秘 密 結 社 驚 愕 団
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- GALLARY / EPISODE 5
- 戦神の盾 -


Act1
警備隊宇宙へ
地球から離れること3千2百万キロ、地球防衛軍惑星間輸送船シグナス8は宇宙空間を航行していた。その目的地は、地球防衛軍テルモピレー火星基地...。
「艦長!後方より高速飛行物体接近。本艦との衝突コースに乗っています!」
コンソールを監視していた航海士が、突然声を張り上げた。
「味方の船か?」
「識別信号に応答ありません。このままですと、40秒後に衝突します」
「最大速力まで緊急増速!」
だが未確認飛行物体は驚異的な速度で、瞬く間にシグナス号に接近した。
未確認飛行物体から緑色の怪光線が発射された。光線がシグナス号を包み込むと、シグナス号のパルス・エンジンが突然停止した。
艦橋のライトが一斉に赤い非常灯に切り替わり、ブリッジに非常警報がけたたましく鳴り響いた。
「エンジンが始動しません。動力室からも応答無し!」
「動力室へ行って見て来い!」
船長は通信士に向き直ると、緊張した声で告げた。
「通信士、救難信号を発信しろ。現在の座標位置を忘れるな!」
ドサッという大きな音に、艦長が首を廻して振り返った。床に倒れた航海士の向こうに、異形の生物が立っていた。その眼が薄暗い闇の中で不気味な光を放っている。
「お...御前は...」
だがそれが彼が見た最後の光景となった...。
秋の気配が漂う空の下、防衛軍極東基地はいつもと変わらぬたたずまいを見せている。だがそれは外観から受ける印象に過ぎず、基地内では張り詰めた空気が流れていた。
「50時間前から、火星のテルモピレー基地からの定期交信が途絶えている。また同基地へ物資輸送中の宇宙船からも同様に応答が無い...」
「え、火星に防衛軍の基地が? それは初耳ですね...」
科学班副主任のサクマは、カタギリの固い表情に何か不吉なものを感じ取った。
「なにせ機密事項だからな。先程総司令部から我々極東基地警備隊に対して、火星基地の救援命令が出された。君達2人は俺と一緒に、火星に向かう」
「今から16時間後、我々はシャトルで宇宙ステーションV1へ行き、そこから待機している防衛軍宇宙艦隊のフリゲート艦に乗船する。火星までは約3週間の船旅だ...」
あっけに取られている2人に、カタギリは軽く頷いた。
「なお火星基地の存在は、レベル4の重要機密事項だ。許可を受けた者以外への口外は固く禁じる、いいな? では解散!」
「ご注文の品は以上で御揃いでしょうか?」
「ええ、ありがとう。もういいわ...」
絵里はウェイトレスに向かって頷いた。亜里抄は早速フォークを取り上げると、パフェのバナナに突き刺した。
「お昼時間はとうに過ぎてるけど、客は少ないんだね」
「このビュッフェは士官専用よ。士官と招待客以外は利用できないの」
「へえ、姉貴は士官なんだ。格好良いじゃん...」
「士官では一番下の階級だけどね」
「...で、私に話したい事って?」
「明日から任務で遠い所に行くの...行き先は機密なので言えないけど。おそらく丸2ヵ月は帰ってこれないと思う...」
絵里は周囲を見廻して人影の無い事を確認すると、テーブルクロスの上に指で「かせい」と大きく書いた。
「ふ〜ん、そりゃまた...だけど、何か嫌な予感がするなあ...」
亜里抄はバナナを口に放り込むと、モグモグと口を動かした。
「亜里抄も感じる?...私の留守中、此方の事を亜里抄にお願いしたいの...」
絵里は真剣な眼差しで亜里抄の顔を見つめた。
「もし何かあっても、互いに助け合うことはできなくなる...くれぐれも気を付けてね...」
「心配はいらないよ...安心してて..」
亜里抄はニッコリ微笑むと、今度は口にサクランボを放り込んだ。
絵里がスラスターを操作すると、連絡艇は指定されたコースを低速で進んだ。操縦席の後方モニタの端に、次第に小さくなって行く地球が映っていた。
「シミュレーターの経験しか無いにしては上出来だぞ、絵里...」
カタギリは、緊張した表情で操縦幹を握る絵里に声を掛けた。
「肩の力を抜け。接近コースに乗りさえすれば、後は誘導装置が自動的にやってくれる」
その時サクマが会話に割り込んだ。
「サンタクルス号からの誘導電波を捕捉。10秒後に自動操縦に切り替えます。スタンバイ...5・4・3..」
「..2・1、マーク!」
操作パネル上に「AUTO」の文字が浮かぶと、絵里は操縦幹から手を放した。そして手の甲で、そっと額の汗を拭った。連絡艇は誘導電波に従って、ゆっくりと巨船に引き寄せられて行く。
「へえ、こりゃでかい船ですねえ」
サクマが正面のキャノピー越しに見て叫んだ。
「あれでも小型の船だ。月基地の宇宙船ドックでは、あの数倍はある巡洋艦を建造中だからな...」
カタギリは平然とした声で言った。
建設から年数を経た極東基地の施設に比べると、フリゲート艦の内部はずいぶんとモダンな感じがした。カタギリ達は壁のガイドランプに従って、迷路のような通路を艦橋へと向かった。
艦橋は絵里が想像していたよりも、ずっと広かった。奥へ進むと、艦長らしき長身の人物が絵里達に気付いて歩み寄って来た。
カタギリと絵里は素早く敬礼した。長身の人物は敬礼を返すと、微笑みながら口を開いた。
「私ハ、サンタクルス号艦長ノ『ゴロドフ』。遥々地球カラ御越シトハ、御苦労デスナ...」
「極東基地警備隊長のカタギリです。こちらは部下の星原少尉」
「敵襲ノ恐レガアルノデ、今回ハ冬眠装置ハ使用シナイ。貴官達ノ部屋ハ、海兵隊員居住区ニ確保シタ。士官用ダガ、地上ニ比ベレバ快適トハ行カナイダロウ。シバラク我慢シテ欲シイ...」
「了解しました。御世話になります...」
Act2
疑念の中で
火星から遥か離れた木星の軌道上に、一隻の巨大な宇宙船が静止していた。おおよそ10キロ四方もあるその大きさは、正確には移動する宇宙都市であった。しかしそれが放出している遮蔽スクリーンの為に、地球では誰もその存在に気付いていなかった...。
巨大な宇宙船の中枢区画では、バルタン星人の首長が超空間通信を行っていた。
「地球人共ガ感ズイタ様ダナ。準備ハドウダ、族長?」
「特ニ問題ハ無イ、メフィラス司令。『エリザ』ガ火星ニ現レ次第、コレヲ抹殺スル予定ダ」
「忘レルナ、本来ノ目的ハ、地球人共ノ計画ヲ阻止スル事ダゾ」
「十分、承知シテイル。アレハ我々ニトッテ、致命的ナ物ニ成ルカラナ...」
「成功ノ暁ニハ、皇帝陛下ヨリ御前達ニ、地球ノ支配権ガ与エラレルダロウ」
「メフィラス司令、皇帝陛下ヘノ嘆願ニハ感謝シテイル」
「今度コソ、宇宙流浪ノ旅ヲ終ワラセルノダナ。成功ノ報セヲ待ッテイルゾ...」
「バルタンノ名誉ニ賭ケテ...」
メイン通路とは異なり、フリゲート艦の居住区は強化プラスチック板を使った簡素な造りだった。絵里の荷物を運んで来たサクマが、開閉装置の指紋識別パネルに触れると、空気圧が漏れる音がしてドアが開いた。
「フィールドバッグはここに置おくよ」
サクマは装備品が詰まった重いバッグを、そっと床に置いた。
「ありがとうございます...でも、何だか殺風景な部屋ね......」
「急造の船だし、戦闘艦だからな。個室をもらっただけ、有難いと思わなきゃ...乗組員は、十数人の大部屋だからね」
「そうね...」
絵里は、配管がむき出しの天井を見上げて溜息をついた。
「ねえ、サクマ隊員...今度の任務、何か変じゃない? 何でわざわざ、極東基地の私達が引っ張り出されたのかしら?」 絵里は地球を離れる前から、ずっと心に抱いていた疑問をサクマにぶつけてみた。
「うん、実は僕もずっとそれを考えてた...」
サクマは首を横にかしげた。
「宇宙軍も兵器装備は揃っているしね。それに対怪獣戦の実績と言っても、僕等だけが持っている訳じゃない...」
「何か裏がありそうね...」
「ま、火星に着けば解るだろうさ...それより着陸艇の点検に手が足らないんだ。君も手伝ってくれないか?」
「いいわよ、火星に着くまでは、特にすることも無いから...」
絵里は心の不安を隠すように、サクマに微笑んだ。
着陸艇は2番格納庫に繋留されていた。小型のフリゲート艦とは言え、格納庫はかなりの広さがあった。
「僕は動力系統をチェックするから、君は操縦系統をやってくれ」
「OK。でもこの着陸艇、大丈夫かしら。だいぶ使い込まれているようだけど...」
「定期点検は2カ月前に済んでいるらしいが、月基地で3年も使われてた奴だからな...しっかり点検しとかないとね」
着陸艇の整備作業を眺めていたカタギリの所に、艦長のゴロドフが近付いて来た。
「作業ノ監督デスカナ、カタギリ隊長?...細カイ事ハ、部下ニ任セテ置ケバ宜シイ...」
「向こうに着くまでは、他にする事もありませんから...ところで艦長、私に何か御用ですかな?」
カタギリはゴロドフがやって来た理由を、薄々は察していた。
「軍ノ命令ハ、貴官モ御存ジデスナ? 今回ハ互イニ厳シイ作戦ニナル...」
ゴロドフは着陸艇を見つめながら、低い声で言った。
「今回ノ『戦神ノ盾』計画ガ失敗シタ場合、例ノ物ガ敵ニ渡ラヌヨウニ、基地ゴト破壊セヨ、トイウ命令ヲ受ケテイル」
「それには私と部下の生命も含まれるのですかな...」
「例外ハ一切無イ。ソレガ、コノ私ト本艦デアッタトシテモダ......」
テルモピレー基地は夜明けを迎えていた。火星の南半球、アルギュレ平地の西端に位置するこの基地の外気温は、夏至が近いというのにマイナス38度Cであった。人体に有害な宇宙線と、時折発生する猛烈な砂嵐から逃れる為、基地の大部分は地下に造られている。地表では、巨大な気候改造用タワーだけが、唯一目を引く存在だった。
静まり返った火星基地の中央制御室に、2つの声が響いた。
「基地内の地球人は全て一掃しました。後は怪獣を蘇生するだけです...」
「地球人ノ船ガ、ソチラニ向カッタ。奴等ノ幼稚ナ科学力デハ、到着マデニ時間ガ掛ル。ソチラニ到着スルノハ、火星時間デ13日後ダ」
「それだけの時間があれば、十分間に合います...」
「御前トハ幼少ノ頃カラノ友ダガ、モハヤ逢ウ事モ無イナ...」
「解っている。自ら望んで志願したこと...これも同胞を救うためだ」
「必ズ『エリザ』ヲ倒シ、例ノ物ヲ持チ帰レ...成功シタ暁ニハ、御前ノ名ハ同胞カラ永遠ニ称エラレルダロウ...」
「うむ...では、別れだ...」
2つの影は互いに片手を挙げた。
「バルタンの同胞の為に!」
「バルタンノ同胞ノ為ニ!」
そしてホログラム通信の映像が次第に薄れて行き、やがて掻き消すように消えた。
通信が切れて映像が消えると、男は傍らのテーブルに歩み寄った。その上には半透明な膜に包まれた、赤く光る物体が置いてあった。
「全ては御前の活躍次第だ...頼りにしているぞ...」
突然、男は胸を押さえてよろめいた。
「...まだだ......まだ時間は、たっぷりとある...」
額にうっすらと汗をにじませた男は、自分に言い聞かせるように呟いた。
Act3
二人の生存者
宇宙ステーションV1を出港して16日目、宇宙フリゲート艦サンタクルス号は火星の周回軌道に乗った。
「こちら着陸艇8号、これよりテルモピレイ基地に向かいます...」
「了解。幸運を祈る」
着陸艇はメイン・スラスターを吹かすと、火星への着陸軌道を目指して進んで行く。
コックピットから見える火星が、次第に大きくなっていく。
「着陸コースに入りました。速度、進路共に異常無し」
「手動操作だから慎重にな。接近速度の制御はコンピュータに任せて、進路のズレだけに注意しろ...」
「了解」
操縦を任されている絵里の手が、緊張で固くなった。
基地からの誘導は無かったが、着陸艇は無事にテルモピレイ基地に到着した。絵里は着陸艇を、六角形をした着陸ゾーンの上にもっていった。コンクリートを覆っていた細かな塵が、砂塵となって舞い上がる。
「着陸用意、ランディングギア降下願います...」
「ランディングギア降下良し!」
「着陸します...」
発着ポートに人影は無かった。宇宙服を着た絵里達は、基地に通じるエアロックに近付く。探知機を持ったサクマは、素早くモニタに目を通した。
「100メートル以内に生体反応無し。電力系統には異常が無いようです」
「油断するな、何がいるか判らんぞ...」
無反動ライフルを持ったカタギリが身体を廻して周囲を警戒した。
「よし...サクマ、開けろ」
サクマが壁の開閉装置を操作すると、鈍い機械音に続いて、高圧の空気が流れる音がした。
「中間エアロック減圧中。気密装置は正常に動作しているようです...」
カタギリ達はモジュラー構造の狭い通路を、中央司令室に向かった。
「相変わらず生体反応は有りません」
「司令室はどっちだ?」
「次の交差路を右に曲がって正面のようです...」
司令室にも人影は無かった。与圧と空気の状態を確かめたカタギリは、ゆっくりとヘルメットを脱いだ。
「基地の空調装置は無事のようだ。宇宙服を脱いで良いぞ。但し、緊急時に備えて手近に置いておけ」
「で、これから何を?」
「我々に与えられた時間は24時間だけだ。サクマは基地の制御装置を全部チェックしろ、最初に基地の防衛システムから始めろ」
そう言うとカタギリは、絵里の顔に視線を移した。
「絵里は私と生存者の捜索だ。宇宙軍所属者は全員、身体に識別用マイクロチップを埋め込まれている。その反応を探すのだ...」
調査を始めて小一時間、絵里はモニタ上に生体反応シグナルが灯ったことに気が付いた。
「隊長! 生体反応をキャッチしました。第8区画です!」
「何?サクマかも知れんぞ...識別信号の方はどうだ?」
カタギリは絵里が見つめているモニタに歩み寄った。
「識別信号は出ていません」
「サクマ、応答しろ。こちらカタギリ...今どこにいる?」
一瞬の間が空いてから、サクマからの通信が入った。
「こちらサクマ。現在第2区画にて動力ケーブルの修復中です...」
「了解。第8区画に生体反応をキャッチした。我々はこれから調査に向かう」
地下基地の通路には一応照明がついていたが、どこも一様に薄暗かった。
「この先が第8区画だ。警戒して進め...」
カタギリはパルス・ライフルの安全装置を外すと、先頭に立って第8区画へ通じる扉に向かった。
カタギリと絵里は、周囲を警戒しながら第8区画に入った。2人の背後で扉が閉まる機械音が響く。
「...」
何かの気配を感じ取ったカタギリは、片手を挙げてそっと絵里に合図をした。
「動くな!」
カタギリと絵里は格納室に向けて、同時に銃を構える。その先には宇宙軍の制服を着た一人の男が、床に胡坐をかいて座っていた。
「ヤット救援隊ノ御到着カ。コッチハ待チクタビレタゼ...」
「俺ハ宇宙軍『ラシム・ジャジク兵長』。兵器担当ダ...」
男は立ち上がると、ぞんざいな敬礼をした。
「私は地球防衛軍極東支部『カタギリ中佐』、こっちは『エリ少尉』。何故隠れていた?」
「2週間程前ダガ、基地ニ宇宙人ガ侵入シテ、全員皆殺シニサレタ。俺ハコノ倉庫ニ逃ゲ込ンデ、何トカ逃レタノサ...」
「敵はどんな宇宙人だ?」
「姿ヲハッキリトハ見テ無イ。両手ニ大キナ鋏ガアッタ気ガスル」
「ふむ。で、他に生存者は?」
「ソンナ事、知ルモンカ...恐ラク居無イダロウヨ...」
その時、カタギリと絵里のインターコムに、サクマの声が響いた。
「隊長!第3区画で生存者を発見しました。ひどく衰弱してますが、まだ息があります」
「すぐ第1区画のメディカル・ルームに運べ!こちらもすぐに行く」
メディカル・ルームに、自動診断装置が発する低いハム音が響いていた。
「絵里、患者の容体は?」
「水分不足と栄養失調で、ひどく衰弱してます。取りあえず、静脈から栄養剤と鎮静剤を投与しました」
「意識が戻らんと、何が起こったかも聞き出せんな...」
「今は無理です。絶対安静にして置かないと、この人の生命が危険です」
「識別コードによれば、この女性の名はタキガワ・サナエ。宇宙軍通信隊の所属です...」
サクマは顔をしかめると、頭を左右に振った。
「この女性が倒れていた区画に、中身を開けたサバイバルキットがありました。恐らくこの2週間、それで飢えを凌いでいたんでしょう」
「仕方無いな、この女性はしばらく安静にして置く。我々は一旦中央司令室に戻ろう」
カタギリはラシムを指差した。
「ジャジク兵長、君も司令室の隣の部屋で休んでいてくれ。但し、第1区画からは出るな。まだ敵が居る可能性もあるからな...」
Act4
侵入者
司令室に戻るやいなや、サクマが口を開いた。
「先程気が付いたのですが、第3区画の奥に、どこかに通じている扉があります。アクセス・キーが無いと開きません。ところが基地のコンピュータの記録を調べて見ても、そんな通路はどこにも存在しないんです...」
サクマはカタギリの眼をじっと見つめた。
「それにコンピュータに、同じくキーが無いとアクセスできないデータがあります。名称は『戦神の盾』......ねえ隊長、そろそろ本当の所を話してくれても良いんじゃないですか?」
手を後ろに組んだカタギリは、軽く溜息を付いた。
「そうだな...もう構わんだろう。この基地は、ある新兵器を開発する為の研究施設として造られた。コードネームは『戦神の盾』...」
「一体どんな兵器なんですか?」
「スペシウム光線を発射する兵器だ。この基地は5年前に発見されたスペシウム鉱石を含む、鉱脈の上に建てられたのだ」
「なんと...あの光の戦士達が使った武器じゃないですか...それを我々人類が...」
「兵器としてだけではない。スペシウム・エネルギーを自在に制御できれば、今よりずっと強力なエンジンが製造可能になるだろう」
「そうなれば、太陽系外への進出も夢じゃなくなりますね。なるほど、それで辻褄が合ってきた...」
「それじゃ新兵器の開発を恐れた宇宙人が、この基地の隊員達を...」
それまで沈黙していた絵里が、小さく身体を震わせた。
「隊員達の死体が見当たらないことを考えると、そうかも知れん。内部に裏切り者がいて、宇宙人を手引きしたと言うことも有りうる。我々の任務はこの基地の状況を把握し、増援部隊が来るまで新兵器を敵から護ることだ。もしそれが不可能な場合、軌道上にいるサンタクルス号がこの基地全体を破壊する...」
「すると機密漏洩を防ぐ為に、わざわざ部外者の我々を選んで、ここに派遣したって事ですか?...やれやれだな」
「とにかく20時間後までに、新兵器の状態を確認しておかねばならん。これがアクセス・キーだ...」
カタギリはベルトポーチから、薄い漆黒のカードを取り出してサクマに差し出した。
「基地防衛システムのチェックは、俺が引き継ぐ。絵里はさっきの患者のケアと、サンタクルス号からの通信をモニタしろ」
人気の無い通路に、固い靴音が反響した。ひとつの黒い人影が、メディカル・ルームの扉に近付く。
低いモーター音がして、メディカル・ルームの扉が開いた。そこに立っていたのは、ジャジク兵長だった。
兵長はゆっくりとサナエ隊員が横たわるベッドに歩み寄った。鎮静剤で深く眠っているその顔は、暗い灯りの下で青白く映った。
「マダ隠レテイタ奴ガイタトハナ...」
兵長は服の内ポケットから、鈍く光る軍用ナイフを取り出した。
「ダガ、コレデ秘密ヲ知ル者ハ居無クナル...」
その時、メディカル・ルームの扉が開いた。部屋に入った絵里は、思いがけない光景に思わず叫んだ。
「止めなさい! その人から離れて!」
だが兵長はナイフを振りかざして、絵里に襲い掛って来た。絵里は素早く腰の銃を引き抜くと、相手の胸を目掛けて引き金を引いた。
胸を貫かれた兵長は、音を立てて床に崩れ落ちた。部屋の照明を明るくすると、その身体がピクピクと激しく痙攣を続けているのがわかった。その時絵里は、兵長の身体に異変が起こっていることに気が付いた。
兵長の身体から淡い光が分離して行き、やがてそれは手に大きな鋏の付いた異形の姿に変わった。絵里はその姿を、以前どこかで見たような気がした。
その正体に思い当った絵里は、思わず叫んだ。
「バルタン星人!」
絵里は本能的に銃口を向けた。
だが相手の方が一瞬速かった。バルタン星人の鋏から放たれた重力波が、絵里の身体を捉えた。極度の重力変動による激しい目眩が絵里を襲い、手にしていた銃が宙に舞った。
目に見えない大きな重力が、絵里の身体を容赦なく壁に押しつけた。
「フォッフォッフォッ...」
奇怪な笑い声をあげながら、バルタン星人がゆっくりと絵里に近付く。絵里はホルスターに残るもう片方の銃を抜こうと、必死に腕を動かそうと試みた。だが絵里のか細い腕では、強大な重力に抗うことはできなかった。
「何故、バルタン族が...ここのスペシウム放射は...とても...有害な筈...」
壁に磔にされた絵里は、重力に顔を歪めながら声を絞り出した。
「ソノ通リ...俺ハ生キテハ戻レナイ...ダガ、死ヌ前ニ御前ヲ始末スル。覚悟シロ、エリザ!」
そう言うとバルタン星人は、ゆっくりと片方の鋏を絵里に向けた。
あわやというその時、背後で扉が開いた。バルタン星人が振り返ると、そこにライフルを構えたカタギリが立っていた。
バルタン星人は踵を返すと、反対側に駆け出した。
「待て!」
バーストに設定されたライフルの銃口から3発の光弾が飛び出したが、バルタン星人を捉えることは出来なかった。
カタギリは再び引き金を引こうとしたが、バルタン星人の身体は淡い光となって壁の中に消えて行った...。
「大丈夫か、絵里?」
「は、はい......」
大きな重力から解放された絵里は、乱れた呼吸を整えるように何度も肩を上下させた。
「やはり奴だったか...マイクロチップの信号が無いので、臭いとは思っていたが...」
その時、インターコムにサクマの声が響いた。
「隊長!こちらサクマ。南東方向より、ゆっくり接近してくる物体があります。なにか巨大な物のようです」
絵里とカタギリは互いに顔を見合わせた。
「......怪獣?」
「サクマ、基地の防衛システムを作動させろ!絶対に基地に近付けてはならん。我々は外で迎え撃つ」
カタギリと絵里は宇宙服が置いてある司令室へと急いだ。
Act5
怪獣襲来
巨大な異形の怪獣が、火星の大地を踏みしめて進む。時折頭部が陽光に反射し、キラリと光った。
「行ケ、ギロン! 奴等ヲ基地ゴト吹キ飛バシテシマエ!」
そう言うと、バルタン星人は彼方の基地を指し示した。
基地の自動防衛システムは、接近する怪獣に対して攻撃を開始した。攻撃可能位置にある各砲台が、つるべ撃ちに砲撃する。だが怪獣は炸裂する砲弾をものともせず、次第に基地に迫って来た。
「この怪獣はコンピュータのデータベースにありません。自動火器で攻撃中ですが、見たところ効果は無いようです」
サクマは双眼鏡で迫りくる怪獣を凝視しながら、インターコムに怒鳴った。
カタギリ達は地上車で基地を走り出たものの、既に怪獣は基地の前面に迫っていた。
「停めろ、岩陰に隠れるんだ...」
そう言うとカタギリは、車の外に飛び降りた。
「絵里は左側の岩陰から攻撃しろ。俺は右からやる」
「了解!」
「気を付けろ、奴がどんな武器を持ってるか判らんぞ...」
岩陰に駆け込んだ絵里は、慎重にレーザー銃の狙いを付けて引き金を引いた。怪獣の腹部に連続して小さな火花が散るが、その程度の火力では巨大な怪獣を阻止できないことは明らかだった。
カタギリが持つ、対怪獣用に造られた小型キャノンは、レーザー銃より効果は大きい。強力なキャノン弾を浴びた怪獣は、前脚を振り上げて怒りを顕わにした。
怪獣が頭を下げると、小さな物体が剥がれ落ちたように見えた。しかしその物体は高速で飛翔し、カタギリに迫った。
飛来した物体は、十字の形状をした硬質の巨大なものだった。それはカタギリが身を隠していた岩に衝突すると、これを粉々に粉砕した。
「ぐっ!」
飛散した岩のひとつがカタギリの身体に当たり、その身体を大きく跳ね飛ばした。
「隊長! 大丈夫ですか?」
カタギリが跳ね飛ばされた光景を見た絵里は、思わずインターコムに叫んだ。だがカタギリからの応答は返って来なかった。
その時、急に胸のペンダントが温かく感じられた。エリザが変身を促していることを、絵里は感じ取った。
「判ったわ...」
絵里は右手を天にかざして叫んだ。
「エリザ・チェンジ!」
急に出現したエリザの姿に、怪獣はピタリとその足を止めた。だが怪獣の眼には、邪悪で好戦的な意思が感じ取れる。
「う...」
突然エリザは身体を震わせ、両腕で自身の胸を覆った。その両膝が微かに揺れている。摂氏マイナス63度という火星の厳しい寒さが、エリザの身体を苛んでいた。
「面白イ...エリザモ他ノ奴等ト同様、低温ニハ弱イト見エル...」
バルタン星人はテレパシーで怪獣に命じた。
「ギロン、奴ヲ真ッ二ツニ切リ裂イテシマエ!」
命令を受けた怪獣は、ゆっくりとエリザに接近し始める。エリザは身体の震えを押さえながら、怪獣に対して身構えた。
ギロンはエリザ目掛けて、真っ直ぐ突っ込んで来た。巨大な刃物を思わせる頭部が、陽光をキラリと反射する。だがこの攻撃を予測していたエリザは、身を翻してこの突進をかわした。
側面に廻り込んだエリザは、怪獣の首に連続してチョップを叩き込む。だが怪獣の分厚い皮膚が、悉くその運動エネルギーを吸収してしまう。怪獣がダメージを受けている様子は全く無かった。
執拗なチョップ攻撃に嫌気がさしたのか、怪獣は前脚でエリザの左かかとを引っ掛けた。
「あ?」
予想していなかった攻撃に、エリザはバランスを崩すと、音を立てて後方に倒れた。
仰向けに倒れたエリザを見て、怪獣は2脚で立ち上がった。その両眼は、獲物を仕留める時の肉食獣を思わせる。
怪獣は頭を下に向けると、勢い良くエリザの上にダイブする。
「!」
間一髪、エリザは身をよじって、怪獣の鋭い頭部の一撃をかわした。目標を外された頭部の刃は、そのまま地面にめり込み、砕かれた岩石が宙を舞った。
遠くでサクマの声が、カタギリを呼んでいるような気がした。
「く....」
カタギリは目眩をこらえながら、眼の焦点を合わせた。意識がはっきりしてくると、自分が地面に腹ばいになっていることに気付いた。幸いなことに、ヘルメットのフェース・プレートに損傷は無く、空気漏れも起こしていない。
何とか片膝を付いて身体を起こしたカタギリの視界に、怪獣と向き合うエリザの姿が映った。
「エリザ...来てくれたのか...」
Act6
追い詰められた
エリザ
エリザは脳裏の片隅で、戦士訓練センターで習ったことを思い出していた。
「そうだ...四脚怪獣は側面から...」
エリザは怪獣の頭部を避けながら相手の側面へ廻り込み、牽制のパンチを怪獣の顔に浴びせた。
ギロンは向き直ろうとしたが、エリザが先手を取って怪獣の横腹を思い切り蹴り上げた。これにはたまらず、ギロンは横倒しに転がった。
「ヤハリ、単独デハ無理カ...ナラバ...」
バルタン星人が両手を挙げると、その身体が淡い光に変わり、やがて消えて行った...。
だがバルタンは逃走したのではなかった。怪獣と激しく戦うエリザの背後に、巨大な光の柱が出現した。やがてそれはバルタン星人の姿へと変わった。
背後に何かの気配を感じたエリザが振り向くと、妖しい眼光を放っているバルタン星人の姿があった。
「う...」
エリザはせっかく掴みかけていた勝利が、自分の手からすべり落ちて行くように感じた。
「サクマ、聞こえるか。こちらカタギリ」
新たに出現したバルタン星人の姿に、カタギリは強い焦りを感じた。
「あ、隊長! 先程から応答が無くて心配してました...」
「その話は後だ。スペシウム放射装置を、すぐ使えるようにできるか?」
「発射試験は完了済みですから、可能だとは思います。しかし制御回路を基地の防衛システムに組み込み直す必要が...」
「どのくらいかかる?」
「そうですね...30分、いや20分もあればできると思います」
「15分でやれ。エリザが敵に囲まれた。我々が支援せねばならん...」
「了解、すぐに取り掛ります!」
「エイッ!」
にじり寄るバルタンの胸板に、エリザのパンチが突き刺さった。不意を突かれたバルタンは、思わず1、2歩後退した。
その時、エリザの背後から地面の振動が近付いて来た。肩越しに見ると、ギロンが頭を下げながら突っ込んで来る。火星の表面重力が低いためか、それはかなりの速度だった。
「アッ!」
エリザは素早く側転すると、間一髪で怪獣の突進をかわした。
「くっ...」
最初の連携攻撃を回避したとは言え、エリザの心には焦りが生じていた。2対1の戦闘を続けては、いつか攻撃を受けてしまうことは明らかだった。
「早く、片方だけでも倒さなくては...」
「レディ・フラッシュ!」
エリザは両手を天に掲げ、フラッシュ・ビームの構えに入った。全身のエネルギーが、エリザの両手に向かって集中して行くのが感じ取れる。その時、バルタン星人の胸部が左右に開いた。
「ファイア!」
十分なエネルギーが集中したのを感じたエリザは、胸の前で両手を十字を組んだ。手から放たれたスペシウム・エネルギーが、一直線にバルタン星人目掛けて伸びて行く。だがバルタンの胸部に命中したかと思った瞬間、光線は天空目掛けて跳ね返された。
「こ...こんな事って...」
予期せぬ事態に、エリザは動揺した。大量のエネルギーを消失した為に、胸のクリスタルは黄色い警告色に変わっていた。
「フオッフオッ...子供騙シノ『エリザ・フラッシュ』ナド、我々ニハ効カヌ...」
バルタン星人は両手の鋏を揺らせて笑った。
エリザはよろけるように片膝を落とした。体内の一時的なエネルギー不足により、脳から発せられる信号が、筋肉を司る神経まで届かないのだ。
「御前ノ身体ニハ、スペシウム光線ハ負荷ガ大キ過ギル...」
そう言うとバルタン星人は、俯いて肩で息をしているエリザに近付いた。
「喰ラエ!」
バルタン星人は反動を付けると、エリザの顔を思い切り蹴り上げた。
「ぐっ!」
強烈な一撃に、エリザの身体は後方に舞った。
エリザの身体が地面に叩きつけられると、細かな砂塵が舞い上がる。頭部に受けた衝撃で、激しい目眩がエリザを襲った。平衡感覚を失ったエリザは、態勢を立て直すこともできない...。
何とか立ち上がろうと、もがいていたエリザの視野の片隅に、突進して来る怪獣の影が映った。
「あ!」
咄嗟に身体を捻ったエリザのすぐ脇の地面に、ギロンの頭部が物凄い勢いでめりこんだ。
だがエリザは、それ以上の動きが取れなかった。まるで重い鎧を身に纏ったように、全身の筋肉がまるで言うことを聞かない。うつ伏せになったエリザのヒップを、今度はバルタン星人の足が勢い良く踏み付けた。
「あうっ!」
思わず苦痛に悲鳴を上げたエリザに、バルタン星人は愉快そうに笑った。
「ドウシタ、エリザ? コノ低温デハ、エネルギーノ消耗ガ大キ過ギテ満足ニ動ケマイ......コレカラジックリト、痛ブッテヤル...」
窮地に追い込まれたエリザの姿に、カタギリはインターコムに叫んだ。
「サクマ、準備はどうだ? エリザが危ないんだ!」
「あと6分ほど必要です。衛星がまだ発射可能空域に届いていません!」
サクマの両手が、せわしげにコンソールの上で踊った。
「なお、まだ試験段階の兵器なので、発射可能回数及び効果の程は不明です...」
必死に作業を進めるサクマの額に、うっすらと光る汗が滲んだ。
Act7
苦悶の闘い
ヒップを散々に踏み付けられたエリザは、ぐったりと動かなくなった。
「ソロソロ頃合ダ...」
バルタン星人はエリザの片腕を掴み、その身体を仰向けにひっくり返した。
「御前ノ弱点ニ関スル情報ハ、既ニ我々ニモ伝ワッテイル。タップリト苦痛ヲ味ワウガ良イ...」
バルタン星人はゆっくりと、腕の巨大な鋏を振り上げた。
勢い良く振り下ろされた鋏の先端が、鈍い音と共にエリザの下腹部に突き立てられた。それは正確に、エリザの子宮を捉えていた。
「あうっ!」
下腹部から発せられる激痛が、エリザの身体を激しく痙攣させる。
渾身の力を込めた第2撃が子宮をえぐると、天を仰いだエリザの口から鮮血の飛沫が吹き上がった。火星の低温下では、血はすぐに細かな氷の結晶となり、冷たい風に散っていった。
厳しい低温と子宮に与えられたダメージが、エリザの身体からエネルギーを奪っていた。微かに上下する乳房の動きだけが、かろうじてエリザの生命活動を示している。
「エリザ...コノ火星ガ御前ノ墓場トナルノダ...」
苦痛に震えるエリザの顔を見下ろしながら、バルタン星人は冷酷に言い放った。
バルタン星人の鋏がエリザの両脚を掴み、強引に上に引き上げた。
「あ?」
痛みで意識が薄れているエリザには、バルタン星人の意図が判らなかった。エリザの注意が持ち上げられた脚に向いているその隙に、バルタンは足でエリザの両手を踏み付け、巧妙にその自由を奪った。
バルタン星人は強引にエリザの脚を左右に開いた。エリザは必死に脚を閉じようとしたが、脚の筋肉が満足に動かせない状態では虚しい抵抗だった。
「ギロン! 御前ノ出番ダ...」
戦闘をつぶさに見つめていたカタギリは、すぐにバルタン星人の狙いが読めた。
「くそっ、させるものか...」
岩陰から走り出たカタギリは、エリザに近付きかけた怪獣に、キャノン砲の連弾を浴びせた。
「五月蠅イ地球人メガ!」
バルタン星人は掴んでいたエリザの片足を放すと、カタギリに向けて破壊光弾を発射した。瞬時に巨大な火炎が立ち昇り、周囲は煙と砂塵に覆われた。
風に乗って少しずつ薄れて行く硝煙と砂塵の中に、仰向けに倒れているカタギリの姿があった。直撃こそ免れたものの、強烈な爆風を受けたカタギリの意識はもうろうとしていた。
「邪魔者ハ無クナッタ...サア来イ、ギロン!」
バルタン星人は再びエリザの脚を開いて怪獣を呼んだ。怪獣はゆっくりとエリザに近付いて来る。
「御前ノ頭デ、コノ小娘ノ身体ヲ真ッ二ツニシテヤレ!」
怪獣はおもむろに2本足で立ち上がった。その眼はエリザの無防備な股間に向けられている。だが身体の動きを完全に封じられたエリザは、回避する事はできなかった。
「や、やめて!」
陽光を受けて光るその刃に、怯えたエリザは思わず叫んだ。
怪獣の巨大な刃が、エリザの股間に勢い良く落下した。それと同時に、ミシッという鈍い音が薄い大気に響いた。それは恥骨に生じた、ひび割れの音だった。
「うぐっ...うう...」
エリザの口から思わず苦痛の喘ぎが漏れた。
「モウ一度ダ...」
バルタン星人の非情な声がエリザの耳に届いた。
「...やめ...て...」
エリザは痛みに顔を歪めながら、微かに首を振った。
だがエリザの懇願など、バルタン星人には無意味だった。再び巨大な刃が、容赦無くエリザの股間に打ち降ろされる。
「あうっ!」
この一撃で恥骨は幾つもの破片に砕け、その先端がヴァギナの肉壁に突き刺さった。
掴んでいたエリザの足を放すと、エリザの身体は音を立てて地面に落ちた。バルタン星人は満足気に、ピクピクと身体を振るわせているエリザを見降ろした。
「モハヤ、立チ上ガル事モデキマイ...」
だがその時、勝ち誇るバルタン星人に異変が起こった。バルタンは上半身を屈めると、身体の震えを押さえるように両腕で胸を覆った。
「マダダ...勝利スルマデハ...」
バルタン星人はエリザの前方に廻ると、その身体を抱え起こした。
「コレデ最後ダ...来イ、ギロン!」
怪獣はエリザの前に近付くと、その頭部をグイグイとエリザの股間に差し入れた。
「な...何を...」
バルタン星人は動揺しているエリザの身体を持ち上げ、怪獣の刃の上に置いた。
「ヤレ、ギロン!」
火星の表面重力は地球より小さいとは言え、怪獣はエリザの身体を易々と持ち上げた。とたんにエリザの全体重が股間に集中し、砕けた恥骨を強く圧迫する。破砕した骨片がヴァギナの肉壁を突き破り、その内部まで到達した。傷ついた血管から血が溢れ出し、ヴァギナの内部を温かい血で満たした。
「ううっ...」
自分のヴァギナが訴える激しい痛みに、エリザは声をあげて悶えた。
Act8
砂の墓標
少しの時間が流れ、カタギリは次第に意識が戻ってきた。既にヘルメットのフェース・プレートは、赤い砂塵で曇ったようになっている。
「...あれは!」
上半身を起こしたカタギリの目に、苦痛に喘ぐエリザの姿が映った。
「放し..て...」
バルタン星人は両方の鋏で、必死で身を捩ろうとするエリザの両腕を掴んだ。
「動ケバ余計ニ、苦痛ガ増スダケダ...」
その時、エリザの胸でクリスタルが赤く瞬き出した。それと同時にエネルギー減少を告げる、警告音が鳴り始める。
「エ..エネルギーが...」
「コノ星ノ低温デハ体温維持ノ為ニ、通常ヨリ多クノエネルギーヲ消費スル。ソレニ気付カナカッタノハ、愚カダッタナ...」
だがエリザの受難はエネルギーだけではなかった。ヴァギナに流れ込んだ大量の血液が、遂に膣外に溢れ出したのだ。外気に触れた血は細かな結晶となって蒸発して行くが、エリザの陰唇から流れ出る温かい血流は止まらず、怪獣の頭部を伝って滴り落ちた。
エリザの苦境を目にしたカタギリは、足下のミニキャノン砲を拾い上げた。エリザを押さえているバルタン星人の背中を狙って引き金を引く。だが何も起こらなかった。
「くそっ...さっきの衝撃で...」
何度かリロード用のレバーを動かしてみたが、それでも弾は発射されなかった。
カタギリは足下にミニキャノンを捨てると、インターコムに怒鳴った。
「サクマ、まだ発射できんか?このままだとエリザが殺られてしまう!」
「衛星はこちらの空域に入りつつあります。発射可能時間まで、あと2分...」
必死に作業を続けるサクマの額にも、うっすらと汗が浮かぶ。問題は衛星の照準システムだった。衛星軌道上から怪獣程の大きさの目標に命中させるには、基地防衛システムのレーダーシステムとリンクし、正確な目標位置情報を衛星に送らねばならない、それもぶっつけ本番の1回で。
火星の地表探査が開始されてから約30年、火星の衛星軌道には既に十数機の衛星が配置されていた。その内にひとつだけ、民間には公表されていない衛星があった。軍のコードネームは「グングニル」...。
クリスタルの発する警告音が周囲の岩に木霊する中で、エリザは襲い来る股間の激痛と戦っていた。その脳裏には以前ガッツ星人に敗れた時の記憶が去来する。太陽を覆い隠す暗雲のように、絶望が次第にエリザの心を蝕んで行った。
「済まない、エリザ...もう少しだけ耐えてくれ......」
苦悶するエリザを見上げるカタギリの拳は、固く握り絞められていた。
「諦め...ては..だめ...」
エリザは自分に言い聞かせるように、首を左右に振った。その肩は小刻みに震え続けている。
「無駄ナ足掻キダ...アト数分モスレバ、御前ノエネルギーハ尽キル...」
バルタン星人は長い間待ち望んでいた、勝利の手応えを感じていた...。
軌道上では衛星グングニルが地上からの指示電波を受け、ゆっくりとその向きを変えていた。先端の発射口が開き、スペシウム放射装置の本体が覗く。
「衛星、発射可能空域にはいりました。追尾照準装置グリーン。秒読み開始、5..4..3...」
サクマの指が、発射ボタンの上に掛った。
「..2..1、発射!」
信号を受けた衛星グングニルは、火星表面に向けて光線を放射した。
突如、エリザが見上げている天空から、眩い光が降って来た。光の矢が怪獣の背中を直撃すると、轟音と共に大爆発が生じた。その強烈な爆風に、エリザとバルタン星人は後方へ大きく吹き飛ばされる。
エリザは必死になって立ち上がろうとしたが、これまで受けたダメージで下半身が麻痺していた。上半身を捻って見ると、バルタン星人が仰向けに倒れているのが見える。
「スライサー!」
エリザは使用可能な最後の武器を手にした。だがそれを投じようとした時、エリザはバルタン星人の様子がおかしいことに気が付いた。バルタンは仰向けになったままで、立ち上がろうともしない。
「時ガ来タヨウダ...俺ノ負ケダ...殺セ......」
そう言うとバルタンは天を仰いだ。
エリザは溜息をつくと、手にしたスライサーを消滅させた。
「無抵抗の相手を殺すことは...できないわ...」
バルタン星人は小さく身体を震わせた。
「英雄ト呼バレタ俺ガ、敵ニ情ケヲ掛ケラレルトハナ......」
「ダガ俺ハ戦士...無様ナ姿ヲ同胞ニ見セラレヌ...」
バルタン星人は胸の上で静かに両腕を組んだ。
「同胞ニ栄光アレ!」
そして爆発と閃光が走り、バルタンの身体は粉々に飛散した。
赤い砂の上に、バルタンの遺骸が四散している。此処で戦いがあったことを示すものは、たったそれだけであった。だがやがてそれらも、次第に赤い砂の下に埋もれていく。エリザのクリスタルが発する音が、吹き始めた風に乗って砂塵の中に消えていった...。
Act9
星影の想い
火星での任務を終えたサンタクルス号は、地球への帰還コースにあった。火星を離れて半月、極度の緊張状態から解放されたカタギリ達は、ようやく平穏な船旅を味わえる気分になっていた。
展望室に入ったサクマは、窓際に近いソファに絵里の姿を見つけ、そちらに近付いていった。
「メディカル・ルームの看護兵から、ここだって聞いてね...腰の具合はどう?」
サクマは手にしていたコーヒーカップを絵里の前に差し出した。
「ありがとう...怪我はもう大丈夫です」
絵里は沈んだ表情で、カップを受け取った。
「まだ火星でのことを気にしてるのかい?」
「うん...あのバルタン星人のことなの。何故、彼は基地を襲った後、すぐに火星を去らなかったのかって...」
サクマは肩をすくめると、一口コーヒーをすすった。
「奴には新兵器の奪取とエリザを倒すという、2つの目的があったんだと思う。だがその為に、結局両方とも達成できなかったのさ」
「奴等にとってスペシウム放射は、我々にとっての強度のガンマ線と同じ筈だ。火星に留まっていたあいつは、遅かれ早かれ死んだだろう...」
「恐ろしい...」
絵里は表情をこわばらせた。
「でも、何故なの?」
「それは判らない。おそらく、何処かにいる仲間の為だったんじゃないかな」
サクマはゆっくり立ち上がると、視線を窓の外に向けた。
「人が自分を犠牲にするのは、守りたいと強く願う存在がある場合だけだからね...」
「さ、そろそろステーションが見える筈だ。外を見よう...」
サクマは絵里を促して窓の方へ歩み寄った。絵里も松葉杖を付きながら、窓辺に寄った。窓越しに宇宙ステーションと、その向こう側に青く輝く惑星が見える。
「あれは...地球...」
青い地球を目にした時、絵里は火星で死んだバルタン星人の気持ちが、少し理解できたような気がした。
「自分の命を犠牲にしてでも、守りたいもの...」
絵里の漏らした独り言に、サクマは黙って頷いた...。
制作後記

今回は大胆にも、「最弱姉妹」初の宇宙物への挑戦です(笑)最初は月面を舞台に考えていたのですが、「昭和の頃ならいざ知らず、21世紀はやはり火星だろう」ということで火星にしました(訳わかめ^^;)んで出来の方はと言うと...OTZですな。皆さんに「これのどこが火星なんじゃい!」と怒られそうです。本作品を見られる方は、思い切り脳内補完してくださいね(笑)

振り返って見れば、今回は最初のプロット決めから大難航。当初は「火星と地球のダブル侵攻」を考えていたのですが、これだとどうしても話が散漫になってまとめ切れず、途中で泣く泣く断念(おかげで今回は姉だけの活躍です)次に「正体不明の侵入者を追え!」ということでサスペンス風の筋書に挑みましたが、画像制作技量の関係でこれも中途で断念。結局何のヒネリも無い、ベタな展開に落ち付きました(涙)

しかしプロットが決まっても、見習の苦労は終わりません。次に各章ごとのストーリー設定になるのですが、ここでまた壁が立ち塞がりました。宇宙が舞台になると、どうしても閉鎖空間の絵が多くなります(宇宙船内部、基地内、等々)こうなると似たような絵柄が延々と並び、これを文章でフォローしなければならない為に、キャプションもダラダラと長くなります。これは紙芝居としては、非常に苦しい展開です。いやあ、ホント苦しかったなあ(涙)もう宇宙物は勘弁して欲しいデス。

今回の登場キャラは、あの超有名人(笑)「バルタン星人」です。今ではIMEの辞書にさえ標準登録されているようで、その知名度は本家ウルト○マンより高いのでは?と思えるほどです。使用フィギュアとしてはウルフェさんのバルタン2代目を使用しました。見習的には初代バルタンが好みなのですが、ウルフェさんの初代バルタンフィギュアには、ポ−ズを取らせると腕パーツが追従しなくなる不具合がありました(おそらくフィギュア制作した時のPoserバージョンが古い為だと思います)見習の技量では修正できなかったので、初代の使用は泣く泣く断念しました。フィギュア自体の造形は初代・2代目共に非常に良く、制作者の技量の高さを感じます(しかも2代目にはスペルゲン反射板のギミック付き!)

次に怪獣ですが、これには正直悩みましたね。手持ちの怪獣フィギュアが少ないので、ウルトラ怪獣だけで全13話はとても賄いきれません。そこで今回は同じウルフェさん制作のガメラシリーズの敵役、「大悪獣ギロン」を使ってみました。キーラという選択肢もあったのですが、キーラは暗い画面でないと映えない怪獣なので、今回は遠慮して頂きました(笑)

ですが昭和ガメラシリーズの敵役怪獣はどれも愛嬌があって、『残忍・凶悪』という感じじゃないんですよね、これが。まあ昭和ガメラは低年齢層の子供をターゲットにした怪獣ファンタジーなので、致し方ない所でしょうか。でもギロンのデザイン発想には、数十年が経過した今でも驚かされますね。包丁(日本刀のつもり?)に手裏剣ですからねえ。少し前に米国に出没していた、半島出身のザパニーズ忍者か御前は!(笑)ですがバルタン星人とギロンの組み合わせは、ホント絡ませづらいコンビでした。「両手が鋏」に加え、「四脚で飛び道具は地味な手裏剣のみ」というブキッチョ同志のコンビなんで、ヒロインの責め手が限られてしまいホント苦労しました。

今回の反省 「ヘタの考え、休むに似たり」

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