Act1 警備隊西へ |
 世界が新しい年を迎えてから数日後、高度9000メートルで一機の大型旅客機が西から日本を目指して飛行していた。その尾翼には大きく国連旗が描かれている。翼下のエンジンからの排気が、冷たい冬空に四筋の飛行雲を引いていた。 |
 旅客機が厚い雲海の上を飛行して行くと、背後の雲中から異形の物体が浮かび上がって来た。その物体は高速で飛行し、瞬く間に旅客機の背後に迫った。 |
 突如、飛行物体から眩い光線が放たれたかと思うと、それは一瞬にして旅客機を貫いた。 |
 大きな爆発が起こり、旅客機は轟音と共に大空に飛散して行った......。 |
 防衛軍極東基地にも既に冬が訪れていた。時折冷たい風が吹き下ろす周囲の山々は、薄茶色の岩肌を晒している。 |
 カタギリは基地の司令部区画を速足で歩いていた。向かう先は極東司令官室である。いつものことではあったが、呼び出されたカタギリの心は不安の影が忍び寄っていた...。 |
 「御苦労、楽にしてくれ...」 クロキ司令はカタギリに向かって小さく頷くと、持っていた煙草に火を付けた。 「君もここ数日の、連続旅客機事故のニュースは聞いているだろう?」 「は...いずれも日本に飛来中の事故だと言うことしか...」 「2時間程前に、この極東基地に向かっていた国連機がやられた。これら一連の事件は、単なる事故などではない...」 |
 「と、言いますと?」 「先日墜落した2機の民間旅客機には、身分を隠した防衛軍の高官が乗っていた。そして今回の国連機も同じだ」 クロキ司令は軽く煙を吐き出すと、目を細めてカタギリの顔を見つめた。 「極秘事項なので関係者以外にはまだ知らされていないが、3日後に我が国がホスト国になり、世界防衛会議が開かれる。一連の事件で死亡した者達は、いずれもこの会議の出席予定者だったのだ」 |
 「では何者かが、会議の開催を妨害していると言うのですか...」 「偶然にしては出来過ぎているからな。君には防衛会議終了時まで、会議の参加者達を護衛して欲しい。周囲を固める地上部隊は既に配置に付いている」 「了解しました、すぐに取り掛ります!」 カタギリは背筋を伸ばして踵を揃えた。 |
 明後日は亜里抄の修学旅行の日である。亜里抄は姉の部屋から持ってきた下着を吟味していた。 「これ可愛いじゃん...姉貴にはちょっと幼すぎかもね。丁度いいや、私が貰っちゃおうっと...」 亜里抄は薄桃色のブラを自分の胸に当てて、鏡を覗きこんだ。 「けど姉貴、身体は細いのに結構胸が大きいんだよなあ。何食べるとこんなになるんだろう」 |
 「亜里抄、旅行の準備はできたの?早く来ないと、昼御食が冷めちゃうわよ...」 姉の絵里がドアを開けて部屋に入って来た。 「ちょっと、それ、私のじゃないの!勝手に取らないでよ」 「いいじゃん。どうせ姉貴は普段、ブラ付けて無いんだからさあ...」 |
 その時、絵里の携帯電話が鳴りだした。発信元の番号を見て、絵里は一瞬驚いた。それは軍の非常招集を意味する番号だった。 「非常招集が掛ったわ。すぐに基地に戻らなきゃ」 「マジ?休日の初日じゃないの!ったく、防衛軍なんて入るもんじゃないなあ...」 「とにかく、旅行中は気を付けてね...」 絵里は携帯をしまうと、急いでドアに向かった。 |
 第3小会議室のドアが開くと、警備隊のメンバーが座っているのが見えた。 「遅れてすみません...」 絵里は頭を下げると、急いで空いている席に座った。 「休暇中に済まないな、絵里。ではこれからブリーフィングを始める...」 そう言うとカタギリは立ち上がって、皆の方に向き直った。 |
 「皆に招集を掛けたのは、他でもない。我々警備隊に対して、3日後の月曜日から3日間の日程で我が国で開催される、世界防衛会議の警護が命じられたからだ」 隊員達から微かなどよめきが起こった。 「この会議は神戸六甲山の国際平和センターにて極秘裏に行われる。なおこの情報が侵略者に漏れたらしく、これまでに参加予定者の十数名が何者かに殺害されている...」 |
 「何故この極東基地で開かないんです?その方が警備もずっと楽でしょうが?」 タカハラは大袈裟に両手を開いた。 「参加者は軍関係者だけではなく、担当各国の政府関係者も大勢いるんだ。総勢200名程だな。これだけの人数を収容でき、かつそれなりの宿泊施設を備える会議施設は、あそこしかあるまい」 |
 「政府関係者も?でしたら通信による映像会議の方が、より安全ではないのですか?」 ミズキが怪訝な顔をした。 「向こう5年間に渡る地球防衛予算の、各国の分担額を決める重要な会議だ。世界経済も芳しくない今、TV会議じゃ済まないのだろう...」 カタギリは全員を見渡して言った。 「既にカトウは現地で、地上部隊との調整に入っている。我々もこれより現地に向かう。タカハラはこの基地で24時間待機だ、いつでも出撃できるようにしておけ」 |
 地上からでは見えないが、防衛軍極東基地の地下から複数の道路が四方に延びている。民間人に基地の所在を知られないよう、それらは5、60キロ程先で秘密の出入口から一般高速道に合流していた。シークレットハイウェイNo.2と呼ばれる秘密道路を、カタギリ達は一路西に向かった...。 |
Act2 暗雲 |
 国際平和センターは、防衛軍極東支部の通信中継基地跡地に建てられた施設である。温暖な瀬戸内海に近い為か、寒い季節にも関わらず、周囲の山々には緑が残っていた。会議の来場者から目立たないよう、施設周辺に防衛軍の戦闘車両が配備されている。 |
 「対空特射大隊の半分は北側に配置し直せ。自走砲大隊は東と西だ。各車毎に射界を確保させろ」 「了解、すぐ配置転換させます」 「周辺の監視体制はどうなってる?」 「周囲10キロ圏内に3重のピケット・ラインを張ってあります。どんな奴でも発見されずに忍び込む隙はありません...」 |
 その時、カタギリの背後からミズキ隊員の声がした。 「隊長! 室戸岬南方で、南極基地所属の調査船から救難信号です!」 「何だと? 確かそれには南極基地の代表が乗っている筈...至急、待機しているタカハラを向かわせろ!」 |
 「緊急要請!こちら南極潜水調査船コルモラン。未確認の物体群に追跡されている。ただちに救援を請う...」 コルモラン号は既に最高速度に上げていたが、謎の物体群を振り切ることはできなかった。物体群は交互にコルモランに接近しては、浅い角度での衝突を繰り返している。 「早く来てくれ!何度も衝突されて、船体が壊れていく!!」 |
 「こちらは極東基地所属の護衛艦キリシマ。最大船速でそちらに向かっている。援護可能距離まであと20分、回避行動を続けて時間を稼げ...」 船首が波を大きく切り裂き、キリシマの船体は激しくピッチングを繰り返しながら目標に直進した...。 |
 だが度重なる衝撃に、コルモランの船体が遂に悲鳴を上げた。激しい振動で推進装置に亀裂が生じ、スクリューが停止した。謎の物体は停止すると、コルモランの周囲を取り囲んだ。 |
 数秒後、謎の物体群から緑色の光線が発射された。光線は四周からコルモランの船体を貫通した。 |
 コルモランの船体が爆発を起こし、大きな振動と破壊音が海中に響いた。コルモランの船体は2つに折れ、ゆっくりと海底深く沈んで行った...。 |
 6角形をした司令室に、2つの低い声が響いていた。 「地球侵攻計画ハ進ンデイルカ、同志モラン?」 「順調デス、メフィラス司令。ペダン星ノ兵器モ、現在マデ問題無ク作動シテオリマス」 「地球征服ニハ、邪魔ナ姉妹ヲ先ニ排除スル事ガ必要ダ。統制官、容赦スル必要ハ無イゾ...」 |
 「十分ニ理解シテオリマス...」 モラン星人は恐怖を悟られまいと、努めて声の抑揚を抑えた。 「御前達ヲ見込ンデ、コノ重要ナ作戦ヲ任セタノダ。私ノ期待ヲ裏切ルデナイゾ...」 「司令ノ御配慮ニ感謝致シマス。コレヨリ計画ノ第2段階ニ入リマス」 「ウム。吉報ヲ待ッテイル...」 |
 亜空間通信が切れた後、モラン星人の統制官は少しの間、その場に立ち尽くした。 「統制官...」 背後に控えていた部下が、その背中に声を掛けた。統制官は振り向くと、心中の不安を振り払うかのように、片手を振った。 「コレヨリ第2段階ニ入ル、進路ヲ第1目標地点ニ向ケテ発進セヨ。特別戦闘員ノ出撃準備!」 |
 国際平和センターの南西に立つホテルの屋上で、絵里は周辺の目視警戒任務に就いていた。周囲を山々に囲まれている関係上、レーダーでは超低高からの接近を探知することが困難だからだ。 「...全警備隊員に告ぐ」 突然、絵里のインターコムにカタギリの声が響いた。 「つい先程、会議の出席予定者を乗せた原潜が紀伊水道で襲撃された。敵の攻撃に備え、各員警戒を厳重にしろ...」 |
 その時、絵里は背後に人の気配を感じた。振り返ると、サブ・レーダー装置の背後から一人の女性が歩み出て来る。 「御前が星原絵里か...それともエリザと呼んだ方が良いかな?」 「あなたは!」 女の言葉に衝撃を受けた絵里は、素早く腰の銃を抜いた。 |
 「私の名はゼータ。ペダン星から来た。御前と争うつもりは無い。銃を下ろすが良い...」 「ペダン星人ですって? 今回の事件は貴方達の仕業だったのね!」 「それは違う。もっとも、奴等は我々の作った兵器を使用しているので、疑うのも無理は無いが」 絵里は油断なく、トリガーに指を掛けたまま相手の顔を見つめた。 「どうやら戦う気は無さそうね。話を聞かせて貰うわ...」 |
 「宇宙同盟軍がまもなく地球への全面攻撃を開始する。攻撃部隊はモランと呼ばれる勢力だ」 「貴方達の兵器を使っていると言ったわね?ペダン星も同盟軍に参加しているの?」 絵里の詰問に、女は侮蔑の表情を浮かべた。 「モランは、我々ペダン星人が作った労働アンドロイドだ。その昔、奴等は徒党を組んで我々に反乱を起こし、鎮圧されると他の星系に逃亡し潜伏していたのだ」 絵里は肩をすくめると、銃をホルスターに戻した。 「そう?でも同情はできないわね。私の星も以前は同盟軍に支配されていたの。奴等の労働奴隷の供給源としてね...」 |
 「御前の同情など頼んではいない。今、問題なのは奴等が同盟軍に加わり、その見返りとして我々ペダン星の支配権を要求していることだ」 「ペダン星人は同盟軍ではないのね。では何故、貴女達は同盟軍に抵抗しないの?」 ゼータと名乗ったペダン星人は、苛立たしそうに周囲を歩き始めた。 「御前は知るまいが、同盟軍の戦力は極めて強大だ。我々の科学力を以ってしても、抵抗など到底不可能だ。だがアンドロイド如きにペダン星の支配を許すことは絶対に認められない!」 「なるほどね、貴女達の目的は分かったわ。でも果たして地球人が、貴女の言う事を信じるかしら...」 「我々は同盟軍から、兵器の供出を強要された。御前達がキングジョーと呼ぶ戦闘ロボットだ。私はその事を伝えに来たのだ」 |
 「確かその名前は防衛軍のデータベースにあったわ。とても強力らしいわね。でもどんな敵でも、私達は決して負けないわ」 思わず気色ばんだ絵里を、ペダン星人は軽く鼻で笑った。 「以前、地球人達はキングジョーを破壊したが、あれからキングジョーは武装、装甲共に大幅に強化された。それに御前と妹の戦闘能力と弱点は、既に同盟軍に知られている。抵抗した所で、到底勝てはしない...」 「勝てるかどうか、正直私には分からない。でもこの地球を見捨てて、逃げ出すことはしないわ」 「戦士としての心意気は見上げたものだが、賢明な判断とは言えんな...」 |
 その時、急にサイレンが鳴り出した。絵里のインターコムに、カタギリの声が響く。 「南西方向より未確認飛行物体が急速接近中。防衛軍各員は直ちに戦闘配置につけ!」 絵里は顔を上げて、南西の空を仰いだ。 「来たようね。私は戦うわ、たとえ結果がどうあろうとも...」 「好きにしろ、止めはしない。私の任務はこれで完了した。だが死ぬなよ、この星の為にもな...」 |
Act3 驚愕の敵 |
 穏やかに凪ぐ海から、突如として4つの物体が浮き上がって来た。物体群は海岸線を超え、内陸に向かって超低空で飛行を続けた。 |
 サクマは探査デバイスが示す表示に驚いた。 「これは...まさか、ペダニウム反応?」 その時猛烈なスピードで走って来た1台のジープが止まり、カタギリが飛び降りた。 「サクマ!状況はどうだ?」 「飛行物体は依然接近中です。それよりも、興味深いことが...」 「来たぞ、あれを見ろ!」 双眼鏡で監視していた自走砲兵隊の指揮官が、突然声を張り上げた。 |
 そこに展開された光景は、カタギリ達にとって正に驚異だった。4つの飛行物体が浮遊しながら垂直に整列したかと思うと、それらは次々と連結し始めた。 |
 「中尉!全機甲部隊に攻撃を開始させろ!」 「待ってください、隊長。あれはペダン星人の戦闘ロボット、キングジョーです。通常兵器では全く歯が立ちません!」 カタギリは厳しい表情でサクマを睨んだ。 「だとしても、このまま会議場を破壊させる訳にもいかん。サクマ、基地のタカハラに連絡して、R30特殊徹甲弾を装備してすぐに飛んで来いと言え!」 |
 待機していた戦車、自走砲が一斉に火蓋を切ると、周囲は轟音に包まれた。命中弾を示す閃光が幾つも瞬いたが、巨大なロボットは怯む様子も無く、ゆっくりと進んで来る。 |
 「こちら黒熊4、APFSDS弾が効きません!」 「警報!後方から地上支援機接近!」 「こちら黒熊1!第2小隊、500メートル緊急退避。他の小隊は援護射撃!」 「第2小隊、早く後退しろ!奴に踏み潰されるぞ!」 「砲兵隊どうした?弾幕薄いぞ!」 |
 「フム、大混乱ダナ...御前達ノ貧弱ナ武器デハ、我々ヲ阻止デキマイ...」 統制官はモニタを眺めながら、低く笑った。 「前進ヲ続ケロ!邪魔スル雑魚共ハ、蹴散ラシテ進ムノダ」
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 防衛軍の嵐のような砲撃にもかかわらず、巨大ロボットの前進を阻むことができない。機甲部隊はジリジリと後退し始め、やがて壊走し始めた。じっと戦況を見つめていたカタギリは、奥歯を固く噛み締めた。 「クソッ、ここでは喰い止められん。中尉!部隊を交互に後退させろ。第2次防衛ラインまで後退する!」 |
 巨大なロボットが見えた瞬間、絵里はきつくブレーキを踏み、ポインターを停めた。 「あれがキングジョー...」 初めて見るその巨体は、日光を受けて鈍く光っている。何発もの直撃弾をものともせず、ひたすら前進を止めないその姿に、絵里は本能的に恐怖を感じた。 |
 「ここで喰い止めなければ...」 絵里は意を決して、右手を高く掲げた。 「エリザ・チェンジ!」 淡い桃色の光の渦が絵里の姿を包むと、森に眩い閃光が走った。 |
 進撃する巨大ロボットの前に光の柱が現れ、やがてそれはエリザの姿に変化した。エリザの存在に、キングジョーはその動きをピタリと停止した。 |
 「隊長、あれを!エリザです!」 ジープに乗り込みかけたカタギリに、サクマが叫んだ。 「うむ...」 女戦士の背中にかかる長い髪が目に入った時、カタギリの厳しい表情がほんの一瞬だけ緩んだ。 |
 「グワァシ...グワァシ...」 奇怪な音を立てながら、キングジョーはジリジリとエリザに迫る。その圧倒的な威圧感に、エリザは思わず腰が引けそうになった。 |
 「恐れてはだめ...」 エリザは恐怖感を振り切るように、自分に言い聞かせて突進した。 |
 「エイッ!」 相手の懐に飛び込んだエリザは、鋭いパンチを放つ。だが鈍い金属音が響いたのみで、効果は認められなかった。 |
 エリザは続けて右ストレートを叩き込んだが、その瞬間、右手首に衝撃が走った。 |
 「くっ...硬い...」 痛めた右手首を押さえ、エリザは思わず呻き声を漏らした。 |
 「タァッ!」 エリザは身体を捻ると、得意のキックをキングジョーの腹に蹴り込んだ。ブーツの固い踵が装甲に当り、乾いた音が響く。 |
 だがエリザの一連の攻撃も、相手は全く意に介していないようだった。 「グワァシ...グワァシ...」 奇怪な音を立てながら、キングジョーは曲げた両腕を小さく上下させた。 |
 「御前ノ貧弱ナ身体デハ、到底コノ戦闘ロボットハ倒センナ...」 モラン星人の統制官は満足そうに頷いた。 「地球人共ノ目ノ前デ、タップリト可愛ガッテヤレ」 |
 それまで全く無反応だったキングジョーが、突如として攻撃を仕掛けてきた。エリザは咄嗟に相手の腕を掴み、これを阻止した。だが相手はとてつもない力で、グイグイと鋼の手をエリザの顔に近付けて来る。 「す...すごい力...」 エリザは奥歯を噛み締めて、必死に腕に力を込めた。 |
 だがキングジョーは、空いている右腕を大きく振ると、下からエリザの鳩尾を突き上げた。 「ぐっ!」 その物凄い衝撃に、エリザの身体は後方に弧を描いて飛んだ。 |
 エリザの身体は、音を立てて地面に叩き付けられた。全身を強く打ったエリザは、一瞬意識が遠くなった。 |
Act4 鋼の悪魔 |
 「まずい...パワーの差が有りすぎる...」 双眼鏡でエリザの戦いを見つめていたカタギリは、低い声で呟いた。 「過去の記録によれば、奴にパワーで対抗できた光の戦士はいないようです...」 データ端末を見つめるサクマの声にも、明らかな不安が感じ取れる。 |
 先程受けたダメージが、エリザの全身を麻痺させていた。 「こ..ここで...喰い止めなければ...」 両肘で上体を起こしたエリザは、這いながらも何とか身体の向きを変えた。 |
 「えいっ!」 エリザは気合でキングジョーにタックルした。あらんかぎりの力を振り絞り、両脚に力を込める。だがそれでも巨大なロボットの前進を封じることができない。組み合ったまま、エリザはジリジリと後方に押し返されて行った...。 |
 キングジョーの両手がエリザの頭部を挟み、物凄い力でこれを押さえつけた。巨大なプレス機に挟まれたように、エリザの頭蓋骨がきしむ。 「うっ...」 次第にエリザの目の焦点が定まらなくなり、視界が揺れ動き始めた...。 |
 怪力を誇る相手はエリザの頭を挟んだまま、強引に横に捻った。キングジョーの拘束を離れたエリザの身体は、一回転して宙を舞った。 |
 「く...」 地面に叩きつけられたエリザは、キングジョーの持つ底知れぬパワーに、言いようの無い恐怖を覚えた。 |
 「...パワーではかなわないかも知れない。でも...」 エリザは痛みの残るこめかみを抑えながら、自分を見下ろす巨大なロボットを睨んだ。 |
 「スライサー!」 声高に叫んだエリザの手に、眩く光る光の輪が現れた。 |
 「エイッ!!」 エリザの手から放たれた光輪は、真っ直ぐキングジョーの胸を目掛けて飛ぶ。だが硬い金属音と共に、スライサーはあっけなく弾き飛ばされた。 |
 戦闘の様子を見つめていたカタギリは、双眼鏡を下ろすと眉をひそめた。 「タカハラはまだか?」 「こちらに接近中です。ETAは5分後です...」 「5分か...」 カタギリの声に、強い懸念が滲んでいた。 |
 キングジョーはゆっくりとした足取りで、じりじりとエリザに迫ってくる。 「う...」 半ば予想していたとは言え、スライサーが簡単に弾き返されたことはショックであった。抑えがたい焦りが、次第にエリザの心に湧き上がった...。 |
 「エイッ!」 近づいて来るキングジョーの腹に、エリザは続けざまにキックを蹴り込んだ。硬い金属音が周囲に響いたが、それでも巨大ロボットの歩みは止まらない。 |
 胴体を蹴り続けるエリザに向かって、キングジョーの大振りなパンチが繰り出される。 「ハァッ!」 エリザは即座に後方宙返りをうち、鋼の拳をかわした。 |
 相手との間合いが開いたことで、逆にエリザは迷った。 「通常攻撃は全く効かない...もしかしたらフラッシュも...」 だがエリザに他の選択肢は無かった。 |
 「セット!」 決心したエリザは腕を交差させ、エリザ・フラッシュを放つ構えに入った。瞬く間に全身のエネルギーが、両腕に集中されて行く。 |
 「レディ!」 天に掲げた両手に、膨大な量のエネルギーが凝縮した。エリザの一連の動作に、キングジョーは前進を止めた。 |
 十字に組んだエリザの両手から、眩い光が放たれた。光はキングジョーの胴体を捕らえ、プラズマ化した火球がその表面を覆う。電気回路がショートしたような空電音が、周囲の山々に木霊した。 |
 だが、それ以上は何も起こらなかった。最後に残った光子エネルギーが大気中に霧散すると、空電音と光の輝きも消えた。 「くっ...」 半ば予期していたものの、フラッシュビームが効かなかった事実に、エリザは動揺した。 |
 「ククク...ソンナ幼稚ナ武器ガ、通用スルトデモ思ッテイルノカ...」 統制官は愉快そうに笑い声を漏らした。 「ダガ御遊ビハ、終ワリダ。邪魔ナ、ソノ小娘ヲ片付ケテシマエ!」 |
 エリザ・フラッシュは大量のエネルギーを消費し、エリザの身体に過度の負担を強いる。突然襲って来た極度の疲労に、エリザは思わず片膝を付いた。 「グワッシ...グワッシ...」 キングジョーはゆっくりと、動けないエリザに迫った。
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 「あうっ!」 キングジョーの巨大な足が、物凄い力でエリザの胸を蹴り上げた。たまらず、エリザの身体は後方に吹き飛んだ。 |
 大きな落下音と共に、エリザは後頭部を地面に激しく打ち付けた。その衝撃で、エリザの意識が一瞬遠のいた。 |
 「うう...」 エネルギー消耗による疲労と胸に受けたダメージで、エリザは身動きすることもできなかった。エリザの目に映る巨大ロボットの影は、次第に近付いて来る。エリザは激しい眩暈の中で、必死に妹の名を呼んだ。 「アリサ...助けて...」 |
Act5 エリザ敗れる |
 「ねえ、真奈。他にもっと楽しいコース無かったの?お寺巡りはもう飽きたよ...」 亜里沙はうんざりした顔で、山門の仁王像を睨んだ。 「今時さぁ、修学旅行でお寺見学なんてやってるの、ウチの学校ぐらいよ。知り合いの高校なんか、沖縄だったし...」 歩くのに疲れたのか、真奈がぶっきらぼうに言った。 「このコースが見学するお寺の数が一番少ないのよ。とにかく、今日中にあと2つ廻らなくちゃ...」 その時、亜里沙の胸のペンダントが青い光を放って輝き始めた。 「...姉貴?」 |
 「ごめん、急用思い出した。後で旅館で!」 亜里沙が急に駆け出したので、真奈と恵子は驚いた。 「ちょっと!後で叱られるわよ!」 「先生には上手く言っといて!」 |
 走り出た亜里沙は、人目を避けられる場所を探した。少し先に神社の鳥居を見つけて境内に走り込んだ。 「よし...」 境内に人が居ないことを確認した亜里沙は、社の脇に入っていった。 |
 両手を天にかざした亜里沙は、小さく叫んだ。 「アリサ・チェンジ!」 足元から眩い光の帯が現れると、渦を巻いて亜里沙の身体を包んだ...。 |
 「うう...」 頭部に受けた衝撃で、エリザは激しい眩暈に襲われていた。 「グワッシ...グワッシ...」 奇妙な音を立てながら、キングジョーは身動きできないエリザに迫る。 |
 接近したキングジョーは地面に両膝を突くと、エリザの上に馬乗りになった。その外形からは想像もできない、柔軟な動きだった。 「え?」 予想外の動きに、エリザは思わず右腕を上げた。キングジョーはその腕を掴むと、エリザの上に覆いかぶさった。 |
 頭を押さえつけようとするキングジョーに、エリザは身を捩って抵抗する。必死に暴れるエリザを押え付けようと、キングジョーはエリザのもう片方の腕を掴んだ。 「くっ...」 エリザは奥歯を噛み締め、あらん限りの力を込めて、掴まれた腕を振り解こうとした。しかし敵の驚異的なパワーの前には、虚しい試みだった。 |
 「馬鹿ナ奴ダ...御前ノ細イ腕デ、抵抗デキルト思ッテイルノカ...」 モラン統制官は小さく笑った。 「操作員、手間ヲ掛ケルナ。奴ノ乳房ヲ狙エ!」 |
 キングジョーは掴んでいたエリザの腕を放し、その拳を勢いよくエリザの左乳房に振り下ろした。巨大な鉄の拳がエリザの柔らかい乳房にめり込むと、ミシッという鈍い音が響いた。 「あぐっ!」 数本の肋骨に亀裂が生じ、エリザの意識は瞬時に遠くなった。 |
 肋骨に大きな亀裂が生じたものの、幸いその下にある心臓には及ばなかった。だがその傷は、エリザに激しい苦痛を味合わせた。 「う..ううっ...」 心臓が不規則に脈動し、エリザの身体は小刻みに痙攣する。エリザの胸の上で、乳房が左右に小さく揺れ動いた...。 |
 「隊長、このままだとエリザが危険です!」 戦況を食い入る様に見つめていたサクマは、思わず拳を握り締めた。 「タカハラ!こちらカタギリだ。今どの辺だ?」 「こちらタカハラ、現在マッハ3で接近中。ETAは約2分後です...」 「了解、オーバー」 カタギリの声にも焦りの色が現れていた。 |
 キングジョーはエリザの右手首を掴むと、エリザの身体を強引に引き上げた。身体が痙攣してしまっているエリザには、抵抗する術も無い。 |
 手頃な高さにエリザを引き上げたキングジョーは、勢い良くもう片方の腕を振った。その巨大な拳がエリザの下腹部、子宮を鋭くえぐる。 「ぐっ!」 思わず天を仰いだエリザの口から、勢い良く血飛沫が舞い上がった。 |
 子宮への衝撃に意識が遠のいたエリザだったが、それで終わりでは無かった。再び鉄拳が子宮を襲い、深々とエリザの下腹部にめり込んだ。 「あうっ!」 エリザの吐いた赤い飛沫が、足元の大地に降り注ぐ...。 |
 「あっ...あ...」 気を失うまいと、エリザは必死に叫ぼうとした。だが口から漏れる音は、もはや言葉にならなかった。苦痛に身を震わせるエリザを観察するかのように、巨大ロボットは拳を振るうのを止めた。 |
 「ガッツ星人カラノ提供情報ハ正確ダッタヨウダナ...」 モラン星人統制官は、満足そうに頷いた。 「ダガ、マダ十分トハ言エヌ。奴ノ子宮ヲ攻メ続ケロ!股間ノ『ヴァギナ』カラ出血スルマデダ...」 |
 攻撃が再開されると、再び地獄の苦しみがエリザを襲った。キングジョーは極めて正確に、繰り返し下腹部の同じ箇所を叩き続ける。 「うっ..ううっ...」 子宮がダメージを負う度に、エリザの口から血飛沫が舞い上がり、苦悶の喘ぎ声が漏れる。全身に送り出される光子エネルギーの供給が阻害され、子宮は急速に高熱を帯びていった。 |
 遂にエリザが恐れていた事態がやってきた。叩かれ続けた子宮壁に亀裂が生じ、血管から大量の血が噴出し始めたのだ。血の洪水はたちまち子宮から流れ出し、ヴァギナへと殺到した。 「あうっ!」 そして次の打撃が、致命的な一撃となった。その衝撃に天を仰いだエリザの口から、血の噴水が吹き上がる。 |
 突如エリザの股間から、赤い噴流がほとばしった。ヴァギナに充満した血液が、陰唇から吐き出されたのだ。光子エネルギーを含んだ血が空気に触れると、淡い光の霧となって大地に降り注いだ。それまでの激しい痙攣が止まり、エリザはぐったりと動かなくなった。 |
 キングジョーはエリザの腕を捻って身体を半回転させると、背後から脚の間に腕を差し入れた。そしてこの巨大ロボットは、12000トンもあるエリザの身体をいとも容易く持ち上げた。 |
 自分の勝利を誇るかのように、キングジョーは頭上にエリザの身体を掲げた。子宮に大きな損害を被ったエリザは、全身にエネルギーが行き渡らず、身体を動かすこともできない。その股間からは、鮮血の流出が続いていた...。 |
 「隊長!来ました、ファルコンです!」 近付いて来るエンジンの爆音に、サクマが後方の空を指差した。カタギリは素早くインターコムの送信スイッチを入れた。 「こちらカタギリ。R弾頭ミサイルを奴にお見舞いしろ!絶対に外すな」 |
 「こちらタカハラ、了解」 だが打ちのめされたエリザの姿に、タカハラは思わず頭を左右に振った。 「しかし隊長。レーザー誘導でも、奴が少しでも動けばエリザに当たる危険があります!」 |
 「止むを得ん、攻撃しろ。でないとエリザは確実に殺される...」 ヘルメットの受信器に流れた冷徹な言葉に、サクマはカタギリの顔を振り返った。 |
 「目標ロックオン!ミサイル発射!」 タカハラは祈るような気持ちでトリガーを引いた。大型のミサイルは発射レールを離れると、物凄い加速度で標的に迫った。 |
 幸いミサイルはキングジョーの左胸に命中し、小さな火花が飛び散った。だが、それだけだった。キングジョーは何事もなかったように、エリザを持ち上げ続けている...。 |
 エリザの胸のクリスタルが赤い光に変わり、エネルギーの減少を告げる警告音が鳴り始めた。だが子宮に大きな損傷を受け、仰向けに持ち上げられているエリザは全く身動きができない。陰唇からの出血は未だに止まず、残り少ない貴重なエネルギーが、血液と共に流出して行く...。 |
 「もはや我々には、あのロボットを止める術は無いのか...」 カタギリは無念の表情を浮かべて呟いた。 「いいえ、我々にはまだアリサがいます。彼女は必ず来てくれます!」 そう言いながらサクマは、心の中でそれを強く願った。 |
Act6 悪夢の戦い |
 突然ファルコンのHUDに、レーダー反応が現れた。その方向にサクマが首を回すと、山頂をかすめるように飛来するアリサの姿が目に入った。 「隊長、アリサです!アリサが来ました!」 思わず叫んだタカハラの声もうわずっていた。 |
 地上に降り立ったアリサの目に、晒し者にされた姉の姿が映った。 「許さない...」 アリサの心に復讐の炎が燃え上がった...。 |
 「やはり来てくれました...」 サクマは安堵したように、大きく溜息をついた。 「うむ...」 小さく頷いたカタギリだったが、その顔は曇ったままであった。 |
 キングジョーは頭上に持ち上げていたエリザの身体を、アリサを目掛けて放り投げた。 「あっ!」 エリザは独楽のように空中を回転しながら、地面に落ちてアリサの足元まで転がった。 |
 「姉さん!気をしっかり!」 アリサは跪くと、慌てて姉の顔を覗き込んだ。エリザの身体は時々痙攣を起こしていたが、満足に身体を動かすことができないようだった。 「..ア...リサ...」 妹の声を耳にしたエリザの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。 |
 「妹マデ現レルトハ、コレハ好都合ダ...」 統制官は可笑しそうに呟いた。 「操作員!早ク『アリサ』ヲ片付ケテシマエ。邪魔ナ姉妹ヲ葬り去レバ、我々ノ任務ハ半バ達成ダ...」 |
 「グワッシ...グワッシ...」 指令を受けたキングジョーは、奇怪な音を立てながら姉妹に近付いた。 「今度は私が相手よ!」 アリサはエリザの身体を跨ぐと、倒れている姉とロボットの間に割って入った。 |
 「行くわよ!」 アリサは両脚で思い切り地面を蹴ると、キングジョー目掛けて得意のドロップキックを放った。 |
 並の怪獣ならば一撃で倒すアリサのキックも、キングジョーの硬い装甲には歯が立たなかった。跳ね返された衝撃で、アリサの身体が弾き飛ばされる。 |
 「くっ!」 蹴った足首を痛めたアリサは、音を立てて地面に転がった。アリサが振り返るとキングジョーの巨大な足が、頭上から降って来るのが見えた。 |
 間一髪アリサは身体を捻ると、キングジョーに踏み付けられるのを回避した。 「つっ...」 アリサはそのまま地面を転がりながら、キングジョーから離れた。 |
 「こいつ...硬い...」 小さく肩で息をしながら、アリサは思わず呟いた。 「なら、これで...」 |
 「ブーメラン!」 天に突き上げたアリサの掌に、赤い光を放つ三ヶ月が現れた。 |
 「だ..め...」 背後の声に振り返ると、ひどく弱ったエリザが必死に身体を起こそうとしている。 「私達の..武器は...効か..ない...」 苦しい息の下で告げたエリザは、弱々しく頭を左右に振った。
|
 アリサは顔を戻してキングジョーを睨んだ。巨大ロボットはゆっくりと2人に接近して来る。 「でも...どうすれば...」 その時アリサの眼が、ぎこちなく踏み出されたロボットの脚に止まった。 「やってみるか...」 アリサは手にしたブーメランを握り直した...。 |
 アリサはキングジョーの足元に飛び込み、膝の関節部分に思い切りブーメランを突き刺した。刃先の部分しか刺さらなかったが、確かに小さな火花が散った。 |
 だが次の瞬間、キングジョーのもう片方の足の爪先が、勢い良くアリサの腹をえぐった。 「ぐふっ!」 吹き飛ばされたアリサの身体が、木の葉のように低空で一回転した。 「アリサ!」 |
 「くっ...」 地面にぐったりと伸びたアリサの姿に、エリザは身体の震えに耐えながら、なんとか立ち上がった。 「ギッ..ギギーッ」 金属がこすれる音に、エリザはハッと顔を上げた。見ればキングジョーが片足を引きずっている。身体を捻りながら何とか前進しようとしているが、思うように進めないのは明らかだった。 「今だわ!」 |
 「タァッ!」 エリザは残っていた全身の力を込めてジャンプした。 |
 衝突寸前、エリザは咄嗟に身を丸め、そのまま巨大ロボットに体当たりをした。体重5万トン近いキングジョーも、片足が動かない状態ではこの衝撃を受け止めきれなかった。 「ギーッ」 金属が引き裂かれるような甲高い音と共に、キングジョーの巨体が背中からゆっくりと地面に倒れた。 |
 関節の稼動範囲が限られているのか、キングジョーは立ち上がることができずに地面の上でもがいている。だが無理な体勢から落下した為に、エリザも頭部を地面に強く打ち付けてしまっていた。 「ううっ...」 意識が遠くなりかけるのを、エリザは気力だけで必死に堪えた。だがその一方で、エネルギーの消耗は容赦無く進んでいる。胸のクリスタルは短い点滅に変わり、危険シグナルが鳴り響き始めた...。 |
 「何ヲシテイル!早ク立チ上ガラセロ!!」 統制官は緊急報告に来た操作員の班長を怒鳴りつけた。 「本機ノ構造上、ソレハ不可能デス。右足関節部ニモ損傷ガ...」 操作班長は困ったように言葉尻を濁した。 「クソッ、止ムヲ得ン。一旦撤退シテ修理シロ!」 |
 「ガシャン...ガシャン...」 地面に横たわったキングジョーが、機械音を立てながら4つに分離した。そして其々が空中に浮かび上がると、南へと飛び去っていった。 「..終わっ..た...」 ようやくダメージから回復したアリサは、這いながら姉の方に近付いた。 |
 エリザは気を失っているらしく、アリサが呼びかけても反応が無い。 「この借りは..必ず返すわよ...」 山の稜線に消えてゆくロボットを見つめながら、アリサは悔しそうに呟いた。 |
 エリザのクリスタルは忙しく明滅し、甲高い危険通知音がエネルギー枯渇まで残り1分を切った事を告げていた。 「待って!」 アリサはエリザに急いでにじり寄ると、胸のクリスタルに光子エネルギーを注いだ。やがてエネルギーを吸収したクリスタルの点滅が止み、シグナルも警告音に戻った。 |
 「ふう...危なかった...」 アリサは肩でひとつ息をすると、エリザのクリスタルに変身解除信号を送り込んだ。姉の身体が光子分解するのを見届けたアリサは、続いて自分の変身を解除した...。 |
 「先程、全員の生存確認をしたのですが、絵里隊員からの応答がありません。もしや何かあったのかも...」 サクマはジープのハンドルを握ると、セルモーターを回してエンジンを掛けた。 「とにかく、防衛センターに戻ろう。警備隊員全員を招集しろ。急いでキングジョー対策を練る必要がある...」 助手席に座ったカタギリの目に、遠方の稜線近くに何か黒い影が写った。カタギリは念の為双眼鏡を取り出すと、影に焦点を合わせた。 「待て...向こうに誰か人が倒れているぞ!」 |
 ブレーキを踏んでジープを止めたサクマは、思わず自分の目を疑った。 「絵里隊員が何故ここに...それに、もう一人は確か絵里隊員の妹さんじゃないですか?」 ジープから飛び降りたカタギリは、折り重なって気を失っている2人に近付いた。 「うむ、間違い無い..絵里と妹さんだ...」 |
Act7 夜の帳に |
 「あ...」 絵里が意識を取り戻した時、最初に目にしたのは病室の天井だった。 「姉貴!気がついたんだね...よかった...」 「ここは?...」 「防衛センターの病院。意識を失って2人とも担ぎ込まれたってわけ...」 |
 「亜里沙は大丈夫?」 「うん。私は打ち身だけで済んだからね。医者の先生も心配無いって言ってたよ」 「で...あのペダン星のロボットは?キングジョーはどうしたの?」 「何処かへ逃げていった。防衛軍が探してるけど、まだ見つからないみたい...」 |
 その時、突然室内の灯りが点滅した。 「あれ?」 亜里沙が顔を上げると、ドアの前に青白い光が現れ、次第にそれは人の女性の姿に変わった。 |
 「あなた誰よ?」 亜里沙は険しい顔つきで、突然現れた女に近付いた。 「姉から聞いてないのか?...私はゼータ。ペダン星人だ」 「ペダン星人!」 亜里沙は素早く構えを取った。 |
 「やめて、亜里沙...その人は敵じゃないわ...」 絵里の静止に、亜里沙はしぶしぶ構えを解いた。 「で、何の用?ここは地球防衛軍の施設なんだ、不法侵入で捕まるよ」 「この部屋の監視回路は無効にした。地球人達は気が付きもしない...」 |
 「ゼータ、貴女は故郷へ帰ったと思ってた...」 「帰るさ...だがもう少し先だ。まだ、やり残したことがある」 ゼータはベッドに横たわる絵里に近付いた。 「先程の戦いを見ていたが、正直失望したぞ、御前達にはな...」 |
 「まだ命があるのが幸いだな...御前達がこの星の守護者とは、聞いて呆れるぞ」 ゼータの言葉に、絵里の耳が朱に染まった。 「ちょっと!他人事だと思って勝手なこと言わないでよ。私はともかく、姉さんは死にそうになるまで戦ったんだよ!」 亜里沙は横からゼータの顔を睨み付けた。 |
 「努力は認めよう。だが御前の努力でキングジョーが倒せたか?この星を守れたのか?」 「何ですって!言わせておけば...」 亜里沙の顔が怒りに赤く染まった。 「亜里沙、抑えて。ゼータの言うことも、もっともだわ。私達はこの地球を守らなければいけないのよ...」 絵里の表情が悲しげに歪んだ。 |
 「だが御前達には少し荷が重過ぎるようだ...ふん、今回だけは手助けしてやろう...」 ゼータが足元の床を指差すと、そこに筒形の物体が現れた。 「その中身を地球人達に見せてやるが良い。ただし、私のことは決して他言するな。ペダン星は今回の事には全く無関係だ、良いな?」 |
 「御前達にしてやれるのは、これだけだ。今度こそ、キングジョーを倒して見せろ...」 そう言うとゼータは2人に背を向けた。そして現れた時と同じように、青い光に包まれて消えていった...。 |
 サクマは防衛センターの地下にある研究室で、コンピュータの端末に向かっていた。ドアが開く音にサクマが顔を上げると、カタギリが入って来た所だった。 「あ、隊長!今、報告にあがろうかと思っていた所です...」 「うむ。分析の方はどうだ?」 「驚きましたよ。このカプセルの中に、未知の結晶体と一連の文字群が刻まれた高分子樹脂のプレートが入っていました。現在プレートの文字群を解析中ですが、何と、我々の言語と比較し易いように、文字の対比サンプルまで刻んでありました」 |
 「このカプセルを作った者が、我々に見せる目的でこのカプセルを作ったというのか?」 「そう思いますね。更に驚くべきことには、この文字群の内容が、どうやら強力な兵器製造方法に関する記述らしいのです...」 サクマはじっとカタギリの目を見つめた。 「まだ全ての解読が終わっていませんが、非常に興味深い記述がありました。一緒に入っていた結晶体に特定周波数の電磁波を当てると、物質の分子間結合力を無くす光線を放出するとあります。これはつまり...」 「ふむ。これを使って、我々にキングジョーを倒せと言っているのだな...」 後を継いだカタギリの言葉に、サクマは無言で頷いた。 |
 「よろしい、早速武器の製造に取り掛かってくれ。資材と人員は無制限に使って構わん。時間が無い、あの巨大ロボットはまた襲って来る」 「了解しました。しかし隊長、差し支え無ければ、このカプセルの入手経緯を詳しく話してもらえませんか?」 カタギリは小さく頭を横に振った。 「ダメだ。このカプセルについては、相手が誰であろうと今後一切他言してはならん。日誌にも残すな。俺達2人はこの秘密を、墓場まで持っていくんだ...」 |
 防衛センターのVIP居住フロアには保安目的の為に、直行するエレベータが設置されていない。カタギリはすれ違う護衛兵達を横目に、長い廊下を急いだ。 |
 身元確認を済ませたカタギリが部屋に入ると、クロキ司令が窓から夜の景色を眺めていた。 「ご苦労、カタギリ君。例の巨大ロボット対策は進んでいるかね?」 「今、地下の研究室で新兵器を作らせています。もう4、5時間もあれば何とか形にはなると思いますが...」 司令はひとつ頷くと、手にした煙草に火を付けた。 |
 「ところで司令、先に提出した上申書ですが...」 「会議の中止のことだね?会議は明朝9時30半に再開される、今更中止などできん」 「先の戦闘で、護衛部隊の戦力は半減しています。またこの防衛センターの防御設備もカテゴリーBやCの旧式兵器が大半で、全く期待ができません」 「カタギリ君、君の言いたいことは解る。だがこれは本日、地球防衛会議が下した決定だ...」 |
 「これは侵略者達に、我々の防衛意思を示す機会なのだ。もしここで会議を中止したりすれば、侵略者達は図に乗って地球侵略の勢いを増大させるだろう」 「それは判ります。ですが司令...」 クロキはカタギリをそっと手で制した。 「勿論、犠牲が出ることは覚悟している。だがここで我々が踏み留まることで、全人類の結束は固く維持される」 |
 「どうか理解して欲しい。これは防衛軍の威信などという、下らん戯言ではないのだ」 クロキは椅子に腰を下ろすと、疲れたように溜息をついた。 「地球を宇宙からの侵略から守る為に、我々は選ばれた。我々はそれに応える義務がある。たとえ何が起ころうともな...」 |
Act8 決戦の時 |
 絵里がゆっくりと目を開くと、病室の中に淡い朝の日差しが差し込んでいた。 「亜里沙...」 椅子の肘掛にもたれて寝ている亜里沙を見て、絵里は思わず微笑んだ。 |
 「行かなければ...」 絵里はベッドから起き上がると、身支度を始めた。あの巨大ロボットがまた襲って来ることを、絵里は肌で感じ取っていた。 |
 床のカーペットを踏みしめる靴音に、亜里沙は伏せていた頭を上げた。だが目をこすりながらベッドを見ると、そこに絵里の姿は無かった。 「あれ?...姉貴?」 振り返ると、絵里は窓辺に立ち、山の端から登り来る朝日を見つめていた。 |
 「だめだよ、姉貴!まだ横になっていなきゃ...」 亜里沙は心配そうに絵里の傍らに駆け寄った。 「判ってる...でも、まもなくキングジョーがここに来るわ」 |
 「私も亜里沙も、あいつには勝てない...けど2人で力を合わせれば、きっと倒せると思うの」 絵里は亜里沙の肩に手を置き、その眼をじっと見つめた。 「今度の戦いで、私達のどちらかが死ぬかも知れない。でも地球の人々は私達に期待してるわ...」 「大丈夫。全力でやるよ!」 亜里沙は姉の顔を見つめ、ニッコリと微笑んだ。 |
 「長官!第3監視哨から敵発見の報告です。方位205、超低空にて接近中!」 ミズキの声に、防衛センター司令室の空気が一瞬にして凍りついた。 「攻撃警報を発令。会議の全参加者を地下の避難区画へ移せ。防衛部隊の火器使用自由!」 クロキは冷静に指令を発した。 |
 キングジョーの分離体は海岸を越えると、低い山並をかすめるようにして北上した。分離体が山頂を超えるたびに、低い電子音が周囲に木霊した。 |
 「こちらカタギリだ。サクマ、新兵器はまだか?」 配置に付く戦闘車両が立てる轟音に負けまいと、カタギリは声を張り上げた。 「こちらサクマ。今、新兵器をロケット砲弾に組み込んでいるところです。あと15分だけ下さい」 「敵が襲撃してきた。兵器が完成次第、南側防衛線のDポイントまで持って来い、急げ!」 |
 キングジョーの分離体は、防衛センターから数キロのところで停止して合体し始めた。防御陣地の火砲が火を噴き、周囲は瞬時にして轟音に包まれる。 |
 「南側の防衛ラインに急げ!」 カタギリはジープに駆け込むと、運転席の中尉に怒鳴った。中尉が思い切りアクセルを踏むと、ジープはタイヤを軋ませ、左右によろめきながら走り出した。 |
 カタギリを乗せたジープが外郭防衛陣地の手前まで来ると、稜線越しに近付いてくる巨大なロボットの姿が目に入った。 「止めろ!くそっ、もうこんな近くまで来ていたのか...」 砲塁の野砲群がつるべ打ちに射撃しており、ロボットの巨体に幾つもの命中弾が確認できた。だがロボットに怯む様子は全く無く、巨体を揺らしながらゆっくりと防御陣地に接近して来る。 |
 防衛センターの屋上からは、次第に迫ってくる銀白色の巨大ロボットが見えた。激しい雷鳴のように、防御砲火の音が木霊している。 「今、サクマさんがあのキングジョーを破壊できる兵器を作ってる。それが完成するまで、私達があいつを喰い止めて時間を稼ぐのよ」 絵里は首を回すと、肩越しに妹の顔を見た。 「いいわね、亜里沙?」 「うん」 亜里沙は姉の顔を見つめながら、真剣な顔で頷いた。 |
 絵里は松葉杖を放すと、右手を空に掲げる。亜里沙も両手を空に掲げた。 「エリザ・チェンジ!」 「アリサ・チェンジ!」 2人の声が響くと姉妹の身体は、瞬時に渦巻く眩い光に包まれた。 |
 連続射撃と砲弾が炸裂する凄まじい轟音の中、カタギリは声を張り上げて中尉を呼んだ。 「防衛センター区内の機甲部隊を呼び出せ。ここに集中砲撃させろ!」 とたんに中尉の顔が青ざめた。 「本気で言ってるんですか?この地区の砲兵隊も甚大な損害を受けます。我々も吹っ飛ばされますよ!」 「ここをを突破されれば、もはや奴を止める術は無い。全責任は俺が取る、やるんだ!」 |
 巨大ロボットが防衛陣地に侵入し掛けたその時、突如現れた2つの光が、その前に立ち塞がった。 |
 双眼鏡を覗いていたカタギリは、手で中尉を制した。 「待て!先程の射撃命令は取り消す。砲塁の砲兵隊にも攻撃を中止させろ!」 「了解、攻撃を中止させます」 姉妹の出現に安堵の溜息を吐き出した中尉は、携帯無線機で砲兵隊の呼び出しに掛かった。 「来てくれたか...」 カタギリは内心胸をなでおろしたが、これで危機が去った訳ではないことは分かっていた。 |
 モラン星人統制官はモニタを眺めてほくそ笑んだ。 「今度ハ姉妹同時ニ来タカ...丁度良イ、此処デ一緒ニ始末シテヤル。デスト・レイ発射!」 |
 突如として放たれた緑色の怪光線が、身構えていた姉妹を襲った。それが地面に命中すると激しい爆発が生じ、轟音と共に土砂や岩の破片が宙を舞った。 |
 「アリサ、大丈夫?」 強烈な爆風に膝を付いたエリザが振り返ると、アリサは仰向けに倒れていた。地面に生じたクレーターが、黒く焼け焦げている。 「...だ、大丈夫。怪我はないよ...」 頭を左右に振りながら、アリサが上体を起こした。 |
 「さ、立って、アリサ!戦いはこれからよ」 両膝の震えを抑えながら、エリザは声を出してアリサを励ました。 「心配ないよ、分かってるって...」 強がるアリサの声にも、どことなく怯えが感じられた。 |
 「エリザ姉妹が救援に来てくれました。現在キングジョーと交戦中です...」 無線交信を傍受していたミズキは、司令官の背中に声を掛けた。 「そうか...」 電子戦術卓に示される表示から目を放さずに、クロキは小さく頷いた...。 |
Act9 死線を越えて |
 「タァッ!」 「ハッ!」 エリザとアリサは息の合った連携で、キングジョーに同時にキックを見舞った。しかし上体が少し揺れただけで、この巨大ロボットがダメージを受けている感じは全く無い。 |
 キングジョーはすかさず反撃して来た。鉄の拳が弧を描き、エリザの顔目掛けて振り下ろされる。 「つっ!」 間一髪、身を屈めたエリザの頭上を、巨大な拳が唸りを上げて通り過ぎた。 |
 「タァッ!」 横合いからアリサが踏み込んで左ストレートを叩き込むが、強固な装甲に簡単に弾かれた。 |
 だがアリサは踏み込んだことで、敵との間合いを詰め過ぎた。キングジョーの拳が下から掬い上げるように、アリサの顔面を捉える。 「ぐっ!」 強烈な打撃を受けたアリサの身体が、風に飛ばされる木の葉のように宙を舞った。 |
 吹き飛ばされたアリサは、勢い良く地面に落ちた。突っ伏したその身体が、ピクピクと激しく痙攣している。 「アリサ!...よくも...」 エリザは振り返ると、怒りのキックをキングジョーの腹に叩き込んだ。 |
 戦況を見つめていたカタギリは、インターコムに向かって叫んだ。 「こちらカタギリ。サクマ、新兵器はまだか?急いでくれ!」 |
 「今、そちらに向かっています。ETAは5分後です!」 激しく振動するハンドルを握りながら、サクマも大きな声を張り上げる。後方座席ではカトウが揺れるロケット砲の砲身を必死に抑えていた。 |
 キングジョーはじりじりと、倒れたアリサに近付いて来る。これを阻止しようとエリザは執拗に攻撃するが、この巨大ロボットを押し止めることができなかった。 |
 「何とかしなくては...」 エリザは後退するのを止め、キックで反撃に出る。だが、そうしたエリザの焦りを見透かしたように、キングジョーは易々とエリザの蹴り足を捕らえた。 |
 「あ?」 キングジョーは、動きの止まったもう一方の足も捕まえると、エリザの身体を大きく振り回した。 |
 巨大ロボットは上半身を勢い良く半回転させると、1万トンを超えるエリザの身体を軽々と投げ飛ばした。 |
 「ぐっ!」 地面に落下したエリザは、後頭部を強く打ち付けた。一瞬意識が遠くなったエリザは、力無く大地を転がった。 |
 今や形勢は明らかに不利だった。エリザとアリサは共に、ダメージを受けて地面に倒れている。だが敵は全くの無傷であり、エリザ達には反撃する術も無い。 「う...ううっ...」 それでもエリザは諦めなかった。満足に言う事を聞かない身体を捻って、必死に立ち上がろうともがく。 |
 「フッハハハ...御前達姉妹ノ能力ナド、コノ程度ノ物ダ」 モラン星人統制官は愉快そうに笑った。 「ソロソロ始末ヲ付ケテヤル...マズハ姉カラダ...」 |
 「くそっ...間に合わなかったか...」 倒れたエリザにゆっくりと迫る巨大ロボットの姿に、カタギリは奥歯を噛み締めた。 |
 震える両膝にあらん限りの力を込め、エリザはようやく立ち上がった。だがその時、胸のクリスタルが黄色い光に変わった。 「え?...」 昨日の戦闘で、エリザはかなりの深手を負っている。それでも無理矢理身体を動かした為に、エネルギー消費率が通常よりも大幅に増加していたのだ。 「も..もうエネルギーが...」 エネルギーの減少を告げる警告音が、エリザの心を動揺させる。まだ危険域を意味する赤色ではないものの、勝利への希望が更に遠のいてしまった事は明らかだった。 |
 だが容赦無い敵は動きの止まったエリザに、緑色の破壊光線を発射した。 「あうっ!」 光線がエリザの胸を貫いた瞬間、エリザの心臓が一瞬停止した。 |
 「う...うっ...」 幸い心臓は再び脈打ち始めたものの、その脈動は不規則だった。エリザはガックリと地面に膝を落としたまま、身動きできなかった。 |
 背後にエンジンの音が聞こえると、カタギリは後ろを振り返った。サクマとカトウが乗った攻撃用ジープだった。 「すぐに攻撃準備だ!エリザが危ない!」 「了解!」 カタギリの緊張した表情に、サクマとカトウは同時に叫んだ。 |
 キングジョーはエリザの首を掴むと、強引に引き釣り上げた。ミシッという嫌な音がし、エリザの手足がピクピク震える。 「う...」 エリザの悲鳴は、もはや声にならなかった。 「こいつ!姉さんを放せ!」 慌てたアリサがキングジョーの背に飛び乗り、狂ったようにその頭部を何度も叩いた。 |
 「弾はこの一発しかありません。絶対に外さないでください!」 サクマはレーザー照準器を覗き込むカトウに怒鳴った。 「判ってる!くそっ、エリザが被って狙いがつけられない!!」 何とか狙いを定めようとするカトウだったが、その度に吊り上げられたエリザの身体がスコープ上を横切る。 |
 だがアリサの執拗な攻撃を嫌ったのか、キングジョーは掴んでいたエリザを放すと、大きく上体をひねった。 「あうっ!」 アリサは勢い良く後方に飛ばされ、地面に叩きつけられた。 |
 「エリザ、頼む!何とかキングジョーを押さえてくれ!」 弱って地面に膝を突いているエリザの背に、サクマは思わず叫んだ。 |
 脳裏に響いたサクマの声に、エリザは伏せていた顔をあげた。 「アリサ、キングジョーを押さえて!」 |
 「わかった!」 アリサがキングジョーの背後から飛び掛り、その上半身を抱え込んだ。同時にエリザはあらん限りの力を込めて、キングジョーの片足にしがみ付く。 |
 「カトウ隊員、今です!」 「発射!」 カトウの指がトリガーを引くと同時に、ロケット弾が砲口から勢い良く飛び出して行った。 |
 特殊ロケット弾がキングジョーの胸部に命中すると、弾頭から放たれた分子破壊光線が、強固な装甲を貫通して内部構造もろとも粉砕した。くぐもった雷鳴のような爆発音が響き、周囲の山並に木霊した。 |
 機関中枢を破壊されたキングジョーは、姿勢制御装置に強制リセットが掛かった。バランス制御を失った鋼の巨体は、ゆっくりと後方に傾いて行った。 |
 地面に崩れ落ちたキングジョーの胸部から、火柱が勢い良く噴き出した。 「やった、やったよ!」 「爆発するわ。離れて、アリサ!」 |
 続いて物凄い爆発が起こり、キングジョーの巨体が粉々に吹き飛んだ。エリザもアリサも強烈な爆風に、思わずよろめいた。 |
 「終わったか...」 空から舞い落ちる細かな破片を眺めながら、カタギリは息を吐いて肩の力を抜いた。 「こちらカタギリ、全防衛隊員に告ぐ。本作戦はこれにて終了とする。各自待機場所へ戻れ。御苦労だった...」 |
Act10 背きし者へ |
 「姉さん...大丈夫?」 胸のクリスタルが赤色に染まったエリザに、アリサが近寄った。エリザは小さく頷くと、警告音を発し始めた胸のクリスタルを見つめた。 「あ...」 その時初めて、アリサは自分のクリスタルも黄色い警戒色に変わっていた事に気が付いた。 |
 「...終わったのね...」 エリザは顔を上げると、疲れた表情でアリサに微笑んだ。 「うん...さあ、もう戻ろうよ..」 アリサは疲弊した姉の肩をそっと抱きながら、優しく促した。 |
 姉妹の身体は眩い光に変わり、次第に薄れて行く。その姿はそよぎ始めた風と共に、高原の空に消えて行った...。 |
 「姉貴、もう少しで道に出るよ。辛いだろうけど、がんばって」 時折苦しそうな表情を見せる絵里に、亜里沙は声を掛けた。 「ごめんね、亜里沙...」 絵里は足を引きずりながら、弱々しく微笑んだ。 |
 よろめきながら進む2人の前に、突然背の高い金髪の女性が現れた。 「あ!」 「ゼータ...」 「2人とも御苦労だった...これでこの星もしばらくは平穏になる」 |
 「これで心置き無く、ペダン星に帰れる。もう御前達とは会うこともないだろう...」 「いいえ、またいつかきっと会える時が来るわ」 絵里の言葉に、ゼータは悲しそうに微笑んだ。 「私は地球に干渉してはならない、という命令に違反した。故郷に戻ればその罪を償わねばならない」 驚く2人を前に、ゼータは空を見上げながら言った。 「今度の件で、同盟軍からの追求を避ける為に、私は記憶を消されるだろう。そして別の人格を与えられる。再び御前達に出会ったとしても、もはやこの思い出は残ってはいない...」 |
 「そんな...私達、いや地球を助けてくれたのに、それはひどすぎるよ!」 憤る亜里沙に、ゼータは微笑んだ。 「それが我々の星の規律だ、悲しむ必要は無い。だが亜里沙、御前の優しさには感謝する。かつて私にも姉がいたが、先の戦争で亡くなった...」 |
 背を向けたゼータは、春の空を見上げた。 「では、お別れだ...亜里沙、姉を大切にな...」 ゼータの身体は青白い光に包まれ、折からの春風に乗って消えて行った...。 |
 「...行っちゃった...」 亜里沙は消えたゼータの姿を追うかのように、遠くの峰を見やった。 「祈りましょう、あの人の為に...」 「うん」 戻って来た山鳥のさえずりが、やわらかな春風の中に立つ2人を包んでいった...。 |
制作後記
さて、今回の年末年始は見習いにとって最悪でした。まず使用していたPCのHDDが年末に突然死亡し、パフォーマンス的に限界を感じていた事もあって64ビットPCを急遽購入。次にVue8を導入する筈が、北米恒例のクリスマス休暇期間に入ってしまい、昨年内に通販購入できず、決済保留で結局そのまま越年に。トドメはE-ONのDL通知メールにリンク誤りがあって、やりとりに4、5日を費やしました(泣) とまあ個人的なことを長々愚痴ってしまい、まことに申し訳ありません。それぐらい痛いダメージを負ったと言う事で御理解下さい(貴重な年末年始を返せ!大泣)おかげで年末年始で第6話を完成させる筈が、現時点(もう春ですね。苦笑)まで伸びてしまいました。基本的に休日にしかマトモに作業できない見習いには、コレは本当に痛かったデス。これから初めてオンラインで海外から物品購入しようと考えている方に、見習いから御忠告です。通販サイトの全てが、アマゾンや楽天と同じレベルとは思ってはいけません(レンダロ、DAZなんかは優等生の部類です)大抵のサイトが家内製手工業レベルと思った方が良いです(ちなみに今回ブチかましてくれたE-ONでは、アカウント絡み(住所変更やパスワード変更等)の処理は1日1回だけ、その日の業務終了時に手動で(←ココ重要)やるとのこと。これはテクニカル・サポートの人が実際に、メールに書いてきたコトです(正直驚きました。自動処理じゃないのか...でもこれってオンライン購買システムと呼べるのか?見習いがよくアドバイスをもらう、IT系の会社に勤める友人(オタ友)は、『手動バッチ』と呼んで笑ってましたけど...)
閑話休題、本題に入ります。
今回はプロット及びストーリーを大々的にパチッたおかげで、前回のようにプロット設定で悩むことは皆無でした(←自慢するコトじゃないだろ。笑)しかしながら、その分ストーリー構成にアイデアが浮かばず、またまたベタな展開になりました(←進歩なし。泣) で、今回の登場怪獣は「ペダン星の白い奴」です(笑)使用フィギュアは毎度お馴染み、ウルフェさん製作のものです。他の製作者の作品にもキングジョーのフィギュアが存在するのは知っていたのですが、分離状態のフィギュアが提供されていることもあり、結局ウルフェ製を使用しました。 造形はいつものウルフェ製のように、とてもエクセレントです。見習い的には文句の付けようがありません(まあ、強いて重箱の隅を突くとすれば、IKコントロールが利くようになっていれば完璧だったでしょうか) 次にエイリアンは何にしようかと迷ったのですが、某「怪獣バ○ル2」で表現されたペダン星人のお子様向け設定が好きじゃないので、敢えてペダン星人の生姿は出しませんでした(作品中では地球人の姿に化けているとお考えください。笑)その代わりに、オリジナルのエイリアンを登場させています。フィギュアはRoylooさんという、海外(香港かな?)在住の方の作品です。最近では新作は公表されていませんが、この方もPoser4時代の古いフィギュア製作家です。フィギュアの出来は中程度ですが、元々端役的なキャラとして作られたものなので、今回の用途には十分な品質でしょう。
さて前話と同様、今回も超ブキッチョ怪獣の為、ヒロインの責め手がありませんでした(泣)大体、転んだら自力で立ち上がる事もできないような奴に、萌えを感じさせる細かい責めなど不可能ですがな(笑)エイリアンと組ませて責めることも考えたのですが、これだとキングジョー自体の『強さ』が感じられなくなる恐れがあるので止めました。怪獣萌えの見習いとしては、キングジョーはやっぱり『強いロボット』であって欲しいのデス。
今回の教訓 「モノマネだけでは、新しいものは生まれない」
See You Again at Next Story
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