絵里は亜里抄の傍らに腰を下ろした。 「新ヒロイン衝撃のデビュー!って感じだったかな。人気出たらTVに出れるかなあ...」 「聞いて、亜里抄。昨日のような戦い方をしてたら、とてもこの先無事では済まないわ。もっと慎重にしなくちゃ...」 「心配しなさんなって...運動音痴の姉貴と違って、こちとら訓練センターじゃトップの優等生だよ? 任せておきなさいって...」 |
 「馬鹿っ!」 絵里の手が亜里抄の頬を叩いた。 「痛っ、何すんだよ!」 「戦いは遊びや訓練じゃないわ、もし負ければ命を失うのよ」 ふくれている亜里抄を、絵里は厳しい表情で見つめた。 「素質だけでは、戦士には成れない。戦士になるには、それなりの努力が必要だわ...」 |
 「言われなくても判ってるよ、そんなこと!」 亜里抄は吐き捨てるように言うと、ドアの方に駆け出した。 「待ちなさい、亜里抄...」 大きな音を立てて閉じたドアを見つめながら、絵里は溜息をついた...。 |
 「そりゃ姉貴は、向こうでも評判の淑女だったけどさ...」 部屋の天井を見つめながら、亜里抄は独り言を漏らした。 「私だって、いつまでも子供じゃないんだ...」 |
 亜里抄はベッドから起き上がると、壁に貼ったお気に入りのポスターの前に立った。自分の姉の正体を知る前に、飾ってあったものだ。 「これからは、このアリサ様がみんなのヒロイン..なぁんちゃって..」 そう言うと亜里抄は、ポスターと同じポーズを取った。 |
 その時、亜里抄は忘れていたことを思い出した。 「いけね、忘れてた! 明日は英文法の追試じゃん。まずい〜」 |
 「何もやってないしなあ..こりゃ徹夜かな...」 しかし先程飲んだビールのせいで、本を開いたとたん、猛烈な眠さが襲って来る。 「調子に乗って3本いったのがマズかったかな...1本にしときゃ良かった...」 |
 そろそろ日付も変わろうかという頃、絵里が亜里抄の部屋のドアをノックした。 「亜里抄、紅茶入れたわよ..入っていい?」 だがドアの向こうからは、何の音も聞こえなかった。 「?..入るわよ...」 |
 「やっぱりね...どうりで静かだと思ったわ...」 机の上で静かな寝息を立てている亜里抄に、絵里は溜息をついた...。 |
 絵里はクローゼットから肩掛けを取り出すと、寝ている妹にそっと掛けてやった。 「...ほんと、手間のかかる子ね...」 |
 その夜は何故か寝苦しかった。目をつぶりながら、小一時間掛けて、絵里はようやく眠りに落ちた。
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 それは不思議な光景だった。絵里は見たことも無い異国の、海辺の神殿に居た。遠くから、怒声と激しい撃ち合いのような音が聞こえて来る。近くで声がした方向を見ると、大人の女性と若い娘、それに幼い女の子が話をしていた...。 |
 「時が来たわ、お別れね。昨晩話したように、これからは貴方達2人で生きて行かねばなりません...」 「逃げましょうよ、お母さん!」 女性は微笑みながら、かぶりを振った。 「...エリザ、アリッサを頼んだわよ...」 |
 女性はひざまずいて、小さな女の子を抱きしめた。その目には涙が光っていた。 「アリッサ...これからは、ちゃんとお姉様の言うことを聞くのよ。できるわね?...」 「うん..聞くよ...」 女の子は寂しそうに答えた。 「昨日話したように、貴方達には遠い星に姉妹がいるわ。宇宙が平和になったら、会いに行きなさい...」 |
 「...では、お別れよ。神のご意思と共に...」 「神のご意思と共に...」 |
 「うっ!」 突然大きな音がしたかと思うと、闇の奥から伸びてきた緑色の光線が、女性の胸を貫いた。女性はゆっくり前のめりになると、石の床に倒れた。 「お母さん!」 「ママ!!」 |
 死んだ女性の傍らで、肩を落として泣く姉妹の前に、黒い金属の兵士が立った。 「コイツ達ハ、ドウシマス? 抹消シマスカ、ガッツ司令?」 兵士の背後から、異形の宇宙人がゆっくりと歩み出た。 「反乱ノ首謀者共ハ、コレデ全テ片付イタ。コイツ達ハ..強制収容所ニ連行シロ...」 |
 「あ!!」 そこで絵里は自分を取り戻した。 「ひどい...」 絵里は額の冷や汗を拭うと、腕の鳥肌をじっと見つめた。 |
 少し冷静さを取り戻した絵里は、今のが自分の夢ではないと気が付いた。それも単なる夢ではなく、エリザの記憶なのだと...。 「エリザ...」 |
 その時、寝室のドアをノックする音がした。 「亜里抄...一体どうしたの、こんな真夜中に...」 ドアの向こうに立っていた亜里抄の目は、涙で真っ赤になっていた。 「ごめん...とっても怖い夢見たんだ..それで...」 |
 部屋に入るなり、亜里抄は絵里に抱きついた。 「ただの夢じゃないの、お馬鹿さんねえ...」 「ううん、あれは夢なんかじゃない、きっとアリッサの記憶なんだ...」 自分を抱きしめる亜里抄の腕が、細かく震えていることに絵里は気付いた。 |
 「思い過ごしよ...慣れない勉強し過ぎて疲れたのね、きっと」 絵里は励ますように、亜里抄の両肩を抱いた。 「さ、もう寝なさい。同じ日に悪い夢は二度見ないそうよ、安心してお休みなさい...」 |
 「おやすみ、姉貴...」 亜里抄が閉めていったドアを見つめながら、絵里は複雑な想いに駆られた。 「何故、同時に同じ夢を...」 |
Act6 悪魔再び |
 「隊長、カトウ副長カラ通信デス。専用回線ニ切リ替エマスカ?」 「構わん。メイン回線に出せ」 カタギリは通信員のベティに軽く頷いた。自分のインターコムにカトウ隊員の声が届いたことで、絵里は注意をそちらに向けた。 |
 「こちらカトウ、エリア11−Kの探索終了。それらしい電波はキャッチできません。しごく落ち着いたものです。そちらで何か掴んでいますか?」 |
 「了解。こちらも現在は何も無いな...御苦労、君達は帰還してくれ」 ここ2日間続いている未確認電波源の探知に、カタギリは少し疲れていた。 |
 その時ドアが開き、タカハラ隊員がオペレーションルームに入って来た。 「技術部と施設保全部を廻ってきましたが、各種レーダー及び電波探知システムには全く異常は無いそうです。何ですかね、こりゃ?」 「そうか..異常無しか...」 カタギリの心の中で、言いようの無い不安が増大していた。 |
 「隊長、警報デス!探知エリア...マタ11地区デス」 「一昨日からもう4度目ですよ。しばらく放って置きましょう、隊長。そのうちに収まりますよ...」 タカハラはうんざりしたように手を広げた。 「だが放置する訳にも行くまい...我々の義務だからな」 カタギリは絵里の顔を見た。 |
 「今度は絵里、君が行ってくれ。連絡を絶やさんようにな」 「あ〜、私も行きます、隊長。2人1組が行動の基本ですしね」 にやけるタカハラに、カタギリは頭を振った。 「良いだろう。ただし、タカハラはジャイロで空からだ...」 「え...」 |
 絵里は奥多摩サテライトシティ郊外に車を走らせていた。人口減と度重なる怪獣の被害で、他のサテライトシティ同様、ここも過疎化が進んでいた。街外れに近づくにつれ、信号の発信音は次第に強くなって行く。 |
 とある一角に来ると、ピタリと信号が止んだ。絵里が追跡装置から視線を上げると、塀の向こうに倉庫か、運送集配所のような建物が見える。絵里はインターコムのスイッチを入れた。 「こちら絵里。信号が途切れた場所に、疑わしい建物があります。倉庫のようですが、これから中を調査します」 「了解した、タカハラを付近で待機させる。気を付けろよ...」 カタギリの声には、どことなく不安の色が覗いていた。 |
 建物の入口は、敷地の奥まった所にあった。絵里は周囲を警戒しながら車を降りると、ひっそりとしている建物を見上げた。 |
 建物の扉に鍵は掛っていなかった。絵里はそっと中の様子を覗ったが、人のいる気配は無い。絵里は静かに扉を開けると、建屋内に入った。入口からすぐの所に錆びた階段が見える。絵里は腰の銃を抜くと、ゆっくりと階段を降りて行った。 |
 外の暑さにもかかわらず、建屋内の空気はひんやりとしていた。建物のそこかしこに、パレットに積まれた箱の山が見える。周囲を慎重にチェックしながら進む絵里の姿を、物陰から見つめる光る眼があった。 |
 絵里が背後に何かの気配を感じた瞬間、胸のペンダントが光った。絵里は素早く身体をねじると、銃口を向けた。 |
 だが相手の方が一瞬早かった。緑色の光線が銃を跳ね飛ばし、銃が大きく宙に舞った。 |
 「くっ!」 絵里は左のホルスターから銃を抜きかけたが、相手はそれを手で制した。 「無駄ナ事ハ止セ、エリザ。ソノ地球人ガ死ヌ事ニナルゾ...」 「御願イ、止メテ...」 エリザの意識が絵里を抑え、絵里はゆっくりと銃から手を離した。 |
 「我々ガッツ星人ハ皇帝陛下ヨリ、コノ星ノ支配権ヲ認メラレタ...御前ハ地球人共ニ降伏ヲ勧告セヨ、ソウスレバ此ノ星カラ自由ニ逃ガシテヤル」 「お断りよ...もし貴方達がこの地球を侵略するなら、私が阻止するわ」 絵里の怒気を含んだ言葉に、ガッツ星人は低く笑った。 「予想通リノ返答カ...ダガ我々ノ邪魔ヲスレバ、容赦無ク御前ヲ殺ス」 |
 「戦いは苦痛と怨恨しか生まないわ。いい加減貴方達もそれを悟るべきよ...」 絵里は敵意のこもった視線を、ガッツ星人に向けた。 「奴隷共ノ信仰カ...奴隷種族ハ所詮、奴隷ニ過ギヌ...」 「私達は奴隷なんかじゃない!」 絵里は拳を固く握りしめた。 |
 「ナラバ此処デ、奴隷デナイ事ヲ証明シテ見セロ...」 ガッツ星人はジリッと一歩前に踏み出した。 「逃ゲテ、絵里!」 意識の中でエリザが叫んだ。 「何故?」 「御願イ、今ハ逃ゲルノデス...」 |
 「...わかったわ」 絵里は踵を返すと、非常口目指して全力で駆け出した。 |
 外に出た絵里は、インターコムに叫んだ。 「こちら絵里! 緊急事態発生、直ちに救援願います!」 とたんに猛烈なノイズが絵里の鼓膜を襲った。 「...電波妨害?」 絵里は左の腰から銃を抜くと、信号弾アタッチメントを付けた。 |
 「お願い..タカハラさん、見つけて頂戴...」 絵里が引き金を引くと、眩い信号弾が尾を引きながら上空に舞い上がった。 |
 「無駄ナ足掻キハ止セ...」 「あ!」 信号弾に気を取られていた絵里の前に、いきなりガッツ星人が現れた。 |
 「近寄らないで!」 絵里は迫ってくるガッツ星人目掛けて、銃の引き金を引いた。だがレーザー光線は何の手応えも無く、ガッツ星人の身体を突き抜けた。 「無駄ダト言ッテイルダロウ...」 ガッツ星人はあっけに取られている絵里に飛び掛かった。 |
 ガッツ星人は絵里の左手首を掴むと、思い切り捻り上げた。絵里の左手から銃がこぼれおちる。更にガッツ星人のもう片方の手が、絵里の首を掴んで激しく喉を圧迫した。 「ぐっ...」 絵里は思わず苦痛に顔を歪めた。 「サア、変身シテ戦エ! 下手ニ足掻クト、コノ地球人ノ生命ガ無クナルゾ...」 |
 絵里の意識が遠のきかけた時、ジェットジャイロのタービン音が近付いて来た。 「チッ..邪魔ガ入ッタカ...」 ガッツ星人は絵里の喉を締め上げていた手を離した。絵里はそのまま前のめりに崩れ落ちる。 |
 ようやくまともに呼吸ができるようになり、絵里は地面に突っ伏したまま激しく咳き込んだ。 「覚エテ置ケ...次ハ、御前ノ生命ヲ貰ウゾ...」 ガッツ星人の身体は次第に薄くなり、数秒と経たない内に忽然と消え去った。 |
 絵里は震える脚で立ち上がり、ジャイロの方に歩き出した。 「無線が通じなかったんで心配したぜ。大丈夫? 怪我は無い?」 タカハラの明るい声に、まだ声の出ない絵里は片手を挙げて答えた。 |
Act7 魔の手 |
 「挑発ニ乗ッテ来ンナ...」 「数ハ少ナイトハ言エ、『エリザ』ハ戦闘経験ヲ持ッテイル。安易ニハ乗ランダロウ」 「ダガ我々ノ思惑通リニ『エリザ』ヲ誘キ出サネバ、今回ノ計画ガ失敗ニ終ワルゾ...」 「心配無イ、諸君。手ハ考エテ有ル...」 |
 指揮官はゆっくり制御卓に寄ると、投射スクリーンを切り替えた。 「奴等ハ姉妹デ、肉親ハ既ニ死亡シテイル。宇宙デ他ニ血ノ通ッタ者ハ居ナイ。ソレ故、奴等ハ互イヲ庇ウ気持ガ強イ。コノ感情ハ非常ニ強力ダ。場合ニ依ッテハ、自分ヲ犠牲ニシテモ、相手ヲ守ル...」 |
 「先ノ戦闘デ『エリザ』ハ危険ヲ承知デ、自分ノエネルギーヲ弱ッタ妹ニ分ケ与エテイル」 「ソノエネルギーヲ戦闘ニ向ケタ方ガ、有利ナノニモ関ワラズ..ダナ..」 「愚カ、トシカ言イ様ガ無イ...ダガ、コレハ利用デキソウダ」 |
 「狙イハ妹ダ。『アリサ』ノ総合戦闘能力ハ、姉ノ『エリザ』ト比較シテ80%程度ト低イ。ソシテ精神的ニモ未熟ダ」 「成程...妹ヲ囮ニシテ、姉ヲ誘キ寄セル..」 「『美シキ姉妹愛』ト言ウ所ダナ...」 ガッツ星人全員が、大きな声で笑った。 |
 もう夕方近いというのに、夏の陽射しは相変わらず強い。 「紫外線やばいなあ、もう少しデパ地下で涼んでいれば良かったよ...」 亜里抄は吹き出る汗をハンカチで拭いながら、アスファルトから立ち昇る熱気の中を自宅に向かった。 |
 玄関のドアを開けた瞬間、電話が鳴り出した。 「姉貴かな? 携帯の番号教えた筈だけど...」 亜里抄は小走りに電話の所に走ると、受話器を取り上げた。 |
 「はい、星原です...」 「亜里抄ダナ?」 受話器から耳障りな男の声が響いた。 「あんた誰? 勧誘ならお断りよ!」 「支配者ノ声ヲ、モウ忘レタノカ? 」 |
 その言葉を聞いた瞬間、アリッサの自我が亜里抄の意識に割り込んだ。胸のペンダントが青く光り始める。 「ガッツ星人!」 「我々ハコノ星ヲ支配スル為ニ来タ。御前ハコノ星ノ守護戦士カ? ナラバ我々ト勝負シロ。モシ御前ガ勝テバ、我々ハコノ星カラ撤退シテヤロウ...」 「嘘じゃないでしょうね? あんた達は信用できない」 「我々ガ嘘ヲ言ッタ事ガアルカ? 今カラ2時間後、泉ヵ丘公園ノ展望台ニ来イ。タダシ、御前一人デダゾ...」 そこで電話は切れた。 |
 「姉貴じゃなくて、このあたしに挑戦状か...。よ〜し、このアリサ様の実力、見せてやろうじゃないの!」 亜里抄は愛用のヘルメットを掴むと、急いで玄関に向かった。 |
 セルスイッチを廻すと、エンジンは1発でかかった。 「快調じゃん。さ、行くか..」 ギアを蹴り込むと、アクセルを軽く開き、絵里はゆっくりと表通りに向かった。 |
 基地に戻った絵里は、すぐに過去の記録を調べ始めた。思っていた通り、防衛軍機密アーカイブにガッツ星人が来襲した際の記録があった。その内容に絵里は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。 「私と亜里抄が見た夢も、この警告だったのね...」 |
 「でも私を殺すつもりなら、何時でもできた筈..すると奴等の狙いは...」 絵里の脳裏に聞き慣れたエリザの声が響いた。 「奴等ハ狡猾デ、非常ニ危険デス..気ヲ付ケテ...」 |
 その時ドアが開いて、カトウ副長とミズキがオペレーションルームに入って来た。 「お疲れさまです。隊長は?」 「ガッツ星人の件で、まだ防衛会議だ。それよりも喉は大丈夫か、絵里? きつかったら今日は早目にあがれ。隊長には後で俺から言って置くから」 「そうよ、絵里。無理しない方が良いわ」 「有難うございます。でも、もう大丈夫です...」 絵里は仲間達の優しさに、思わず微笑んだ。 |
 泉ヵ丘丘陵は、亜里抄の自宅からさほど遠くはない。亜里抄は心地よい風を感じながら、丘陵目指して疾走した。 |
 「ここか...」 公園の入り口に、細かな砂利を敷き詰めた駐車場があった。だが駐車している車は一台も無く、いつもは何組か居るキャンパー達の姿も見えない。亜里抄は駐車場の一番奥にバイクを止めると、展望台への案内板を見上げた。 |
 展望台への階段を上がって行くと、目の前に広い敷地が現れた。中程に何かの石像が立っているのが見える。興味を惹かれた亜里抄は、ゆっくりと石像に近付いた。 |
 夕方近くになったせいか、丘陵を渡る風が少し涼しく感じられる。亜里抄は石像の礎石に埋め込まれたプレートをじっと見つめた。 「地球を護った英雄に感謝を込めて...か。そういや昔、ここで闘いがあったって...」 その時、亜里抄の胸のペンダントが輝き出した。 |
 「コソコソ隠れてないで、出てきなよ..いることは判ってるんだ...」 亜里抄の挑発的な言葉に反応したのか、突然青白い光が出現すると、それは人に似た姿に変わった。 |
 「ココニ来ルトハ、大シタ度胸ダナ...」 「フン、それはこっちのセリフだ。痛い目に合わないうちに、さっさとこの星から逃げ出した方が身の為だよ..」 |
 「ヨカロウ、ナラバ勝負ダ...」 亜里抄は素早く身構えた。現れた時と同様、ガッツ星人は再び青い光に包まれたかと思うと、視界から消えた。 |
 大きな音がして、亜里抄はハッと顔を上げた。展望台の柵の向こうに、巨大化したガッツ星人の姿があった。 |
 亜里抄はためらわずに、両手を空高く掲げた。 「アリサ・チェンジ!」 |