Act1 砂漠の異変 |
 砂漠の空を切り裂いて、地上攻撃機の編隊が低空で通過した。その衝撃は地上の砂丘を揺るがした。 「荒鷲リーダーヨリ、各編隊機ニ告グ。コノ先ハ電波障害ノ為、通信不可能トナル。各自地上攻撃パターン3ニテ攻撃セヨ」 |
 地上では戦車隊が怪獣を激しく砲撃していた。怪獣の身体には幾つもの命中弾が視認できたが、それでも怪獣の進撃は止まらなかった。 |
 「空軍ノ攻撃機ト連絡ハ付カナイカ?」 「電波障害ガ激シクテ、トテモ無理デス。戦車隊ニスラ連絡デキマセン!」 機甲大隊の指揮官は思わず舌打ちをした。無線が使えない状況では、戦術的な機動はできない。戦車ごとの各個射撃に頼る他は無かった。 「来タゾ!空軍ノ援護ダ!」 指揮官は怪獣の背後から接近する航空機に双眼鏡を向けた。 |
 一斉に対地ロケット弾が放たれ、怪獣の背後を襲った。着弾の爆発音と共に、攻撃機がジェットエンジンの唸りを上げて通過して行く。 |
 その時、怪獣の口から光線が吐かれた。それは日光に反射し、明るく煌いた。 「全機離脱セヨ!」 だが攻撃機編隊長の警告も、役には立たなかった。全ての攻撃機が突然錐揉み状態に陥り、地上に落下した。墜落した攻撃機が次々と爆発、炎上した。 |
 怪光線の威力はそれだけに留まらなかった。機甲大隊の全ての装甲車両が、ゆっくりと空中に舞い上がった。 「後退ダ!後退シロ!」 だが指揮官の乗る装甲車も、あっと言う間に空中高く持ち上げられた。 |
 怪獣が光線を吐くのを止めると、空中にあったもの全てが地上に落下した。叩きつけられた装甲車両群は、次々と爆発炎上し、黒雲を上げた。 |
 「クソッ...」 ジャヒール兵長は折れた肋骨をかばいながら、もと来た方角へ這って行った。だが付近には戦車も仲間の姿も見当たらなかった。 「皆ニ...知ラセ..ナケレバ...」 だがジャヒールの背後からは、ズシンズシンという重い音が迫って来る。 |
 急に周囲が暗くなった。ジャヒールが身体を捻って上を向くと、巨大な足が自分目掛けて降ってくる所だった。 「アッラー、アクバル!」 それがジャヒールの最後の言葉だった...。 |
 「愚カナ地球人共ダ。懲リモセズ、何度モ攻撃シテ来ルトハ...」 見つめていたモニタから目を上げた宇宙人が低く笑った。 「全クダ...ダガ我々モ鉱石ノ発掘ヲ急ガネバナラナイ」 もう片方の宇宙人が小さく頭を横に振った。 |
 その時、電子音が響き、壁のスクリーンに見覚えのある姿が写し出された。 「ゼクト星人ヨ...通信状態ガ悪イ様ダガ、亜空間通信装置ノ故障カ?」 「コレハ、メフィラス司令...周囲ニ磁気シールドヲ展開シテイル為、コノ様ナ状況デス。御許シ下サイ」 スクリーン上の歪んだメフィラス星人の姿が、大きく頷いたのが分かった。 「デキルダケ早ク、鉱物資源ノ搬出ヲ開始セヨ。転送装置ノ部品ハ、順次輸送サセル...」 |
 秋を迎えた極東基地の通路は、ひんやりとした空気が流れていた。 「緊急ミーティングって、私とタカハラさんだけですか?」 「ま、いいじゃない。たまには2人きりで特別任務ってのもさ...」 にやけるタカハラの見えない所で、絵里はちょっと顔をしかめた。 |
 驚いたことに、第3小会議室にはカタギリだけでなく、主任参謀のワタヌキの姿もあった。 「2人とも来たか。まあ椅子に掛けてくれ...参謀もどうぞ」 カタギリは皆を促すと、自らも椅子を引き寄せて着席した。 |
 「実は少し前、中東基地から当極東基地に応援要請があった。中近東のカフリスタンで何か起こっているらしいのだ」 そう言ってワタヌキ主任参謀は、タカハラと絵里の顔を交互に見つめた。 「カフリスタン?つい最近独立したばかりのですか?あそこは砂漠と山岳しかなかったような気が...」 タカハラは思い切り首をひねった。 「君の言う通りだ。だが最近になって、カフリスタンの山岳地帯で一大ウラン鉱脈が見つかった。推定埋蔵量は全世界の3割というから、かなりの規模だな」 参謀の言を継いで、カタギリは核心に触れた。 「現在我々は宇宙艦隊の規模拡大に力を注いでいるが、それに必要なエネルギーを賄う為には、あそこのウラン鉱が必要不可欠なのだ...」 |
 「しかしカフリスタンなら、中東基地や南ロシア基地の方が近いのでは?」 絵里は怪訝な表情を浮かべて疑問を口にした。 「既に1週間前、両基地から救援隊が向かったのだが、両隊共が行方不明となった。この事件に関し、我々は異星人による侵略だと見ている。そこでご苦労だが、君達2人にカフリスタンに行って調査して貰いたい」 「そんなヤバイ場所にたった2人で行っても、何かできるとは思えませんがね。そうでしょう、隊長?」 肩をすくめるタカハラを睨みながら、カタギリが念を押した。 「御前達の任務は戦闘ではない、偵察と報告だ。まず現地で何が起こっているのか判らなければ、我々も有効な支援ができないからな」 ワタヌキ参謀は溜息をついてから、おもむろに立ち上がった。 「3日後の0700時に、当基地からEUウェスト基地向けの定期連絡便が出る。君達はそれに便乗して中東基地で降り、そこからカフリスタンに入りたまえ。なお今回の任務期間は不定の為、君達には今から48時間の特別休暇を与える...」 |
 大マゼラン雲の外周部、惑星ガンマ14に同盟軍の後方基地が在った。此処は大マゼラン星域に展開する同盟軍の兵站拠点であり、しかも隣接する銀河系侵攻の為の後方基地でもある。大マゼラン方面軍司令官のゼットン星人は、此処にその司令部を構えていた。 |
 「アノ昆虫共ニ、我軍ノ補給物資ヲ渡セダト?メフィラス星人ノ奴メ、俺ノ軍カラ徹底的ニ搾リ取ルツモリダナ...」 ゼットン星人は上級司令官のメフィラス星人を口汚く罵った。 「コノ星域ダケデハアリマセン。我軍ハ大兵力ニモ関ワラズ、全面的ナ補給不足ノ為ニ、各方面デ攻勢ガ停滞シテイマス」 参謀長を務めるチブル星人は、激高する上司を宥めた。 |
 だがゼットン司令の怒りは、少しも収まらない。 「地球ノ占領ニ成功シタ所デ、手柄ハ全テメフィラス星人ノ物ニナル...納得デキヌ!」 チブル星人は上下に動きながら、冷静に囁いた。 「如何ナル時ニモ、故障ハ起コリエマス。転送装置ノヨウナ精密機器ハ特ニソウデス」 「ダガ、チブルヨ...イツマデモソノ手ハ通用シナイゾ。メフィラス星人モ、イズレハ気ガ付ク」 「帝国首都ノ同胞カラノ情報ニ依ルト、前回エリザヲ逃ガシタ事デ、皇帝ハカナリ御立腹トノ事。コノママ失敗ガ続ケバ、メフィラス上級司令官モ、長クハ無イデショウ...」 |
 短い休暇で家に戻った絵里は、亜里沙と一緒にくつろいだ一時を過ごしていた。 「へえ、これが噂に聞いていたブレスレットかあ。取扱説明書は付いてないの?」 「そんなもの必要ないわ。私達の思念波で、自由に形を変える武器だもの」 絵里は思わず微笑を浮かべた。 「でも情緒が乱れると使えなくなるらしいの。亜里沙はすぐかっとなる性質だから、特に気をつけなきゃね」 「ヒド〜イ!それが可愛い妹に言う言葉かなあ?」 絵里と亜里沙は声を立てて笑い合った。 |
 絵里は立ち上がると、亜里沙の腕を取ってそっと引き寄せた。 「今度は何時帰れるか判らないの。留守の間、此方の守りは亜里沙にお願いするわ」 「こっちは任せて。でも私、なんだか嫌な予感がする...」 亜里沙は不安な表情で、絵里に身体を押し付けた。 |
 「いつもの亜里沙らしくないわよ。大丈夫、心配はいらないわ」 「無茶しないでね。必ず戻ってきてよ」 亜里沙は怯えた子供のように、姉の身体にしがみついた。亜里沙の心臓の鼓動が、絵里の乳房を通して伝わってくる。 「亜里沙...」 絵里は瞳を閉じて、亜里沙を力一杯抱きしめた...。 |
Act2 陽炎の怪物 |
 カフリスタン西方の砂漠地帯に、低空を飛行する一機の戦術偵察機があった。 |
 空調が効いているにもかかわらず、操縦席の中はうだるような暑さだった。 「レシプロ機の操縦なんて、初等訓練の時以来だぜ。もう少しましな機体は無かったのかよ、中東基地の馬鹿共め」 タカハラがインターコムに愚痴をこぼした。 「仕方ないですね。目的地の地方飛行場は滑走路が短過ぎてジェット機は無理みたいだし、ヘリでは航続距離が足りないわ...」 砂漠の照り返しに目を細めながら、絵里はタカハラを宥めた。 |
 「マタ来タカ、諦メノ悪イ奴等ダ。今度ハ偵察機ノ様ダナ」 「『アントラー』ヲ出セ...コノ鉱山ニ地球人ヲ近付ケテハナラン...」 |
 「ありゃ何だ?」 タカハラは突如進行方向に出現した光の柱に驚きの声を上げた。 「砂嵐?...タカハラ隊員、計器を見て!全部の計器が狂ってる!」 尋常でない操作パネルの計器の動きに、絵里は思わず叫んだ。 |
 だがおかしいのは計器だけではなかった。突然左右のエンジン音がばらついたかと思うと、機体が大きく傾いた。 「クソッ、舵が効かない!緊急脱出だ、絵里!」 絵里は慌てて脱出レバーを引いた。だが何も起こらなかった。 「エジェクター故障!」 「高度が無い!このまま不時着するぞ、掴まれ!」 2人を乗せた偵察機は、浅い角度で地面に突っ込んで行った...。 |
 2、3回跳ねた後、偵察機は小さな砂丘に突っ込んで停止した。タカハラと絵里は爆破ボタンを押してキャノピーを吹き飛ばすと、急いで外に走り出た。 「早く離れるんだ、燃料が漏れていると爆発するぞ!」 足を挫いたタカハラは、絵里の肩を借りて必死に歩いた。 |
 墜落した機体から数十メートル程離れた時、後方で爆発が起こった。その爆風で2人は前のめりに吹き飛ばされた。 |
 「怪我はないか、絵里?」 上半身を起こしながら、タカハラは絵里に声を掛けた。 「ええ、大丈夫です...」 舞い上がった砂塵を少し吸い込んだ絵里は、苦しそうな咳をしながら答えた。 |
 その時、地鳴りの音と共に地面が激しく揺れ始めた。周囲の砂丘からは砂が滝のように雪崩落ちる。 「何だ、地震か?」 2人が近付いてくる音の方に振り向くと、突如砂丘の陰から砂煙が吹き上がった。続いて巨大な甲虫の頭部が砂丘からせり上がった。 「怪獣!」 |
 「絵里、分散して攻撃だ!」 タカハラは後方を指差して怒鳴った。 「了解!」
絵里は足を取られそうになりながら、柔らかい砂の斜面を走った。 |
 「車ヲ止メナサイ!」 アイーシャは片手を挙げて運転兵に合図した。ブレーキを踏まれたランドローバーは、砂埃をあげて止まった。 「右手ノ方デ戦闘中ノ様ネ...」 双眼鏡を掴んだアイーシャは、車を降りて砂丘に駆け登った。 |
 「アノ怪獣ダワ...誰カ怪獣ニ襲ワレテイル...」 アイーシャは双眼鏡を握り締めた。 「ジャヒール!急イデ父上ノ所ヘ戻ッテ。直チニ救援ノ要請ヲ!」 「畏マリマシタ、姫様」 傍らの男は胸に手を当てると、後方の車へと走った...。 |
 絵里は2丁のレーザーガンで攻撃するが、怪獣は構わず接近して来る。ほぼ全弾と言ってよい程命中しているのだが、怪獣には怯む様子は全くなかった。 「か..硬い...」 必死に引き金を引きながら、絵里は恐怖を覚えた。 |
 怪獣は足を止めると、その口から淡い光を放つ光線を吐いた。 「しまった!」 猛烈な力でレーザーガンが引き寄せられ、絵里の手を離れて宙に舞い上がった。 |
 「うあぁっ...」 強力な磁力はタカハラの銃も宙に吸い上げた。絵里よりも握力が強かった事が災いし、銃を放すのが遅れたタカハラの身体は一瞬にして十数メートルも持ち上げられた。 |
 銃を諦め、手を放したタカハラは、勢い良く砂丘の上に落下した。 「ぐぁっ!」 「タカハラさん!」 悲鳴に振り返った絵里の目に、砂の上に打ち付けられたタカハラの姿が映った。 |
 その時、絵里の胸でペンダントが明るく輝いた。 「わかったわ!」 絵里はタカハラの目に触れぬように、砂丘の陰へと走った...。 |
 「エリザ・チェンジ!」 片手を天空に掲げた絵里の足下から、眩い光の渦が出現する。光の渦が絵里の身体を包むと、目も眩むような明るい光が輝いた。 |
 突然現れたエリザに、怪獣の動きが止まった。 「カリカリカリッ...」 邪魔された怪獣の怒りを表すように、固い物を擦り合わせるような、耳障りな音が響いた。 |
 全身打撲で言う事をきかない身体を、タカハラは腕の力だけで起こした。 「エ..エリザ...来てくれたのか」 怪獣と対峙するその姿に、タカハラは一瞬表情を緩めた。 |
 「姫、アレヲ!アノ巨人、女デスゾ!」 初めて見るエリザの姿に、サイード兵長は仰天して叫んだ。 「エリザ?...戦ウ女神ト呼バレテイル、アノ...」 噂に聞いていた戦乙女を見て、アイーシャの胸の鼓動が高まった。 |
Act3 予期せぬ苦闘 |
 「ハッ!」 エリザは掛け声を掛けると、巨大な甲虫に似た怪獣に突進した。その足下では細かな砂埃が舞い上がる。 |
 エリザは上半身を低くし、巨大な鋏状の突起物を掻い潜った。そしてそのままの勢いで、右の拳を怪獣に叩き込んだ。 |
 右左右と、エリザは続けざまにパンチを繰り出す。だがエリザの拳は、悉く怪獣の厚い胸板に跳ね返された。 |
 「ハイッ!」 パンチでは効果無しと見たエリザは、腰を捻って得意の回し蹴りを怪獣の側頭部に叩き込む。だが怪獣の頭部が少し傾いだだけで、怪獣に怯んだ様子は無かった。 |
 怪獣は足下の砂を踏みしめながら、じりじりと間合いを詰めて来る。 「スピンキックが効かない...」 自信のあった技を平然と受け流され、エリザの心を不安の黒い陰が覆い始めた。 |
 戦闘の様子を見ていたタカハラは、思わず腰を浮かせた。 「エリザのキックも効かないとは...何か嫌な予感がするぜ...」 |
 「格闘戦は不利ね..ならば...」 エリザは格闘戦を諦め、武器を使う決心をした。 「スライサー!」 高く掲げた右手に、光り輝く光輪が出現する。 |
 「エイッ!」 エリザはスライサーを、怪獣目掛けて思い切り投げつける。光輪は引き寄せられるように、一直線に飛んで行った。 |
 だがスライサーは怪獣の胸に命中したものの、ガシャッという乾いた音を立てて砕け散った。 「あっ?」 思っても見なかった事態に、エリザは思わず声を上げた。 |
 「ソンナ玩具ノ武器ガ通用スルカ...ドウヤラ、例ノ作戦パターンデ行ケソウダナ?」 「ウム。奴ハ追イ詰メラレルト、必ズ『エリザ・フラッシュ』ヲ使ウ。ソコガ狙イ目ダ」 「エネルギーヲ消耗シテ動キガ鈍クナッタ所デ、一気ニ決着ヲ付ケヨウ...」 |
 怪獣は身体を揺すると、頭を下げてエリザに突進して来た。 「つっ!」 エリザは怪獣の巨大な両顎を掴み、その突進を食い止める。 |
 だがエリザは怪獣の力を見誤っていた。怪獣は苦も無くエリザの両手を押し退けると、そのまま両顎でエリザの胴をガッチリと鋏んだ。 |
 「あっ!」 両顎の内側にある鋭い突起が肋骨に喰い込み、エリザは思わず苦痛の叫びを上げた。何とか逃れようと、エリザは両手の拳で必死に硬い顎を叩く。だがその程度の打撃では、怪獣を怯ませることはできなかった。 |
 「ギッ...ギリッ...」 怪獣の顎がエリザの肋骨を締め付け、硬い物を擦り合わせるような音が砂丘に響く。 「くっ.....」 苦痛の余り、エリザは足をばたつかせてもがいたが、怪獣は増々締め付ける力を強めた。 |
 肋骨が悲鳴を上げる度に、エリザは苦痛の声を漏らした。痛みを堪えるかのように、エリザは頭を小さく左右に振り続ける。 「うっ...あっ...」 エリザは救いを求めるかのように、左手首のブレスレットを見た。だがブレスレットは何の反応も示さない。必死に苦痛に耐えるエリザの視界が、次第にぼやけていく...。 |
 「怪獣メ、神ニ呪ワレテシマエ!」 戦闘の様子を見つめていたアフマドが口汚く罵った。 「コノママデハ、エリザガ危イワ...」 エリザの苦悶の表情を見つめながら、アイーシャは双眼鏡を固く握り締めた。 |
 ミシッという音が一際大きな音が響き、エリザの左右の肋骨に細かな亀裂が生じた。 「あうっ!」 強烈な痛みに意識が遠のき、エリザの両腕がだらりと下に垂れ下がった...。 |
 エリザの抵抗が無くなったのを見て取った怪獣は、勢い良く顎を振り上げた。エリザの身体が高々と砂漠の空に舞った。 |
 ドシンという鈍い音と共に、エリザの身体が砂丘の上に落ちた。 「ぐっ!」 エリザは受身すら取ることができず、激しく腰を地面の砂に打ち付けた。 |
 「ちっ...硬いだけじゃなくて、パワーもあるのか...」 戦況を見つめていたタカハラは、思わず舌打ちした。エリザを援護しようにも、その為の武器が無いことにタカハラは苛立った。 |
 「うう...」 腰の激痛を堪えながら、エリザは何とか身体を起こした。 「この..ままでは...」 ブレスレットが使えない今、エリザは自分に残された最後の武器に賭けることを決意した。 |
 エリザは両手を交差させて、両肩に置いた。脳から司令を受けた子宮から大量の光子エネルギーが放たれ、動脈を通じて心臓へと流れ込んだ。 |
 「レディ・フラッシュ!」 掛け声と共に、エリザは両手を天に掲げた。心臓に蓄積されたエネルギーが、今度はエリザの両腕に向かって急速に送り出された。 |
 「ファイア!」 胸の前で十字を組んだ手から、眩い光線が放たれる。光線は狙いたがわず、まっすぐに怪獣の胸板を捉えた。
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 だが、何も起こらなかった。エリザが3秒もの間、エネルギー光線を浴びせ続けたにもかかわらず、怪獣には何の変化も見られない。 「ま..まさか...こんな事って...」 動揺するエリザの胸で、クリスタルが黄色に変わった...。 |
Act4 恥辱再び |
 突然、エリザは左の乳房を押さえながら前屈みになった。辛うじて片手で上半身を支えたものの、その身体は激しく震えていた。 「うっ..うう...」 急激に大量のエネルギーを送り出した為に、エリザの心臓は不規則に脈打っていた。 |
 「コレデ『エリザ』ハ暫クノ間、行動デキナイ...今ダ、一挙ニ片付ケテシマエ!」 スクリーンを見つめていたゼクト星人は、仲間に手を振った。 「了解...」 指令卓についていたゼクト星人の長い指が、幾つかのパネルのスイッチに触れた。 |
 動きの止まったエリザ目掛けて、怪獣が砂煙を上げながら突進した。だが今のエリザには、身動きひとつ取れない...。 |
 「ぐっ!」 怪獣の巨大な顎がエリザの身体を弾き飛ばし、エリザの身体は後方に吹き飛んだ。 |
 ズシンという大きな音を立てて、エリザの身体が地面に落ちた。その衝撃で細かな砂粒が煙のように舞い上がった。 |
 「う...」 背中を強く打ち付けたエリザは、立ち上がることができなかった。地面の上で身体を震わせているエリザに、怪獣がゆっくりと接近して来る。 |
 身動きできないエリザに、怪獣の黒い影が覆い被さった。怪獣はその大きな足で、エリザの腹部を思い切り踏みつける。 「ぐっ!」 下腹部の痛みに、エリザは思わず上半身を反らせた。 |
 だが苦痛はそれだけで終わらなかった。怪獣は再び足を持ち上げると、今度はエリザの豊満な乳房を踏みつけた。 「ううっ...」 既に亀裂が入っいる肋骨が、ミシッという悲鳴を上げる。 |
 砂の上で苦悶するエリザの姿に、アイーシャの表情が曇った。 「アフマド!父上ハマダ来ナイノ?」 「マダ見エマセヌ、姫...」 蜃気楼がゆらめく砂丘を見つめながら、アフマドは小さく首を横に振った。 |
 メリッという鈍い音と共に、遂に耐え切れなくなった肋骨が折れた。砕かれた肋骨の細片が、次第にエリザの内臓に突き刺さっていく。 「あ、あうっ!」 エリザは思わず苦悶の悲鳴を上げた。 |
 一旦怪獣の足が持ち上がり、再びエリザの胸に勢い良く落とされた。今度はバキッという、明らかに骨の折れた音が響いた。 「うぐっ!」 骨の破片が深々と内臓に刺さり、エリザは気を失った。額のクリスタルランプから光が消え、エリザの両手がゆっくりと地面に落ちた。 |
 全く無抵抗となったエリザの身体を、怪獣は足で蹴り上げた。エリザの身体はゆっくりと横転し、砂煙をあげてうつ伏せに転がる。 |
 意識を失い、完全に無抵抗となったエリザだったが、何故かとどめの一撃は降ってこなかった。怪獣は何か興味を惹かれたように、ゆっくりとエリザの後方に回り込んだ。 |
 「何ヲシテイル?早ク片付ケテシマエ」 赤い眼をしたゼクト星人が声をあげた。 「オカシイ..『アントラー』ガ興奮状態ニナッテイル...制御不能ダ」 制御卓を操作しながら、もう一人が首をひねった。 |
 両顎の鋏でエリザの胴を挿んだ怪獣は、その両足を掴んでエリザの身体を空中に持ち上げた。 |
 肋骨に再び加えられた痛みで、エリザはようやく意識を取り戻した。だが宙に吊り上げられた体勢では、身動きひとつできない。 「くっ...」 軋む肋骨の痛みを必死で堪えるエリザには、音も無く怪獣の口吻からせり出てきたものに気付かなかった。 |
 「何だ、あれは?」 怪獣の口とおぼしき部分からせり出した細長い管を見て、タカハラは思わず眉を寄せた。明らかに怪獣の器官の一部と思われるその管は、まさぐるようにエリザの股間のあちこちを突き始めた。 |
 少しも経たない内に、怪獣の細長い口吻はエリザの股間の裂け目を探り当てた。陰唇をめくりあげるようにして、管の先端が少しづつヴァギナへと潜り込む。 「ああっ!」 股間に手の届かないエリザは、下半身に力を込めて必死に陰唇を閉じようとした。だがそれを感じ取った管は細かく振動し、少しづつ陰唇を広げながら膣の奥へと侵入して来る。 |
 陰口への刺激がヴァギナに伝わり、それは即座にエリザの子宮へと伝達された。子宮はフェロモンの放出を始めると共に、脳に快楽の受け入れを命じた。 「だ..だめ...」 怪獣の細長い口吻は細かく振動しながら、膣の深部へと侵入を続ける。エリザは膣口の筋肉を収縮させて押し止めようとしたが、それは虚しい試みだった。口吻はゆっくりと、しかし確実に膣の深部へと侵入して行く。 「うっ...ああっ...」 エリザの理性は子宮からの指令に必死に抵抗した。だが肉体の快楽を要求する本能が、次第に理性を圧迫して行った...。 |
 エリザの虚しい抵抗が衰えるにつれ、口吻の先端は次第に膣奥にある子宮口へと迫った。そして遂に子宮口の傍の膣壁にめり込んだ。 「ぐふっ!」 膣への刺激でエリザの下腹部が震え、猛烈な吐き気がエリザを襲った。 |
 「ソウカ、判ッタゾ..コノ数値ヲ見テミロ...」 ゼクト星人は制御卓のパネルを指しながら、仲間の方に首を傾けた。 「ム?...コレハ『アントラー』ノ欲望強度ヲ示ス値ナノカ?」 「ソウダ。ドウヤラ『アントラー』ハ、『エリザ』ノ胎内ニ、自分ノ好物ヲ発見シタヨウダゾ...」 そう言いながらゼクト星人は、くぐもった笑い声をあげた。 |
Act5 砂上の悪夢 |
 戦士としての理性と快楽を求める性欲の狭間で、エリザの感情は激しく揺れ動いていた。怪獣の口吻は蠕動運動を繰り返し、子宮口付近の膣壁を執拗に突いてくる。 「あっ..ああっ!」 膣壁を突かれる度に、エリザは無意識に悦びの声をあげた。エリザの心の中での闘いは、もはやその趨勢は明らかだった。 |
 性欲が理性を駆逐し終えると、エリザの脳は子宮に快楽の受け入れを命じた。子宮は光子エネルギーの供給を停止し、代わりにフェロモン液を精製し始めた。 エネルギーの供給が絶たれたエリザの身体には、すぐにその影響が現れた。胸のクリスタルは赤色に変わり、鋏角を押さえていた手が、だらりと下に垂れ下がる。 エリザは救いを求めるように左手首のブレスレットを見た。だがブレスレットのコアクリスタルは、冷たい青色のままであった。 |
 エネルギー減少を示す警告音が、胸のクリスタルから鳴り始めた。その単調な調べが、乾いた砂漠の空に響く。 「ん..ああ..あ...」 子宮から膣へと大量のフェロモン液が流れ込むと、怪獣の口吻はその先端から、甘いフェロモン液を勢い良く吸い取り始めた。 |
 「コノママデハ『エリザ』ハ...」 辱めを受けるエリザの姿に、アイーシャは思わず顔を歪めた。 「神ヨ..ドウカ『エリザ』ヲ御救イ下サイ...」 アイーシャは心の中で必死に神に祈った。 |
 膣に溜まったフェロモン液をあらかた吸い尽くした口吻は、甘美な蜜露を求めて貪欲に膣壁に突進を繰り返した。 「...あっ..ああっ...」 口吻の先端が膣を深くえぐる度に、エリザの口から喘ぎ声が漏れる。 |
 膣からの刺激を受けたエリザの子宮は、なお一層フェロモン液の生成を増進させる。だがそれは、本来全身に供給されるべきエネルギーを絶つことでもあった。 「うっ..ああっ..あ...」 クリスタルの警告音に混じり、エリザの喘ぎ声が砂丘に木霊した。しかし既に理性を失ったエリザには、もはや抵抗する術は残されていなかった...。 |
 「くそっ、もうエネルギーが...」 エリザの胸にあるクリスタルは、赤い光を放ちながら規則的に点滅している。タカハラは、その点滅がエリザの活動限界を示すサインであることを知っていた。 だが何の武器も持たないタカハラには、エリザを助ける手段は無い。歯ぎしりしながら、タカハラは拳を固く握り締めた。 |
 しばらくするとクリスタルの点滅間隔が短くなり、警告音も連続した音に切り替わった。それはエリザの全身から、急速にエネルギーが枯渇している証拠であった...。 |
 「奴ノ光子エネルギーハ、間モ無ク尽キル...我々ノ勝利ダナ」 「ソノ様ダ...『エリザ』ノ子宮カラ出ル分泌液ガ、『アントラー』ノ好物トハ意外ダッタガ...」 「メフィラス司令ニ、『エリザ』ノ分泌液ヲ分析シテ報告スルトシヨウ...『エリザ』抹殺ノ勲功ト併セテ、表彰サレルカモ知レヌナ」 2人のゼクト星人は、愉快そうに笑い声を上げた...。 |
 エリザは自分の乳首が急速に蒼褪めていくことに気が付いた。エネルギーが供給されなくなったエリザの身体は、既に麻痺状態に陥っていたのだ。今や指先ひとつ満足に 動かせないエリザには、怪獣の束縛から逃れる術は無かった。 「...お願い..反応して頂戴...」 唯一の救いである左腕のブレスレットを、エリザはじっと見つめる。だが性的な興奮に大きく乱れた感情には、ブレスレットは答えてくれなかった。エリザの願いも虚しく、ブレスレットの宝玉は冷たい青い光を湛えたままで、決して光り輝くことは無かった。 |
 胸のクリスタルが告げる警告音が、乾いた砂漠の空に響く。最期の時が刻々と迫っていることを、エリザは感じていた。子宮に蓄えられていたエネルギーも急速に枯渇 し、フェロモン液の生成も停止されていた。ヴァギナに溜まったフェロモン液を吸い尽くした怪獣は、更なる甘露を求めて怒ったようにエリザの膣壁を突き続けた。 「ああっ..あっ...」 虚しい悦楽の歓声を上げるエリザの頭上に、砂漠の太陽が眩く輝いている。しかし今のエリザにはエネルギーを補給しようにも、両腕を掲げるだけのエネルギーすらも残されてはいなかった...。 |
 やがてクリスタルの点滅間隔が長くなり、警告音がピーッという長い音に変わった。それは即時の変身解除を促す、最終警告だった。しかし今のエリザには、それは何 の助けにもならなかった。既にエネルギーの枯渇から来る極度の虚脱感が、エリザの全身を支配していたのだ。 「..アリサ...」 彼方の地平線に揺らめく陽炎に、楽しげに笑う妹の面影が重なった。死への恐怖は微塵も無かったが、エリザは自分の無力さが悔しかった。救いを求める者達に、何も応えられなかったという後悔の念が、衰弱し切ったエリザを苦しめるのだった。 |
 その時、いきなり轟音がしたかと思うと、エリザの周囲に集中的な爆発が起こった。怪獣の背中に大きな爆発が生じ、その衝撃でエリザの身体が激しく揺れた。 |
 「援軍か?...だが、何処から来たんだ...」 張り詰めていた緊張から一瞬解放されたタカハラだったが、思わぬ援軍に困惑した。 |
 「父上!...フウッ..危ナイ所ダッタ...」 アイーシャは止めていた息を、大きく吐き出した。 「ジャヒールノ奴、何トカ間ニ合ッタ様デスナ...」 砂丘の陰から次々と姿を現した戦車に、アフマドも大きく肩で息をついた。 |
 戦車砲による猛烈な射撃に、怪獣は怒り狂った。吊り上げていたエリザの身体を放り捨てると、戦車隊に向かって突進し始めた。 |
 ようやく怪獣による戒めから解放されたエリザだったが、もはや起き上がるだけのエネルギーすら残っていなかった。胸のクリスタルの点滅はひどく遅くなり、今にも消えてしまうかのようだった。 「もう...時間が...」 エリザに残された道はたったひとつ、すぐに変身を解くことしか無かった。 |
 エリザは言う事をきかない身体を、何とか捻って仰向けになった。そして残された全エネルギーを両腕に集中し、胸の上で交差させる。 「..リ...リリース...」 脳が仮死状態に陥る直前、変身解除の指令が辛うじて間に合った。 |
 エリザの身体が淡い光の粒子へと変わり、折から吹き付けた砂漠の風の中に、掻き消すように消えて行った...。 |
 戦車隊は相互に援護を行いながら、迅速に後退して行く。その後を追うようにして、怪獣は砂漠の奥へと進んで行った。 |
 「絵里!何処だ?」 タカハラ大声を上げながら、砂の上を小走りに駆ける。小さな砂丘を越えると、砂の窪みに倒れている絵里の姿があった。 「大丈夫か、絵里?」 絵里の傍らに膝を付いたタカハラは、絵里の顔を覗き込んだ。40度を越す炎天下にも関わらず、両瞼を閉じたその顔は、蝋人形のように蒼褪めている。 |
 その時、タカハラの背後からエンジン音が聞こえた。肩越しに振り返ると、大型の四輪駆動車が近付いて来る所だった。助手席の小柄な兵士が、タカハラに何かを叫ぶ。 「早ク負傷者、急イデ車に!」 それは片言の英語だったが、意味はタカハラにも理解できた。 |
 絵里を抱き上げたタカハラは、急いで四輪駆動車に向かった。後部荷台の兵士が手を振って、タカハラを急がせる。 「町ニ戻レバ、医薬品アリマス。急ギマショウ...」 小柄な兵士が女性だったと知り、タカハラは少し驚いた。 |
act6 絶望の街で |
 濛々と砂煙を巻き上げながら、古ぼけた四輪駆動車が砂漠を疾走して行く。タカハラは車体が揺れる度に、荷台に横たわる絵里の顔を覗き込んだ。 「心配ハ要リマセン。間モ無ク『トゥクルティ』ノ街ニ着キマスカラ...」 アイーシャと名乗った少女は、片言の英語でそう語ると前方を指差した。 「あれは?...」 大きな砂丘を超えると地面は岩石質に変わり、その先に石造の城門が姿を表した。城門の前には数両の装甲車両が配置されており、タカハラ達を出迎えた。 |
 絵里が気が付くと、周囲は薄暗い闇に覆われていた。ふと脇を見ると、ベールで顔を覆った人物が絵里の顔を見下している。 「怪獣は?..ここは何処?...」 「心配ハ要リマセン。ココハ『トゥクルティ』ノ街。貴女ガ戦ッテイタ場所カラ、ソウ遠ク無イ場所デス」 ベールの人物はその声から、すぐに若い女性と知れた。 「砂漠ノ夜ハ冷エマス。後デ毛布ヲ御持チシマショウ..」 |
 「..私の名は星原 絵里。貴方はこちらの軍の方?」 身体中の筋肉がきしみ、起き上がりかけた絵里は思わず顔をしかめた。 「私ノ名前ハ『アイーシャ』、軍人デハ有リマセン。父ガ部族ノ長ナノデ、衛生班ノ助手ヲシテイマス。軍医ハ十日前ニ戦死シマシタ...」 窓から流れ込む夜の冷気が、そっと絵里の肌を撫でて行った...。 |
 「タカハラさんは..無事なの?」 絵里は軽い眩暈を覚え、自分の頭を押さえた。 「無事デス、安心シテ。今頃、父上ト話合ッテイル筈...ソレヨリ無理ヲシナイデ。貴女ハ脱水症ヲ起コシテイマス..」 |
 「コレヲ飲ンデ、モウ少シ休ンダ方ガ良イワ...」 アイーシャが差し出したコップの水を、絵里は貪るように飲み干した。心無しか、絵里の手は細かく震えていた。 |
 木の扉が開き、固い靴音が階段を下りて来る。タカハラが顔を上げると、濃い口髭をたくわえた男が近づいて来た。その背後には従兵が付いている。 「此処ハ田舎デネ。遠来ノ友人ニ、モテナシモデキズ済マナイ。モウ食事ハ済ンダカネ?」 タカハラのハイスクール英語と比べれば、それは遥かに流暢な英語だった。 「ええ、救援有難うございます。おかげで命拾いをしました」 タカハラは慌てて立ち上がって礼を言った。 |
 男は目の前に来ると靴の踵を揃え、コモンウェルス式の敬礼をした。 「私ハ『ヌールディーン・マフムード・アルスラン』大佐。カフリスタン王国陸軍第14機甲旅団長ダ。」 「地球防衛軍極東基地のタカハラ中尉です。この地域の緊急調査の為、派遣されました」 「調査カ..君モ見タダロウ?アノ怪物ガ全テノ原因ナノダ...一切ノ補給・通信ヲ断タレ、コノ街ト私ノ部隊ハ餓死寸前ダ」 そう言いながらヌールディーンは、傍らの椅子を指差した。 |
 「あの怪獣をご存じなのですか?」 「アレハ伝説ノ怪物ダ。コノ街ノ古老ガ言ウニハ、百年程前ニ伝説ノ都『バラージ』ヲ襲撃シタラシイ。ダガ天空カラ舞イ降リタ銀色ノ巨人ニ退治サレタ..」 ヌールディーンの言葉に、タカハラは驚いた。 「銀色の巨人とは、ウルトラマンのことですね?その事件は、我々の記録にも有りました」 「ナラバ話ハ早イ。我々ハ明朝、アノ怪物ヲ攻撃シ、地獄ニ葬リ去ルツモリダ。デキレバ君達ニモ、手伝ッテ欲シイ」 そう言うとヌールディーンは、従兵にテーブルを片付けさせると地図を広げた。 |
 「この街が危機に陥ってるのは判りますが、そもそもあの怪獣が何処に居るか判っているのですか?」 「居場所ハ判明シテイル。コノ『バリート渓谷』ノ入口ニ接近スルト、奴ハ必ズ姿ヲ現ス。ソシテ渓谷ノ奥ニハ、最近発見サレタ『ウラン鉱山』ガ有ル」 ウランという言葉に、タカハラがハッと顔を上げた。、眼鏡の奥でヌールディーンの目が、タカハラをじっと見つめている。 「奴ガ此ノ地ニ出現シタノハ、単ナル偶然トハ思エナイ。何者カノ意志ヲ感ジル、邪悪ナ意志ヲ..」 そしてヌールディーンは大きな溜息をついた。 「ダガ、コノ街ノ食糧ハ既ニ尽キテイル、モハヤ時間ガ無イ。私ノ部隊モ、アト1回出撃スルダケノ燃料シカ無イ。コレガ最後ノ機会ダロウ」 |
 「トハ言エ、遠方カラ助ケニ来テクレタ友人ニ、共ニ死ンデクレテトハ言エヌダロウナ...」 目を閉じて頭を横に振るヌールディーンを見て、タカハラは腹を決めた。 「..分かりました。やりましょう、大佐。我々の使命は、助けを求める人達を救うことですから」 そう言ってタカハラは立ち上がり、手を差し出した。 「有難ウ...君達ノ祖先ノ様ニ、君モ勇敢ナ戦士ノヨウダ」 ヌールディーンは何度も頷きながら、タカハラの手を強く握った。 |
 出された食事は薄いスープだけだったが、弱った体の絵里にはそれで十分だった。 「そうだ、お礼を言わないと...」 絵里が建物を出ると、外は明るい満月に照らされていた。冷たい微風がそっと髪を撫でる。一人の兵士が目に入った絵里は、近づいて声を掛けた。 兵士が何か答えたが、その現地語は絵里には理解できなかった。 「あの女性は何処ですか? 確か名前は..アイーシャだったかしら..」 アイーシャという言葉が通じたのか、兵士は城門の方を指差した。 |
 城門を警護していた兵士にも、「アイーシャ」という一言だけで十分だった。兵士が指差した砂丘の上に、小さな影が浮かんでいる。 絵里は砂礫を踏みしめながら、ゆっくりとその影に近づいて行った。 |
 踏みしめられて砕けた細石の音に、アイーシャは振り向いた。 「貴女デシタカ..デモ、マダ貴女ニハ休息ガ必要デス...」 「もう大丈夫です。あなたに助けて頂いた御礼を言いたくて」 絵里は小さく会釈をした。それを見てアイーシャは小さく笑った。 |
 「星が綺麗...もう私の国では、こんな綺麗な夜空は見れないわ」 満天の星空を仰いだ絵里は、溜息をつきながら言った。 「コノ国ニハ、砂漠シカ有リマセン...デモ夜空ノ星々ダケハ、何処ヨリモ綺麗デス」 夜空を見上げたアイーシャは、小さな声でささやいた。 「モウ御存ジカモ知レマセンガ、父ハ明朝、最後ノ攻撃ヲスルト言ッテイマシタ..」 |
 「私ノ兄達ハ全員、アノ怪物ニ殺サレマシタ。仇ヲ取ル為ニ、父ハ死ヌ覚悟デス。デモ貴方達マデ、父ト一緒ニ死ヌ必要ハ有リマセン」 アイーシャは悲しそうに首を振った。 「私達は大丈夫。それにあの怪獣はエリザが必ず倒すわ、心配しないで」 「エリザ..昨日ノ女巨人ノ事デスネ? デモ、アノ怪物ニ勝テルデショウカ...」 その言葉は絵里の心に、深く突き刺さった。絵里は無理に笑顔を作り、アイーシャの肩にそっと手を置いた。 「勝てるかどうか、私にも判らない。でもエリザを信じてあげて。私達が信じなければ、きっとエリザだって全力で戦えないわ」 |
 「絵里サン、貴女ハ強イ人デスネ...私モ貴女ノ様ナ、強イ人間ニ成リタイ..」 「いいえ、アイーシャだって強いわ..昨日、危険を冒して私達を助けてくれたじゃないの」 絵里はゆっくりと振り返ると、手でアイーシャを誘った。 「そろそろ戻りましょう..しっかり準備しなきゃね、勝つために...」 |
 絵里が薄暗い半地下の部屋に下りていくと、その靴音に椅子に掛けたタカハラが頭を上げた。 「絵里、もう体調は良いのか?」 「ええ、アイーシャさんが介抱してくれたお蔭です。銃の手入れ?」 銃のエジェクターを戻しながら、タカハラは頷いた。 「なにせ砂の中から大急ぎで拾い集めたからな。細かい砂が入っちまって動作が重い。君も十分手入れをしておけよ」
|
 タカハラは銃を腰のホルスターに戻すと、絵里の顔をじっと見つめた。 「まあ座れよ..ところでだ、ヌールディーン大佐は明朝、あの怪獣と決着をつけるつもりだ」 「アイーシャから聞きました。もう外では出撃の準備が始まっている。皆が相当な決意みたいだわ」 絵里の言葉に、タカハラは俯いて首を横に振った。 「勇気に不足は無くとも、彼らの装備はほとんどが年代物だ。頼みの綱はエリザだけだが、それもなあ..」 途中で言葉を切ったタカハラの厳しい表情が、絵里にはとても辛かった。 |
 しばらくして何か決心したかのように、タカハラは顔を上げた。 「現地では君とアイーシャは、物陰に隠れていてくれ。攻撃には絶対加わるなよ」 「何故? 私も警備隊の隊員よ?逃げ隠れはできないわ」 絵里はあからさまに怒った表情を浮かべた。 「大佐からの命令なんだ。そして俺からの命令でもある」 「納得できません!いくらタカハラさんが上位者でも、そんな命令は...」 「考えてもみろ...もし全員が戦死したら、誰がそのことを隊長に伝えるんだ?誰が怪獣からこの街を守る?」 |
 正論を語るタカハラに、絵里は反論できなかった。 「わかりました...」 「うん、やっぱり絵里は素直だな..だが安心しろ、俺達は決して死なない。士官学校で、そう教えられただろ?」 タカハラは勢いよく椅子から立ち上がると、破顔一笑して絵里の腕を叩いた。 |
Act7 決戦の日 |
 砂漠の朝は、あっと言う間に太陽が地平から顔を出す。夜の間に冷えた空気が、まだ足下に感じられる。 「おはよう、アイーシャ。忙しそうだね、何か手伝おうか?」 記録簿をチェックしていたアイーシャに、タカハラが声を掛けた。 「オ早ウゴザイマス、皆サン。結構デスワ、コレデ給油ト弾薬ノ配備ハ、全テ終ワリマシタカラ」 |
 「御2人共、今日ハ特ニ気ヲ付ケテ下サイ。決シテ死ンデハナリマセン...」 2人をじっと見つめるアイーシャに、タカハラは笑顔を作った。 「心配は御無用さ。で、俺達はどの車両に?」 「父上..イエ、旅団長カラ直接指示ガアル筈デスワ」 アイーシャが顎で示した方を見ると、ヌールディーンがBMPを降りて歩いてくる所だった。 |
 「オ早ウ、遠来ノ友人諸君。アイーシャ、出撃ノ準備ハ?」 「完了シテイマスワ、父上」 ヌールディーンはひとつ頷くと、絵里達の方に顔を向けた。 「タカハラ中尉ハ、機甲歩兵ト共ニ行動シテクレ。絵里少尉ハ私ノ娘ト、最後方ノ救護班ヲ御願イスル」 |
 指示を終えたヌールディーンは、アイーシャを抱き寄せた。 「我ガ娘ヨ..兄達ガ亡キ今、今ヤ我ガ一族ノ血ヲ受ケ継グ者ハ、モハヤ御前シカ居ラヌ...」 父ヌールディーンは、娘のアイーシャがこれまで見た事のない程、柔和な表情を浮かべていた。 「今日モシ私ガ戻ラヌ時ハ、御前ガ一族ノ長トナレ。ソシテ丈夫ナ子ヲ生ムノダゾ...」 現地語は理解できなくとも、絵里とタカハラには感じ取れた。父と娘の深い愛情と絆が。 |
 数十両もの装甲車両が砂を踏み砕き、朝の砂漠を前進する。車両が巻き上げる砂塵は、まるで巨大な百足が砂漠を這っていく様を思わせた。 |
 時々車輪が深い砂溜に突っ込み、絵里の操るハマーが大きく左右に揺れた。その度に絵里は、必至になって大きなハンドルにしがみ付く。 「運転ヲ代ワリマショウカ?」 額に汗を浮かべている絵里を見て、アイーシャが微笑んだ。 「いいえ、大丈夫よ」 絵里は虚勢を張ったが、声の震えは隠せなかった。 |
 「何故...遅延..テイル?」 強い磁気界の為に、ホログラム映像は鮮明に映らなかった。音声信号の欠落も激しい。メフィラス星人の姿がひどく歪んで投影されている。 「コチラニ届イタ転送装置ガ、全ク使イ物ニナラナイ。既ニ報告ハシテイル筈ダ、此方ノ怠慢デハ無イ!」 ゼクト星人は自分の言葉に、精一杯の怒気を込めた。 「既ニ指定サレタ量ノ鉱物ハ採取シタ。全テ1次精製済ダ。星間標準時間デ、アト3日以内ニ転送機ガ届カヌ場合、ソチラノ契約不履行ト見ナスゾ」 ゼクト星人は雇い主に交信終了の言葉も述べず、いきなり通信を切った。 |
 「ドウヤラ噂ハ本当ダッタカ...」 ゼクト星人のリーダーは低い声で呟いた。 「噂ト言ウト?」 「メフィラス星人ハ傲慢ダ。配下ノ他種族ハ相当不満ヲ持ッテイルラシイ。ソレニ最近、奴ノ作戦ハ悉ク失敗シテイル」 「ダガ奴ハ、皇帝ノ信任ガ厚イト聞クゾ? 少々ノ失敗グライデハ、軍ノ地位ハ揺ラグマイ」 「ドウカナ..上級司令官ノ地位ヲ狙ウ者ハ大勢居ル。第一、我々ノヨウナ傭兵ヲ使ッテイル事コソ、自分ノ部下ヲ信用シテイナイ証拠ダ」 その時、いきなり制御卓の非常警報が鳴った。 |
 渓谷の入口で、先頭を行くヌールディーンの戦車が停止した。後続の車両から素早く下車した部下の大尉が、手を振って部隊を左右に展開させる。 装甲車両群が砂丘の縁に沿って、縦隊が横隊に変化して行く様はまるで生き物のように見えた。 |
 ハマーを降りた絵里は、双眼鏡で谷の入口を捜索した。だが怪獣らしき姿は、まだ見えない。 「アブドゥル、貴男ト他3名ノ者達デ、後退シテ来ル負傷兵ヲ乗車サセナサイ」 「畏マリマシタ、姫様」 絵里の背後で、階級は兵卒のアイーシャが軍曹に指示していた。 |
 「マタ地球人共カ..全ク懲リナイ奴等ダ...」 「『アントラー』ニ迎撃サセロ。ニ度ト刃向エナイヨウニ、皆殺シニシテシマエ!」 |
 いきなり地響きがしたかと思うと、地面から砂が猛烈な勢いで吹き出し始めた。 「奴ダ! 奴ガ来ルゾ!」 「気ヲ付ケロ!」 激しく揺れる砂丘の影から、巨大な怪獣の頭部が突き出した。 |
 ヌールディーンは左手を高く掲げると、前に振り下ろした。 「インシャーラ! 攻撃開始!」 全火砲が一斉に火を噴き、砂漠に轟音が響き渡る。あっと言う間に、大小の炎が怪獣を包み込んだ。 |
 無数の野砲弾、戦車砲弾が怪獣を捉えたが、怪獣は進むのを止めない。じりじりと部隊に接近して来る。それでも最前列の戦車隊は一歩も引かず、猛射を浴びせ続けた。 |
 第2列に布陣した装甲歩兵は、怪獣が携帯火器の射程に入るのをじっと待った。タカハラもレーザー銃を抜いて、安全装置を外した。 「オイ、そこの奴等! 車両から離れろ、一緒に吹っ飛ばされちまうぞ!」 タカハラは大声でBMPの影にいた分隊に怒鳴る。しかし言葉が通じない為か、歩兵達はその場から動こうとはしなかった。 |
 しつこい砲火に業を煮やしたのか、怪獣は巨大な角を広げると、強力な磁力光線を吐き出した。あっと言う間に数台の戦車が空中に舞い上げられる。 |
 磁力光線が消えると、舞い上げられた車両が次々と落下して大地に激突した。砂漠のあちこちで爆発が生じ、炎の柱が立ち昇る。 |
 「大丈夫か?」 目の前に落ちてきた兵士に、タカハラが声を掛けた。だが既に意識が無いのか、その兵士はピクリとも動かない。装甲車がエンジンの唸りを立てながら、タカハラの背後を疾走していく。その脇を興奮した歩兵達が、叫び声を上げながら突撃して行った。 |
 「先頭部隊ガ壊滅シタワ...見テ、第2陣ガ突撃シテ行ク..」 故郷の街や村で共に過ごした者達の無残な姿に、アイーシャの声は少し震えていた。 「くっ...」 絵里は奥歯を噛みしめると、後方へ駈け出した。 |
 トラックの背後に走りこんだ絵里は、空を見上げた。 「勝てないかも知れない..でも...」 覚悟をかためた絵里は、右手を高く天にかざした。 「エリザ・チェンジ!」 |
Act8 苦闘 |
 エリザが現れると、怪獣はピタリと足を止めた。アントラーはゆっくりと両方の角鋏を開閉しながら、カリカリッという耳障りな音を発した。 |
 「アレヲ見ロ、女巨人ガ現レタゾ!」 「イシュタル女神ノ娘ダ!」 怪獣の圧倒的な力に、一時は動揺した歩兵達だったが、エリザの姿を見ると口々に快哉を叫んだ。 「ふぅ...来てくれたか..」 最悪の事態を覚悟していたタカハラは、そっと胸を撫で下ろした。 |
 アントラーは間合いを測りながら、じりじりとエリザに接近して来る。その気迫に押されるように、エリザも半歩づつ後退した。昨日の戦闘で敗北を喫しているエリザは、いやでも慎重にならざるを得なかった。 |
 砲塔に立つヌールディーンは、手にした双眼鏡を握りしめた。 「『イシュタル』ノ娘ヨ...ドウカ我等ヲ救イ給エ」 子供の頃に古老から聞いた伝説の女神の名を、ヌールディーンは思わず口にしていた。 「アノ邪悪ナ悪魔ヲ、コノ地上カラ永久ニ消シ去リ給エ...」 |
 じりじりと距離を詰めた怪獣は、いきなりエリザに飛び掛かった。 「つ!」 エリザは身体を回転させ、間一髪怪獣の突進をかわした。 |
 回転の勢いを活かし、エリザはすれ違いざまに怪獣の背中に手刀を叩き込んだ。 |
 バランスを崩したアントラーは、そのまま前のめりに倒れた。ズシンという鈍い音と共に、細かな砂煙が一斉に舞い上がる。 |
 「アノ女巨人、中々ヤリマスゾ...」 戦闘の様子を窺っていた軍曹が、思わず快哉をあげた。 「戦神ノ娘デスモノ..必ズ勝ツワ...」 アイーシャは自分に言い聞かせるように、小さく頷いた。 |
 「いける...」 エリザはうつ伏せに倒れた怪獣の背に馬乗りになった。そして渾身の力を込め、左右の拳を交互に怪獣に叩き込む。 |
 だが強固な外皮に護られたアントラーには、エリザのパンチなど効果が無い。怪獣が煩わしい蠅を追い払うかのように、勢い良く身体を捻った。 「あっ!」 エリザは後方に跳ね飛ばされると、砂の上を数回転がった。 |
 「つ...」 起き上がりかけたエリザに、怪獣が素早く突進する。度々柔らかい砂上に足を取られるエリザに対し、怪獣は明らかに地の利を得ていた。 |
 動きの鈍いエリザに怪獣は上から覆い被さった。その巨大な鋏がエリザの胴をガッチリと捕える。波状にうねる鋏の鋭い突起が、エリザの皮膚に食い込んだ。 「あうっ!」 脇腹に錐で揉み込むような痛みが走り、エリザは思わず悲鳴を上げた。 |
 怪獣は上半身を反らすと、1万トン近くあるエリザの身体を軽々と持ち上げた。 「あ!」 エリザは両足をばたつかせたが、怪獣の鋏から逃れることはできなかった。 |
 「ちっ..パワーが違いすぎる...」 怪獣の頭上に持ち上げられたエリザの姿に、タカハラは思わず呻いた。 「接近戦は不利だが、かと言ってエリザの武器も通用しない...」 |
 怪獣が弾みを付けて頭を後方に振る。するとまるでスローモーションのように、エリザの身体が砂漠の宙を舞った。 |
 低空で投げ捨てられたエリザは受け身も取れず、半回転してそのまま地面に叩き付けられた。 「ぐっ!!」 落下の衝撃で数本の肋骨にひびが入り、エリザは一瞬気が遠くなった。 |
 「ううっ..」 砂上に突っ伏したエリザの肩が、細かく震えた。胸の痛みが全身に伝播し、身体中の筋肉を痙攣させる。エリザの意識の中で、次第に絶望感が大きくなっていった。 |
 その時エリザの意識に、絵里の声が響いた。 「お願い、立って..私達が負けたら、もっと多くの人達が苦しむの...」 意のままにならない脚の筋肉に必至に力を込め、なんとかエリザは上半身を起こした。 |
 苦しむエリザの姿に、アイーシャは双眼鏡をきつく握り締めた。 「太陽神ヨ..『イシュタル』ノ娘ヲ護リ給エ...」 アイーシャは思わず古えの神に祈った。 |
 自分の力に満足を覚えたのか、怪獣は今度はゆっくりとエリザに近づいて来る。 「ま、負ける訳には...いかない..」 エリザは身体の震えに耐えながら、顔を上げて迫り来る怪獣を睨んだ。 |
 「偉大なる母よ..このエリザを..お助け下さい...」 何とか立ち上がったエリザは、自分の左手首を掴んだ。精神を集中し、ブレスレットに思念波を送る。するとブレスレットの宝石が、眩しい光を放ち始めた。 |
 続けてエリザは、両手を頭上に掲げて叫んだ。 「シュトーラ!」 するとエリザの手に、淡い光を放つ双刃の槍が現れた。 |
Act9 砂丘の凱歌 |
 だが次の瞬間、怪獣の角鋏が無防備だったエリザを跳ね飛ばした。 「あうっ!」 鈍い音と共に、エリザの身体が後方に吹き飛んだ。 |
 再びエリザの身体が、地面の砂に叩き付けられる。後頭部を強く打ったエリザの視界は、急激に暗くなった。 |
 地面に横たわるエリザに、怪獣の影がゆっくりと近付いて来る。だが脳震盪を起こしているエリザは、今や身動きひとつできない。 やがて胸のクリスタルが放つ光が、淡い黄色へと変わった。それはエリザに残された時間が、減少していることを示していた。 |
 怪獣は地面に両膝を突くと、エリザの片足を持ち上げた。その時アントラーの鋭い嗅覚が、エリザの股間から漂うフェロモンの香りを嗅ぎ取った。それは先日初めて味わった、蜜の甘美な香りだった。怪獣はエリザの両足を掴むと、大きく左右に開く。股間に顔を覗かせた陰唇に向かい、アントラーは口吻を伸ばした。 |
 股間に感じた衝撃に、エリザは意識を取り戻した。だが次の瞬間、膣内に冷たい異物がうごめいているのを感じた。 「ああっ!」 エリザは自分のヴァギナが、燃え上がったかのような感覚に襲われた...。 |
 「見ロ、『イシュタル』ノ娘ガ犯サレテイル!」 「クソッ..悪魔メガ...」 辱めを受けるエリザの姿を前にして、兵達に動揺が広がった。 「御願イ...耐エテ..」 ヴェールの下で、アイーシャは唇を固く噛みしめた。 |
 その時、背後からエンジン音が迫って来た。アイーシャが振り向くと、1台のジープが急ブレーキを掛けて停止した。ハンドルを握っているのはタカハラだ。 「アイーシャ、来てくれ! エリザを助ける。君の父上の協力が必要なんだ!」 「分カリマシタ」 アイーシャは急いでジープに駆け寄った。 |
 膣からの信号が、神経シナプスを通じて脳の快楽中枢を刺激する。興奮した脳は更なる快楽を求め、ヴァギナにエネルギーを送るよう、全身に指令を送った。その一方で理性がそれに抵抗し、エリザの意識は混沌の極みにあった...。 |
 「うっ..ああっ...」 口吻の先端が膣壁を突く度に、エリザの口から喘ぎ声が漏れる。脳から指令を受けた子宮から、愛液が勢い良く膣へと流れ込んだ。 光子エネルギーを大量に含むその液体を、怪獣の口吻が吸い取っていく。性的な悦楽が次第にエリザの身体を支配して行くにつれ、乳房から薄桃色の乳頭が顔を覗かせた。 |
 「御父様!」 娘の声にヌールディーンが振り向くと、ジープの助手席に立つアイーシャの姿が目に入った。 「大佐!すぐにエリザに支援を!」 ジープから飛び出したタカハラは、急いで戦車の上によじ登った。 |
 「この戦車にレーザー誘導装置はありませんか、大佐?あの怪獣の長い口を撃って下さい」 「アレカ..残念ダガコノ中古車ニハ、赤外線投影装置シカ積ンデイナイ。ダガ、M1型戦車ガ残ッテ居ル。アレナラ精密射撃ガ可能ダ」 「お願いします。そして怪獣がエリザを離したら、すぐに一斉射撃を..」 「了解シタ。直グニ命令ヲ出ソウ。無線ガ使エレバ早イノダガ...」 そう言うとヌールディーンは反対側を向いた。 |
 「マフムード!」 ヌールディーンは大声で戦車の脇に控えていた部下を呼んだ。そして素早く手信号で指令を出す。 「了解シマシタ、族長!」 名を呼ばれた戦車兵は振り返ると、他の戦車へ手信号を送り始めた...。 |
 膣の愛液を吸い尽くした怪獣は、まだ満足いかないかのように、口吻の先端で膣の奥を探った。その刺激に反応したエリザが、高い声で呻いだ。 「あ..ああっ..」 再び子宮からフェロモン液が膣に流れ込んだが、次第に減少するエネルギーの故に、その量は僅かだった。 |
 業を煮やしたアントラーは、エリザの足首を掴んだまま立ち上った。そして今度は浅い角度で、エリザの膣を探り始める。それまで突かれることから逃れていた前部の膣壁が、口吻の固い先端で抉られて行く。 「あっ..あうっ...ああっ..」 快楽の悦びに支配されたエリザの脳は、僅かに残った理性を押し潰すと、再び膣へのエネルギー集中を命じた...。 |
 「ドウヤラ、五月蠅イ奴ハ片付イタヨウダナ..」 そう言ってゼクト星人の一人が、壁の映像を指差した。 「アノ『エリザ』トヤラニハ、皇帝ガ賞金ヲ掛ケテイルラシイゾ」 「本当カ、ソレハ?」 「メフィラス星人ガ言ッテイタノダカラ、間違イアルマイ...報酬ト賞金トデ、今回ハ大儲ケダ..」 |
 ヴァギナから伝わる心地良い満足感が、エリザの意識を満たしている。理性は、それが自身の生命を脅かすことを知っていたが、今や完全に意識の外に追いやられていた。既に性欲の虜となったエリザには、今味わっている興奮こそが全てだった...。 |
 エリザが欲望の深淵に堕ちかけたその時、砂漠の空に戦車砲の轟音が鳴り響いた。狙い澄ましたその砲弾は、アントラーの口吻に命中し、これを真っ二つに切り裂いた。 |
 「カリッカリッツ」 食事を邪魔された怪獣は、身を震わせて怒り狂った。足首を解放されたエリザの身体が、音を立てて砂の地面に落ちる。 |
 横たわったエリザの頭上を、無数の砲弾が飛び越えていく。それらが怪獣の身体を捉える度に、幾つもの眩しい火花が散った。 「あ?..あれは...」 身を捩ったエリザの視界に、淡い光を放つ槍が目に入った。 |
 「何とか..し..なければ...」 エリザは上半身に力を込め、地面に膝を突いた。だが今の弱った状態では、両脚で立ち上がることができない。 「は..早く...」 エリザは膝を突いたまま、必死で砂の上を這った。獲物を逃すまいと、エリザの背後から怪獣が迫った。 |
 槍を掴んだ瞬間、エリザは背後に怪獣が迫ったのを感じた。 「くっ!」 エリザは思い切り身体を捻った。 |
 思い切り突き出した槍の鋭い穂先が、突進して来た怪獣の胸を貫いた。その瞬間、怪獣の動きがピタリと停まった。 |
 次の瞬間、怪獣の身体が発光し、半透明に変わった。思いもしなかった武器の威力に、エリザは息を飲んだ。 |
 光が消え去ると、怪獣の身体がゆっくりと後方へ傾き、音を立てて倒れた。 「ふぅ...」 大きく溜息をつきながら、エリザは砂煙の中で立ち上がった。それまでの緊張から解放され、身体中から力が抜けて行くのを感じた。 |
 「ヤッタワ!『イシュタル』ノ娘ガ勝ッタ!」 喜びを全身で表しながら、アイーシャはタカハラに抱き付いた。背後では勝利の歓喜に沸く兵隊達が、空に向けて自動小銃を乱射する。 「頼りになる女だろ?俺達の国でも、彼女はやっぱり女神なのさ」 タカハラは笑顔でエリザを見上げながら、アイーシャの肩を抱き寄せた。 |
 胸のクリスタルが警告音を発し始め、その光が赤に変わった。エリザが思念波を送ると、ブレスレットは左の手首へと戻った。 「?」 エリザが背後の音に振り向くと、谷から姿を現した円盤が、空高く飛び去って行く所だった。 「ニ度と来ないことね..お互いの為に...」 呟きながらエリザは、次第に小さくなっていく円盤を見送った...。 |
 エリザは胸の上で、静かに両腕を組んだ。小さな電子音と共に、エリザの身体は淡い光に包まれ、やがて掻き消すように見えなくなった。 |
Act10 そして故郷へ |
 砂漠の地方空港と違い、国際空港は豊かな緑で囲まれている。それはまさに砂漠の中のオアシスと言えた。絵里達のジープが滑走路に入って行くと、前方にハマーが止まっていた。 「アイーシャ...ドウヤラ娘モ、貴官達ニ別レヲ言イタイラシイ...」 そう言うと、ヌールディーンは静かに車を止めた。 |
 車を降りたヌールディーンは、絵里の方に向き直った。 「貴官達ノ助力デ、アノ怪獣ヲ葬ルコトガデキタ...コノ国ノ代表ニ代ワリ、貴国ニ感謝スル」 「私達は共に地球を守る者です。当然の事をしただけですわ」 「ダガ貴官達ハ極メテ勇敢ダッタ...特ニタカハラ中尉ハ..ム?」 言葉を切ったヌールディーンの視線の先に、抱き合う2人の姿があった。 「あら...」 大佐の表情に、絵里も思わず絶句してしまった。 |
 「アイーシャ。名残リ惜シイノハ判ルガ、ソロソロ時間ダ」 ヌールディーンは苦笑しながら、娘の方に歩み寄った。 「エエ、御父様。御別レノ挨拶ハ致シマシタワ..」 |
 「ジェット機ハ単座ノ物シカ残ッテイナイ。済マナイガ、マタ地上支援機デ『キルギスタン基地』ニ飛ンデクレ。ソコニ迎エノ飛行機ガ来ル」 「有難うございます。大佐と共に戦えて光栄でした」 差し出された手を握りながら、タカハラが快活に答えた。 「君サエ良ケレエバ、是非マタ来タマエ。今度ハ一族ヲ挙ゲテ歓迎シヨウ。『アイーシャ』モ、心待チニシテイルダロウ」 |
 「デハ、貴官達ノ武運ヲ祈ル..インシャー・アッラー」 ヌールディーンは掌を前に向けて敬礼をした。 「大佐も御無事で!」 タカハラと絵里は踵を合わせると、警備隊の敬礼を返した。 |
 「ところでさ、さっき大佐が『また来い』って言ってたけど、どういう意味だ?」
滑走路を歩きながらタカハラが首をひねった。 「ナンパの名人にしては、鈍いのね、タカハラさんは..」 「ええ?」 「あれはね、『婿に来い』って言う申し出なのよ。まあ名誉なことではあるけど...」 |
 タカハラは急に足を止めると、大げさに天を仰いだ。 「勘弁してくれよ。確かにアイーシャは良い娘だけど、なにせあの親父だろ。浮気でもしようものなら、こっちの頭を吹っ飛ばされかねないぜ..」 「まあ確かにタカハラさんなら、そうなりかねないわね...」 絵里は可笑しそうに、口に手をあてた。 |
 ターボプロップエンジンの単調な響きを耳にしながら、絵里は眼下に広がる岩の山脈を見やった。砂漠からの熱風で、地平線には蜃気楼が見て取れる。 「..本当に岩と砂漠だけね...」 「ああ..だがそれでも人間は生活している。生まれ育った所が故郷だ。故郷に勝る場所は無いのさ...」 タカハラの言葉に、絵里は黙って頷いた。 |
 眩しい太陽に目を細めながら、絵里は前方を見つめた。ジャイロの表示によれば、機は東へと順調に飛行している。無意識の中で絵里は、蒼天の空に浮かぶ、亜里沙の笑顔を思い描いた...。 |
制作後記
まず最初にお詫びをさせて頂きます。この見習、今年2月にまたまた入院してしまい、この第8話も半年遅れとなってしまいました。全国約20人(笑)の最弱姉妹ファンの皆さま、ご心配をお掛けして真に済みませんでした。
さて今回の話は海外出張物で、舞台は最近きな臭くなっている中近東辺りをイメージしています。というのも、今回登場する怪獣として予定していたのが、「怪獣界のムシキング」こと、アントラーだったからです。この怪獣、名前から想像するとアリジゴク系(アントライオン)かと思いきや、角(アントラー)からの由来のようで、外見は唯の巨大クワガタです(笑)しかしながら初代アントラーの着ぐるみ造形は素晴らしく、今でも人気のある怪獣ですね。まあ元々クワガタやカブトムシは、男の子が狂喜乱舞するくらいの人気者ですから、当然と言えば当然かも。今回は独自設定として「甘い蜜が大好き!」(実際は酸の一種です。ゲロゲロ)ということで表現しましたので、これなら大きな男の子にも喜んで頂けるでしょう(笑)ちなみに怪獣フィギュアは、安心と信頼の「ウルフェ」ブランドで、見習的には文句のつけようもない素晴らしい出来です。
当初砂漠が舞台と言うことで、制作に大した手間は掛らないだろうと高を括っていたのですが、残念ながら結果は真逆の結果に終わりました(泣)よく考えてみれば、砂漠に大勢の人は住めませんよね。砂漠と言えども当然人が住む村や街も存在する訳で、こうしたものを造らねばならないことに考えが及ばなかったのです(苦笑)
適当な有料データでもあれば、購入してハイ終わり、という感じなのですが、実際探してみると中近東辺りの家屋が殆どありませんでした。中世ヨーロッパ風、地中海リゾート風というのは山ほどあるんですがねえ。で、仕方なくフリー物を使ってみたのですが、これがUV化もされていない代物でして、テクスチャすら簡単に造れない状態でした。おかげで画像の出来も酷いもので(←言い訳炸裂)、画像制作に要した時間の割には、残念な出来に終わった感が否めません(この際、見習自身の技術不足は無視。笑)
また画像を見て頂ければ判ると思いますが、今回の作品で使用しているフィギュアは、ヒロインと怪獣やっつけ隊員を除き、殆どがP4フィギュアという有様です(笑)「安いんだからM4フィギュアの服ぐらい買えよな」という声も聞こえてきそうですが、決して購入予算が無いという理由からではありません。大きな声では言えませんが、購入の手間とインストが面倒臭くて...(爆)
最期に今後の見通しについてお知らせしたいと思います。以前「新シリーズに移行するかも」と言うような話をさせて頂きましたが、この目論見は取り消しと相成りました。理由は2つあります。1つは見習自身の健康が、既に先の見通しが立たない状態になっていること。2つ目は、肝心の怪獣フィギュアの在庫が尽きてしまっていることです。1番目の理由は余り触れたくないのですが、もし仮に新シリーズを始めたところで、果たして何話まで完成できるのか、見習自身にも皆目見当がつかないというのが正直な所です。2番目の理由も非常に痛い所で、残りの未使用怪獣フィギュアが数体しかない現状では、新シリーズといっても前作の焼き直しにしかなりません。これでは別シリーズにする意味が殆どない、と言わざるを得ないでしょう。そのかわりに現行の「最弱姉妹」を、当初のお約束通り、13話まで完成させることに全力を注ぎます。やはり最初の目標は完遂しないと、個人的にも納得がいきませんしね。
と言うことで、次回予告を少し。次回は「恒例!夏のエッチ祭」と題して(笑)、前人未到のエロレベルMAXに挑む予定です(←誇大妄想の気ありデス)乞う、ご期待!
See You Again at Next Story
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